表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

死。


---


悪夢から目覚めたかのように、彼は飛び起きた。顔は通常よりも汗で濡れ、疲れ切った表情をしていた。喉は締めつけられるように苦しく、心臓はこれまでにないほど速く鼓動していた。全力を尽くさなければならないゲームですら、これほど心臓が高鳴ることはなかった。強いて言えば、以前の仕事を始めたばかりの頃と同じくらい鼓動が速かった。


部屋は暗かったが、朝であることは分かっていた。窓の小さな隙間から差し込む光の線のせいか、それとも扉の隙間から漏れるリビングの光のせいか。母がそこにいることを示しているのかもしれない。いや、ただ、身体が朝だと知っていた。


彼が目を覚ましたのは、驚きによるものだった。本当に驚いて目を覚ました。しかし、それは夢や悪夢のせいではなかった。眠る前、彼は人生について考えていた。腕で顔を覆いながら、考え込んでいるうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。そして、目覚めたとき、何が起こったのか理解できなかった。本当に眠ったのか?


彼は昨夜聞いたことを思い出しながら、自分の人生全体について考えていた。


身体が完全に目覚めたことを示すように、彼は立ち上がり、窓を開けた。外の音が部屋に入り込んでくる。窓を開けると、それはまるで外にいるかのように感じられた。鳥のさえずり、人々の声、車のエンジン音、犬や猫の鳴き声、人々の声、飛行機の音、人々の声……そしてまた人々の声。


いつものように、カーテンを閉めた。太陽の光を直接見ると、目がくらむからだ。音はまだ聞こえていたが、今は無視することにした。そして、いつものようにリビングへ向かった。母はコーヒーを淹れていた。彼女の姿を見て、彼の顔がわずかに歪む。


「起きたのね? もう時間だったわよ…」


母は彼がそこにいることをすでに知っていたかのように言った。彼はその言葉を聞いて喉がむず痒くなったが、無視して玄関へ向かった。一言も発さず、ドアを開けて外へ出た。


母は何も言わなかった。もしかすると、彼女はこれが彼の常套手段だと理解していたのかもしれない。彼はいつもこうやって逃げ出すのだ。真剣な話をしなければならない状況になると、決まってこの反応を示した。実際、会話だけではない。彼にとって「真剣に向き合わなければならないもの」はすべて、この方法で回避された。「逃げること」が彼の選択肢だった。


指先を掻きながら、彼は歩道を歩いた。太陽は輝いていたが、彼は玄関にかかっていたジャケットを羽織っていた。このように目的もなく歩くことはよくあった。ただ、身体が限界を迎えるまで歩き続けるだけ。だから、いつも午後の大半を外で過ごしていた。


しかし、今日は目的地があった。数日前に遠くの店を見つけたのだ。それは今まで訪れた店の中で最も遠い場所にあった。歩くと30分ほどかかる。彼のゆっくりとしたペースでも40分ほどで着くだろう。時間を潰すための散歩だから、遅くても問題ない。


この店には、何か特別なものがあった。


汗が背中を伝い、額に滲むほどの距離を歩き、ついに到着した。まだ昼過ぎで、平日だったため、通りにはほとんど人がいなかった。だから、彼は一人でゆっくり過ごせる。


赤いボタンを押すと、手のひらほどの大きさの画面が点灯した。そこには、古いゲーム機が置かれていた。今の時代ではあまり見かけなくなったものだ。最新技術が発展しても、こうした昔ながらのゲーム機を置く店があることに驚いた。


ゲームのコレクションが揃っていた。彼が普段プレイするものとは違ったが、時間を潰すには十分だった。コインを一枚だけ使ってメダルに交換した。カウンターの女性は何も言わず、ただメダルを渡した。彼はそれで十分だと思った。


選んだのは格闘ゲームだった。ストーリーを追う必要がなく、ただ「負けなければいい」ゲーム。それが完璧だった。


特に難しいゲームではなかったので、彼は適当にボタンを押し続けた。それでも敵を倒すことができた。炎を吐く敵や、コンボ攻撃を繰り出す敵にも勝ち続けた。


しかし、気づけば意識はゲームから離れ、昨夜の出来事へと戻っていた。


「……明日だ!」


その声が頭の中で響いた瞬間、彼は強く目を閉じた。父の声が脳裏にこだまするのを拒絶するように。


ドクン、ドクン、ドクン……


心臓の音が店全体に響いているように感じた。いや、もしかすると世界中の人々に聞こえているのではないかと思うほどに。


気がつくと、額から流れた汗がゲーム機の画面に落ちた。それで彼は現実に引き戻された。


夜になり、店の女性が掃除を始めると、ようやく彼は帰らなければならないことを悟った。だが、帰りたくなかった。帰れば両親と向き合うことになる。それが何よりも怖かった。


帰り道、彼はずっと俯いて歩いていた。


そして、家の前にたどり着いたとき、ようやく異変に気がついた。人だかりができていた。


彼は顔を上げ、そして見た。


燃えていた。


家が、炎に包まれていた。


彼は震える声で呟いた。


「……俺の、家?」


その瞬間、彼の世界は崩れ落ちた。


(続く)



---



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