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文章内で、数字が漢数字なのは、縦書きで執筆している関係ですのでご了承下さい。
架空の言語が出てきますが、掲載先の使用フォントの都合上、不揃い、または、半角に見えない場合があることをご理解下さい。
<登場人物 設定書抜粋>
若松 一郎/わかまつ いちろう
西暦1980年06月21日 男
体格:やや痩せ気味。
頭髪:手入れを気にしていない程に、適当になっている黒髪。
顔 :細い目。鼻筋が通っている小鼻。薄い唇だが横にやや広い。
性格:おおらかでのんびりしている。口調にもそれが表れており、マッドなイメージの化学ではないと思わせる。とは言え、学者肌であることに変わりはなく、時折危ないことを言い出す。
松西 金志/まつにし きんじ
西暦1982年10月15日 男
体格:背もあるが、逆三角の筋肉量が異常な太さを見せている。
頭髪:黒髪ではあるが、ありがちなスポーツ刈り。
顔 :顎はあるのだが四角。目は細くないが大きくもない、吊り上がってはない。鼻筋の通ったやや鷲鼻で小さめの鼻。
性格:あっけらかんとしており、さっぱりした性格である。面倒見は良い方であり、けじめをしっかり付ける方である。
尾川 法雄/おがわ のりお
西暦1994年5月7日 男
体格:きゃしゃ。
頭髪:黒で短め。耳が出ている程度、頭頂部をふんわりさせて分け目はない。
顔 :ややたれ目で大きめ。瞳はやや茶。鼻筋は通っているが大きめの鼻。
性格:すさんでいる訳ではないが、いい加減なところがある。上を目指すためなら何でもする。学歴が全てに優先すると思い込んでいるため、学歴が低いと判断すると扱いが酷い。
剣峰 歩実/つるみね あゆみ
西暦1993年09月16日 女
体格:本人曰くぽっちゃり系。
頭髪:ストレートの黒髪。肩より長くしている。戦闘時はポニーテールに結っている。
顔 :小さいがぱっちりした黒い瞳の目。鼻筋の見えない小鼻。
性格:性格はおとなしいが、人なつこい。誰とでも直ぐうち解けることが出来る。時折見せる姉御肌的な言動は、年下の者に何かある場合にのみ現れる。
田辺 勇/たなべ いさむ
西暦1996年04月04日 男
体格:見た目はやや太い。
頭髪:赤茶の入った黒。スポーツ刈り。
顔 :細い故にたれ目が目立つ。瞳は黒。鼻筋の見えない小鼻。
性格:育った環境も手伝っているのか、慈愛とも言える優しさを持っている。一度信じた事柄に対しては、よほどのことがない限り初心を貫くことにしている。
森野 友実/もりの ともみ
西暦1998年06月06日 女
体格:下半身が筋肉質であり、上半身とはアンバランス。
頭髪:赤茶の入った黒で天然パーマ。耳が隠れるほどの長さ。
顔 :やや幼さのある造形。目は大きめで黒い瞳。鼻筋は見えない小鼻。
性格:性格はおおらかであるのだが、口数が少なく強くもの頃を言えない性格もある。また、優柔不断な一面もある。
山国育ちであり、自然が大好きで、野山を駆け回っていたためか、かなりの健脚である。
未設定の皆さん---
長谷 智則/はせ とものり
水上 佐和/みずかみ さわ
岡野 美子/おかの よしこ
相田 知己/あいだ ともき
高橋 洋子/たかはし ようこ
石井 信照/いしい のぶてる
大野 水樹/おおの みずき
小原 忠司/おはら ただし
飯塚 帆美/いいづか ほのみ
高田 正史/たかだ まさし
田中 和樹/たなか かずき
佐藤 琴/さとう こと
<登場組織・国家 設定書抜粋>
株式会社 舞王/まおう
命名の由来:初代社長である安芸 (あき)佐太 (さた)の出身惑星での二つ名で、桃井 (ももい)栄太 (えいた)面白がって一部に“魔王”をあてがう。これに腹を立てており、会社を興す際に安芸佐太が“魔王”にしようとして口論。最終的に、“魔王”ではなく“舞う王”で手を打った。意味も桃井栄太が知恵を絞ってこじつけ、『世界に舞う王(飛躍する会社)』という強引な手を使う。
事 業:
アンティークの扱いからスタートしているため、未だに主力の一つであり、チェーン店である「舞 (まう)ティーク」を展開している。但し、まれに、国籍不明の一品ものが混じることがある。
西暦1993年度に、異業種中の異業種であるゲーム開発部門を新設。RPGともシミュレーションとも言える「SALTAN (さるたん)」ブランドでゲームを展開、次世代ブランドとして「SALTAN Mo (さるたん・も)」ブランドで、MMORPGの展開している。
他社イベントのスタッフやMC、果てはアトラクションのスーツアクターなどを行っている。もちろん、自社の新作ゲーム発表会などでも同様の内容を行う派遣がある。裏業務として、異惑星に赴く派遣もある。
