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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
<登場人物 設定抜粋>
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
飯田/いいだ
西暦1994年9月10日 男
体格:背が高くそれなりの太さを持つ。
頭髪:黒で短めで、所謂スポール刈り。
顔 :ややつり目で細い。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:荒ぶっているほどではないが、やんちゃな方である。
相本/あいもと
西暦1994年5月1日 男
体格:背はクラスで中程。ややぽっちゃり。
頭髪:黒髪で、耳半分ほど隠れる長さ。
顔 :ややつり目だが大きいため目立たない。瞳はやや茶。鼻筋は見えない小鼻。
性格:人当たりの良い性格ではある。ややカメレオンな性格がある。
「はい。それでは、この間のテストを返します。名前を呼ぶから取りに来るように。加川さん」
通る声が響き渡ると、静寂が打ち消されたような声がこぼれ、ざわざわとする教室内で、「尾川は、またいい点なんだろうな」と声がする。「そうだろうな」と尾川と呼ばれた少年。尾川法雄が答えると「ちぇっ」とうらやましそうに呟く少年がいた。
尾川と呼ばれた少年。大きめであるため垂れ目に見えない濃茶の瞳に、太くも細くもない眉と、鼻筋が通っているが大きめの鼻のある丸顔。そこに、耳が出る程度で刈り上げにした黒髪は、頭頂部がふんわりとしていて分け目は儲けていないようである。体格的には、細く見えるいわゆる華奢にと言える。
前後で話し込んでいると「尾川君」と呼ばれ、「はい!」と答えガタッと椅子を動かし、教卓へと歩いて行くのであった。
「うん。今回もいい点数です。次も頑張って下さい」
「はい!」
嬉しそうに答える法雄であるが、「良い点とったからって、偉そうに」と呟いた少年がいた。すると、法雄は席へ戻る前に、呟いた少年の元へと足を向ける。
「何だよ」
「偉いんだよ」
「はぁ?」
「いい点を取れば、偉いんだ」
法雄の表情に、一瞬唾を飲んだ少年が「べ、勉強だけ出来てもしょうがないだろう」と返すと「それすら出来ないよりはいいだろ」と、見下すような言葉を放ったのである。
反論しないとみるや、スイッと自分の席へと向かう法雄である。と「尾川君。クラスの友達にその言い方はよくありませんね」と、テストを返しながらもきちんと聞いていたようで、先生から注意される事となったが。「先生、すいません。ちょっと、頭にきたから……。次から気をつけます」とそつのない回答をする。
「分かりました。……飯田君は、誰かに当たるのではなく、もっと頑張って下さい」
「……はい」
――ふん! 飯田の奴……。ま、あいつには負ける気がしないからいい。
*
時は流れ、法雄は中学に進学していた。とは言え、私立ではなく市立の中学校にではあるが。
「尾川。今度は三番じゃん、どうしたよ」
「相本。一〇位以下のお前に言われたくはない。しかし、ケアレスミスがあった。復習しておく必要がある」
「かぁ。出来る奴は違うのか? 俺は、そこまで考えないよ」
「相変わらず、嫌みな奴だよな」とどこからともなく声がする。「飯田か……」と返す法雄だが、表情が既に見下していた。
「その面も相変わらずだな」
「ふん。相本にすら届かない君に、僕を罵る権利などない」
仁王立ちし暴力ではない、戦いが始まろうとしているかのような雰囲気を醸し出す二人であった。
「止めとけ、止めとけ。尾川なんざ、相手にならないだろう。こっちじゃな」
腕を突き出し、満面の笑み、いや、不敵な笑みを浮かべた別の少年がいた。
「……誰だか知らないが、暴力の話はしていない。お門違いだ、帰れ」
「おいおい」
学年の掲示板に集まっていた生徒達が割れて、ぽっかり出来た空間に四人が対峙していた。そこへ「こら! 何をやっているか!」と人垣の向こうから、大人の声が響き渡った。
「やべ。黒崎だ」
言うが早いか、飯田ともう一人の少年は、教師とは反対方向に走り去っていった。残った法雄と相本は、やって来た教師に事の次第を説明する。野次馬の生徒からも、法雄と相本に非はない旨を聞き出したため、二人は放免される事となった。
*
更に時は流れ、法雄は高校に進学していた。私立の大学附属高校に入学していた。
「尾川君。このままの偏差値だと、うちの大学に上がるのは考えないといけなくなるぞ。もっと頑張れ」
担任にそう言われた法雄は、小さく“はい”と答えるに止まり、ふらふらと職員室を後にした。そこから、家に帰るまでの記憶がない程に呆然としていたのである。
――くそっ! 成績が下がりっぱなしじゃないか。何故、僕がこんなことに。
高校二年生の九月。法雄は、一学期の成績に打ちのめされていた。授業はきちんと聞いている、予習復習もこなしている。学期末の試験では、学年五位を争う程ではないにしろ、そこそこではあった。しかし、何故か思うような成績を出せていない。これが、高校に入学してから続いており、焦りが増しているのであった。
「そうか。そうだ、このままでもいい、四年制の大学さえ出てしまえば、なんとかなる」
この後、法雄は何かに点け、“四年制の大学さえ出れば”を呟くようになり、いつしか口癖になっていく事になる。
*
進学した大学で、一心不乱に成績を上げる事に執着した事で、大学も無事卒業する事が出来た。
――よし! 首席で卒業した。これで、勝ち組に乗る事が出来る。俺は、大卒だ!
法雄本人はかなりのご満悦のようであるが、大学の教授曰く、「君は、この学科から何故、その会社に行くのかね?」と問われると「成長著しい会社であり、大卒である自分が活躍できるからです」と答えた。教授は、法雄の答えに反論する余地を見いだせず、無言で頷くしかなかった。
「今日から、大卒の自分が活躍する、社会人を始めようじゃないか」
大きめであるため垂れ目に見えない濃茶の瞳に、太くも細くもない眉と、鼻筋が通っているが大きめの鼻のある細面。そこに、耳が出る程度の短さにした黒髪は、頭頂部がふんわりとしていて分け目は儲けていないようである。体格的には、未だに細く見えるいわゆる華奢である尾川法雄、二二歳の春がスタートしたのである。