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<登場人物 設定抜粋>
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
笹本/ささもと
未定 男
体格:中肉より痩せ型に入る。
頭髪:黒髪で耳が半分ほど隠れる長さ。真ん中分けに近い。
顔 :垂れてもつり目でも内野や細い目。鼻筋は通っているやや大きめの鼻。丸顔。
性格:ハキハキと物事を言ってしまう。やや地声は大きく、近い場所では少々うるさいらしい。
大野/おおの
未定 男
体格:引き締まっているようにも、痩せているようにも見える。
頭髪:あきらかに赤毛で、それを嫌ってかスポーツ刈りにしている。
顔 :やや強面の顔に、若干垂れている細め。鼻筋は見えない小鼻。
性格:体育会系出身者では、と言われるほど、ぶっきらぼうに喋っているように聞こえるが、理路整然とした喋りであるが故。
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
緊張した面持ちで、幾分かそわそわしている様子も覗える者達は、一様に新調した背広を着ている。この春新社会人としての門出を迎えた若者であるようだ。
真新しい背広姿の若者達が、所狭しと椅子に座っている。知り合い同士なのか、それこそ初対面であるのか、会話に花を咲かせているようである。
「あ、あの」
「ん? はい」
「き、緊張せぇま……。うっ」
「ふっ。そうですね、緊張しますね」
「あ、え。そ、そうでしゅ……。あっ、う~」
左隣にいた見知らぬ女性が、話しかけてきたのだが、緊張のためか舌が回らなかったようである。しかも、舌が回らず緊張感を自ら煽ってしまったようである。――二度目でも緊張するのに、初めてだとなおさらだな――と考え、話し相手になろうと、「ふふっ。あっと失礼。俺は、田辺勇よろしく」と、自己紹介するのであった。
「……ぼ、僕は、森野、と、友実、……です」
緊張と恥ずかしさで、しどろもどろの上に尻すぼみになってしまう友実であった。
友実は、大きめな目に黒い瞳が際立っており、薄い眉から伸びる鼻筋は見えにくい小鼻で、幼く見える丸顔である。髪は光の加減で赤茶に見える黒、耳が隠れる程度のショートカットにしているようだがややウェーブがかかっている。体躯は、上半身は細めで、下半身は筋肉質で太めに捉えられがちな、アンバランスさを持ち合わせているのである。
――僕っ娘かぁ。前世も含めて初めて聞いたぞ。
現実に存在したのかという、珍しさに嬉しくなった勇であったが、その笑みに、「うー」と、友実が怯えてしまったのである。
「も、申し訳ない。僕っ娘に会うの初めてで……。あ、いや、そのぉ、何というか……。別に、馬鹿にするつもりはないんであって……」
弁明に必死になる勇に、きょとんとし始めた友実は、いつしかおかしくなって笑い出すのであった。
「わ、分かりました。田辺さんが、からかうつもりがないのが分かったから、良いですよ」
「そ、そうか。良かった」
勇がホッとすると、更にクスクスと笑う友実であった。そのおかげもあってか、緊張は解けたようである。
勇と友実が和んでいると、やや離れた場所から、「今、なんて言ったの!」と、かなり大声が聞こえてきたのである。
「年下に、注意して何が悪い」
「そうじゃないでしょ。なんと言ったのかって聞いてるのよ!」
「お前は、こいつの知り合いか?」
「違うわよ! ちなみに、あたしは、剣峰歩実という名前があるのだけれど?」
歩実は、小さいが黒い瞳が良く見える目と、細いが濃い眉から延びたやや見える鼻筋と小鼻で、丸顔を引き延ばしたような顔立ちである。髪は、肩より長く伸ばしたストレートの黒で、前は左右非対称にカットされている。体躯は、細くはないが、鍛えられた筋肉があるため、本人はぽっちゃりめと判断しているようだ。
