もも、変身過程
私は桜木もも。みんなのおかげで国民的美少女アイドルとして歌を歌わせてもらっている。でももう二十歳だし、美少女ってまだ言われてていいのかなって思い始めた今日この頃。今も歌番組の収録を終えて帰る途中……のはずなんだけど、今日はこれから夜のお仕事。
「今夜は月夜のステージかぁ……楽しみ♪」
ウキウキ気分で仕事場に向かう。
「お! 今日の衣装は浴衣か! 夏らしくていいねぇ。柄もカワイイし」
私はノリノリで着替えて野外ステージの裏に立つ。空を見上げるとまんまるなお月さまが浮かんでいた。気分が高揚する。良いショーができそうだ。
『それではお待たせ致しましたー! 今夜の主演、桜木ももさんでーす!』
アナウンスが入り、ステージの幕が降りる。すると、お偉いさんの面々の姿が露わになった。このショーには物好きな企業のトップ達がやってきている。
『それではさっそく参りましょう。投票、スタート!』
ステージ上の大画面を見る。今日の三択はキツネ、ブタ、ライオンだった。グングン棒グラフが伸びていって、今日の変身動物を決める。
『はい、投票終了です。今日の動物は……キツネに決定しましたー!』
「わーい。やった。この中なら、キツネがいいと思ってたんだ」
スタッフが水と錠剤を持ってくる。私はステージの上でそれを飲み干す。すると、体が徐々に熱くなってきた。昔は変身するのに注射を打たなければならなかったっていうから、今の私はラッキーだなって思う。注射は痛いからキライ。
「ふぅー、準備OKです!」
『わかりましたー、投票開始!』
観客の投票で変身させる体の部位を決める。
『やっぱり最初はこれですか。耳です!』
ケモ耳はマンガやアニメでは常識だもんね。私はムズムズする体を制御して耳だけを変身させる。丸い人間の耳の先端がゆっくりとゆっくりと伸びていき、同時に頭のてっぺんに動いていく。髪の毛を掻き分けて、耳が移動すると、形が徐々に三角形に近付いていく。
「んんっ」
多少声が漏れてしまうのは仕方がない。だって、体が変化するのってこそばゆいんだもん。肌色の三角耳の外側にキツネ色の毛が生えてくる。耳の内側には人間には無い白い毛が耳を塞ぐ勢いで生えてくる。
「ふぅー。キツネ耳になりました。どうですかー?」
会場に向かって聞くと、大歓声で返してくれた。私は頭のてっぺんに上った耳を動物みたいにピクピク動かす。すると、次の投票が始まった。
『お次は……これも定番ですね。しっぽです』
ケモ耳、ケモしっぽは一般受けがいい。お尻の方に意識を集中させる。
「んくっ」
人間に無いパーツを変化させる時は特に声がでてしまう。私はいやらしくならないように、必死に声を抑えて、お尻からしっぽを出す。浴衣の便利なところは羽織るだけで下着を着なくてもいいところだ。下着を変身中に取るのは結構面倒なの。浴衣の中でしっぽが伸びていく。まだ毛は生えていない……こんな状態のしっぽは恥ずかしくて見せられない。
「はぁ……はぁ……」
息が荒くなってくる。立ったままでは難しいので、私は膝をステージに着いて、上半身を前に倒した。これなら、お客さんもしっぽが生えている様子がわかるだろう。浴衣の中でモゾモゾとしっぽが大きく膨らんでいく。キツネ色の毛が生えてきてさらにボリュームを増す。お客さんから見たらお尻が膨らんでいるように見えるだろう。
「はぁ……はぁ……しっぽ生えました。ほらっ」
浴衣を上げて、ふさふさしたしっぽをチラッと見せる。でも、まだ下半身は人間のままだから見せられない。
再び歓声が起こり、私はチラ見せしたしっぽを大きく振って喜びを表現する。