特殊な訓練施設として、埼玉県の山中に、公にしづらい精錬研究所があり、その地下に併設されている。
<登場道具 設定書抜粋>
アゼニウム/ア素
概 略:第二次大戦後の日本で発見された新元素。但し、公に出来ない元素である”アゼニウム”、あるいは、”ア素”(西暦2017年時点では前者を使用)。また、空気中にガスとして存在するが、アルミニウムと同量の元素量を持つ。
命名の由来:あくまでも、(株)舞王、(株)空間倉庫に関係する組織での呼称である。当初は、“ア素”と仮の名を新たな元素という意味と、発見された経緯などから命名される。後に、化学の周期表上で、アルミニウムの原子量を持っていることから“ニウム”が付与され、(株)舞王と(株)空間倉庫では“アゼニウム”と命名。
発生 原理:空気中にガスとして存在するが、何故戦後になって発見できるようになったのか、専門外であるため不明のままとなっている。
無物質特異化現象/むぶっしつとくいかげんしょう
概 略:新たな現象、あるいは事象のことを指す名称である。ゲームの魔法と似ているところがあるため、“魔法”と呼ぶ者もいる。
命名の由来:物質が無いところで、特殊/特異な現象が起こることから。
発生 原理:“アゼニウム”が現象の発生原因と仮定。後の研究で、“儚 (ぼう)素”と命名した同位体が触媒となって事象を起こす。
「おはよう。今日は、六月二八日の水曜日ですね。外は、気温は高いですが、雨は若干あるようです。そして、大分暑くなってきましたね。飯能の辺りも、雨がぱらついているようです。さて、今日はと言えば、怪我をしていた四班の尾川君が復帰しました。まぁ、今日から元に……」と、言いかけたところで、「若松さん!」と、遮るように声が響いたのである。
「何ですか? まだ、私が話している途中ですよ」
「話の途中ですいません。三班からのお願いですが、森野さんの代わりに水上さんを入れてみたいのです。許可をお願いします」
その言葉に、来たか、と天を仰いでしまう一郎であった。
「……そうですか。困りましたね」
「何で困るんですか。昨日の一班の時は、許可していたじゃないですか」
「いや、まぁ、そうなんですが。昨日は、四班が模擬戦は出来ませんでしたから、特別に、と言うことだったんですがね。今日からは、尾川君も戻りましたし、問題も無くなりましたから、本来の状態で模擬戦を行いたいんですがね」
一郎の話に、一班と三班から猛抗議の声が上がるのは、もっともであると言える。しかし、班分けは派遣課で力量を見て行ったこと、いやそれ以前に、組織の決定でもある。反論がある場合は、退職、がちらつくのは如何ともしがたいことである。
「松西さん。昨日俺が入った一班は、かなり連携がしっかりしていたと考えます。それでも元に戻すんですか?」
智則の言い分は正論である。しかし、上手くいくかどうかだけではないのが、会社組織でもある。決まったことを覆すのは、如何に理論立てたところで、認められることは少ないのである。
「長谷君の言い分はもっともだ。しかし、会社組織というものは、友達関係で成り立っている訳でもない。性格が、合おうが合わなかろうが、共に働かなければならないことの方が多いだろうよ。ま、最終的には、各部署のトップがどう判断するか、と言うことになるのは、組織の大前提だがな」
金志の見解に、智則は、苦虫を噛みつぶしたような表情であり、二の句が継げないかのようである。
「松西さん。恐怖を煽るのはそこまでにして下さいよ」
「そうか? 大分ビビっただろう?」
金志は、そう呟くと、ニッと口元を上げて、嫌らしく笑うのであった。その表情に、「どう言う事ですか!」、「だましたんですか?」と、やいのやいのと、抗議の声が上がること上がること、この上ない状態となったのである。
「落ち着け。騙すも何も、若松君の話を遮ったのは、君達だぞ。その辺りは、理解しているのか?」
「……確かに。何か言われる前に、言い分を伝えようとしました」
「そうだな。まぁ、学生の間は、最終決定が、学生に委ねられることもあるからな。だが、大枠の決定をするのは、学生の時分であっても、学校側が決めていた筈だな」
「それは……。そうです」
「決まった枠の中で、意見を言い合い議論するのは、まぁ、学校でも会社でも変わらないところではある。が! 会社では、決定が覆ることは、かなり少ない。ま、この辺りは、追い追い学んでいくことだがな……。さて、若松君」
「全く……。はぁ……。では、私からの話の続きをしましょうか。今日から元に戻す訳ですがね、その理由として、上は、当初の班分けに問題があったとは言えない。しかし、模擬戦を行っていく中で、相応の理由があれば、班員の入れ替えを行うことは、吝かではない。と言うのが、新人研修を行う上での結論ですね」
