第5回
上田はゆっくりと手にもっていたタルトを皿にもどした。テーブルの上の虫は意外なほどの速度で移動していた。皿の上にもタルトから這い出してきた虫が数匹、姿を現している。それを見ているうちに、上田はみぞおちの奥から吐き気がじわじわと広がってくるのを感じた。
「おじさんが食べるには、見た目がちょっとかわいすぎるかもしれないけど…上田?」
前田が厨房から店にもどってくると、だれもいなかった。テーブルには食べかけのタルトとコーヒーがあった。
(…だめだ、がまんできない…!)
店を飛び出した上田は公衆トイレでもないかと、必死にあたりを見回しながら通りを歩いていたが、あいにくコンビニすら見当たらなかった。ついに上田は「貸店舗」の張り紙のあるブティックらしき建物のわきの狭い通路にかけこむと、そこで吐き始めた。この日は朝食の後、結局食事らしい食事はできなかった。わずかな固形物と胃液を、上田は通路の壁に手をついて吐き出していた。冷たい脂汗が額を流れ落ちていた。
「はあ…はあ…」
手をついたまま、目を閉じ、胸のむかつきが収まるのを待った。冷えていく汗の冷たさが心地よかった。ようやく吐き気が収まると、上田はからだを起こしてふらふらと通りに出た。
「上田!」
顔を上げると、前田が走ってこちらに来るのが見えた。
「どうしたんだよ、いきなりいなくなって」
「すまん…その…」
とっさにうまいいいわけが思いつかず、上田は意味もなくポケットを探るふりをした。
「どうやらスマホを落としたみたいでさ。とっさに飛び出しちゃって…」
前田の顔はとうてい納得しているようには見えなかったが、前田はややあきれたようにため息をついて、
「それで、見つかったのか?」
「ああ」
嘘を重ねるのがめんどうになり、上田はそれ以上何も言わず、前田の店の方に歩き出した。落ち着いて考えれば、このまま見過ごすわけにはいかなかった。開店早々、虫の湧いた商品を売るようなことになったら取り返しがつかない。
店にもどると、テーブルの上はもとのままだった。上田はちょっとためらった後、さっきまで自分が座っていた席に近づいた。食べかけのタルトがセザンヌの静物画のように皿の上にぽつんと乗っていた。上田はそれを取り上げ、目の高さまで持ち上げた。タルトのかじった跡はなめらかで、カスタードクリームに何かが混じっているようには見えなかった。テーブルを見ても、さっき見た白い虫たちはどこにも見当たらなかった。
「上田…?」
前田が隣に立って、不審そうに上田の持っているタルトを見た。
「なんだ?タルトに何か?」
上田は答えず、タルトを二つに割り、その切り口をじっと見た。白い斑点や動くものは何も見えなかった。上田はふっと息を吐くと、前田が隣にいることに立った今気づいたように、彼の方を見た。それから手に持っているタルトの切れ端を口に放り込んだ。それからおそろしくゆっくりと噛んだ後、のどを鳴らしてそれを飲み込んだ。
「前田…」
「なんだ?」
「うまいよ、このタルト」
上田は笑った。しかし、自分の笑顔がどんな風だったかは、前田の表情からはわからなかった。
エロじゃないと、書くのがしんどくてつい雑な表現になりがちになります。そういうのを生成AIで修正できるといいですね。




