19.馬鹿の考え休むに似たり。
「困りましたね。他の人たちから姿が見えなくできても、物理的に出入り口を塞がれてしまったら。私たちでは……」
「うん、まぁ。そうね……」
わたしひとりだけなら、幾らでも方法はあるのだけれど。
何の訓練も受けていない、所謂”素人さま”の皆では……
街の入り口が封鎖されてしまった以上、仕事にあぶれ所在なげに集まるだろう底辺層どもの眼も気にしなければならないため、ハンターズギルドの雑魚寝部屋に戻る訳にもいかず。
かと云って、何処かの酒場に入る訳にもいかず。
「……今更かもですが、こういう時。私たちは”異邦人”なのだなと、嫌と云う程自覚させられてしまいます」
……ホントにね。
『居場所が無い』
という事実の前では。多少のラッキーなんか、何の気休めにもならないだろうなぁ。
事実、あの雑魚寝部屋は。金も無い、仕事の宛てもないニート予備軍どもが集まってくるだろうし。
「”木を隠すなら森の中”とも云いますし……」
「残念だけれど、先ずその手は使えないの。わたしたちの特異性を考えて?」
常識アプリさんのお話によると、ハンター登録をする女性は少ない……らしい。
まぁ、当然の話で。
斬った張ったで生きていかねばならぬ殺伐とした世界に入ってくる女性なんか、余程の事情が無い限り先ずあり得ない。
一応、『Lvの概念』というある種ゲーム的な特殊な要素がある世界観のため、上澄み……所謂”上位陣”クラスになれば、女性の名もチラホラ出て来るらしいのだけれど。
「駆け出しの女ハンターなんて。チンピラどもの良い玩具なんだから」
「えええ……」
低Lv帯では。当然、性差は大きく働く。
単純な腕力の前では。
多少の技なんか、何の意味も無いのだ。
「そんな環境の中では。認識阻害の札は、絶対に外せないって訳……とは云え、正直此処も余り長くは滞在できそうに無いのだけれど」
現在、わたしたちは。例の奴隷商人の拠点に居る。
扉に認識阻害の札を張り。建物周辺を覆う様に人払いの結界を布いての簡易陣だ。
ありがたいことに、累々だった死体の山は綺麗に片付けられていた。
それだけが不安だったから、本当にありがたい。
「この結界強度を超える”使命感”を持った人間以外、この近くに寄れない様にしたわ」
でも、それは。ただの時間稼ぎにしかならないだろう。
凶悪殺人犯を追う使命感に燃えた”正義の人”の前では、この結界は完全に無力なのだ。
一応、扉の位置を思い出すには。認識阻害の札を乗り越えてこなければならない筈だから、簡単には発見されないとは思うけど。
でも、所詮それは”保険”の意味合いしか無いだろう。
「このまま時間を掛けたら掛けただけ、”余所者”のわたしたちは、どんどん不利になっていくでしょうね。だから、わたしはこれから脱出路を探します。その間、貴女たちは自分の能力を確認して頂戴」
「はい」
あのクソガキは。
転生者たちそれぞれに、何らかの技能を。所謂<天恵>とやらを手渡していたらしい。
……あンニャロ。わたしには何もくれなかったってのにさ。
畜生。せめてもう2、3回は首を刎ねてやれば良かった。
そうすれば、半神どころか神様にだって昇格できていたかも知れないのに。
……ま、それはこの生を終えるまで一端置いておこう。
和紙と筆ペンを鞄から取りだし、さらさらさらと量産体制に入る。
硯に向かって精神統一をしてから……が、本式なのだけれど。今はそんな時間すらも惜しいし、今から作成する”式”に、そこまで集中する意味も無い。
……だから筆ペン。ぺん○るさん、ありがとう。
「我願う。遠くを見通す瞳の翼」
白い鳩は、この辺りには生息していないと常識アプリさんに教えて貰ったけれど。
正直、飛んでる鳥の種類なんて。きっと誰も気にしないだろう。
そんな安易な発想で。
てゆか、わたしがそんなに種類を知らないってだけなんだけれど。ヒヨドリ美味しいよ?