一郎の話に、ぱっと明るくなる者がいたようであるが、法雄は、昨日寝込んでいたために理解しがたい表情を浮かべているのであった。
「若松さん。何の話をしているのか、説明をお願いします」
「おっと、尾川君。君は昨日は病床でしたから、話しておきましょうかね。昨日、一班から四班の長谷君を入れて、模擬戦をしてみたいと要望がありました。まぁ、四班は模擬戦が出来ない状態でしたから、試しにと言うことでしたが。これがまぁ、良い結果を出せてね。で、今日は新たに、四班の水上君を、今度は三班が入れてみたいという話が出たと言うことですね」
「なるほど。まぁ、そいつらが何処でやろうと構いませんが、それだと、四班は人数が減りますが、その人数で模擬戦ですか?」
「いや、それはありませんね。入れ替えるんだから、人数は変わらないのは分かるよね」
「あぁ、なるほど。すいません。俺が勝てれば、後は気にしてませんでしたので、申し訳ありません」
「な、なるほど。斬新な考え方だね」
「ふむ。尾川君は、班員が誰であっても問題ないと言うことかな?」
「当たり前じゃないですか、俺が勝つことが重要なんですから」
この微妙なニュアンスの遣り取りで、一郎も金志も、一抹の不安を抱いたようであるが、他の新人達には、何処まで法雄の真意が伝わっているのかは疑問である。
「……さて、と言う訳で、どうしましょうかね」
一郎の、嫌らしい言い方に、「入れ替えをお願いします」や、「昨日上手く言ったんだから当然です」などなど、相応の理由を説明する以前に、主張だけする新人達であった。
「あぁ。どいつもこいつも、最近はこんなのばっかりだな、えぇ?」
「どう言う事ですか」
「だから、若松君が言っていただろう。相応の理由があれば、と。今の君達の言葉に、相応の理由が含まれていたのか?」
「ですから、昨日上手く行ったのが理由じゃないですか」
「あぁ。それは、結果であって入れ替える理由ではない!」
「な、何でですか。結果が理由であると思うんですが」
「結果が理由だ? たまたま上手く行った可能性もあるだろうが。それをどう証明するつもりだ?」
「まあまあ、松西さん。押さえて押さえて」
熱くなりかけた金志を一郎が押しとどめると「おぉ、済まん。どうもいかんな、この手合いには……」と、呟いたところ、聞こえていた新人から「どう言う意味ですか」や、「侮辱するつもりですか」と、抗議の声が上がったのだが、「君達。松西さんの言葉選びも、褒められたものではありませんが。上司に向かって“侮辱ですか”というのも褒められませんよ」と、ややトーンを落として紡ぎ出す一郎であった。
「……」
「いや、悪かった。言葉遣いが酷くて済まない。……そうだな、今の君達は、何か嫌なことがあるんだろう。感情的に言葉を発しているように感じる。何故、どうして、入れ替えて欲しいのかを、話してくれないか。それが、説明であり理由となる筈だ」
金志が、怒り心頭を抑えての発言であるのが、震える手を見ることで知れる訳である。金志の謝罪もあり、ようやく、新人達も落ち着いたようである。
その後、一班と三班から理由を聞くこととなったが、一班からは“言いにくいが、剣峰さんがいると上手く立ち回れない”と言う、今ひとつ理解しかねる言い分であった。そのため、歩実を除いた三名から、詳細に聞くこととなった訳だが、「剣峰さんの性格とかではなく、年下である俺を守りすぎてて。立ち回りに参加できていないんです」と、もう一人の剣系統である忠司が説明したのである。「ほう。どう言う事かな?」と、金志がもっと掘り下げていくと、どうやら、剣系統の彼を、前衛ではなく後衛に回し、年上であると言う理由で、槍系統の美子を前に出しているようである。これには、「なるほどな」と、金志も唸ることとなった訳である。
一方の三班はと言えば、「森野さんの扱いに困っている」と、知己が呟いたが、一郎は、天を仰ぎたい気分になったのである。そこで、どう困っているのか確認すると、「守りにも、攻撃にも使い道がなく、どうしたら良いか分かりません」と、琴がどうして良いのか本当に分からない様子であった。
「それはそれで問題ではありますがね。では、何故僕たちに相談しないんでしょうかね」
「そんなことしたら、成績が落ちるじゃないですか」
琴が、学生気分がまだ抜けていないと言うよりは、良い評価を得ようとしているから出た言葉であろう。もちろん、良い評価を得ようとすることに問題はない。しかし、他人を排除してまで目指すものであるのかは難しい問題である。
「成績?」
「そうです。そうしないと、良い成績をとれません。それに、良く思われないですから」
