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<登場人物 設定書抜粋>
福本 光男/ふくもと みつお
西暦1982年11月5日 男
体格:身長の割に、体重のあるやや小太り。おなかがやや出ている。
頭髪:黒く短め。スポーツ刈りより長い。
顔 :黒い瞳で小さい目。やや面長。おっさん臭い顔つき。
性格:性格は明るいがせっかちである。てきぱきと仕事はこなすが、どうしても部下にも要求してしまうところがある。相手を「ちみねぇ」と呼ぶ口癖がある。
桃井 美郎/ももい よしろう
西暦1953年6月18日 男
体格:昭和の漢であるためか、良く鍛えており、所謂おじさん太りはしていない。
頭髪:黒で短め。耳は出ており、七三で分けられている。
顔 :真一文字の細めの目。瞳は黒。鼻筋は見えない小鼻。やや薄い唇。
性格:生真面目であるが、温厚であり、計算高い。仕事の姿勢と同じだが、他者に対して厳しいところがある。
この性格は栄太、栄二郎とも似たようなもので、桃井家の宿命と言える。
安芸 智/あき さとし
西暦1980年10月10日 男
体格:ほぼ、日本人と言える体格。同と足の比率は半々。
頭髪:黒が基本の焦げ茶の髪。分け目はないが、ざんばらではない。耳が半分ほど隠れる長さ。
顔 :釣り目気味。ややグレーが入った瞳。耳はとがっておらず、現代の日本人と同じ。鼻筋は通っており白人風。
性格:荒くれ者はなりを潜めているが、こと戦闘になると箍が外れることもある。お人好し寄りで、来るものは拒まない。だが、出て行こうとすると引き留めようとするもろさがある。
西野 珠恵/にしの たまえ
西暦1982年11月23日 女
体格:太くも細くも見える微妙な状態。
頭髪:赤茶に見える黒髪は、肩甲骨まである。派遣では、髪がうるさくなるため簡単に縛る。
顔 :細面で小顔。目は大きく、濃茶の瞳。鼻筋はやや通っているが大きめの鼻。
性格:明るく活発である。しかし、電子や電気関係には目がなく、際限なく分析を行ってしまう。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
若松 一郎/わかまつ いちろう
西暦1980年06月21日 男
体格:やや痩せ気味。
頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。
顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。
性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。
松西 金志/まつにし きんじ
西暦1982年10月15日 男
体格:背もあるが、逆三角の筋肉量が異常な太さを見せている。
頭髪:黒髪ではあるが、ありがちなスポーツ刈り。
顔 :顎はあるのだが四角。目は細くないが大きくもない、吊り上がってはない。鼻筋の通ったやや鷲鼻で小さめの鼻。
性格:あっけらかんとしており、さっぱりした性格である。面倒見は良い方であり、けじめをしっかり付ける方である。
大貫 志郎/おおぬき しろう
西暦1972年08月15日 男
体格:小太り気味ではあるが、スラリとして引き締まっているように見える。
頭髪:黒髪を短く切り揃えている。耳は出している。
顔 :馬面と言える長めの輪郭。細く見える目は黒目で、鼻筋は通っている小鼻。やや大きい耳。
性格:昭和生まれのためか、おおらかで人当たりは悪くない。せかせかした時代でも、マイペースを保っている。
未設定の皆さん---
佐々木孝典/ささきたかのり
水上 佐和/みずかみ さわ
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