何周もLvが上がり、終いには種族まで変わってしまった恩恵、なのだろうか?
以前なら、2羽も同時に扱えば他に何も出来なかったのに。
6羽同時に操っている上で。
「美姫さんって、お料理もできるのですね? 凄いなぁ」
「……あんまり美味しくない、かもだけれど」
今はパンまで捏ねていたり。
なんか、出来る気がしたんだよねぇ……しっかし、あの露天商。粗悪品を売りつけやがって。砂混じりの小麦粉を、篩でしっかり分別してからのコネコネ。
後で常識アプリさんに訊ねてみたら。
信用の欠片も無い露天で基本重量売りの小麦や穀倉類を買うのは、この辺の住人に云わせれば”金ドブ”にも等しい行為なのだそうで。
故意に砂や石が混ぜられているのは当たり前。酷い場合は、半分以上がそれだったりとかも普通にあるらしい。
……どれだけ腐っていやがんだよ、この世界の住人どもは。
ただまぁ、今回に限って云えば。
「それでも、一応は良心的だったのかなぁ?」
「……そう思っておきましょう。考えるだけしんどいです」
実は袋の底の方は砂だらけだったっ!
……ってのも、充分に考えられるんだけれどね。重量比から云うと。
「袋を細かく揺すると、軽い物は上に。重い物は下に行くって云いますしねぇ……」
……云わないで。
その危険性を、今凄い心配してンだから。
まぁ、そんな先のご飯の内容を心配するよか。
「……現状を、心配しろってね」
街を囲う壁には。東西南北の街道へ続く大きな門があって。
その近くには、騎士、衛兵の出入り用に備えられた小さい非常門が幾つかあるみたい。
東西南北の大門は除外。どう考えても、派手な立ち回りをしないと通れそうにない。
それ以前に、跳ね橋の操作自体解んないのだから、やりようが無いのだけれど。
騎士、衛兵用の非常門の方も、色々と面倒臭そうだなぁ。
必ず扉の目の前に詰め所がある時点で、やはりこの街は”城塞都市”なのだと思い知らされる。
……その中でも、一番手薄そうなのは。
南街道への大門、その隣か。
南方は。この国の王都へと続く主街道だったはず。
この国からの脱出。
わたしたちはこれを主目的にしている以上、そちら方面に抜けるのだけは絶対にあり得ない。
少なくとも、黒目黒髪の人間が”珍しい”と云われない地域まで逃げないと。
そうなると、魔族が居る辺り……この国で云えば、北方の辺境伯領まで抜けないとダメなのか。
此処、ヨクブーケ子爵領からだと、隣の伯爵領、男爵領を抜けたその先になる……遠いな。
……待てよ?
東西南北の大門を見ていた鳩を集め、北の方の非常門周辺を改めて細かく見てみると。
「……どうやら、子爵さまは。わたしたちを北に行かせたくないみたい」
街道を巡回する衛兵の数が、他とは段違いなのだ。
普通に考えれば、殺人鬼なんてのが本当に居た場合。
間違っても、そんなもの。王都方面へ逃がす訳には絶対にいかないはず。
「……でも、普通犯罪者たちは。北へ逃げるのがセオリーなのだと小説で読んだたことが」
ああ、それは日本に限った話。
この場合は、全然当て嵌まらない……って……
「ああ、そっか。国を出る為の最短ルートは北方になるのだから。この判断は正しい、のか」
「もしかして南が比較的手薄なのは。そちらに来てくれないかなぁって願望の現れ、だったり?」
もしかしなくても、そうかもね?
わたしたちの事情を知っていれば尚更。知らなくても、捜査が続けられている以上”大量殺人犯”は、この街に長く潜伏を続けられる訳も無い。
折を見て、必ずこの街から抜け出さねばならないと考えたら。
「南は見せかけの罠。北は勿論厳重。だったら東か西。そう考えるのが普通でしょうか?」
……人間考え過ぎると。結論はそうなってくるよね。
だから。
「勿論、わたしたちは北の最短ルートを行きます」
「ええっ?!」
まぁ、見てなさい。
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