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勇者一行派遣業~耶威磨(わいま)のおぬ~  作者: 木眞井啓明
第一章 崩壊する研修

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9/10

 文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。

 架空の言語が出てきますが、掲載先の使用フォントの都合上、不揃い、または、半角に見えない場合があることをご理解下さい。


<登場人物 設定書抜粋>


若松 一郎/わかまつ いちろう

 西暦1980年06月21日 男

 体格:やや痩せ気味。

 頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。

 顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。

 性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。


田辺 勇/たなべ いさむ

 西暦1996年04月04日 男

 体格:見た目はやや太い。

 頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。

 顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。

 性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。


細川 忍/ほそかわ しのぶ

 西暦1985年11月16日 女

 体格:身長の割にすらりとしている。スレンダー寄りであるため全てが控えめだが、30代ではギリギリ。

 頭髪:肩までの長さの黒髪。くせっ毛であるため幼少の頃から気にしている。

 顔 :細面の顔立ちにつぶらな瞳に薄い眉毛。鼻筋の見えにくい小振りの鼻。

 性格:人が犯す大抵の事は許す事ができる程おおらかである。現象や事象に対しては許す事が出来ず追求してしまう。30代になり、経験やら知識やらが増え、したたかさも相まってきれい事でなくても提案する。


尾川 法雄/おがわ のりお

 西暦1994年5月7日 男

 体格:きゃしゃ。

 頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。

 顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。

 性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。


剣峰 歩実/つるみね あゆみ

 西暦1993年09月16日 女

 体格:本人曰くぽっちゃり系。

 頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。

 顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。

 性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。


未設定の皆さん---

 長谷 智則/はせ とものり

 水上 佐和/みずかみ さわ

 岡野 美子/おかの よしこ

 小原 忠司/おはら ただし

 大野 水樹/おおの みずき

 佐藤 琴/さとう こと



<登場組織・国家 設定書抜粋>


株式会社 舞王/まおう

 命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。

 事   業:

  アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。

  西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。

  他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。


  特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。



<登場道具 設定書抜粋>


無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう

 概   略:新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。

 命名の由来:物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。

 発生 原理:空気中から新たに元素を発見し、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。その後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。

 前代未聞の、対戦班のみならず自班をも含めた全員を倒したことで、騒動となった二日目であった。一夜が明けた三日目の一班と四班は……。

「おはよう。今日は、六月二二日の木曜日ですね。外は、雨は降っていませんが、昨日の今日でも、台風一過には成っていないようで、やや蒸し暑いですね。さて、今日は、一班と四班は、模擬戦ではなく講義になりました。二班と三班は模擬戦に行きますよ」

 突然の一郎(いちろう)の言いように、一班と四班から、「今更、何の講義ですか」や、「何か問題でもあったんですか」などなど、抗議の声が上がると、「待って下さいよ。理由は、松西(まつにし)さんが見た、一昨日と昨日の模擬戦が余りにも稚拙すぎる、とのことです」と言われ、講義が行われることとなったのである。

若松(わかまつ)さん」

「はい、何ですか? 田辺(たなべ)君」

「それで、講義の内容はどういった物でしょうか」

「う~ん。君達には、今更? と言われそうですが、戦略と戦術についてですね」

 この発言で、一郎(いちろう)の告げた通りにの反応が返ってくるのは、まぁ、致し方がないであろう。その後、一郎(いちろう)に促され、二班と三班は移動の準備に、講義室を出て行く一方で、残った一班と四班は、“問題あり”とされたことに、幾分かしょげているようである。

 静まりかえった講義室で、「そろそろ講師の方が見えられる筈ですが」と、一郎(いちろう)が静寂を破るように呟いたのである。腕時計で時間を確認しているのは、既に到着時間を過ぎているからなのであろうか。

