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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
架空の言語が出てきますが、掲載先の使用フォントの都合上、不揃い、または、半角に見えない場合があることをご理解下さい。
<登場人物 設定書抜粋>
若松 一郎/わかまつ いちろう
西暦1980年06月21日 男
体格:やや痩せ気味。
頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。
顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。
性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
細川 忍/ほそかわ しのぶ
西暦1985年11月16日 女
体格:身長の割にすらりとしている。スレンダー寄りであるため全てが控えめだが、30代ではギリギリ。
頭髪:肩までの長さの黒髪。くせっ毛であるため幼少の頃から気にしている。
顔 :細面の顔立ちにつぶらな瞳に薄い眉毛。鼻筋の見えにくい小振りの鼻。
性格:人が犯す大抵の事は許す事ができる程おおらかである。現象や事象に対しては許す事が出来ず追求してしまう。30代になり、経験やら知識やらが増え、したたかさも相まってきれい事でなくても提案する。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
未設定の皆さん---
長谷 智則/はせ とものり
水上 佐和/みずかみ さわ
岡野 美子/おかの よしこ
小原 忠司/おはら ただし
大野 水樹/おおの みずき
佐藤 琴/さとう こと
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
<登場道具 設定書抜粋>
無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう
概 略:新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。
命名の由来:物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。
発生 原理:空気中から新たに元素を発見し、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。その後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。
前代未聞の、対戦班のみならず自班をも含めた全員を倒したことで、騒動となった二日目であった。一夜が明けた三日目の一班と四班は……。
「おはよう。今日は、六月二二日の木曜日ですね。外は、雨は降っていませんが、昨日の今日でも、台風一過には成っていないようで、やや蒸し暑いですね。さて、今日は、一班と四班は、模擬戦ではなく講義になりました。二班と三班は模擬戦に行きますよ」
突然の一郎の言いように、一班と四班から、「今更、何の講義ですか」や、「何か問題でもあったんですか」などなど、抗議の声が上がると、「待って下さいよ。理由は、松西さんが見た、一昨日と昨日の模擬戦が余りにも稚拙すぎる、とのことです」と言われ、講義が行われることとなったのである。
「若松さん」
「はい、何ですか? 田辺君」
「それで、講義の内容はどういった物でしょうか」
「う~ん。君達には、今更? と言われそうですが、戦略と戦術についてですね」
この発言で、一郎の告げた通りにの反応が返ってくるのは、まぁ、致し方がないであろう。その後、一郎に促され、二班と三班は移動の準備に、講義室を出て行く一方で、残った一班と四班は、“問題あり”とされたことに、幾分かしょげているようである。
静まりかえった講義室で、「そろそろ講師の方が見えられる筈ですが」と、一郎が静寂を破るように呟いたのである。腕時計で時間を確認しているのは、既に到着時間を過ぎているからなのであろうか。
五分程過ぎた頃であろうか、ガチャッとドアが開き、「ごめんねぇ。遅くなった」と、小柄に見える女性が入ってきたのである。
安堵の表情を浮かべた一郎が、「遅いですよ、宣伝課の戦略係長」と、ぼやくのであった。
「ごめんごめん。朝の通達後に、急ぎの書類確認が入っちゃって」
申し訳なさそうにする女性であるが、課が違っていても一郎より上役であるためか、「仕方ないですね」と、余り強く言えない一郎であった。
