第2回
今さらですが、苦手なひともいるだろうネタですので、お気をつけて。
ドアに鍵をかけ、ドアノブを数回ガチャガチャさせて、たしかに鍵がかかっているのを確認すると、上田は鍵をかばんの外ポケットにしまった。ホテルの部屋には1泊分の着替えしか置いてないから泥棒が入っても失望するだけのはずだが、鍵をかけたら必ず確認するのが上田の癖だった。上田はスマホを取り出し、時刻を確認した。約束の時間までにはまだ2時間もある。上田はホテルの前でタクシーに乗った。運転手は愛想のいい中年の男だった。
「近くで昼飯を食べたいんだけど」
「お客さん、ここは初めて?」
上田の言葉を聞くとうれしそうに運転手が言った。見た目通り世話好きで話好きのようだった。
「うん、知り合いがここで商売を始めるっていうから、ちょっと会いに来たんだ」
上田はときどき一人で旅をするのが好きだった。行った先のタクシーの運転手におすすめの店を聞き、そこで食事するのが彼の旅行での最大の愉しみだった。たとえ教えてもらった店が「ハズレ」だったとしても、それはそれで意味がある、と上田は思っていた。
「たまにはまずいものを食べた方が、いつも食べてるもののうまさがより理解できる」
それが上田の食生活での「理論」のひとつだった。
「ここは名物とか、なんもないですが、私のいきつけの定食屋なら案内できますよ」
「それはありがたい。お願いします」
流行りの町おこしのためにでっち上げられたような「名物」料理より、地元の人が贔屓している店の方が間違いない。
(今日は「当たり」みたいだな)
上田は座席にもたれ、目をつぶった。
運転手おすすめの定食屋には十数分で到着した。運転手にお礼を言ってタクシーを降り、定食屋の外観を見る。
「定食屋 みち」
個人経営の、どこにでもありそうな店構えだが、午後二時過ぎにもかかわらず店は混んでいるようだった。上田が中に入ると、空いているのはカウンター席だけのようだった。席に着き、メニューを見る。
(こういうときはおすすめを選ぶのがいちばんだ)
上田はまよわず「本日のランチ アジフライとぶり大根定食」を選び、店員に告げた。上田の予想に反して、店の混雑のわりに、注文の品は数分で運ばれてきた。大ぶりのアジフライ1枚とキャベツが盛られた皿に、別の小鉢に盛られたぶり大根。自家製らしい漬物の小皿とみょうがとなすの味噌汁。
(完璧じゃないか)
上田は味噌汁を一口すすると、満足そうにうなずいた。アジフライにソースをかけ、一口かじる。サクサクの衣と肉厚なアジの身は適度な柔らかさ、口の中にひろがる魚のあぶらのうまさに上田は眼を細めた。急いで、白飯を一口食べる。
(完璧だよ)
しかし、もう一口白飯を食べようとした上田の箸がふと止まった。茶碗の縁にご飯粒がついていた。それが縁に沿って、ゆっくりと動いている。