 五分程過ぎた頃であろうか、ガチャッとドアが開き、「ごめんねぇ。遅くなった」と、小柄に見える女性が入ってきたのである。

 安堵の表情を浮かべた一郎(いちろう)が、「遅いですよ、宣伝課の戦略係長」と、ぼやくのであった。

「ごめんごめん。朝の通達後に、急ぎの書類確認が入っちゃって」

 申し訳なさそうにする女性であるが、課が違っていても一郎(いちろう)より上役であるためか、「仕方ないですね」と、余り強く言えない一郎(いちろう)であった。

「では、気を取り直して。本日、戦略と戦術の講師を務めて頂く、宣伝課の戦略係長である、細川(ほそかわ)(しのぶ)さんです」

「おはようございます」と、(しのぶ)が挨拶すると、元気はないものの新人達から挨拶が返ってくる。

「あ、あぁ。元気がないけど?」

「はぁ、申し訳ないです。松西(まつにし)さんからの問題点を伝えたのですが、彼らなりに工夫してたのでしょうがね意気消沈、でして」

「なるほど。……うん。社長なら、最初からうまくいく筈ない。一回の失敗が何だ! って、言いますね。まぁ、それ以前に、最初に講義を用意しろって話かな?」

 (しのぶ)の激励に、一同はやや元気を取り戻して頷くのであった。

「さて、それじゃぁ。講義を始めようかな」


 そして、その日の午後、一人を除いて皆あちこちに絆創膏が貼られた状態であるが、やや無理をしての模擬戦となった。だが、三日目以上に、四日目に取られた四班の陣形がおかしかったのである。

 それは、前衛の(いさむ)智則(とものり)佐和(さわ)の位置取りが、法雄(のりお)から離れすぎていた。特に、智則(とものり)佐和(さわ)法雄(のりお)から見て右に寄りすぎていたのである。いや、ほぼ壁際と言って良い位置であったのである。それ故、法雄(のりお)の攻撃の巻き添えが減ると言う、本末転倒な事態になった訳である。

 五日が経った頃。精錬研究所の地下にある更衣室では、「いてっ!」や「くぅー」と痛みに耐えるような奇声が効かれたのである。当然、腕やら足やらに包帯を巻いている者もいる始末である。

「お前も、随分傷ついたなぁ」

「何ですか、そちらも酷そう……」

「や、やめっ。いってぇー。……そ、それはそうと、今日はどう言う戦略で行く?」

 などなど、覚え立ての戦略だの戦術だので、和気藹々としているように見える更衣室ではあるが、ほぼ無傷な法雄(のりお)に話しかける者はいなかったのである。

田辺(たなべ)。随分と勲章が増えたな」

「えぇ? 今時これを勲章と言いますか。長谷(はせ)さんだって、傷だらけじゃないですか」

「そう言えば、そうか。昔の映画を見過ぎたかな? ……なぁ、田辺(たなべ)

「何ですか?」

「あいつをどうにかしないと、怪我だけじゃ済まないかもよ」

「な、何言ってるんですか。ちょっと物騒ですよ」

「……お前は、これまでやられたことに耐え続ける気か?」

「……それは、そうですけれど。研修ももう終わりに近づいているんですから、頑張りましょうよ。就職できたんですし」

「それまで、持てば良いけどな……」

 意味深な物言いをする智則(とものり)に、(いさむ)は表情を険しくして、一抹の不安を抱いたようである。だが、その不安が、程近い日に現実の物となるとは、この時は思わなかったのである。

 (いさむ)智則(とものり)の話は、近くにいた法雄(のりお)に聞かれており、「フン。嫌なら会社を辞めれば良い」とぼそりと呟いたのである。すると、(いさむ)ですら止められない程、間髪を入れずに智則(とものり)法雄(のりお)の胸ぐらを掴んだのである。

「何だ。殴るか?」

「……」

「フン。俺は四大卒だから偉いんだよ。どう使うかは俺の自由だ!」

「……」

 智則(とものり)法雄(のりお)の遣り取りは、狭い更衣室内に響き、周囲の者を強張らせたようである。

 法雄(のりお)の言いように、抑えていたのもが爆発したようで、とうとう腕を振り上げ殴ろうかと言う時、「長谷(はせ)さん! それはだめです」と、振り上げた智則(とものり)の右腕を、(いさむ)が掴んだのである。

田辺(たなべ)! 放せ!」

「だめです! それでは、長谷(はせ)さんも只ではすみません。それと、尾川(おがわ)さん」

「何だ、お前もか?」

「その言い方……。その見下す発言は、敵を作るだけで良くないですよ」

 そう言った(いさむ)の目には、威嚇するような力がこもってでもいるかのようで、一瞬、法雄(のりお)が怯んだように見えた。すると、智則(とものり)は、(いさむ)の忠告にやや冷静さを取り戻したのか力を抜き、手を放したのである。

 智則(とものり)は、法雄(のりお)を解放すると、ふらふらと更衣室を出て行こうとする。そこへ、他班の男が、智則(とものり)に近づいて一緒に出て行くのであった。(いさむ)には、何かを告げているように見えたが、その内容までは、緊張が解けた室内の音でかき消されたのである。

