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<登場人物 設定書抜粋>
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
若松 一郎/わかまつ いちろう
西暦1980年06月21日 男
体格:やや痩せ気味。
頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。
顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。
性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
大和 文佳/おおわ ふみか
西暦1983年11月06日 女
体格:ややぽっちゃりしている。腰のくびれはある物の胸とおしりはやや控えめ。
頭髪:肩より長い黒髪。仕事中はゴムで縛っている。
顔 :日本人にありがちな丸顔童顔。くりっとした目にちょこんと乗った鼻。
性格:幼少の頃から現住所に住んでおり、割合と自然と戯れる事が多く、ややおてんばである。
背が低いため中学2年生以降、出来ると感じた事は手を上げて率先して行うようにしていたところ、その全てが癖になっている。
想像力がたくましすぎ、妄想を止められなくなる事がある。
木野下 太一郎/きのした たいちろう
西暦1982年09月22日 男
体格:背が低いことも手伝って、小太りに見える。
頭髪:黒髪で、短めに切り揃えられているが、刈り上げはしていない。
顔 :ホームベース型、と呼んでも良い程えらが張っている。目は何時も笑っていると言われる程細い。先祖に白人がいたのではと思える程に鼻筋が通る小鼻。
性格:人当たりが良く、怒ることはめったにない。優しさと捉えられがちであるが、怒りたくないから怒らせないように観察しているため、口数が少ない、人見知りと言われる。
細川 忍/ほそかわ しのぶ
西暦1985年11月16日 女
体格:身長の割にすらりとしている。スレンダー寄りであるため全てが控えめだが、30代ではギリギリ。
頭髪:肩までの長さの黒髪。くせっ毛であるため幼少の頃から気にしている。
顔 :細面の顔立ちにつぶらな瞳に薄い眉毛。鼻筋の見えにくい小振りの鼻。
性格:人が犯す大抵の事は許す事ができる程おおらかである。現象や事象に対しては許す事が出来ず追求してしまう。30代になり、経験やら知識やらが増え、したたかさも相まってきれい事でなくても提案する。
未設定の皆さん---
長谷 智則/はせ とものり
水上 佐和/みずかみ さわ
小原 忠司/おはら ただし
岡野 美子/おかの よしこ
相田 知己/あいだ ともき
高橋 洋子/たかはし ようこ
石井 信照/いしい のぶてる
大野 水樹/おおの みずき
飯塚 帆美/いいづか ほのみ
高田 正史/たかだ まさし
田中 和樹/たなか かずき
佐藤 琴/さとう こと
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
<登場道具 設定書抜粋>
アゼニウム/ア素
概 略:第二次大戦後の日本で発見された新元素。但し、公に出来ない元素である(西暦2017年時点では前者を使用)。また、空気中にガスとして存在するが、アルミニウムと同量の元素量を持つ。
命名の由来:あくまでも、(株)舞王、(株)空間倉庫に関係する組織での呼称である。当初は、“ア素”と仮の名を新たな元素という意味と、発見された経緯などから命名される。後に、化学の周期表上で、アルミニウムの原子量を持っていることから“ニウム”が付与され、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。
発生 原理:空気中にガスとして存在するが、何故戦後になって発見できるようになったのか、専門外であるため不明のままとなっている。
無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう
概 略:新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。
命名の由来:物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。
発生 原理:“アゼニウム”が現象の発生原因と仮定。後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。
空間特殊穴=ワームホール(虫食い穴)
