第3回
「う…」
上田は茶碗を手に取り、目に近づけた。米粒くらいの白い虫が縁に沿ってゆっくりと這っている。
(コクゾウムシ…とかいうんだっけ?)
上田は地方都市の生まれだったが、祖父母の家が関東地方のかなり山奥にあった。お盆になると、祖父母の家に遊びにいくのが毎年恒例で、滞在中は山でカブトムシをとったり川で釣りをしたりして過ごした。そんな楽しい思い出の中で、唯一思い出すのも嫌なことがひとつだけあった。それは、食事のときの白飯に、ときどき虫の死骸がまざっていたことだった。今の世なら「異物混入」ということで、もしそれが飲食店なら大騒ぎになるが、そのころの田舎では、なんとも思われない、当たり前のようにとらえられていた。少なくとも、上田の祖父母の家ではそうだった。
「米びつにわいたコクゾウムシじゃ。気にせんでええ」
ある日の夕食で、上田が虫の混じった白飯を祖父に見せると、彼は特に何の感情も表に出さずに言った。上田からすれば、「気にするな」と言われても…という感じのだったが、見かねた母親が上田の茶碗を取り上げ、中から虫を拾い出すと、また上田の前に茶碗を置いた。もう食欲はすっかりなくなっていたが、それでもなんとか口に入れ、ほとんどかまずに飲み込んだ。
(ひさびさに思い出してしまった)
上田は箸を置いて、立ち上がった。盆の上の食事はほとんど残っていたが、もうとても食べられそうにない。通りかかった店員が不審な顔で上田を見た。上田は少し笑って手を振った。
「悪いけど、ちょっと時間がなくなってしまって…」
それらしい言い訳を考えるのもめんどうなので、適当なことを言ってレジで支払いを済ませると、さっさと店を出た。
(白メシ以外食べればよかったかな)
我ながら、つまらないことでうろたえすぎているような気がして、上田は自分に腹を立てながら足早に歩いた。目的地は少し離れていたが、予定より時間があまってしまった。上田は、このなんともいえないモヤモヤした気持ちを整理するために、このまま歩いて行くことにした。
30分ほどで知り合いが始めたという店の入ったビルにたどり着いた。まだ少し早いが、他に行くところもない。上田は「準備中」と書かれた店の扉に手をかけた。案の定、扉にはカギがかかっていたので、上田はスマホを取り出し、電話をかけた。電話はすぐに通じた。
「おう、前田?うん、もう店の前なんだ。ちょっと早く来すぎた」
「今、向かってるところだ。すぐ着くからそのままそこにいてくれ」
上田はスマホをポケットにもどすと、店の横の自販機を見た。コーヒーやジュースのならぶ中、コーンスープが上田の目に留まった。
(多少は腹の足しにはなるかな)
熱くてもてないくらいの缶のプルタップをなんとか開け、一口飲むと、意外とうまい。
(まあ、腹が減ってるせいだろうけど)
残りを一気に飲み干し、ゴミ箱に缶を捨てると、目の前に車が止まり、運転手席の中から前田が手を振っているのが見えた。
グルメ番組とかマンガとか好きで、よく見てます。Youtubeのレビュー動画とかね。
虫は好んで食べたいとは思わないけど、そんなに抵抗もないかな。
無脊椎の海産物はそんなに好きじゃない自分からすると、ウニとかホヤとかナマコとかはよくて虫がダメというのがよくわからないです。