一郎が聞き返すと、今度は信照が、持論なのであろう言い分を述べだしたのである。これには一郎も愕然とした様で、「はぁ。君達は、それが正しいと本当に思っているんですかね」と、半ば呆れたかの様な口調で聞き返すのであった。
「えっ? そうですが」
「うわぁ。松西さんではありませんが、怒りたくなりますね。余所の会社のことは知りませんが、この会社では、質問しても、相談しても問題にしませんよ。逆に、質問や相談をしないことの方を、問題にしますね」
琴や信照だけではないだろう、この言い分に、一郎は怒りを覚えると同時に、一抹の不安を覚えた様である。その所為であろう、やや強い口調になってしまったようであるが、「えぇ!」や、「そんな馬鹿な!」は、まだしも、「嘘はいけませんよ」と、一郎を嘘つき呼ばわりする始末である。困り果てた一郎は、「君達、いい加減にしましょうね。……嘘でも何でもありません」と告げ、一息ついた後、「森野君の件は、こちらでも何か案がないか考えてみましょう。ですが、君達を見ていると、限界といったところのようですね」そう言った一郎は、確認が終わった金志と合流して意見を交わし始めたのである。
新人達は、直ぐに入れ替えの決断が下されるだろうと考えていたようであるが、一〇分経っても終わらず、二〇分を超えても尚終わらない状況であり、「いつまでかかる」や、「簡単なことに、何故時間を掛けるのか?」などなど、苛立ちを覚えているようである。しかし、新卒間もない新人である。簡単であればある程、即断するのが難しくなるのが社会であり、会社であると言うことをこれから嫌になる程学ぶことであろう。
三〇分になろうかという頃、ようやく、一郎が「全員集合して下さい」と、号令を掛けたのである。やや待ちくたびれた新人達が、ブツブツ呟いたりと思い思いの感情を表情に出しながら着席したのである。
「結論から先に言いましょうかね」その言葉に、新人達の表情が一変し、一郎の次の言葉を待っているようである。
「一班と三班からの申告を、受け付けることとします」
一郎の言葉に、一班と三班は歓喜の声を上げたのだが、「静まれ!」と、金志の声に、驚きつつ、まだ一郎の話が終わっていないことに気が付いたようである。
「んん。まぁ、申告を受け付けたのですから、詳細を聞くまでもないのでしょうが。会社では、指示を出し終わるまでは、周知されたことになりませんので、今後は途中で声を上げないようにしましょうね」
一郎は、優しい声で諭しているようであるが、言葉の意味するところにおいては、チクチクと痛いところを突いており、聞く側からすると怖いと言えるようで、案の定、新人達は、姿勢を正しているものの、静かなる怒りを感じた者は、俯いてしまっているのである。それを見た金志が、「怖いなぁ」と呟くと、「茶々を入れないで頂けませんかね。せっかく、緊張させられたというのに」
「あぁ、済まん。進めてくれ」
「えぇーと。一班の剣峰君と、四班の長谷君。三班の森野君と、四班の水上君。以上の者の入れ替えを承認することとしました。今日この場を以て入れ替えることとしますので、今日の模擬戦からとなりますのでお願いしますね。以上です」
一郎の宣言に似た説明であったが、終わりどころが今ひとつ掴めなかった新人は、「終わったぞ」との金志が告げたことによって、静まりかえった会議室内に、一班と三班から歓喜の声が上がったのである。何時までも浮かれる新人達に、「はいはい。君達。大分遅れましたから、直ぐに移動しますよ」と、一郎が手を叩いて、新人達を次の行動に移らせたのである。
模擬戦を行う、精錬研究所の地下に移動した新人達。一班と三班は、入れ替えが叶ったことも手伝って、浮き足立つ程に賑やかであった。その一方、二人をいきなり入れ替えられた四班は、「指揮は、誰が執っているの?」と、歩実が確認すると、「大卒の俺だ」と、法雄が答える。「そう。で、入れ替わった私と友実ちゃんは、どうすれば良いの?」と、確認するも、「女二人は、俺の前に出ていれば良い」と、指揮でも何でも無い内容が返ってきたのである。
「ちょっと、女って貴方ねぇ……。しかも、それは戦略でも戦術でも無いわよ。どう言う意味?」
「意味も何も、三人は、大卒で首席卒業の俺の言うことを聞いていれば良い」
「はぁ? 田辺君。それでいいの?」
「あっ、あぁ。まぁ、俺は前衛になるから、指揮はしづらい。後衛が執るのが全体を見渡せて良いとは思っている……」
含みがありそうな、勇の言葉に、「そう。で、友実ちゃんも前に出す意味は?」
「はぁ? 俺より後ろに立つなどあってはならない、だから前だ」
「何、その俺理論は……。はぁ。で、友実ちゃんは、どういったことが出来るの?」