概 略:位相幾何学の中であり得るのではと考えられている構造であるが、今のところ解明できていない。何を持って構成されているのか、何を以てそこにあるのか、今のところ解明できていない。
命名の由来:リンゴの虫喰い穴に由来する(ウィキペディアより抜粋)。
発生 原理:今を以てして、この現象の発生した理由、原理は不明であり、維持するための電源となる物は判明していない。
――さて。剣峰さんは……。――と、歩実の方へ、顔を向けた勇だが……。――かなり落ち込んでいるな。ま、尾川が原因ではあるが、怒りにまかせて味方に攻撃したからなぁ。不憫とは言え、謹慎処分程度はあるかもな。森野さんも落ち込んでいるか。彼女にしてみれば、自分が原因だと思っているだろうしな。で、元凶の尾川は――と、今度は、反対側にいる法雄に顔を向けたのだが、――全く反省している様子はないか。
まだ、九時には三〇分程あるため、出勤済みの者達は会話していたり、項垂れていたりするのである。勇は一人、金曜日のことを反芻しつつ、どうなるのか考えてでもいるようである。
「田辺」
物思いに耽っていた勇に、突然声を掛けてくる人物がいたのである。
「ん? あぁ、裏切り者の長谷さん」
智則は、お決まりの後頭部をかく仕草をしていることから、かなりばつが悪いのであろう、勇に目を合わせることなく声を掛けたようである。
「おっ。あっ、くっ。……いや、まぁ、そう言われると辛いところだが。怒っているのか?」
「いえ。全く」
「……何だよそれは。逆に落ち込むぞ」
「まぁ、思うところがないではないんですが……。長谷さんは抜けて良かったかも知れません」
「まぁ、そうなんだが。しかしなぁ……。俺が無理矢理入り込んだ手前、ばつが悪いというか……」
「ふーん。まぁ、そう言う心があるなら、今ではなく、何時か謝っておけば良いんじゃないですか?」
「えっ? 今じゃなくてか?」
「えぇ。今だと、剣峰さんだけではなく、周囲からも長谷さんが悪者になりますよ? とは言えまぁ、居心地は悪いでしょうから、言い分を伝えて和解程度をしておけば良いんじゃないですかね」
「なるほど。……しかし、田辺は本当にいろいろ知っているなぁ。年齢詐称しているんじゃないか?」
「失敬ですね」
「悪い悪い。……でだ。金曜日の件はどうなるかな。尾川はもちろんだが、剣峰さんも何らかしらの処罰はあるのかな」
いつになく弱気になっている智則は、勇の怒りを受け取ろうとでもしているかのようであり、それを受けたかのようにいじり回す勇であった。この場の本題で、気になっているのは追い出した歩実の処遇なのであろう。ぽつりと、済まなそうに語るのである。智則も、いや、歩実以上に落ち込んでいるのが垣間見える瞬間であった。
「どうでしょうかね。剣峰さんの行為は、褒められたものではありませんからね。何時いかなる時でも反乱を起こしかねない、と受け取られかねませんしね。残っても新人達の間では、刃向かうと反撃される怖い人、と言うレッテルが貼られても不思議じゃないですし、どうなりますかね。まぁ、尾川さんは研修期間でクビ、もあり得るとは思いますが。森野さんはどうなんでしょうね」
勇が分析をしてみせる中、智則は呆気に取られつつその内容を聞いていた所、突然、「ごめんね、ごめんね」と、やや大きな嗚咽が聞こえてきたのである。首を巡らせた勇と智則の視線の先には、抱きついて泣きじゃくる佐和がいたのである。
「私がぁ。無理矢理入らなければ、こんな怪我しないで済んだのにぃ」
「あ、あの。水……上……さん、ちょっと」
「あの、え~と。……私も、ごめんなさい!」
「……追い出すようなことして悪かった」
佐和の謝罪から始まった、三班全員の謝罪に戸惑う友実であったが、「あ、あの。顔を上げて、下さい。ぼ、僕が、何も出来なかったからで、皆さんが、謝る……」と、言いかけたところで、「ひっく、違うわよ……友実ちゃん。ひっく。原因は私なのよぉ」と言いながら、嗚咽を漏らす佐和であった。既に、収拾が付かなく成りつつあるのであった。
その中で、「剣峰さん。強引に移ったことは悪いとは言わないが、結果が良くない。尾川のやり口から逃げて、剣峰さんに尻拭いさせた形になったことは謝らせてくれ」と、意を決して智則が謝罪を口にすると、「長谷君。要因は貴方にあったのかも知れない。でも、あたしが判断したことだから……。ありがとう」と、落ち込んでいた歩実の気分も、少しは良くなったようである。
――そうね。謝る事が出来る人は、成長できるっておばあちゃんやおじいちゃんも言っていたし、長谷君や一班の人を恨んでもしょうがない。元凶は尾川只一人!
