第二話
『・・・ティリア!この子の名前はティリアだ!』
ん?ここはどこ・・・?
『素敵な名前ね。ティリア、あなたはティリアよ。お母さんのことわかるかしら?』
もしかして、これは私が産まれた時の記憶?
すると?温かな日差しが差し込む庭園に場面が変わった。
『ほら、ティリア!こっちだよ~』
私と同じ、薄ピンク色の髪とエメラルドグリーンの瞳をした二人少年が私の手を握って駆け出す。
『ちょっと待って、ジオルド兄様~』
『ジオルド!ティリアが転びそうだろ!もっとゆっくりにしろよ!』
『レナルド兄様、ティリアは大丈夫だよ?』
『『ティリア、すごく可愛い~っ!』』
あ、私は幻だから、手を握って貰えたと思ったのは勘違いか。
実物の”ティリア”が兄たちに手を引かれて走っていく。
『お坊ちゃま、お嬢様、お昼ですよ』
『『『今いく~』』』
邸宅に向かって走っていく三人を見送ると、馬車に乗っているところに場面が変わった。
『ティリアお嬢様、大丈夫ですか?』
『ええ・・・。お母様が心配だわ・・・』
『奥様は絶対に大丈夫です。侯爵様も、レナルド様も、ジオルド様もいらっしゃいますから。』
『・・・もう少し馬車が早くならないかしら』
『そうですね・・・。従者に・・・っ?!』
途端に、ティリアとメイドが乗っている馬車が揺れ、横転する。
『大丈夫?!ごめんなさい、私が上に乗ってしまったせいで・・・』
『・・・私は後からついて行きますので、森を道に沿ってまっすぐ進んでください。そうしたら、侯爵邸が見えてきます』
『えっ、でも・・・』
『私はちゃんと後からついて行きます。とにかく、急いでください!』
『う、うん。わかった・・・』
ティリアが、森の中を駆けていく。
すると、木々の間から、怪しい手が伸びてくる・・・
「だめっ!ティリア、避けて!!」
幻の私の努力は虚しく、ティリアのか細い腕は伸びてきた手に捕まれ、視界から姿を消した。
「・・・つまり、私の本当の名前は、ティリア・ローレンツ。馬車の事故にあって、今のお母さんに誘拐された・・・。」
すると、夢から覚めた。
小さな小窓から、夢で見たあの温かな日差しが差し込んでいる。
「ああ、そっか。地下室にいる間は家事をしなくていいんだ。・・・今は昼頃かな」
ゆっくりとベットから起き、現状を把握する。
「本当に私が貴族令嬢だっただなんて・・・。」
でも、どうして突然記憶を取り戻したんだろう。
「・・・もしかして、あの薬は・・・」
お母さんに渡されて毎食後に飲んでいる薬を、一昨日の朝から飲んでいない。
・・・というか、薬が見当たらなかった。
もしかして、あの薬は記憶回復を止める部類に入るものだったのかな・・・?
すると、地下室の扉が開く音が。
「メアリ。あなた、貴族の娘なんですって?」
「ミ、ミミィ?なんでその話を知っているの?」
「お兄ちゃんから聞いたわ!この私を差し置いて、金持ちの家に行こうとするだなんて!」
「そういう問題じゃないよ、ミミィ。私は本当に・・・」
「うるさいっ!ピンク色の髪なんて・・・!」
ミミィから、禍々しい雰囲気が漂いはじめる。
「ミ、ミミィ?どうしたの?」
「うるさいっ!あんたなんか嫌いっ!」
ミミィが叫ぶのと同時に、魔法が私の方にくる。
「きゃあっ!・・・ん?」
魔法が直撃したはずなのに、無傷で驚く。
「なんで・・・ってえっ?!」