第2話
「うーん……改めて見ると、増えたねえグッズ」
小さいホログラムの缶バッジは、二人で湾岸エリアに遊びに行った時に買ったもの。隣の大きい缶バッジを手に入れた時には、「ラスト一個だけ残ってた!!」というテンションの高い電話が、深夜にかかってきた。
パスケースはテスト前日なのに買いに行ったせいで、カフェに提出プリントを置き忘れてきた蜜柑ちゃんに、私が写させてあげたときのもので、一番大きいぬいぐるみは初めて一緒にグッズを買いに行った時のもの。他にも沢山、一つ一つのグッズに、思い出が詰まっている。
蜜柑ちゃんは、増えたねという私の言葉を聞いて、腕を組んで仁王立ちすると、うんうんと頷いた。
「当然!だってウチのバイト代、九割プリルくんグッズに消えてるもん。そりゃ増えるっしょ」
「確かに、蜜柑ちゃんいっぱいバイトしてるもんね。今いくつやってるんだっけ?」
机の天板にぴょいっと座った蜜柑ちゃんが、指を折って数えていく。
「えっとー……たまにしか入らないのも含めると、六つかな?」
「あれ、また増えた?大変だねえ」
「うん、近所の子の家庭教師。ほら、みかんちゃんって天才だから?」
そう言っておどけて見せる蜜柑ちゃん。きっと蜜柑ちゃんなら、明るくて面倒見がいいから、近所の人も頼みやすいんだろうなと思う。
「それに、量は多いけど全然大変じゃないよ!プリルくんのためだからね!」
蜜柑ちゃんはそう言って、ぐっ!と手を握り上に突き上げた。
「プリルくん!大好きー!」
力強く叫んだ蜜柑ちゃんに、前の机で居眠りしていた男の子の肩が一瞬、びくっとなる。
「蜜柑ちゃん、いくら昼休みでも声おっきいよ!」
男の子の肩は、また小さな寝息を立てながら上下し始めた。
「やべっ、睨まれてる」
蜜柑ちゃんの視線の先をたどると、確かに壁際でだべっていた女の子達が数人、こちらを見ていた。
「あの子達、不良感あってマジ怖いんだよねー……でもまだまだ語りたいし……」
女の子達の方をぼんやりと見ていたら、蜜柑ちゃんに突然、腕をガシッと掴まれた。
「よし!逃げるよ、璃夢!」
「えっ」
「中庭にレッツゴー!」
左手にスマホとプリルくん人形、右手に私を持った蜜柑ちゃんに、教室の外へと連れ出される。女の子達は、時々スマホや飲み物に目を落としつつも、まだ蜜柑ちゃんの事を見ていた。
――あれ?
一瞬、一人と目が合ったような気がした。
――気のせい、かな?
「廊下寒っ!ほら璃夢、走るよ!走れば暖かくなるに違いない!」
廊下に出るなりスマホをポケットに突っ込んで走り出した蜜柑ちゃんに呼ばれ、慌てて追いかける。
「み、蜜柑ちゃん!待って!ご飯食べた後だからそんなに早く走れないよー!」
私の叫びも虚しく、蜜柑ちゃんの姿は廊下の角の先に消えていった。