智則が謝ったことで、一班の面々も集まってきて、ある程度わだかまりも消え去ったようである。と言うのも、勇の指摘した通り、刃向かうと怖い人、と言う部分がどうしても残ってしまう。それは、人の意思と気持ちに、弱い部分があるからと言えるようである。
「おはようございます。さ、皆さん整列して下さい」と、何時も使っていた、本社裏にある派遣課が使う練習場の地下にある施設。そこにある部屋に入って来るや、一声掛けてきたのは一郎である。その後ろからぞろぞろと続いて入ってきた人物がいたのである。しかも、部長職ばかりが入ってきたのであれば、新人達が、一瞬にして緊張した面持ちとなり、びしりと整列するのも当然であろう。
「うんうん。お偉方ばかりだから、皆静かですねぇ」
「若松君。先を進めてくれないか?」
「あっ、社長。分かっていますよ。……では、今日から次の研修に入る筈でしたが、金曜日に問題が発生しましたので、少々変更が入りましたよ。ホントもう、土曜日は休日出勤ですよ? 勘弁して貰いたいですよ」
「若松君?」と、更に語気を強める智に、「わ、分かりました。進めます。……んん。えー。詳細は別途の説明になるんですがね。今後の研修ですが、実地が一ヶ月程度の期間で行われますね。後は、それに向けた強化実習と講習ですね。それと、金曜日までの問題を受けて、班を再編制すると」と、嫌らしくここで一旦区切る一郎であるが、学習したのであろう新人達は、口を開き掛ける者がいたようであるが、声を発するまでには至らなかったようである。
「再編成ですよ、再編成」と、二回も繰り返した一郎であるが、幾分か笑みを浮かべているようにも見えたのである。「んん。……後はですね。実習と講習はもちろん、実地研修には班ごとに一人ですが引率する方々が就きますから、厳しいことになりそうですよ。えーと、以上ですね。何か質問はありますか?」
一郎が、淡々とではなく、嫌みったらしく要点を説明しているのが、ストレスを発散しているように見えるのは気のせいであろう。
「若松さん!」と、質問を受け付けると言われるや否や、即座に手を上げたのは忠司であった。
「小原君。何でしょうか?」と、分かっている様子が覗える返答をする一郎に、「再編成って、班を作り直すって事ですか?」と、言葉の意味を確認してきたことに、「えぇ。そうなりますが、どうしました?」と、戸惑うことなく一郎が返事をすると、「今のままで問題ありませんが、どうして作り直すんでしょうか」
「うん、まぁ。そう言う意見は出てきますよね、それは、社長の方に直々にお願いします」
予想通りなのであろう、一郎から場を引き継いだ智だが、一呼吸置いてから話し始めるのであった。
「小原君の質問は、君達からすればもっともな意見だと思う。しかし! 会社側としては、不本意だな。その違いはまだ分からないだろうから説明する。……まず、追加の研修時の班分けに問題はなかったと、会社側は判断している訳だ。しかし君達は、ある一点だけが気に入らないから、上手くいかないからと、問題点を班内で議論をしたのか怪しい。更に、若松君に相談もしないどころか、排除する方向に走った。まぁ、まだ学生の気分が抜けていないのかも知れないのだが。学校を卒業し、我が社に入社した君達は立派な社会人だ」
智は、声高に彼等が何をしたのか、していないのかを指摘するだけではなく、もう既に学生ではなく社会人の仲間に入っている事を指摘したのである。その言葉に対して、顔を見合わせながら、“そんなことを言われても”とでも言いたそうな表情をするのであった。少々ざわつき始めた中で、智は再び口を開き、「研修中、若松君の許可の元、一時的な許可だったと聞いているが、これにも反して継続を望んで実現した訳だ。つまり、どう言う事かと言えば、馬が合わないから、極論で言えば、答えを教えてくれない先輩が嫌だ、と言った理由で、仕事をしない、あるいは、反論すれば何でも通ると勘違いさせる可能性が高くなったと判断せざる終えない。社会人一年生には酷であろうが、個々人の器量が狭すぎる、この懸念が強くなった。よって、君達が気に入ってる班を解体し、再度会社の指示に従って貰うことにした。以上だ」
