第3話
――いつもの、変わらない毎日。
「あー、逃げられちった」
赤髪を高い位置でサイドポニーテールにした少女が、残念そうに言う。耳元で銀色の大ぶりなピアスが、きらりと光った。
「アキがガン見するからでしょ」
隣の少女が、熊耳のように小さなお団子に結んだ髪を、鏡を見て直しながら言った。
「だってー、プリルくん見て目ぇキラキラさせてるとか可愛すぎん?見んなって言う方が無理だし」
「まあそれは分かる」
今度は櫛を取り出して、前髪を整え始める。上手く行かなかったのか、首を捻りながら続ける。
「小動物感あるよね、あの二人」
「でしょ?やっぱ桜わかってるわー」
アキ、と呼ばれた少女――杏樹は、今度は勢い良く反対側を見て言った。
「ね、氷唯もそう思うっしょ?……こゆ?」
ぶらりと下げた手にスマホを持って、廊下の方をぼうっと見ていた氷唯は、ぱちり、と瞬きをすると、自分が呼ばれていることに気づいて答えた。
「ああ、うん……確かに、ハムスターっぽいかも」
返事の遅さが気になったのか、少し不思議そうに氷唯の顔を覗き込もうとしている杏樹を、桜が止めた。
「やめな、アキ。こゆは今おねむなんだよ、さっきの数学寝てたし」
氷唯の方を見ながら、からかうように言う桜。
「え。……見てたの」
「うん。ガクッとなってたね」
「まじか……恥ずい」
目を逸らす氷唯と、面白いおもちゃを見つけた、と言わんばかりに笑む桜。手に持っていたはずの鏡と櫛は、いつの間にかしまわれていた。