日付は変わり七月一日。若者とは言い難い面々が集まっている、とある場所で、「休日だというのに。おれぁ、空しいですな」と呟く人物がいた。すると「福本君。社内で発生した問題だ、仕方がないだろう。……ところで、佐々木宣伝部部長はどうした? 派遣課課長の福本君」と、やぶ蛇になってしまう始末であり、「そ、それにつきまして、佐々木部長は、今回の事態に体調を崩しまして。社長には申し訳ないと」と、冷や汗は出ていないようだが、癖なのか額を拭う光男であった。
その光男を含む数名がいるのは、株式会社舞王本社、地上五階にある各部署長がよく使う、いや、社長室と同じフロアにあるのだから、一介の社員が使えるような会議室ではないのである。そこに、錚々たる面々が集まっているようである。
「研修中での事態とは言え、内部で起こったからな。佐々木君には申し訳ないな。……それはそうと、今日は、一六名の社員寮への引っ越しもあったか。副社長の桃井君、問題は出ていないか?」
「はい。配布漏れ以外では、日程が近すぎる関係で、引っ越し業者に依頼できなかったようですが。そこは、人事課総動員で当たっていると聞いてます」
「まぁ、仕方がないだろうな。今回の場合は、無給扱いになるのか?」
「どうでしょうか。前例はなかった筈ですから、考える必要はあるかと」
「分かった。そこは、経営管理部部長の桃井君に任せる。さて、件の問題について、どう対応するべきか議論しよう」
社長である安芸智が、幹部を集めた目的である、模擬戦で起こった四班の見方撃ちについて議論が始まるようである。
「なるほど。緊急の会議で集まったのが、このメンツなのは特別研修の問題だったのね。納得したわ。で、どんな問題を起こしたの?」
「西野君、待ちなさい。社長が始めようと言いましたが、議事進行は、一応副社長である私が行います。先走らないで下さい」
「もう。桃井副社長は、仕切り魔ですからね……。まぁ、良いわ。早く進めて下さいな」
少々癖のある言い回しをするのは、西野珠恵。赤茶に見える黒髪を肩より長く伸ばしており、細面の輪郭に、やや大きな目と鼻筋が見え、やや大きな鼻の美人、と言えるか微妙な顔立ちである。身長は一七〇㎝に届いていないが、細くも太くも見えるラインであるのだが、凹凸ははっきりしている。
そんな彼女は、開発部の部長を務めており、特別研修で起こった問題の対応を決める会議に参加している、と言うことは、そう言うことである。
「では、西野開発部長から催促されましたので、早速始めます」と、美郎が嫌みったらしく会議の開催を宣言すると、珠恵と智が笑いを怺えているのが目に飛び込んだようである。しかし、咳払いを一つして続けるのであった。
「議題ですが、特別研修の最終日、剣峰歩実が、尾川法雄に攻撃を仕掛けたこと。班内の見方撃ちに当たります。但し、問題の原因は、尾川法雄が同班の森野友実に、攻撃を加えたことと判断されています。大まかなあらましは以上ですが、何か違いなどありますか? 若松君と松西君」
「は、はい。概ね副社長の内容に間違いはありません」
「……桃井さん」
「若松君。まだ、何かありますか?」
「はい、ありますね。尾川君は、初日から同期全員を見下す傾向がありましたね。それと、松西さんには見えづらかったようですが、上から見て分かることがありますね」
「何かあったか? 気が付かなかったが」
「入れ替え前に、水上君の周辺に、攻撃が集中したことがあったでしょう?」
「あぁ、あれか。まぁ、誤射なんて、新人の頃はよくあるからな」
「えぇ、僕もそう考えていたんですがね、よくよく考えると、誤射にしては水上君が一定方向に動いていたように見えますねぇ。どうです? 松西さん」
「うーん。……確かに、誘導されていたようにも見えるな。いやしかし、どうだろうなぁ」
「それと、松西さんとの会話も、今考えるとおかしいんですよね」
「どう言う事だ?」
「尾川君は、“俺が勝てれば良い”とか、“俺が勝つことが重要”と言ってましたね。覚えてませんか?」
「……うーん。そうだったような気もするが……」
一郎がこれまでのことを、思い出せる範囲、いや、社長直々の警告があったことから、法雄の言動には注意をしていたからなのであろう。結構、細かい事まで覚えているようである。
「まぁ、松西さんの記憶力はさておき、尾川君は、班で勝つ、ではなく、彼自身が勝つことに意義を見いだしている、もっと言えば、それがアピールだと考えている節がありますね」