「では、気を取り直して。本日、戦略と戦術の講師を務めて頂く、宣伝課の戦略係長である、細川忍さんです」
「おはようございます」と、忍が挨拶すると、元気はないものの新人達から挨拶が返ってくる。
「あ、あぁ。元気がないけど?」
「はぁ、申し訳ないです。松西さんからの問題点を伝えたのですが、彼らなりに工夫してたのでしょうがね意気消沈、でして」
「なるほど。……うん。社長なら、最初からうまくいく筈ない。一回の失敗が何だ! って、言いますね。まぁ、それ以前に、最初に講義を用意しろって話かな?」
忍の激励に、一同はやや元気を取り戻して頷くのであった。
「さて、それじゃぁ。講義を始めようかな」
そして、その日の午後、一人を除いて皆あちこちに絆創膏が貼られた状態であるが、やや無理をしての模擬戦となった。だが、三日目以上に、四日目に取られた四班の陣形がおかしかったのである。
それは、前衛の勇、智則と佐和の位置取りが、法雄から離れすぎていた。特に、智則と佐和は法雄から見て右に寄りすぎていたのである。いや、ほぼ壁際と言って良い位置であったのである。それ故、法雄の攻撃の巻き添えが減ると言う、本末転倒な事態になった訳である。
五日が経った頃。精錬研究所の地下にある更衣室では、「いてっ!」や「くぅー」と痛みに耐えるような奇声が効かれたのである。当然、腕やら足やらに包帯を巻いている者もいる始末である。
「お前も、随分傷ついたなぁ」
「何ですか、そちらも酷そう……」
「や、やめっ。いってぇー。……そ、それはそうと、今日はどう言う戦略で行く?」
などなど、覚え立ての戦略だの戦術だので、和気藹々としているように見える更衣室ではあるが、ほぼ無傷な法雄に話しかける者はいなかったのである。
「田辺。随分と勲章が増えたな」
「えぇ? 今時これを勲章と言いますか。長谷さんだって、傷だらけじゃないですか」
「そう言えば、そうか。昔の映画を見過ぎたかな? ……なぁ、田辺」
「何ですか?」
「あいつをどうにかしないと、怪我だけじゃ済まないかもよ」
「な、何言ってるんですか。ちょっと物騒ですよ」
「……お前は、これまでやられたことに耐え続ける気か?」
「……それは、そうですけれど。研修ももう終わりに近づいているんですから、頑張りましょうよ。就職できたんですし」
「それまで、持てば良いけどな……」
意味深な物言いをする智則に、勇は表情を険しくして、一抹の不安を抱いたようである。だが、その不安が、程近い日に現実の物となるとは、この時は思わなかったのである。
勇と智則の話は、近くにいた法雄に聞かれており、「フン。嫌なら会社を辞めれば良い」とぼそりと呟いたのである。すると、勇ですら止められない程、間髪を入れずに智則が法雄の胸ぐらを掴んだのである。
「何だ。殴るか?」
「……」
「フン。俺は四大卒だから偉いんだよ。どう使うかは俺の自由だ!」
「……」
智則と法雄の遣り取りは、狭い更衣室内に響き、周囲の者を強張らせたようである。
法雄の言いように、抑えていたのもが爆発したようで、とうとう腕を振り上げ殴ろうかと言う時、「長谷さん! それはだめです」と、振り上げた智則の右腕を、勇が掴んだのである。
「田辺! 放せ!」
「だめです! それでは、長谷さんも只ではすみません。それと、尾川さん」
「何だ、お前もか?」
「その言い方……。その見下す発言は、敵を作るだけで良くないですよ」
そう言った勇の目には、威嚇するような力がこもってでもいるかのようで、一瞬、法雄が怯んだように見えた。すると、智則は、勇の忠告にやや冷静さを取り戻したのか力を抜き、手を放したのである。
智則は、法雄を解放すると、ふらふらと更衣室を出て行こうとする。そこへ、他班の男が、智則に近づいて一緒に出て行くのであった。勇には、何かを告げているように見えたが、その内容までは、緊張が解けた室内の音でかき消されたのである。
「一班と四班は、集まりましたね」
一郎の言葉に、一班と四班の新人達から、“はい”と元気の良い声が聞こえてきたのであるが、智則だけは、幾分か嫌々と言った表情であった。
「では、両班は、分かれて場所取りをして下さい」と、一郎が号令を掛けると、両班は迅速に分かれて、配置に付いたのであるが、「水上さんは、田辺の側にいてくれないか?」、智則が提案すると、「何か問題があった?」と、佐和が質問を投げかけてくるのであった。
「問題というか、勇の相手が剣峰さんになりやすいから、どうしても遠距離からの攻撃を受けやすくなると思う」
智則の言い分に、勇も佐和も同意したようで頷いて見せ、「分かったわ、でも端寄りにいるわよ」と、佐和が巻き添えになりたくないと匂わせてくるのであった。