やや長い、智の説明に、何をどう反論して良いのか、分からない様子の新人達である。あるいは、社長がかなり怒っていることに戸惑い、クビを想像したのかも知れないのである。
「若松君、班編制の発表を」と、新人達に考える暇を与えないかのように、畳み掛けてきたのである。
「分かりました。それでは一班からになりますが、返事は不要ですよ。あ、後呼ぶ順番は五十音順になりますので、偉いとかはありませんよ。相田知己。石井信照。岡野美子。水上佐和。次は二班ですね。小原忠司。佐藤琴。高田正史。長谷智則。三班ですね。飯塚帆美。大野水樹。高橋洋子。田中和樹。最後は四班ですね。尾川法雄。田辺勇。剣峰歩実。森野友実。以上ですね」
一郎から発表された班割りは、ものの見事に旧一班と旧三班を解体しており、二班はそのあおりを受けた形となった。四班が据え置きとなったのは、何処にどう割り振ろうとも、問題しか起きないと判断されたからなのであろう。
「面食らっていますね。良いですねぇ。おっと、次々。次は、追加の研修と称して、何故模擬戦を行ったのか、についての説明ですね。えーと、あれ? 社長、これは誰が説明するんでしたかね」
「若松君。それは宣伝部の部長……、はいないのか。まだ体調不良は戻らないのか、班統括係係長の木野下君と、調整係係長の大和君の二人がいるというのはどうなっているんだ?」
班統括係係長の木野下。“木”と“下”ではなく、木野下太一郎といい、体重がそれほどある訳では無いが、一七〇㎝に僅かに届かないため、やや小太りに見えてしまうそんな体格である。顔の輪郭はホームベース型と言っていい程えらが張っており、短く刈り揃えられた黒髪で、何時も笑っていると言われる程に細い目であるにも関わらず、白人が先祖にでもいたのかという程の鷲鼻である。
「……も、も、申し訳ありません。部長はまだ体調が良くなく、課長も出る幕ではないとのことで、僕と大和君でなんとかするようにとのことです」
「はぁ、全く。社の要の部署長が揃いも揃って……。で、どちらが説明する?」
そう言われた太一郎と文佳は、顔を見合わせるとあっさりと、「はぁ。分かりました、私が説明します」と、文佳が引き受けることにしたようである。
「そうか。大和君、任せた」
「分かりました。……では。以前にも簡単な説明をしましたが、もう一度自己紹介します。宣伝部、派遣課、調整係の係長をやっています、大和文佳です。以前、七月になれば説明されると伝えましたが、それが今日と言うことになります。……さて、何故、模擬戦を行う必要があったのか。大まかには、戦後になりますが、現東京都青梅市内にワームホールと呼んでいる物が複数個出現しました。それは、地球ではない別の惑星上と繋がっており、地球と同じように、知的生命体と呼べる種が繁栄しており、知的な生命体であることから文明や文化があります。結論になりますが、その知的生命体の文明である国からの依頼を受け、業務を行っています。よって、その依頼を受ける際に、ある程度の戦闘技術や知識が必要であるため、手っ取り早く模擬戦を行っている訳です。後は、無物質特異化現象の使い方も学ぶためでもあります。とまぁ、かいつまんでの説明は以上です。何か質問などありますか?」
文佳から、突然、突拍子もない説明を受けた新人達は、ざわざわと、周囲と話し始めることとなったのである。
「何をいい大人が。非現実的であり得ない。ふざけるのも大概にして欲しいな」
「ふふふ。なるほど、と言うことはゲーム的な異世界が待っていると言うことか」
「長谷さん。それが事実だとしても、流石にゲーム世界(いわゆる異世界を勇はこう解釈している)なんて非現実的ですよ」
法雄は、現実主義と言うよりは、想像力が不足しがちである故に、このような結論に至るのはもっともであろう。しかし、ライトノベルに嵌まる時代とあっては、異世界好きはどこにでもいるもので、智則はその一人のようである。一方、勇の方はと言えば、ゲームやライトノベルにありがちは世界(惑星であるのかは不明)までは、非現実的と捉えているようである。