「うーむ。あぁ、確かに。なんとなく彼の言い分に違和感があったのを思いだした。……なるほど、そう言う意味で言っていたのか。これは俺のミスだな。社長、申し訳ありません」
そう言った金志は、立ち上がって、深々と頭を下げるのであった。それに対して、「松西君。その場で気が付ければ良かったことではあるが、研修という特殊性を考慮すれば、君一人に責を負わせることは出来ない。それなら、若松君はもっと謝罪する必要が出てくるしな」と、智が語ると、「そうか、全般を見ているのは若松君でした。……いやしかし、模擬戦ともなると、化学以上に危険が伴う訳ですから……」と、自分の責任追及を逃れるつもりはないようである。
「……松西さん。どちらも一緒ですよ。無物質特異化現象でも、怪我や事故は起こりますしね。危険度という意味では、こちらの方が被害は大きいですからね。まぁ、彼らが使っている化学式は、派手になるように仕込んでいますから、怪我程度で済んでますが。それに、今はまだ責任云々の時間ではありませんしね、そうですよね、社長」
一郎が金志を庇う。と言うよりは、やっていることがやっていることなのだから、危険はつきものであると言っているようなものである。そして、最後は智に同意を求めることを忘れない一郎であった。
「流石は若松君。責任という意味を理解している。そう言う訳だ、松西君。今の謝罪は受け取っておくが、処分に加えるつもりはないことを伝えておこう」
「話を戻しましょう。若松君の解釈がほぼあっていると考えると、入社式でも語っていました“主席の大卒”を軸に、自分が最も優秀であることを印象付ける。いえ、優秀である証明をしようとしている、と言うことになりますが。はた迷惑な話ですね、これは」
「あぁ、桃井君。折檻をしてはいかんぞ」
「は? 今時、折檻、ですか。社長、何時の生まれですか。……いえ違います。そんなことは私はしませんよ。私はね」
「桃井副社長! 物騒に聞こえることは言わないで頂きたい」
「大貫君。私が、何時そんなことを言いました?」
大貫と呼ばれた人物。大貫志郎は、面長で馬面と言っても過言ではない程である。そこに、アンバランスと言える細い目に黒い瞳があり、鼻筋は通っている小鼻である。頭髪は黒髪を短く整えており、大きめの耳が目立っている。身長は一七〇㎝を超えており、スラリとしているように見えるが小太り気味である。
そんな彼は、営業部の部長を務めており、言動から垣間見える通り真面目である。この会議に参加していることからも、察することは出来るであろう。
「桃井副社長!」
「……社長、申し訳ありません。少々癇に障ったものですから……。ここに謝罪します」
座ったまま、テーブルに額をぶつける勢いで、頭を下げる美郎であった。
「副社長を不機嫌にさせるとは、尾川君とやらは、相当に問題児のようですね。ふふふ。うちに来ればいかようにでも扱いますよ」
「西野開発部部長。貴方まで不穏なことは言わないで貰いたい」
「あら、大貫営業部部長さん。聞き捨てならないわね。厳しく、激しく電子や電気関係の指導をしようとしているだけですよ」
「マッド部分は、今出さなくて良いと思うが……。いや、それ以前に、貴方の部署は、ゲーム開発だった筈では?」
「まぁまぁ、大貫営業部部長、その辺にしてもらえるか。……それで、正直、西野開発部部長は尾川君をどう思う」
「どう、ですか……。そうですね、人事課の資料にも目を通しましたが、やりたいことはなく、唯々権力者になりたい君ね。何処の部署で扱うにしても、係長は大変なことになりそうね」
「そうなるな。さて、もう一人、とばっちりとは言え、見方撃ちをしでかした剣峰歩実についてだが……」
「……社長。剣峰君ですが、彼女の剣術は相当なものです」
「ほう。松西君にそこまで言わせるとは。だが、見方撃ちはいかんだろう」
「そ、それはそうかも知れませんが……」
智が歩実に話を変えると、金志が擁護する発言をしたのだが、智のダメ押しに金志は尻すぼみとなってしまったようである。