「一班と四班は、集まりましたね」

 一郎(いちろう)の言葉に、一班と四班の新人達から、“はい”と元気の良い声が聞こえてきたのであるが、智則(とものり)だけは、幾分か嫌々と言った表情であった。

「では、両班は、分かれて場所取りをして下さい」と、一郎(いちろう)が号令を掛けると、両班は迅速に分かれて、配置に付いたのであるが、「水上(みずかみ)さんは、田辺(たなべ)の側にいてくれないか?」、智則(とものり)が提案すると、「何か問題があった?」と、佐和(さわ)が質問を投げかけてくるのであった。

「問題というか、(いさむ)の相手が剣峰(つるみね)さんになりやすいから、どうしても遠距離からの攻撃を受けやすくなると思う」

 智則(とものり)の言い分に、(いさむ)佐和(さわ)も同意したようで頷いて見せ、「分かったわ、でも端寄りにいるわよ」と、佐和(さわ)が巻き添えになりたくないと匂わせてくるのであった。

「おい。お前達、今日もふざけるようだと、直接狙い撃つぞ」

「……」

「な、何を言っているの。尾川(おがわ)が敵味方諸共を狙うから、こっちは大変なのよ」

長谷(はせ)さんも、水上(みずかみ)さんも。言いたい事は分かりますが、余り離れすぎると、味方陣営が手薄になりやすいんですよ」

「それを言うなら、尾川(おがわ)が打ち込む時に、待避を叫ばない所為でしょ」

「……まぁ、良いじゃないか。尾川(おがわ)が俺たちを狙うなら、味方が減る、と言う事を理解していれば、しないだろうしな」

長谷(はせ)さんまで、そんな事言わないで下さいよ」

尾川(おがわ)、言いたい事はそれだけだな? じゃぁ、俺は配置に付く」

 そう言った智則(とものり)は、四班の輪から離れて、正面右側に移動を始めるのであった。それに釣られたのか、佐和(さわ)も正面左手に移動始めた事で、(いさむ)は、“しょうがないな”と言わんばかりの表情で、正面やや左寄りの前方に移動するのであった。

――どいつもこいつも。俺の言う事を聞かない。見ていろよ。

 法雄(のりお)は、怒りの表情を隠そうとせず、同じ班員で協力し合う筈の面々に、敵意を見せるのであった。

 始まってみると、一班の動きが(いさむ)佐和(さわ)に偏っているものの、智則(とものり)には、美子(よしこ)忠司(ただし)がこれ見よがしなヒットアンドウェーを続けていたのである。それにより、(いさむ)達の援護には迎えない状況が生み出されていたのである。それは、法雄(のりお)を苛立たせるには十分のようであった。

 一方、(いさむ)の相手は相変わらず歩実(あゆみ)であり、どうやら担当が出来上がっているようである。まぁ、力量によって必然的に、と言ったところであろう。美子(よしこ)忠司(ただし)寄りの後方には、水樹(みずき)が長距離と短距離の支援攻撃を繰り返していたのである。

「もう、いい加減このやり方には疲れるよ。左右に分かれて真ん中もいるし、ね!」

 ブツブツと文句を呟きながら、水樹(みずき)は、主に佐和(さわ)の方角と、智則(とものり)の左を狙う形で攻撃を繰り返していたのである。只、どちらかと言えば、中央にいる(いさむ)の向こう側を重点的に狙っているようである。

「ちょっと、左側への攻撃、少なくない?」

 忠司(ただし)と入れ替わったタイミングで、水樹(みずき)の攻撃に疑問を呈する美子(よしこ)であった。

「大丈夫ですよ。岡野(おかの)さんは感じませんか? 左の長谷(はせ)さん(?)でしたっけ、やる気が無いんですかね。動きが悪いですし、問題ないですよ」

「そ、そう? ならいいんだけど」

 一班の陣営で、そんな会話が成されている頃、佐和(さわ)は、「何で、こっちは攻撃が多いの! レーザー散(だん)!」と、文句を言いつつ、一班の攻撃を空中で打ち落とすために、途中で分散するレーザーを放って応戦していたのである。

 (いさむ)はと言えば、「相変わらず、良い剣戟ですね」と、歩実(あゆみ)との火花を散らすかのような打ち合いを繰り広げていた。

田辺(たなべ)君、だっけ。貴方の方が実は強いんじゃないかと思っていたから、光栄ね」

「どうでしょうね!」

 パシーン! と、竹の音を響かせて弾き、位置取りを調整しているようである。つまり、法雄(のりお)がいる場所を、常に後ろに保とうとしている、と言う事である。だが、その後ろ側から、時折炸裂音が耳に届いており、弾いた隙に、左右の状況を確認しているのであった。