周囲でも、「何の話だ? ワームホール?」「ホールケーキの親戚?」「じゃぁ、食べられるのかな?」などなど、そもそもワームホールという単語からして知らないようである。それもその筈で、衰退しているSF作品上で出てくる単語である。SF離れが進んでいる古今では、知らなくても当然なのかも知れない。
新人達がざわざわと各々思うところを話し合っているようだが、「んん」と、咳払いをしたのは智である。
「君達も思うところはあるのだろう、それに、大和君の説明を与太話と思う者もいるだろう。だが! これは現実だ。しかも、ご都合主義のゲーム的な世界ではなく、地球とは別の惑星上に実在する異文明だ」
智の言いように、会話をしていた新人達も、どうやら空想の話ではないのではないか、と思い始めたようである。
「社長」
「ん?」
「あっ、田辺勇です。質問してもよろしいでしょうか」
「おぉ、良いぞ」
「では。その異文明ですが、文明の水準はどの辺りでしょう」
智が答えるのかと思いきや、「その質問には、私が答えましょう」と、文佳から返事が返ってきたのである。そう、まだ文佳の説明は終わっていなかったのである。
「文明の水準は、地球と比較、あるいは当て嵌める形です。千差万別ではありますが、現代よりは中世に近い方が多いと言ったところですね」
「……では、地球より進んだ文明はないんでしょうか?」
勇の発言は、周囲の新人達を驚愕させ、「流石に、それは」や、「飛躍しすぎだろう」などなど、あり得ないという意見が多数であった。その中でも一際偏っていたのが、「お前は何を考えている。俺より優れた種がいる筈ないだろう」と言い出したのは、言わずと知れた法雄である。
法雄の主観としては当然の考えなのかも知れないが、果たしてそう言い切れるものであるのか疑問である。それを裏付けるかのように、「ありますよ」と、文佳があっさり肯定したのである。当然、新人達が目を丸くしたのは言うまでもないことである。
「あ、あるんですか。……いえ、質問しておいて何ですが。地球以外に、人がいること自体が懐疑的でしたので、驚きました」
「そうですね。多分、この件に関わったことがない場合は、この宇宙で唯一の知的生命体であろうと考えているか。あるいは、そんなことすら考えないでしょうから。……他にはありませんか?」
文佳と勇の遣り取りを聞いていた新人達は、「いるのかよ」や、「嘘だよね?」などと驚きと共に、恐怖を感じている者もいるようである。
「あの~」
「はい。あっ、申し訳ないけれど、新人の名前と顔が一致していないから、氏名を名乗ってから質問をお願いしますね」
「あっ、はい。大野水樹です。えーと、わーむ……ほーるって何です?」
異文明があるという衝撃的事実に、すっかり忘れていたことがどよめきからも覗えるのである。
「ワームホールを日本語に訳すと“虫食い穴”と言われることもあります。まぁ、言い響きではありませんので、“ワームホール”で統一します。それで、ワームホールとは何か、と言うことですが。現時点で分かっていることを簡単に説明しましょう。……そうですね。今この場所の私と君達との間にある空間と、全く別の場所の空間を繋いだトンネルと考えて下さい。但し、繋がった空間の間には何も存在しない。もう少し分かりやすく言いましょうか。山を貫いてトンネルを掘ると、両側に出入り口が出来ます。ですが、出入り口以外から、そのトンネルを出入りすることは出来ませんね? それと同じ事が山や海といった障害がない空間で起こっていると言うことです」
文佳の説明に、知識のない新人達がフル回転で、理解しようとしているようであるが。理解できた者は半数もいないであろう。
「そうですね。理解しづらいとは思います。他にも比喩的に説明は可能ですが、更に混乱してしまうでしょうからね。もう少しだけ付き合って下さい。後は、表裏があるのかも不明ですし、トンネルの出入り口から、繋がった先の景色が見えますが、はっきりと見えたり、ぼんやり見えたりしますね。表裏が不明というのは、一点目、厚みが肉眼で確認できない程薄いこと、二点目、両側から見える景色が違っているからです。これは、装置などを使って作られていないためではないかと、考えています」