歩実と法雄の会話に、少々怯えていたのか、「え、え~と。僕が、一番使えるのは、土の壁を作ること、です」と、ややおどおどした喋り方になってしまったようである。
「森野さん。そんなに怯えなくても大丈夫だよ」と、勇がフォローするが、「は、はい……」とは喋るものの、俯いてしまう始末である。
――まずいな。剣峰さんは性格的に、尾川に向かっていけるが、森野は、無理か。俺がフォローするにしても、いや、剣峰さんに任せるのが良いのかな。俺も、尾川の馬鹿げた攻撃を利用して、人の体、特に筋力を使った防御が、何処まで出来るのか検証したいしな。
「森野さん」と、小声で勇が友実に話しかけると、「は、はい」ややおびえが見える友実が、声を上げそうになりながらも返事をしたのである。
「小声でね。尾川さんより後ろにさえ行かなければ大丈夫。それと、土の壁を作って、とりあえず、他の班からの攻撃を防いでおいて。今日終わってから、剣峰さんと三人で、森野さんに何が出来るか考えよう」
「わ、分かりました」
小声だったのだが、最後は少々大きくなってしまい、「何を話している。二人は俺の指示に従わないつもりか?」と、ややすごんでみせると、「違いますよ。森野さんに元気になってもらえるよう話してただけです」と、勇が返すと、「そ、そうか。なら良い」と、返すに止まったようであるが、幾分か、嫌な表情をしていたのである。
そして、模擬戦が始まり、四班の相手は二班となったのであるが、いきなり一班か三班では、やり憎いであろうという、金志と一郎の配慮なのかも知れない。
「よし。両班配置に付け!」
金志の号令で、四班と二班は、陣取りと展開を終えたようで、四班は、自陣を背後に、中央左寄りに勇、同じく右寄りに歩実で、尾川が最深部におり、やや右前に友実がいる布陣である。
「うむ。では、始め!」
号令と共に、四班と二班の前衛が動き出したのである。
勇と歩実は、やや弧を描くように突進し、二班の前衛と切り結んで二班の前衛を引きつけると、「チッ。余計なことを」と、呟きながら、流石の法雄も攻撃すべき時を外すことはしないようである。二班の後衛に攻撃が入ると、切り結ぶのを嫌って弾いて勇や歩実を抜こうとする。しかし、それを赦す程、勇も歩実も下手ではなかったのである。
一方、友実は、金志の号令と共に、土の壁を作って、縮こまっていたのである。しかし、只それだけで、何かをする訳ではないことが、法雄を苛立たせるには十分であったようである。
カッと音を発し、弾いて勇を抜こうとするが、「させる訳無いでしょ」と、呟き終わる前に、弾かれた竹刀を右後ろから右手一本で回し、掬い上げるように振るったのである。帆美は、左前に状態を泳がせ、同じく下から掬い上げるように、勇の竹刀をいなすのであった。
「やるなぁ」
「くっ。お互いにね」
ここで、再び鍔迫り合いに持ち込むのではなく、帆美は、掬い上げた反動から体をひねって一回転すると、そのまま四班の陣へと突進していくのである。
「させない!」
勇は、弾かれた反動で一歩出遅れたものの、後を追うのであった。しかし、その先には、歩実が洋子と鍔迫り合いをしている場所であった。
「なっ!」
とっさに、歩実は渾身の力で、鍔迫り合いの相手を推し離す際に、蹴りを一発入れたのである。
「ぐっ!」
よろめく洋子であるが、その時には、後ろから勇が襲いかかっているところであった。
「後ろから失礼」と呟いた勇が、左から払うように竹刀を出したところ、「こっ、くっ!」と、よろめく洋子が、右足で堪えつつ竹刀を受け止めたのである。冷や汗が滲み出る洋子に、やや不敵な笑みを湛える勇は、そのまま鍔迫り合いとなるのであった。もちろん、勇が追っていた帆美は、歩実が捉えて鍔迫り合い中である。
勇と歩実は、お互いの剣術自体は初見ではないものの、これまでも続けていたかのような連携を見事に来ないしているのである。その一方で、友実に対する法雄の苛立ちは頂点に達しているようであった。
「おい! 女!」
「ひゃっ!」
「お前だ、何故前に出ない!」
「ぼ、ぼ、僕は、闘う方法が、ないです」
「そんなことはどうでも良い。何かやれと言っているんだ」
「……」
法雄の苛立ちの矛先になってしまった友実は、恐怖の表情で、パクパク口を開くも、声すら出なくなってしまったようである。
「もう良い」そう言った法雄は、「火弾」と呟く。すると、杖の上空に、濃い霧のようなものが生成され、更に、キラキラと光を発し始めたのである。そのきらめきは、次第に無数の塊を形成するかのように広がっていくのであった。そして、放たれた火弾の行く先は……。
ドカンと、四班の陣側から、爆発音が響いてきたため、「二班の攻撃?」と、勇が二班の後衛を見るが、特に何かを放った素振りは見られなかったのである。
――何が起こった? 二班でないとすると……。まさか!