「松西君。ちみねぇ、社長の発言を遮った上で、問題児を庇うって、おれぁ、悲しいよ」
「い、いえ。福本派遣課課長、剣峰君は問題児ではありません」
「えぇ? そうなの?」
「福本派遣課課長。一言良いですかね」
「ん? 何かな、若松化学班班長」
「剣峰君は、これまでに問題は起こしていませんね。まぁ、少々過保護なきらいはありますが。ちなみに、人事課の資料は目を通されましたかね。特に問題はないと考えますね」
「な! ちみは、おれぁを侮辱するつもりかね?」
「いいえ。新人とは言え、正しく評価して頂きたいだけですよ」
「この、化学馬鹿が!」
光男と一郎の論議は、一郎の嫌みったらしい言い回しに、光男が激怒してしまう始末である。
「二人共、そこまでにして下さい」
美郎の介入で、光男が「少々熱くなりすぎました」と謝罪したのだが、一郎は「失礼しました」とだけ述べたのである。その言葉に、光男はじろりと一郎を侮蔑するのであった。
「福本君がそんなだから、佐々木宣伝部部長が心労で倒れるんじゃないかしら?」
「西野開発部部長。そう言う物言いは止めて下さい。……社長。ニヤニヤしていないで、仲裁して下さい」
「あっ。いや、すまん。私の伝え方がまずかったようだ。剣峰君の事に関しては、問題扱いをするつもりはない。あくまでも“見方撃ち”の行為について、どうすべきか意見を聞きたい」
「……なるほど。状況を鑑みて、情状酌量がないか、と言うことですか?」
「大貫営業部部長。裁判ではないのだから、情状酌量というのは、少々言葉が過ぎる気はするが、まぁ、概ねそんなところだな。で、何かあるか?」
「先ほども言いましたがね。剣峰君は年下の面倒見は悪くない、いえ、良すぎるくらいですね。それが、まぁ、本人に自覚があるかは分かりませんが、過保護と言える程であると考えますがね」
「あ、あの……」と、言葉を詰まらせたのは、「松西君? どうしました。遠慮なく発言して下さい。さぁ」と、フォローのつもりなのであろうが、美郎の口調が逆に金志を萎縮させてしまったのである。
「……」
「……はぁ。副社長。それは脅しているように聞こえるぞ」
「社長、失礼ですね。発言を促しているだけですよ」
「あぁ、松西君。だそうだから、遠慮なくドカンと発言してくれ」
「い、いえ。ドカン、とはいきませんが。えーと、ですね。若松君も、申し……。言い直します。言っていた通りであり、付け加えるなら、班内だけではなく模擬戦中にあっても状況判断が速い。何処の部署に配属されても、遺憾なく力を発揮してもらえると考えます」
いつにない金志の熱弁振りと、その内容に部長職の面々の腹は決まったようである。
「なるほどな。さて、副社長の桃井君。まだ続けるか?」
「そうですね。まだご意見や、若松君と松西君に質問などありますか?」
首を振る志郎に、「そうねぇ。直接関わっている二人の評価が、無駄に高い訳でもない、次の議題に移っても良いかと思いますよ」と、珠恵は納得した様子である。
「ふむ。……おれぁ、何時自分に矛先が向けられるかと考えると、信じ切れない部分もありますがぁ。許容範囲ではあると考えますなぁ」
「では、結論としては、剣峰君は、特に年下の面倒見が良すぎることから発生した、一時的な激情であると。原因は尾川君の自己中心的な発想によるものである。では、その尾川君の方は、どうしましょうか」
「それは、このまま社に残すかどうか、と言うことですかね?」
「その辺は。……そうですね、考慮する必要が出てくるかも知れませんが。社長、どうしますか?」
「うむ。社の基本理念としては、失敗してもクビにしない、である。配置転換して、再起して欲しいという考え方だったな」
「はい。その通りです」
「今回は、研修期間中での出来事だ」
「そうですね。……と言う事は、クビもあり得ると?」
「若松君。むー、そうなるか……。とは言え、特別研修の場でとなると、少々話がややこしくなる。つまり、同期の大半は研修を終え配属されている時期だからな。当社の配属開始日は七月一日だな、経営管理部部長の桃井君」
「はぁ、そうなっています。社長。……少々話はズレますが、一々肩書きを変えて、私を呼ぶ必要はないと思いますが?」