「おい。お前達、今日もふざけるようだと、直接狙い撃つぞ」
「……」
「な、何を言っているの。尾川が敵味方諸共を狙うから、こっちは大変なのよ」
「長谷さんも、水上さんも。言いたい事は分かりますが、余り離れすぎると、味方陣営が手薄になりやすいんですよ」
「それを言うなら、尾川が打ち込む時に、待避を叫ばない所為でしょ」
「……まぁ、良いじゃないか。尾川が俺たちを狙うなら、味方が減る、と言う事を理解していれば、しないだろうしな」
「長谷さんまで、そんな事言わないで下さいよ」
「尾川、言いたい事はそれだけだな? じゃぁ、俺は配置に付く」
そう言った智則は、四班の輪から離れて、正面右側に移動を始めるのであった。それに釣られたのか、佐和も正面左手に移動始めた事で、勇は、“しょうがないな”と言わんばかりの表情で、正面やや左寄りの前方に移動するのであった。
――どいつもこいつも。俺の言う事を聞かない。見ていろよ。
法雄は、怒りの表情を隠そうとせず、同じ班員で協力し合う筈の面々に、敵意を見せるのであった。
始まってみると、一班の動きが勇や佐和に偏っているものの、智則には、美子と忠司がこれ見よがしなヒットアンドウェーを続けていたのである。それにより、勇達の援護には迎えない状況が生み出されていたのである。それは、法雄を苛立たせるには十分のようであった。
一方、勇の相手は相変わらず歩実であり、どうやら担当が出来上がっているようである。まぁ、力量によって必然的に、と言ったところであろう。美子と忠司寄りの後方には、水樹が長距離と短距離の支援攻撃を繰り返していたのである。
「もう、いい加減このやり方には疲れるよ。左右に分かれて真ん中もいるし、ね!」
ブツブツと文句を呟きながら、水樹は、主に佐和の方角と、智則の左を狙う形で攻撃を繰り返していたのである。只、どちらかと言えば、中央にいる勇の向こう側を重点的に狙っているようである。
「ちょっと、左側への攻撃、少なくない?」
忠司と入れ替わったタイミングで、水樹の攻撃に疑問を呈する美子であった。
「大丈夫ですよ。岡野さんは感じませんか? 左の長谷さん(?)でしたっけ、やる気が無いんですかね。動きが悪いですし、問題ないですよ」
「そ、そう? ならいいんだけど」
一班の陣営で、そんな会話が成されている頃、佐和は、「何で、こっちは攻撃が多いの! レーザー散弾!」と、文句を言いつつ、一班の攻撃を空中で打ち落とすために、途中で分散するレーザーを放って応戦していたのである。
勇はと言えば、「相変わらず、良い剣戟ですね」と、歩実との火花を散らすかのような打ち合いを繰り広げていた。
「田辺君、だっけ。貴方の方が実は強いんじゃないかと思っていたから、光栄ね」
「どうでしょうね!」
パシーン! と、竹の音を響かせて弾き、位置取りを調整しているようである。つまり、法雄がいる場所を、常に後ろに保とうとしている、と言う事である。だが、その後ろ側から、時折炸裂音が耳に届いており、弾いた隙に、左右の状況を確認しているのであった。
――これはまずいか? 水上さんは、応戦しっぱなしのようだけど、長谷さんは、どういうつもりなんだろう。いつものように突破してこないけれど。尾川さんは……。まぁ、今のところ援護は必要ないだろうね。着弾もこっちに近いし。
勇が思案しながら歩実と竹刀を交えていると、美子と入れ替わって引いたように見えた忠司が、勇と智則の中間に向かって走り出したのである。――しまった! くっそぉ! ――と、勇は焦ったのであるが、「行かせないわよ」と、強引に鍔迫り合いに持ち込もうと、歩実が踏み込んだのである。
「えぇっ?」と、美子は、突然の事にびっくりしたようであるが、「待ってました! 岡野さん! 引いて下さい!」と、声を上げながら、水樹は、智則に向けて攻撃を集中し始めたのである。当然、智則は遠距離攻撃に身動きがとれなくなるだけでなく、土煙により視界も奪われる事となったのである。
「岡野さん! そっちの女も釘付けにして下さいね」
「……そ、そうね」
突発的だったのであろうか、聞かされていなかったのか、美子は、一瞬次の行動に躊躇したようであるが、智則との遣り取りを後ろ向きに走ることで回避し、佐和めがけて走り始めたのである。
勇は歩実と鍔迫り合い中で、智則は、集中攻撃で身動きがとれない状態の中、佐和が忠司を攻撃しようとするも、「させませんよ」と、美子が槍を突き出して襲ってきたため、「突き? いやぁ!」と、声を上げた佐和が、壁際に飛び退いたのである。その隙に、飛び出した忠司は、難なく前衛を突破しようとしていたのである。