勇のそのまさかが的中したと確信したのは、どうやったら人を飛ばせるのか、と言う程に高く舞い上がっていた友実を確認したからである。が、「友実ちゃん!」と、叫んだのは歩実であり、「ひぃっ」と、鍔迫り合いをしている帆美が悲鳴を飲み込む程、怒りの形相に変わっていたのである。
勇も歩実も、鍔迫り合い中で助けに迎えない中、和樹が何を思ったのか、飛び出してきたのである。
「ふっ」
和樹が飛び出したことから、友実が上手く使えたと笑みを漏らす法雄。これぞ好機と、「大火弾」と呟いて、先ほどより大きな火の玉を生み出したのである。
「俺の勝ちだ!」
叫んだ法雄から放たれた、大きな火の玉は、大凡目標を過たず、二班の全員は愚か、勇と歩実、友実をも巻き添えにして、大爆発を起こすのであった。
爆風が収まると、法雄以外に立っているものはいなかったのである。
*
「おはよう。今日は、六月二九日の木曜日ですね。外は、気温はかなり高く、真夏日手前ですね。出来れば外に出たくはないですねぇ」
そう言った一郎は、既にだるそうな表情をしているのであった。
「若松さん」
「何ですか?」
「あの。もう少しシャキッとして頂けると」
「あぁ。何を言っているんですか。暑さに先輩も後輩も年上も年下もないでしょう。それに、僕は熱いの苦手なんですよ。その辺は勘弁して欲しいですね」
「はぁ」
なんとも嫌そうに語る一郎に、質問した新人は、どうやら諦めたようである。
「しかし、そうも言っていられません。まず、君達にお知らせがあります。四班の剣峰君と森野君は、昨日の負傷により、不参加となります。よって、四班はまた観戦となりますね。なんでこんなに多いんですかねぇ、尾川君」
「フン。あの女達が弱いのではないですか」
「そうですか。君は、何もしていないと?」
「確かに、大火弾は撃ち込みましたが、避けられなかったのはあの女達が弱いからですよ」
「ほう。尾川君には落ち度がないと」
「何故ですか? 首席大卒の俺に、何の落ち度があるんですか。俺が勝つ上での適切な攻撃だと考えますこっちの男は、元気に出てきているのだから、あの女達が弱いのが問題です」
「しかしねぇ」
一郎と法雄の会話は、会議室の雰囲気が悪くなる一方で、次第に勇を除く他の新人は、いない二人を罵倒しすぎていることからいやな顔をし始めるのであった。
一郎の煮え切らない発言に業を煮やしたのか、金志が、「尾川君。若松君が優しく言っているからと言って、いい加減にしなさい」と横やりを入れるのであった。
「松西さん。何ですかいきなり」
「いきなりではない。どうも君の考えがよく分からない」
「何を言っているのか分かりませんが、勝つことは大事ではないですか」
「確かに。勝つことは良いと言える」と、金志が同意したような言葉を紡ぎ出すと、「そうですよね……」と、法雄が返すが、その先を遮って、「しかし! これまでを見ていると、尾川君の勝ちは、班ではないように見えるが?」と、わかりやすい言葉で返されるのであった。
「なるほど。そうであったとして、何か問題がありますか?」
「はぁ? 大ありだ! 何故班分けをしているか理解しているか?」
「そんなことはどうでも良いじゃないですか。今問題なのは、女達が出てこないせいで、模擬戦が出来ないことです」
「なっ。そんなこと、か」
そう言った金志に対して、「そうです。俺の課題消化が遅れるんですよ」と、返す法雄である。その言いように金志が、「か、課題だと? 何時そんなものを課したのか!」と、怒りを買ってしまう始末である。
険悪な雰囲気が漂う会議室であるが、「さてさて、そこまでにしましょうか。問題の有無は、何れはっきりしますからね。それに、何を言っても四班は観戦しか出来ませんよ」と、また嫌悪されるような表情をした一郎が、場を収めることになったのである。
*
六月も終わりとなる日。「おはよう。今日は、六月三〇日の金曜日ですね。外は、雨が降りそうな雲行きではありますが、気温は高めですので、蒸し暑いですねぇ。出来れば外に出たくはないですねぇ」
開口一番、一郎が暑さが苦手であることを、再宣言でもするかのように語ると、「若松さん」と、声が上がるのであった。
「何ですか?」と、答えると、「昨日も、同じようなこと言ってましたが、朝から気が滅入るようなことは言わないで欲しいです」と返され、「あぁ、これは失礼。僕自身気が滅入ってますからね。……そうですね。気が滅入る話は、士気にも影響しますからね。さて、話題を変えましょう。昨日は怪我と言うことでお休みだった剣峰君と森野君が復帰しました。まぁ、まだ包帯はとれていないようですが、大丈夫ですかね」
一郎が変えた話題ではあるが、復帰している歩実と友実は、気を張っているようにも見えるのである。一部の女性陣からは、いささか心配と言った面持ちで二人を見ているようである。
「それでは、本日は……。あっ、そうでしたね。昨日はバタバタしてしまって、伝え忘れていましたが、模擬戦は今日でおしまいになりますよ」