――これはまずいか? 水上(みずかみ)さんは、応戦しっぱなしのようだけど、長谷(はせ)さんは、どういうつもりなんだろう。いつものように突破してこないけれど。尾川(おがわ)さんは……。まぁ、今のところ援護は必要ないだろうね。着弾もこっちに近いし。

 (いさむ)が思案しながら歩実(あゆみ)と竹刀を交えていると、美子(よしこ)と入れ替わって引いたように見えた忠司(ただし)が、(いさむ)智則(とものり)の中間に向かって走り出したのである。――しまった! くっそぉ! ――と、(いさむ)は焦ったのであるが、「行かせないわよ」と、強引に鍔迫り合いに持ち込もうと、歩実(あゆみ)が踏み込んだのである。

「えぇっ?」と、美子(よしこ)は、突然の事にびっくりしたようであるが、「待ってました! 岡野(おかの)さん! 引いて下さい!」と、声を上げながら、水樹(みずき)は、智則(とものり)に向けて攻撃を集中し始めたのである。当然、智則(とものり)は遠距離攻撃に身動きがとれなくなるだけでなく、土煙により視界も奪われる事となったのである。

岡野(おかの)さん! そっちの女も釘付けにして下さいね」

「……そ、そうね」

 突発的だったのであろうか、聞かされていなかったのか、美子(よしこ)は、一瞬次の行動に躊躇したようであるが、智則(とものり)との遣り取りを後ろ向きに走ることで回避し、佐和(さわ)めがけて走り始めたのである。

 (いさむ)歩実(あゆみ)と鍔迫り合い中で、智則(とものり)は、集中攻撃で身動きがとれない状態の中、佐和(さわ)忠司(ただし)を攻撃しようとするも、「させませんよ」と、美子(よしこ)が槍を突き出して襲ってきたため、「突き? いやぁ!」と、声を上げた佐和(さわ)が、壁際に飛び退いたのである。その隙に、飛び出した忠司(ただし)は、難なく前衛を突破しようとしていたのである。

 何故、忠司(ただし)が飛び出したのかと言うと、法雄(のりお)が、火系統を使おうとしたからであった。要は、法雄(のりお)の忍耐が限界を超えた、と言う事のようである。

――どいつもこいつも。俺の言う事を聞かない。で、あるなら、やはりまとめて吹き飛ばせばいいんだ。

「おい! お前達、何故そいつに攻撃しない!」

 法雄(のりお)を叫びは、左右の攻撃の爆発音にかき消されたかのようで、何処からも答える声は聞こえないのである。

「お前達は、俺だけを守っていれば良いんだ! 急げ!」

 爆発音が響く中、叫び続ける法雄(のりお)であったが、ようやく智則(とものり)が、土煙の中から現れたのである。――良し! ――と、法雄(のりお)は笑みを浮かべたのだが、既に、智則(とものり)忠司(ただし)に追い付ける距離ではなかったのである。それを悟った法雄(のりお)は、――この、役立たずが! ――と、考えた直後……。

「か、火炎弾(かえんだん)!」

 焦ったのか、中途半端に放ってしまう事になったのである。着弾は、忠司(ただし)より法雄(のりお)に近い場所になったのである。その着弾音である爆発音が響くと、爆風に全員が耐える動作をすることになったのである。

 土煙が晴れた後は、法雄(のりお)だけが倒れた状態であり、忠司(ただし)水樹(みずき)と、智則(とものり)は、何故か戦闘態勢を解いていたのである。あっけにとらわれる(いさむ)歩実(あゆみ)、そして佐和(さわ)であった。美子(よしこ)もまた、唖然としていたのである。


     *


 朝一番の会議室内。小声で何かを話している者達がいる一方で、幾分かしょげているように見える者達もいたのである。

「おはよう。今日は、六月二七日の火曜日ですね。外は、雨は降っていませんし、良い天気ですが、大分暑くなってきましたね。さて、今日はと言えば、昨日四班の尾川(おがわ)君が怪我をしましたので、四班は今日一日、模擬戦の観戦になりますよ。ですが、まぁ、のんびりして下さいね」