「あぁ、いや。前にも伝えた気がするが、特殊ではあるが、ある意味、幹部で行う会議の場になる。故に、肩書きを変える必要があるんだよ。まぁ、めんどくさいことではあるんだが」
「はぁ、そう言えば言われたような気がします。失礼しました。それで、配属日がどう関係しますか?」
「うむ。同期は配属され、晴れて社会人扱いされる。しかし、特別でありながら研修とルビ打っている方に回ると、社員扱いしない。と言うのは考えどころではある。何故か。特別研修というのは、無物質特異化現象を扱える者達に、扱い方を覚えさせるための場だ。更に、極論で言えば、この研修に回された時点で、配属先がほぼ決まっていると言うことになる。まぁ、既に社宅に引っ越しているというのもあるしな。と、考えると、研修中の解雇とは違ってくる訳だな」
美郎以下一同は、智がそこまで深く考えていたのかと思いつつ。考え方として、理にかなっているように見えるとも感じているようである。
「なるほど。となると、このケースも、失敗してもクビにしないに当てはまるのでは、と言うことですか?」
「そうなるな。だが、尾川君に関しては、それだけではない」
「と、申しますと、独善的な性格であるが故に、クビにしても、その性格は変わらないだろうと。いや、もっと酷くなって当社だけに限らず、社会的な問題を引き起こしかねないと?」
「大貫営業部部長。それは考えすぎなきらいはあるが。そんなところだな。更に言えば、酷いから排除する。と言うのは、どうにもなじめなくてな」
「であるなら。社長は、お荷物になりかねない人物を、飼い続けると? 前々から、酔狂な社長一家だとは思ってましたが。……ま。本格的な実力主義の序列を導入している会社のトップだけはありますわね。ですが、それは諸刃の剣でしてよ」
「西野開発部部長。その辺りは理解している」
「そうですか」
「では、そろそろ決めましょう。尾川君は、解雇せずこのまま雇うことで、よろしいですか?」
一同から異議は出ないのであった。
「うむ。無理を言って済まないが、性格はそう簡単に変わるものではない。根気よく、対応していこう」
「最大の問題が片づいたことで、次の議題に移りましょうか」
「まだありますか。おれぁ、疲れたよ」
「福本派遣課課長……。そうですね、ここで一息入れましょうか」
美郎の提案で、重要案件の決着を見たことから、休憩となったのである。
「それでは、会議を再開しましょう。次の議題は、一班と三班の問題解決力、についてですね」
「これはぁ。おれぁ、力尽きそうだよ」
「確かに、今年の新人は、上役をこき使ってくれますわね。後で、お仕置きしましょうか?」
「ですから、西野開発部部長。不穏なことは仰らないで頂きたい」
「あらあら」
「二人共、止めて下さいと、再三言っておりますが?」
「あら。副社長に怒られましたわね。もうしませんよ」と、言いつつ、小声で「多分」と呟く珠恵であった。すると、「何か言いましたか?」と、すかさず釘を刺しにかかる美郎であり、「何も?」と、返す珠恵であった。
「副社長」
「はい。若松君、何かありますか?」
「最初に、お伝えしておきます。一班と三班だけではないと思いますが、彼らは、研修を“課題”と言い、失敗することや上手くいかないことを“成績が下がる”と表現していましたね」
「それは、どう言う意味ですか?」
「いえ、そのままの意味だと思いますよ。学生気分が抜けていない、と言うよりは、学業に当て嵌めて考えているようですね」
「なるほど。それは、良いようで問題ですね」
「確かに、そんなことを言っていました。俺が、一瞬疑問に思ったくらいですから、間違いないです」
「で、そこに、問題解決力が加わってくると……。今年の新人は、いじりがいがありそうね。おっと、大貫営業部部長、不穏ではなく、鍛えがいがあるという意味ですよ」
「……」
犬猿の仲、と言う訳ではないのであろうが、真面目とマッドが会話するとこのようになるのかも知れないのである。
「……一番の問題は、辞令をないがしろにしたことと考えますが」