そう言った瞬間、一同が割れんばかりの喜びようであったのは言うまでもない。いわゆる戦闘訓練に該当するものである、当然、正規の人員ですら大変なことである。それを、全くのド素人が講習もそこそこに、始めさせられたのである。苦痛を感じたとして、誰が責められようか、と言ったところである。今日まで、脱落者が出なかったのが不思議なくらいである。
「はいはい。静かに」と、一郎がやや大きな声で、新人達に指示を出し、「模擬戦は、今日までですが、来週からは、また同じようなことが始まるらしいですからね。心しておくようにして下さい」と、説明の続きをすると、「若松さん」と声が上がったのである。
「はい、何でしょうか。田辺君」
「来週からは、別の模擬戦があると言うことですか?」
「あぁ、そうですね。正確に言うと、今年はいろいろあったようで、何をするかが決め切れていない、と言ったところですね」
「それは……。いえ、何でもないです」
勇は、言いかけた言葉を飲み込むと、「そうですか」と、一郎も追求はしないようである。
「さぁ、最後の移動に移りますよ、準備して下さい」
わらわらと新人達が移動を始めるのだが、「その程度で、休むとは。俺の足を引っ張らないでくれ」と、憤っているのか、憤慨しているのか、分かりかねる声である。しかし続けて、「これだから……」と言いかけたところで、「尾川さん。それ以上は、問題発言になりますよ」と、勇が遮ったのである。
「おい。何故遮る」
「言った通りですよ」
「お前は、また俺の邪魔をするのか」
「しますよ。社会人として、恥ずべき事であるなら」
勇の物言いに、法雄は、何も語ることなく歩実と友実を睨み返し、会議室を出て行くのであった。残された勇達も、勇が肩をすくめてみせることで、緊張が和らいだようで、後を追ったのである。
電車に揺られての移動ではあるが、距離が長いことも手伝って、大分疲れも垣間見えるところではあるのだが、今日が最後と言うことで、いつにない気合いを見せていたのである。
「さぁ、準備も整っていますし、模擬戦を始めましょうかね。まずは、三班と四班からいきますよ、準備して下さい」
一郎のかけ声で、一班と二班は一郎に続いて上階の管制室へ、三班と四班は、作戦を確認した後配置に付くのだが、四班の展開が早いこと。三班が集まるのに対して、法雄が、「お前達は全員俺より前だ」との一言で済ませてしまうからである。しかし、戦いに向かない友実が、後ろへ下がる素振りを見せると、開始の合図がないにもかかわらず、「お前も前に出ろ!」と叫ぶや、小さい火弾を一発放っているのである。
「四班! まだ開始の合図はしていませんよ」
管制室から、注意を受ける始末である。攻撃されるのを嫌った友実は、渋々、歩実より後ろで、可能な限り法雄より前ではあるものの、歩実の更に右側を配置場所としたようである。
三班が展開して配置に付くと、「始め!」の合図が、金志から出されたのである。
両班共に、剣系の者達が一斉に掛けだし、竹刀を打ち付けていくのであった。
竹刀の打ち合いは、押しては引いてを繰り返している、その合間に、後衛から、火系統や水系統の攻撃が飛び交うことになる。しかし、三班には光学系統である佐和がいる。「田辺君、ごめんね」と呟いて、光線を放つ佐和である。
光線の軸線上にいる勇は、切り結ぶ中で位置関係を右向きに移動させ、「氷塊プリズム」と呟いた直後、竹刀がまばゆい光に包まれたかと思うと、周囲が虹色に染まったのである。一方で、切り結んでいた知己は、一瞬だけとは言え、強い光を見てしまうことで、竹刀を弾いてその場を離れることになるのである。だが、それを赦す勇でもなく、「氷塊」と呟くと、竹刀が凍り付き、「フン!」と、力任せに振り切ると、氷の粒が竹刀から放たれていくのである。
「うわぁっ!」
悲鳴を上げる勇の相手である知己は、更に後退する羽目になったようである。
一方の法雄は、前衛がどう動いているのか何をしているのかにはお構いなく、「火弾!」と、叫んでは、三班の後衛に打ち込んでいるようである。
「あぁもう。尾川は相変わらず、見境なしに打ってくるわね」
「水上、危ない!」
やや離れていた場所から、佐和に援護射撃が届き、「助かったわ」と、礼を述べる佐和である。
「いやいや、水上が来てから、三班も絶好調だしね」
「そう? それは良かった。けど、あいつはどうにかしないと、私の気が治まらないわよ」
「あぁ。そうだろうねって、また、水上!」
「鬱陶しい」
そう言った佐和は、あきらかに、個人攻撃をしている法雄の攻撃を、光学系統で防ぎ続けているのである。しかし、援護もしている佐和にとって、散発的な攻撃は、防ぎきれない時もあるのである。
「水上は、四班からの攻撃を防ぐのに専念しては」
「それだと、剣峰さんと田辺君への攻撃が薄くなるでしょ」
「でも。水上への攻撃が多すぎだ」
「貴方だって、こっちの援護はきついでしょうに」
「それは、そうだけど」
「それは……。今度はそっちみたいよ。援護する」
「くっそっ! 電磁網!」
