第一話
「メアリ!早くしなさい!」
「ごめんなさい、お母さん。これが終わったら急いでやります」
「これが終わったら、じゃないのよ!いつまでたってもあんたは仕事ができないね!だから、ミミィの方が・・・」
はあ、まただ。
私はメアリ。17歳。平民だから姓はないけど、その中でも裕福な家庭に生まれた。
愛され兄と愛され妹がいて、妹の名前はミミィ。
家の中での私の立場は・・・使用人以下。
賃金を払うのが無駄だと、たった一人の使用人は午後の数時間しかいない。
使用人との関係も・・・最悪。
私が虐げられているのもあって、話しかけても嫌な顔をされる。
「ママっ!ミミィのドレス、汚れてるっ・・・」
「まあ!なんて可哀想なミミィ。・・・メアリ、ミミィのドレスを汚したでしょ!」
「ち、違います!ミミィの部屋には近づいていません!」
「何言っているの!嘘をつくのは悪い子よ!」
「だから、本当に・・・」
バシッ
痛々しい音がして、私の頬が赤く腫れる。
「嘘をつく子は嫌いよ、メアリ。あなたはしばらく地下室に居なさい。もうすぐ家を出るんだからしっかりしなさい」
「・・・はい。ごめんなさい、お母さん」
あと何回、してもいない罪で謝らなくてはいけないのだろう。
もう、疲れた・・・
久しぶりの地下室には、小さな友達が沢山いた。
私が悲しい顔をしていたのか、ネズミがチュウと鳴いて元気づけてくれる。
お母さんの逆鱗に触れてしまったときはここに閉じ込められる。
幼いころは、なぜ嫌われているのか分からず暴れて、2・3年ぐらいはここに住んでいたと思う。
「あ、また閉じ込められてるんだ」
「に、兄さん・・・。」
私の家の愛され兄、グレモリーがやってきた。
彼は私の3つ上だ。
「可哀想なメアリ。僕を頼ってくれれば、こんな酷い目には遭わないのに」
「兄さんに助けて貰うわけにはいかないわ。だって、兄さんは・・・」
「じゃあ、ひとつ提案があるんだけど」
「な、なに・・・?」
「僕のとっておきの話をひとつ、聞いてくれる?そしたら、メアリを助けてあげるよ」
「とっておきの話って・・・?」
「メアリは、うちの子供じゃないんだよ」
「えっ・・・?」
「メアリは、上級貴族の娘だったんだけど、馬車の事故にあって迷子になっていたのをうちの親が拾ったんだ」
「その上級貴族って、どこなの?」
「・・・ローレンツ侯爵家だ」
「ローレンツ侯爵家?!本当に言っているの?」
「ああ。」
ローレンツ侯爵家。
それは国民なら誰でも知っている、有名な貴族。
公爵家が不在のこの国で、もうすぐ公爵になるかもしれないと言われている、本当に有力な貴族。
「ローレンツ侯爵家の娘を探してるって話は聞いたことあるけど、本当にそうなの?」
「ああ。あの二人は、メアリがローレンツ侯爵家の娘だということまでは知らない。あの二人を見返すチャンスだよ」
確かに、言われてみれば納得できる。
食事のとき、自分でも驚くほどテーブルマナーが良かった。
素敵なドレスを着て、私と同じ髪色と瞳の男の人達とピクニックをしている夢も昔見たことがある気がする。
・・・ん?
「私の髪と瞳の色って・・・?」
「ああ。ローレンツ侯爵家を象徴する薄ピンク色の髪に、エメラルドグリーンの瞳・・・。メアリは、それにピッタリ当てはまってる」
「本当に、私なの・・・?」
「ああ。色々辻褄が合うから。」
「でも、なんで兄さんは協力してくれるの?」
「・・・まあ、今までの恩返しってところかな」
「恩返し?・・・よく分からないけどまあいいわ」
「ここから出すと、僕が居ない時にいじめられるだろう?だから、申し訳ないが、ここで侯爵家のことを思い出しておいてくれ」
「わかったわ、兄さん。ありがとう」
兄が部屋を出て行ってから、硬くて冷たいベッドに倒れ込む。
「まさか、私が本当に貴族なわけ・・・。・・・でも、兄さんも協力してくれるって言ってるし、違かったとしても、少しの幸せぐらい許して欲しいな・・・。」
そうやって侯爵家について考えていると、気づいたら寝てしまっていた。