「途中でしたらすいません。長谷智則です。質問良いですか?」
「はい。えーと、ひとまず区切りは良いですからどうぞ」
「そのワームホールは、自然に発生するんですか? それと、今も同じ場所同士を繋ぎ続けているとするなら、そのエネルギーはどこから来ているんですか?」
「ふむ。えーと、その辺りは、どこかに……。あぁ、ありましたね。まず、自然発生するのか、と言う質問は、現実的にはそうだと言えますが、では、そこいら中に発生しているか、と言えば違うという答えになります。次の繋ぎ続けるエネルギーの所在、と言うことですが。これは、全く解明できていないのが実情です。専門の大学や企業に依頼を出せないため、市販されている測定器を以て解析していますが、今のところ発見はありません。ですが、仕向け先を区切るために囲いを設けた際、外周境界面との接触で破壊されました。これにより、外周境界面には、何らかの力場に似た物が発生していることは確認されていますね。少々長くなりましたが以上ですね。……そろそろ質問は終わりましょうか」
文佳の最後の言葉は、新人達がパンクしている様子に、気を回したと言ったところである。かなりかいつまんでいるとは言え、専門用語を出さずに説明しきるのには、無理があるのだから致し方がないであろう。
文佳の説明に疲弊している新人達に、「大和君、説明ありがとう。まぁ、かなり難解だからな、正直、私も理解しかねているところだ。……若松君」と、智は、新人達を労るように語るのであった。
「やっと戻ってきましたね。まぁ、かなり脳が疲弊しているようで何より。さて、後は小難しい話は残っていませんから、大丈夫ですよ。で、次の実地研修なんですがね……、とその前に。実地研修とはですね。現地に赴いて、依頼をこなす研修の事なんですね。そしてそして、なんと! お目付役とも言われる引率が就きますよ」と、一郎が説明すると、不満の声が湧き上がるのであった。今までの研修とは訳が違い、別の惑星上に赴くのである。更に言えば、右も左もまだ分かっていないのである、当然と言えば当然である。
「はいはい。不満はあるでしょうが、君達は、会社を背負って出向くんですよ? 緊急事態にきちんと対処できます? 経験がないにも等しいんですから、指導者はいるでしょう。今回の班編制で、班毎に目的地に赴いて、依頼された内容を行うことになりますね。あぁ、今回は異星人と異文明になれることが目的ですから、戦闘は極力低いものが選ばれる筈ですよ」
すかさず、「筈って何ですか」や、「異星人? 宇宙人のことか?」、「イケメンいる?」などなど、新人達の私語の話題は事欠かないようである。
「こらこら。まだ終わってないですよ。それと、“筈”とは予定していることで、選択は引率者に委ねられてますから、まだ決まっていないって事ですよ。楽しみですねぇ」
火に油を注ぐが如く、ストレスを発散する一郎に、「若松君。君も止めないか」と、智に小言を言われる始末である。
「申し訳ありません、社長。まだ少々ストレスが残っていたようです。……さて、社長に怒られましたが、引率者を発表しますよ。一班は営業部部長の大貫志郎、二班は、えっ? 宣伝部、宣伝課、戦略係係長の細川忍。社長、大丈夫ですか?」
「ちょっと何ですか、若松さん! 一応言っておきますが、宣伝部だけは持ち回りだとかで、押しつけられたんですから。あたしだって、ふ……。何でもありません」
「あ、えー、次に行きましょうかね。三班は開発部部長の西野珠恵、四班は……。えぇ!? んん。えー、社長の安芸智です。何ですかね、この布陣は」
一郎の話が途中であるに関わらず、忍のマシンガントークが炸裂したようである。どうやら本人も初めてなのであろう、やや不安そうな表情をしているのであった。
「若松君。私が参加するのに問題があるのか?」
「いえ、そう言うことではありません。まぁ、適切な配置であるとは思いますが、ねぇ」と、語尾が尻つぼみになる一郎は、忍をチラリと見るのであった。