何故、忠司が飛び出したのかと言うと、法雄が、火系統を使おうとしたからであった。要は、法雄の忍耐が限界を超えた、と言う事のようである。
――どいつもこいつも。俺の言う事を聞かない。で、あるなら、やはりまとめて吹き飛ばせばいいんだ。
「おい! お前達、何故そいつに攻撃しない!」
法雄を叫びは、左右の攻撃の爆発音にかき消されたかのようで、何処からも答える声は聞こえないのである。
「お前達は、俺だけを守っていれば良いんだ! 急げ!」
爆発音が響く中、叫び続ける法雄であったが、ようやく智則が、土煙の中から現れたのである。――良し! ――と、法雄は笑みを浮かべたのだが、既に、智則が忠司に追い付ける距離ではなかったのである。それを悟った法雄は、――この、役立たずが! ――と、考えた直後……。
「か、火炎弾!」
焦ったのか、中途半端に放ってしまう事になったのである。着弾は、忠司より法雄に近い場所になったのである。その着弾音である爆発音が響くと、爆風に全員が耐える動作をすることになったのである。
土煙が晴れた後は、法雄だけが倒れた状態であり、忠司と水樹と、智則は、何故か戦闘態勢を解いていたのである。あっけにとらわれる勇と歩実、そして佐和であった。美子もまた、唖然としていたのである。
*
朝一番の会議室内。小声で何かを話している者達がいる一方で、幾分かしょげているように見える者達もいたのである。
「おはよう。今日は、六月二七日の火曜日ですね。外は、雨は降っていませんし、良い天気ですが、大分暑くなってきましたね。さて、今日はと言えば、昨日四班の尾川君が怪我をしましたので、四班は今日一日、模擬戦の観戦になりますよ。ですが、まぁ、のんびりして下さいね」
一郎の言葉に、佐和が、「そんな……」と嘆き、勇は、――そうだよな、一人欠けたら出来ないよな。――と、天を仰いだような表情をしていたのである。但し、智則だけは、薄笑いのような、晴れやかなような表情であった。
「はいはい。そう悲観的にならないで下さいよ。これも勉強、ですからね。さて、他の班は今日も模擬戦ですよ。準備して下さい」
ガタガタと四班以外の新人が音を立てて、椅子を片付ける中、佐和と勇は、放心していたようであるが、のそのそと部屋を出て移動の準備を始めるのであった。
移動先である精錬研究所の地下にある更衣室で、「あれ? 長谷は観戦じゃなかったか?」と、声を掛けられるが、「あぁ、良いんだよ。これで」と、やや勢いを付けてロッカーの扉を閉め、ガチャンと音を立てさせたのである。まるで、何かを吹っ切るかのようにも見えたのである。
声を掛けた方も、「おぉ……」と、驚いたようである。
「あぁ。何で一班は五人……。こら長谷君。君は四班じゃなかったか?」
「いえ。一班のお願いとして、今日は、長谷さんに入って欲しいと頼んだのですが、だめでしたか?」
「いや、だが……」
金志が明らかに人数超過の一班を咎めたのだが、忠司が反論したようである。あきらかに困り果てる金志であったが、「剣峰さんではなく、長谷さんと連携を試したいんです。お願いします!」と、深々と頭を下げる忠司であり、美子は愕然としていたが、もう一人、水樹も習って頭を下げる始末であった。
もう一人あっけにとられたのは、言うまでも無く歩実である。――な、なんで? あたしが何かした?――と、目を見開いて驚いたようである。
「……しかしだな。前例がない……」
そう呟きながら、金志は、上階にある管制室に顔を巡らせるのであった。後頭部をかきながら、判断しかねる問題と考えたのであろう。
管制室では、その様子が確認され、「松西さん、どうしましたか」と、訝しみながらマイクに喋るのであった。
「一班から、剣峰君と長谷君を、今日は入れ替えたいと懇願された。どう判断する?」
大声ではないが、通る声が場内のマイクを通じて、管制室に届いたのである。その言葉に、今更のように見回す一郎であり、四班の面々であった。
――長谷さん。いつの間に……。
「ちょっと、長谷。何やってるのよ」
――……そうか。一班の人と接触した、あの時か……。
「松西さん。ちょっと、確認します」
そう言った一郎は、慌てて、備え付けの電話で連絡を取るのであった。一方勇は、困ったものだと言う表情を浮かべているが、佐和は、抜け駆けされたかのような苛立った表情を見せていたのである。
数分後。「松西さん。四班が観戦していることから、許可が出ましたよ」と、一郎から許可を得ると、忠司と水樹は、飛び上がらんばかりに喜んでおり、智則も安堵したようである。
「許可も出たし、しょうがない。剣峰君は、上に上がってくれるか」