 一郎(いちろう)の言葉に、佐和(さわ)が、「そんな……」と嘆き、(いさむ)は、――そうだよな、一人欠けたら出来ないよな。――と、天を仰いだような表情をしていたのである。但し、智則(とものり)だけは、薄笑いのような、晴れやかなような表情であった。

「はいはい。そう悲観的にならないで下さいよ。これも勉強、ですからね。さて、他の班は今日も模擬戦ですよ。準備して下さい」

 ガタガタと四班以外の新人が音を立てて、椅子を片付ける中、佐和(さわ)(いさむ)は、放心していたようであるが、のそのそと部屋を出て移動の準備を始めるのであった。

 移動先である精錬研究所の地下にある更衣室で、「あれ? 長谷(はせ)は観戦じゃなかったか?」と、声を掛けられるが、「あぁ、良いんだよ。これで」と、やや勢いを付けてロッカーの扉を閉め、ガチャンと音を立てさせたのである。まるで、何かを吹っ切るかのようにも見えたのである。

 声を掛けた方も、「おぉ……」と、驚いたようである。

「あぁ。何で一班は五人……。こら長谷(はせ)君。君は四班じゃなかったか?」

「いえ。一班のお願いとして、今日は、長谷(はせ)さんに入って欲しいと頼んだのですが、だめでしたか?」

「いや、だが……」

 金志(きんじ)が明らかに人数超過の一班を咎めたのだが、忠司(ただし)が反論したようである。あきらかに困り果てる金志(きんじ)であったが、「剣峰(つるみね)さんではなく、長谷(はせ)さんと連携を試したいんです。お願いします!」と、深々と頭を下げる忠司(ただし)であり、美子(よしこ)は愕然としていたが、もう一人、水樹(みずき)も習って頭を下げる始末であった。

 もう一人あっけにとられたのは、言うまでも無く歩実(あゆみ)である。――な、なんで? あたしが何かした?――と、目を見開いて驚いたようである。

「……しかしだな。前例がない……」

 そう呟きながら、金志(きんじ)は、上階にある管制室に顔を巡らせるのであった。後頭部をかきながら、判断しかねる問題と考えたのであろう。

 管制室では、その様子が確認され、「松西(まつにし)さん、どうしましたか」と、訝しみながらマイクに喋るのであった。

「一班から、剣峰(つるみね)君と長谷(はせ)君を、今日は入れ替えたいと懇願された。どう判断する?」

 大声ではないが、通る声が場内のマイクを通じて、管制室に届いたのである。その言葉に、今更のように見回す一郎(いちろう)であり、四班の面々であった。

――長谷(はせ)さん。いつの間に……。

「ちょっと、長谷(はせ)。何やってるのよ」

――……そうか。一班の人と接触した、あの時か……。

松西(まつにし)さん。ちょっと、確認します」

 そう言った一郎(いちろう)は、慌てて、備え付けの電話で連絡を取るのであった。一方(いさむ)は、困ったものだと言う表情を浮かべているが、佐和(さわ)は、抜け駆けされたかのような苛立った表情を見せていたのである。

 数分後。「松西(まつにし)さん。四班が観戦していることから、許可が出ましたよ」と、一郎(いちろう)から許可を得ると、忠司(ただし)水樹(みずき)は、飛び上がらんばかりに喜んでおり、智則(とものり)も安堵したようである。

「許可も出たし、しょうがない。剣峰(つるみね)君は、上に上がってくれるか」

「えっ?」

「新人に俺の補佐をさせる訳にも行かない。従って、君は観戦と言うことになる」

 当たり前と言えば、その通りであるが、模擬戦への心の準備も整っていたのであろう。いきなり、そう言われて、はいそうですかとなろう筈もない。しかし、「ほれ、剣峰(つるみね)君。急いでくれ」と、意義を述べる隙すら与えられないのは、理不尽とも言えるが、時と場合によってはこのようにならざる終えないのも世の常である。

 歩実(あゆみ)の心境を余所に、一班と二班の模擬戦が始まったのである。

 一班は、智則(とものり)を前衛の軸として、忠司(ただし)が遊撃、美子(よしこ)水樹(みずき)を守るため中間位置に、水樹(みずき)美子(よしこ)の後ろで右左に移動しながら、長谷(はせ)忠司(ただし)の援護をする布陣で臨んだのである。