唐突に、志郎が事前に知らされている内容で、会社で重要となる“辞令について”を取り上げたのである。そうとう腹に据えかねているようである。
「そうですね。会社組織として最も重要と言える“辞令”を、ある意味、数の暴力で覆しましたわね」
「おれぁから、その点は謝罪する。若松化学班班長が、相当に切羽詰まっていたと聞いたが、どうなんだね」
「説明しましょうかね。会社組織としての説明はしました。一件目は、四班が参加不能でしたので、特例でやらせてみました。すると、戦績で答えが出ましてね。詳細は、資料にまとめた通りですが、その場で解決できそうにないと判断してますね」
「社長」
「ふむ。読んだ限りでは、まぁ、判断として難しいと言える。しかし、辞令通りを押し通せなかったとも言い難いな」
「社長! 若松君はよくやったと言えます。俺が、もう少し判断できるようになれていれば良かったと思います」
「そ、それを言うなら、おれぁの派遣課が出張らなかったのも、問題といえるなぁ」
「福本派遣課課長。自ら、責任を申し出るとは、珍しいですね。何かありましたか?」
「い、いや、何も……。何もありません」
「副社長の桃井君。威嚇する必要はないだろう、せっかく責任があると言っているのだ。なぁ、福本派遣課課長」
やや細めて睨み付ける美郎に、智が釘を刺しているのであるが、光男にダメ押しをしてしまうのであった。
「しゃ、社長?」
「問題はない。西野君ではないが、少々お灸が必要だな」
「あら。それなら私がやりましょうか?」
「はぁ。お二人共、楽しそうで何よりですが、どうしますか? 社の理念と社長の考えからすると、解雇はないことになりますが」
「おれぁ、これは解雇になっても問題はないと考えるなぁ」
「むー。会社に牙をむいたと取ることは可能ですね。尾川君のとは方向が別ですからね」
「大貫営業部部長は真面目ねぇ。でもそうねぇ。解雇も手の一つではあるけれど、それじゃぁ、彼等と彼女等の成長には役に立たないかしらね」
「では、西野開発部部長は何が妥当とお考えか」
「この問題には、古い言葉(?)だったかしら、“目には目を、歯には歯を”というのがあったじゃない。これ、出来ませんか?」
「おぉ、それは。ハンムラビ法典の一節か」
「おれぁ、知らないが。それはどう言う意味ですかな?」
「うむ。例えるなら、侮辱された方から殴りかかったものの、相手の腕を折ってしまったとしよう。まぁ、怪我をさせたことで逮捕され、裁判になったと。この場合、傷害事件だからな、侮辱より怪我を負わせたことが焦点となり、侮辱された人物も同程度の罰が必要と言うことで、同じく腕を強制的に折るというのが、まぁ、ざっくりだがこれが言葉の意味だな」
「なるほど。とすると、辞令の反目に成るかと思いますが。何をどうしますかね」
智は、一郎の言葉にニヤリとして、「社の辞令に異を唱え、自分たちの言い分を通したのだから、もう一度辞令を出そうか」と、嬉しそうにも悪さをしようとする子供の表情にも見えたのである。
その表情に美郎は、「はぁ、そんな悪巧みを思いついた子供みたいな顔はしないで下さい」と、呆れ返ったのである。
「んん。……とまぁ、社で雇おうとしている新社会人がしでかしたことだ。責任を持って、社会人として育てるほかあるまい」
「本当に、社長は……。まぁ、社外に影響があった訳では無いですから、それが妥当と言えば妥当かとは思いますが。……他に意見はありませんか?」
美郎が一同を見回すも、誰からも意見は出なかったのである。
「では、一班と三班、いえ、二班も巻き込まれて貰いましょう。班の再編制は、人事課は出払ってますので、経営管理部を以て行いますが、社長も入って下さい」
「何? 私もか?」
「そうです。人手が足りませんし、社長自らと言うのは新人達には効くのではないかと。それと……。辞令とはどういった類いのものであるかを、分かりやすく説明して下さい、社長」
言葉を発しそうになる智であったが、やや不服そうにしながらも了承せざる終えなかったのは、社長という肩書きのせいであろう。
土日明けの新人達の反応が楽しみである。




