表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

17.”黒髪”を探せ




 「……百騎長殿……」

 「……すまん。今は堪えてくれ……」


 怪我人の治療と平行しながら行われる撤収作業に。

 今や怪我の痛みと、疲労の色が隠せない騎士達の中には。日頃から蓄積されていただろう不満の表情が、隠せなくなってきていた。


 「ほれっ! さっさと豚人(オーク)どもを回収せんかっ!!」


 そんな中、彼らの不満の元凶が。その醜悪な相貌に相応しき濁声を大きく挙げた。


 「百騎長殿……」

 「……逆に考えろ。回収した豚人の量から云えば、一度帰還せねばならぬだろう。重傷の者以外は、応急処置程度に留め、撤収作業を急げ」


 ────作業を続ければ、夕刻前には確実に領都へ戻れる筈だ。


 そう長に命令されてしまえば、もう騎士たちは否とも云えぬ。

 ()()()()()()は、所詮形式上のお飾りに過ぎず。団を取り纏めるは、百騎の長なのだから。


 (……なのに、あの豚野郎ときたら。仮にも”騎士の長”を名乗るのなら、せめて剣の一つも持ちやがれってんだ!)


 貴族の家の子の出と云う、ただそれだけで。

 品性の欠片も無く、目の前で下喚き立てるだけの”豚”如きが、団の誉れを名乗るなどとは。


 彼の手は、此度の演習中、ただの一度すら剣の柄を握ることもなく。

 ただ、家の権力(ちから)によって無理矢理拉致してきたうら若き少女たちの乳房と尻を、強引鷲掴みにするだけだった。


 現に、団の状況を目の当たりにしている今も。


 「げひひ。今すぐ我に股を開けば、あの高級肉を存分に食わせてやっても良いのだぞぉ?」

 「ひっ……け……結構、です……」


 団に死者こそ出てはいないが、重傷を負った者も多数居るこの”戦場”に於いて。


 (演習に女性を連れ込んでいる時点で……士気を上げるなど、それこそ無理な相談であろうて……)


 先代の長の頃を良く知る騎士の中には。


 (俺は領都に戻ったら絶対に。この墜ちた白馬の紋なぞ、捨ててやるぞ……)


 如何に、此方の倍以上の数がいたとは云え。

 たかが豚人如き相手に。


 女共々悲鳴を挙げて。馬車の中に引き篭もり、ただ震えていただけに過ぎぬ臆病者が。

 いざ危機が過ぎ去れば。こうも猛々しく吠えるのか。


 (あの醜態(ザマ)を、何ら恥と思わぬ様では。この家は、そう長くはなかろう────)


 幼少の頃より散々に甘やかされ、でっぷり肥え太り。程良く育った”豚”は。

 所詮、その程度でしかないのだ。


 本来護るべき主君と一族の者達が()()では。

 捧げるべき”剣”と”盾”を、完全に見失ってしまったこの領の騎士たちの胸中は。そこに灯る忠誠の炎なぞ、欠片も浮かびはしない。


 「辺境にほど近い位置だとは云え。我が領が、敵国の何処とも面していないのだけが唯一の救いだ────」


 領主の次男。ただそれだけで、防衛を担う要職に就けるのだから。

 これがもし、防衛の最前線たる隣の辺境伯領の家中であれば。


 「そもそも、最初から。(ヤツ)に何の権限も渡さぬだろうよ」

 「だな……」


 固く縛った包帯から血を滲ませながらも。兵士たちは黙々と作業を続けた。

 今は、ただ。


 『少しでも早く、我が家に帰ろう……』


 それだけを考えながら。



 ◇ ◆ ◇



 思わぬ処から転がり込んできた”臨時収入”と”名誉”を得られた幸運に。

 気を良くしたヨクブーケ子爵令息ブッチャーは。


 「今は、我を中心に世界は廻っておる様だわい。今日訪れた幸運を、あの無礼過ぎた黒髪の女を手中にできさえすれば、最高の形で締めくくれるのだが……」


 この辺の大地に生きる人間種(ヒューマン)の特徴は。

 薄い色素が示す通り、身体に内在する魔力(オド)の量は、決して多くはない。


 「……あの珍しき髪色は。それ自体が、大量の魔力を備えていると云う明確な証だ。魔族(デモン)級の魔力を備えた人間種なぞ、王族で在っても早々出はしないのだと聞くが────」


 体内の魔力量が多ければそれだけ、上位魔術の行使も容易なはず。

 もし、彼の者を手中に収め、自身の支配下に置くことができれば。その”戦力”は如何程になるだろうか。


 脳内に描いた妄想は。

 淫らなものから、凄惨な戦中の光景へと到り。最終的には、彼自身が至尊の冠を戴く場面にまで発展する。


 突出した技量を持つ魔導士ただ一人で、騎士百騎にも相当するとも云われるほど、強大な”戦力”として扱われる。

 基本、その様なバケモノにも等しき者達は。上位貴族の血に早々に組み込まれてしまい、在野に降りてくることはない。


 「……確か、あの女は。街に向かう、そう云うておった」


 だが、あの女は。

 上等な布をふんだんに使った奇抜な衣服こそ着ていたが、上位貴族の在る種独特な”血”の匂いは、一切感じなかった。


 つまりは────


 「まだ我の”幸運”が続いておると云うことだ。誰ぞ在る?」


 もしあの女が、予定通りこの領都に到着しているならば。

 奇抜過ぎた服装だけでなく、あの黒い髪は、遠目からでも殊更目立つことだろう。


 「奴に使いを出せ。『黒髪の女を連れてこい』とな……」


 領都の内側は。

 子爵家に連なる人間の思惑こそが唯一の”法”だ。


 その法に則れば。

 ただでさえ”人権”などと云う概念すら存在しないこの世界に於いて。


 「資金(かね)に糸目は付けぬ。良いか? ()()()()()()()()()()。とな」



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へより一層の励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