「ほらほら。よいしょっ!」

 智則(とものり)が、二班の真っ正面から攻めると、当然、二班の剣担当である帆美(ほのみ)洋子(ようこ)が出てくる。二班の左手から、忠司(ただし)が一撃離脱を掛けるかのように、走り抜けていくのである。これを数度繰り返すと、二班も対抗策を講じるようになるが、美子(よしこ)が時に前に出て智則(とものり)をフォローし、更に水樹(みずき)の援護を加えて、二班を圧倒できるようになったのである。

「今度は左、じゃなくて右!」

「中くらいの行きますわよ! 炎の槍!」

 水樹(みずき)美子(よしこ)は、いつになく力を発揮させているように見えるのであった。

「そこまで!」

 金志(きんじ)の号令が響くと、両班共に、戦闘態勢を解くのであった。

「すごいすごい。怪我はしてますけど、終わっても倒れた人はいないですね」

「そ、そうね。今日は、疲れはありますけれど、良い疲労感ですわね」

 終わってみれば、一班は、模擬戦で初の快挙として、全員が立ったまま模擬戦を終えたようである。結局この日の一班は、三班には苦戦を強いられたとは言え、最後まで倒れる者が出なかったのである。


     *


 模擬戦を終えて、「一班も、大分良い感じだな」や、「点数稼ぎの班がぁ」、「くっそ! 次はぶちのめす!」など、少々危険な言葉がないとは言えないが、一班の出来は、それぞれに何かを見せたようである。

水上(みずかみ)さん。ちょっと良い?」そう呟いた佐藤(さとう)(こと)に、「何? 貴方、三班だったよね」と、小声で聞かれた佐和(さわ)が同様に返すのであった。

 (こと)に誘われ、集合場所になった部屋の隅に移動する佐和(さわ)であった。

水上(みずかみ)さん。明日で良いんだけど、森野(もりの)さんと代わってみないですか?」

「? どう言う事? 私は四班……」と、言いよどんだのを見た(こと)は、「そう。長谷(はせ)さんが一班の人と代わったじゃない。だから、森野(もりの)さんが扱いづらくて、貴方に代わって欲しいの」と言われた佐和(さわ)である。

――なるほど。長谷(はせ)君が、一班にいたのには、ちょっとびっくりしたし。まぁ、尾川(おがわ)には愛想も尽きてるしね。それと、男どもは、反論が弱い。そうね……。

「ねぇ、どう? 貴方なら、援護はもちろん攻撃も出来るし、やりやすいと思うの」

「えっ? でも、友実(ともみ)ちゃん、そんなに酷いの?」

「えっ? いえ、そうね。防御も攻撃も出来ないし、私たちじゃ、ちょっとね」

 なんとも、言いづらそうにではあるが、友実(ともみ)を扱いきれないお荷物、と認識するに至ったようである。まぁ、どうしたものかと、ない知恵を絞ったのであろう、しかし、どうにも出来なかったと言うことのようである。

――なるほど。友実(ともみ)ちゃんも悪い子ではないんだけど。押しは弱いから、言いたい放題されてたんじゃ。だとすると、ちょっとかわいそうかな。

 しばしの沈黙があったため、「あっ、その。今でなくても良いよ」と、告げたことを聞いていたのか、佐和(さわ)が、「良いわよ。明日は三班に加わってあげる」と、返事をするのだが、返事は直ぐにないと決めてしまていた(こと)が、「へっ?」と、少々大きな声を出してしまったのである。

 慌てた(こと)が、手で口を押さえたのだが、時既に遅し、である。がしかし、ちょうどわいわいと入ってきたタイミングだったため、目立たなかったようである。

「ふぅ」

「で?」

「えっ?」

「え、じゃないわよ。良いって答えたんだけど?」

「えっ、あっ。そうね。今日は答え……。?」

「あのねぇ。お約束のぼけはいらないわよ」

「いえ、えっと。良いの?」

「そう言ったわよ」

「ありがとう」

 そう呟いた(こと)は、佐和(さわ)の手を握ってはしゃぐのであった。

 数分後。「はい、全員揃いましたね。それじゃ、本社に戻りましょうかね」と、幾分か気落ちしている一郎(いちろう)であった。そして、新人も含め、模擬戦を終えて本社に戻った教育担当はと言うと……。

「さて、どうしますかねぇ。戻すように言います? 松西(まつにし)さん」

「分かってる。だがなぁ、若松(わかまつ)君。こう上手くいくと、元に戻せともいいづらいからなぁ」

 一郎(いちろう)金志(きんじ)は、今日の模擬戦が一通り終わって、本社に戻ってから唸りを上げつつ悩むのであった。

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