「では、お前は、何故割って入る」
「……。理不尽な言動は、許せない立ちなの」
「……。あぁ、そうか。お前は、自称正義の味方なんだな」
「そ、そこまでではないわよ」
「そうか? 大卒の俺、尾川法雄の入社式に、有象無象が騒ぐな。静かに座ってろ、と言っただけだが」
ややトーンが落ちたところに、法雄のこの言いように、「……。あんたはぁ~」と、怒りを露わにする歩実であったが、徐に、スピーカーから“プツ”っと音が響いたのである。途端に椅子に座る若者達、私語も何時しか消え静まりかえり、振り上げた拳に力を込めつつ椅子に座る歩実であった。それに会わせるかのように「これより、二〇一七年度、株式会社舞王の合同入社式を開催します。場所は、本社は大会議室で、各支社は催し物スペースで執り行っております」と、司会役のやや年のいった男が、ひな壇の袖付近で宣言したのである。
「司会を務めますのは、株式会社舞王、本社、経営管理部人事課の笹本です。本日は、全支社と本社をネットで繋いで入社式を進めて参ります。また、本支社からの祝辞はモニターに映し出して行います。式次第ですが……」
司会によって進められる入社式は、最初の儀式とでも言うべき所から始まる。
「新入社員一同、起立!」
司会の号令に、新入社員一同がバラバラと席を立つが、幾人か遅れる者がでてしまうのはご愛敬である。その一人一人がやや緊張しているようにも見受けられる。
中央に置かれたひな壇に、一人の年輩と思しき男が歩み寄っていく、その間も、起立は続けられたのである。
「私は、本社、経営管理部人事課課長の大野です。これより、新入社員に社章が配られますが、時間短縮のため列先頭に渡し、順繰り後ろに配るように。また、その場で身につけるようにお願いする」
人事課長である大野の言葉に、静まっていた新入社員がざわめき出す。これはこれで、実感がわいたという歓喜なのであろう。
列先頭に箱に入った社章が配られ、列に戻ると後ろに回していく。一番後ろまで回り、全員が社章バッチを背広に付け終わると「着席」と号令がかかったのである。
その後、本社で今し方社章を配った、大野人事課課長が、本社と支社の新入社員に向けて祝辞を述べ、続いて各支社長の祝辞が述べられていくのである。その間、入社した事を噛みしめている者達がいたのである。
――うん。前世とは別の道が始まるんだな。やっと、実感できたようだ。
田辺勇は一度人生を終えているが、何故かやり直しという憂き目に遭っているだけに、二度目の入社式という感覚はなんとも言えないのかもしれない。
――俺が一流の会社であるここに入るのは当然だが、やはり素晴らしい事だな。
尾川法雄は、あたかも自分がこの会社に入社するのは、至極当たり前であると認識しているようである。これまで培ってきた性格が、今後どのような事態になるのか見物とも言える。
――す、すごく人が一杯いる。でも、田辺さんが元気づけてくれたし、僕は頑張るよ。
森野友実は、俯きがちになる自分を奮い立たせるかのように、「うん」と小声で呟きながら、小さくガッツポーズをとっていたのである。そして、上体をゆっくりと、と言うよりは恐る恐る起こして、前を見詰めたのである。
――くぅ。あいつだけは許さない……。ダメダメ、今は入社式。でも……あたし。一流企業に入れたんだ……。うん。頑張ったもの、いつも通りおとなしめでいこう。
剣峰歩実は、凜としようと背筋を伸ばしているものの、大手に入社できた事の嬉しさが混ざり合っていた。その相反する要素が、凜としているものの口元がひくついており、それが、周囲には不敵な笑みに映ってしまい、おののかせている事に気がついていなかったのである。
そして、式の締めくくりには社長が登壇し、一通り当たり障りのない、ごく当たり前の社長としての立場で祝辞を述べる筈であるが、「社長の安芸智だ。さて、式ももう終わりになるが、そろそろと言うよりはいい加減、固い内容に飽きている事だろう」と言い始めたのである。