信照は、電気系統で帯電系が得意なようで、法雄との相性は、そこそこ良いようである。空気の動きでかなり微量にだが帯電している電気も使用して、電気的な磁気を発生させているのである。これを網状に展開することで、磁場を発生させることができ、爆発物に関しては防ぐことが出来る様である。
――ホントに、尾川。見てなさいよ。
「レーザー!」
前衛の戦闘域が、やや左右に離れた隙を突いて、佐和がレーザーを放ったのであるが、「業火円環」と、法雄が呟くと、炎が輪っか状に展開する。“業火”と言うだけあって、円環の周囲が歪み始める。すると、直進する筈のレーザーが屈曲したのである。どうやら、局所的に空気が熱せられることによる光の屈曲が起きた様である。いわば、蜃気楼を人為的に作り出したと言える。
「そ、そんな。どういった原理で、直進するレーザーを……」
「ははははは。俺に隙はない!」
直立不動で、不適としか言い様がない声が、響き渡ったのである。いかにも、と言う台詞であるが、ただの人、である。
――くっ! どうやったらあいつを懲らしめられるの! こっちは、二人共ヘトヘトよ。
同じ頃。勇は、剣術と纏わせる無物質特異化現象を上手い具合に操って、三班の進行を阻止しているが、歩実の方は……。
「守るものがあると、大変ね」
「何を言っているの。守るものがあるから、力が出せるんでしょ」
そう、歩実の直ぐ傍には、友実が土の障壁を作って、籠もっているのである。否応にも、距離をとれない、と言う枷が絡みついていたのである。
結果、鍔迫り合いを弾いては鍔迫り合い、と言う事の繰り返しが殆どとなっていたのである。疲労はお互い様ではあろうが、精神的には、歩実の方が不利、と言わざる終えない状態である。
「剣峰さん!」
離れた勇が叫ぶと、氷の礫が、琴に向かって飛んでくるのである。その一瞬は、引いてくれるため、気を抜けるとは言え、剣戟で追うことも出来ないことには変わりはなかったのである。
全体的には、四班が押しているようで、三班が耐えていると言った構図が続いているのである。しかし、三班の後衛は、援護に加え直接攻撃を防ぐことをさせられていることもあり、かなり疲弊しているのが見て取れるのである。
――そろそろか。
「中火弾! 中火弾!」
法雄がそう呟くと、頭上前寄りに中程度の大きさの火弾が二つ出来上がったようである。
「三班の後衛は、これでおしまいだ」
法雄が呟くや、中程度の火の爆弾が放たれたのである。が、「おまけだ。火弾」と、更に呟いたのである。
先に放たれた、中程度の火の爆弾は、目標を過たず、佐和を含む後衛付近に着弾、大音響と共に、二人が倒れ伏したのである。その直後、「後ろ!」と、叫んだのは、歩実が切り結んでいる琴であった。
「何?」
振り返る歩実に、法雄が放った火弾が、友実が隠れている土の障壁を破壊したのが目に入ったのである。爆煙の後には、崩れた障壁と倒れている友実がいたのである。
「もう……。いい」
ガツッ! とすごい音がしたかと思うと、鍔迫り合いを強引に、しかも力の限り弾いたことで、琴は尻餅をついたのである。しかも、「ひぃっ!」と、相手が悲鳴を飲み込む程の形相であったのである。
振り向くや、韋駄天のごとく走り出す歩実であったが、一方の勇側も、知己が戦意を喪失、勇も手を止めたところで、「! 剣峰さん?」と、一瞬何が起ころうとしているのか、把握するのに時間を要する程であった。
「だめです!」
叫んだ勇は、走り始めたものの、――自業自得ではあっても。間に合わない……。いや! ――と、何を思ったのか、走りながら竹刀を飛ばしたのである。
「剣峰さん、それは、だめだぁ!」
勇の叫び声に、現場で何が起こったのか把握したのであろう金志が、「そこまでだ!」と、叫ぶが、怒りに捕らわれた歩実が止まろう筈がない。
「雷電! むっ?」
しかし、歩実は、左下から掬い上げるかのように剣を構えていたこと、勇が投げた竹刀が、歩実が振り上げても法雄に届かない距離に飛んでいたことである。そのため、飛んできた竹刀を、弾くために、歩実は減速し法雄に届く前に振り上げたのである。竹刀が盛大にぶつかる音がした後、弾かれた竹刀は宙を舞い、法雄の傍らに落下。竹刀とは言え、渾身の振り上げの風圧と雷に似た電気を纏わせていたため、その放電をもろに浴びた法雄は気を失い、その場に頽れたのである。
「剣峰君! 止めなさ……」
慌てて走り寄ってきた金志が見たのは、涙を流す歩実であった。その惨状に、言葉を失う金志であった。
「松西さん。何がどうなっているのか、連絡して下さい」
上からも全体として見えているため、大凡のことは把握できているが、間近で見ている金志の説明は必要であろう。
「あぁ、今から説明する。その前に、三班と四班はその場で待機だ。これは厳命と思え!」
そう叫んだ金志は、一郎と連絡を取り合い、「これを以て、模擬戦は中止とする! 尚、問題が問題だけに、この場での判断は保留とする。気を失っている者は、救急で搬送する。動ける者全員、本社に戻る準備をするように。以上だ!」と、三班と四班に、伝え終えた金志はその場を離れていくのであった。