「えっ?」
「新人に俺の補佐をさせる訳にも行かない。従って、君は観戦と言うことになる」
当たり前と言えば、その通りであるが、模擬戦への心の準備も整っていたのであろう。いきなり、そう言われて、はいそうですかとなろう筈もない。しかし、「ほれ、剣峰君。急いでくれ」と、意義を述べる隙すら与えられないのは、理不尽とも言えるが、時と場合によってはこのようにならざる終えないのも世の常である。
歩実の心境を余所に、一班と二班の模擬戦が始まったのである。
一班は、智則を前衛の軸として、忠司が遊撃、美子は水樹を守るため中間位置に、水樹は美子の後ろで右左に移動しながら、長谷か忠司の援護をする布陣で臨んだのである。
「ほらほら。よいしょっ!」
智則が、二班の真っ正面から攻めると、当然、二班の剣担当である帆美と洋子が出てくる。二班の左手から、忠司が一撃離脱を掛けるかのように、走り抜けていくのである。これを数度繰り返すと、二班も対抗策を講じるようになるが、美子が時に前に出て智則をフォローし、更に水樹の援護を加えて、二班を圧倒できるようになったのである。
「今度は左、じゃなくて右!」
「中くらいの行きますわよ! 炎の槍!」
水樹と美子は、いつになく力を発揮させているように見えるのであった。
「そこまで!」
金志の号令が響くと、両班共に、戦闘態勢を解くのであった。
「すごいすごい。怪我はしてますけど、終わっても倒れた人はいないですね」
「そ、そうね。今日は、疲れはありますけれど、良い疲労感ですわね」
終わってみれば、一班は、模擬戦で初の快挙として、全員が立ったまま模擬戦を終えたようである。結局この日の一班は、三班には苦戦を強いられたとは言え、最後まで倒れる者が出なかったのである。
*
模擬戦を終えて、「一班も、大分良い感じだな」や、「点数稼ぎの班がぁ」、「くっそ! 次はぶちのめす!」など、少々危険な言葉がないとは言えないが、一班の出来は、それぞれに何かを見せたようである。
「水上さん。ちょっと良い?」そう呟いた佐藤琴に、「何? 貴方、三班だったよね」と、小声で聞かれた佐和が同様に返すのであった。
琴に誘われ、集合場所になった部屋の隅に移動する佐和であった。
「水上さん。明日で良いんだけど、森野さんと代わってみないですか?」
「? どう言う事? 私は四班……」と、言いよどんだのを見た琴は、「そう。長谷さんが一班の人と代わったじゃない。だから、森野さんが扱いづらくて、貴方に代わって欲しいの」と言われた佐和である。
――なるほど。長谷君が、一班にいたのには、ちょっとびっくりしたし。まぁ、尾川には愛想も尽きてるしね。それと、男どもは、反論が弱い。そうね……。
「ねぇ、どう? 貴方なら、援護はもちろん攻撃も出来るし、やりやすいと思うの」
「えっ? でも、友実ちゃん、そんなに酷いの?」
「えっ? いえ、そうね。防御も攻撃も出来ないし、私たちじゃ、ちょっとね」
なんとも、言いづらそうにではあるが、友実を扱いきれないお荷物、と認識するに至ったようである。まぁ、どうしたものかと、ない知恵を絞ったのであろう、しかし、どうにも出来なかったと言うことのようである。
――なるほど。友実ちゃんも悪い子ではないんだけど。押しは弱いから、言いたい放題されてたんじゃ。だとすると、ちょっとかわいそうかな。
しばしの沈黙があったため、「あっ、その。今でなくても良いよ」と、告げたことを聞いていたのか、佐和が、「良いわよ。明日は三班に加わってあげる」と、返事をするのだが、返事は直ぐにないと決めてしまていた琴が、「へっ?」と、少々大きな声を出してしまったのである。
慌てた琴が、手で口を押さえたのだが、時既に遅し、である。がしかし、ちょうどわいわいと入ってきたタイミングだったため、目立たなかったようである。
「ふぅ」
「で?」
「えっ?」
「え、じゃないわよ。良いって答えたんだけど?」
「えっ、あっ。そうね。今日は答え……。?」
「あのねぇ。お約束のぼけはいらないわよ」
「いえ、えっと。良いの?」
「そう言ったわよ」
「ありがとう」
そう呟いた琴は、佐和の手を握ってはしゃぐのであった。
数分後。「はい、全員揃いましたね。それじゃ、本社に戻りましょうかね」と、幾分か気落ちしている一郎であった。そして、新人も含め、模擬戦を終えて本社に戻った教育担当はと言うと……。
「さて、どうしますかねぇ。戻すように言います? 松西さん」
「分かってる。だがなぁ、若松君。こう上手くいくと、元に戻せともいいづらいからなぁ」
一郎と金志は、今日の模擬戦が一通り終わって、本社に戻ってから唸りを上げつつ悩むのであった。