司会者が愕然としたのに続き、袖で控えている副社長が頭に手をやり、嘆いているようである。
「新人よ! 最後に景気づけをしよう」
その言葉に、本社どころか支社でもどよめきが起こったのである。
「良いか。これから一年は、少なくとも失敗しても大目玉を食らわせる上司はいないだろう。だから、失敗しろ!」
この言葉に、新入社員だけにとどまらず、出席していた副社長以下、天を仰ぐ者、項垂れ顔面を手で覆うもの、薄笑いするもの、それぞれの立場が鮮明に出たのである。しかし、今時大目玉とはいささか古風な物言いである。ちなみに、大目玉を食うとは酷く叱られる事を言う。
「よし。それじゃいくぞ、景気付けだ。新入社員ども、明日から頑張るぞぉ!」
この社長の号令に、ざわめいていた新入社員が、一斉に、いや、恐る恐る「おぉー!」と少人数だった歓喜の声が、隣同士で頷き合って、大合唱へと至ったのである。
その後、間髪を入れずに副社長が壇上の社長の下に歩み寄り、「諸君。今だけですよ。良いですか? 社長のようにならないで下さいね」と、念押しをするように新入社員に小言を垂れると、「はい!」と、大多数から良い返事が返ってきたのである。
「そ、それでは、思いもしない事が起こりましたが、これで二〇一七年度の入社式を終わります。新入社員の方々は、指示があるまで椅子に座って待っていて下さい」
社長を始めとした、式に出席した面々が部屋から出終わっても尚、しばらく待たされる事となったのである。それでも、社長の最後の言葉で、大分緊張が解けた新人達は、席の周囲と話を始める程度になっていたのである。
「それでは、新人の皆さんは、これから予備研修を受けてもらいますので、後ろから順番に先輩社員について行って下さい」
のんびりしていた新人達であったが、後ろからと次の指示である予備研修、と言う言葉に、再び緊張感が生まれたようで、私語がなりを潜めたようである。
ぞろぞろと新人達が移動を始めるが、“予備研修”という言葉が何を意味するのか、怪訝な表情であるのは確かなようである。しかし、大半の予想を裏切るかのように、連れて行かれた先は会社であるなら何処にでもありそうな給湯室であった。そこで、指示されるままに給湯室の照明スイッチのオンオフに始まり、水道の蛇口を開け閉めまで、一通り行わされる事となったのである。
――う~ん。何故こんな事をさせるのだろう? この部屋が何か特殊なのかな?
勇は、当たり前のように電気のスイッチやガスコンロのスイッチを操作していくのだが、“何故”という疑問を抱きながら全てを行っていったのである。
「何故俺が……。小学生でも出来る事を……」
法雄は、小声でブツブツ言いながらも、指示通りの事を行っていくのであった。
――こ、これは! 早速、しゃ、社会人の洗礼というもの?
友実は、社会人として先輩から行われる洗礼の類いではないかと怯えつつ、なんとかいつも通りに全てをこなしたのである。
「……睨まんでくれないか」
「? すいません」
――何よぉ。あたしがいつ睨んだと。全く、予備研修といって、何をさせるきなの? お茶くみ選抜?
訝しんだ表情が睨んだと言われた歩実は、予備研修とは何であるのかと考えているようである。
本社の新人全員が、予備研修を受け終わると再び大会議室に戻る事となり、次の説明を受ける事となった。
今後のスケジュールについて、二年目か三年目といった社員によって行われたのである。
主な内容は、業務のレクチャーを各部署の二年目と三年目の社員から行われる事と、実地研修を含め少人数に分けて行う事などが説明された。要は、レクチャーと実地研修がワンセットで行われると言う事である。実地研修は数日から一週間単位で行われる事が説明され、研修期間としては五月末を予定しているとのことである。