『続いては……下半身! 一気にきましたねー。みなさん、しっぽごと見たいのでしょうか?』
次は手だと思ってたのに予想外。膝を着いている私は、そのまま股が見えないように浴衣で隠したまましっぽは伸ばして、女の子座りをする。すると、黄色い歓声が飛び交った。サービスし過ぎちゃったか。私はその状態で両手を前に着き、下半身の力を抜く。すると、下半身が激的に変化を始めた。小さな足が長く伸びていき、爪が指と指の間に埋もれて形を変える。太ももが肥大化し始めるから、前が見えないよう必死に浴衣で押える。
「ひゃぅ」
足の裏に肉球が出来始める。足が人間の二倍近く伸び、膝のボリュームもアップして、下半身が人間で言うつま先立ちをしているような骨格になったら、足先は黒い毛、それから上はキツネ色の毛が覆っていく。
「よし、いっちゃおうかな。うふふ」
下半身が獣毛で覆われたと思った私は、大胆に足を開いて、浴衣を捲る。人間なら、いろいろマズイけど、今の状態は毛で覆われているので大事な所はみんなには見えない。大サービスに今までで一番大きな歓声が上がる。
『これはテレビでは見れない大胆なポーズをしてくれました。お次は顔です』
私は二足歩行に向いていない足で立ち上がり、顔の力を抜く。
「あぐぅぅ……」
まずはにゅっと白い髭が鼻の周りに生えた。続いて鼻先と口が前方に押し出されていく。
「うぅぅ。がああぁぁぁー!」
月夜の下、いかにも変身しているみたいに、口を大きく開けて、舌を出す。ヨダレが落ちてしまうのは好きじゃないけど、これも演出だ。歯が鋭く伸びて牙になり、マズルが伸びて、鼻先が黒ずんで三角になる。鼻から下が白い毛で覆われ、それ以外の顔はキツネ色の毛で覆われる。キツネ顔になると、人間の時とはしゃべり方を変えないと人間の言葉が話せない。
「がきゅぅ……ぐあー……あー、ふぃー、どうでしゅか?」
ホラーチックな演出もみなさんお気に召されたよう。拍手が巻き起こった。
『これはこれは……月夜にふさわしい演出でしたね。それでは最後に、上半身です。お願いします』
なぬ!? 手だけじゃなくて、上半身一気に? せっかちだなぁ。ページ数の都合かなぁ……おっと、こっちの話か。
私はNGになるギリギリまで浴衣を開いてオヘソ出し。この状態を保ったまま変身するのはなかなか難しい。まず胸元に白い毛が生やす。そのまま胸全体に毛を生やしたところで、はらりと浴衣をズラす。もう胸は白い毛で隠れているから問題ない。私は立った状態からステージに手を着き、体の力を抜く。すると、細い指先が太くなり、爪が指の間に埋もれて形を変える。肩と腰の骨格が変わり、四足歩行に適した骨格になる。お腹を白い毛が覆い、背中側をキツネ色の毛が覆っていく。手の平には肉球が盛り上がり、手先は黒い毛が生え、肩まではキツネ色の毛が生える。
「はぁ……はぁ……」
吐息を漏らす私は、人間の女の子とキツネの中間の姿――キツネ女になった。
私はおぼつかない足取りで立ち上がり、みんなに向かって、ウインクする。すると、大歓声が返ってきた。
『いやー、ももさん、今日も素晴らしい変身ショーをありがとうございます。みなさんはご堪能いただけたでしょうか?』
ここでとっておきのサプライズ。私は肩を揺らして、浴衣を脱ぐと、大きく吠えて、最後の変身。全身が少しずつ縮んでいき、人間のパーツとして残っていた胸の膨らみと髪の毛が体の中に吸収される。
『な、なんと! ももさん、フルトランス(完全獣化)してくれました』
キツネに変身した私はジャンプして声援に応える。これが私の裏の顔。そこのキミ、テレビで見てもこのことは秘密だよっ♪