16.その裏で叔父さん。
「ふぃ~、間一髪。ってところか……」
今となっては、頭に”元”が付く神が支配していた領域で。
その気にさえなれば、新たな神として君臨できるだろうおっさんが。
「……おい、クソ駄神。手前ぇ、これ以上ウチの可愛い姪っ子周りの”因果律”。弄っちゃいねぇだろうな?」
幼い頃からずっと可愛がってきた姪の四条 美姫は。
この世界に堕とされる原因を作った”元”神の逆恨みによって。
「……さぁね? ぼく、そんなつまんないことなんか。すぐに忘れちゃったなぁ。ああ、そうそう。君が奪った”神力”をさ、今すぐぼくに返してくれたら。ひょっとしたら、思い出せちゃうかも知れないよ?」
”わたし”という確固たる意思を持つ生物であれば、必ず備えて然るべき<精神防壁>を剥奪する呪いを掛けた上で。
地上に降りた後の彼女の”因果律”に対し、不必要なまでに幾重も干渉し続けて。
今は”半神”と成り果てた彼女であったとしても。恐らくひとりだけの力では、すでに2、3度軽く死んでいた筈だろう。
────男が、不自然なまでに歪み捻れてしまった彼女の”因果”に、最後まで気付くことがなかったら。
そして、現に今も。
冴えない現地人のおっさんの運命に直接介入したことで。彼女の未来を、無理矢理少しだけマシな方へ変えたところだ。
あのまま手を拱いて見ていただけならば。恐らく彼女は、現地の衛兵たちを皆殺しにし、最後はこの国一番の賞金首へと成り果てていたのは明らかだ。
元神が弄った彼女の”因果律”は、『転落』その一点目掛け集中していたのだ。
「はっ! もう良い。なら手前はここで用無しだ。残りの神力を全て俺に捧げ、消滅ちまいな」
「……あっ、あっ。待って、待って下さいっ! 思い出しましたっ、思い出したからぁっ!!」
頭部をがっしり掴まれて。両のこめかみ辺りに男の”本気”を感じた元神は。
あっさりと抵抗の意思を放棄した。
「……いや、だからもう良いって。奪った手前の神力を使って、俺が新たな神を創造すっから。よーするに、お前さんは解雇だ。今までお勤めご苦労さん♡」
「ちょぉっ! まーっ……!!」
今は下級妖精にまで落ちぶれてしまった”元”人間神は。
男の手によって頭部を握りつぶされて、そして果てた。
『……事も無げに異世界の神を潰すか。何と傲慢なる人間よ、貴様は』
「巫山戯ろ。これでも、俺は。お前程愚かじゃねぇつもりなンだがな……態々自分の”作品”に主役としてしゃしゃって来る”HENTAIオナニー野郎”たぁ、訳が違うだろうが」
”世界の管理官”たちにとって。
例え分身であったとしても、世界に”自身”を配置するのは最大の禁忌とされている。
「『俺Tueeeeee』の誘惑にゃ。例え上位存在であっても勝てる奴は、早々いねぇモンだかんなぁ。うん?」
────お前さんは、モロそれに該当するみたいだな。
図星を突かれ、雷霆のアバターを纏った管理官は、二の句が告げなくなっていた。
世界を調律・運営する神としては、種族的性格上、あまりに問題の多すぎる妖精に、無理矢理下駄を履かせ。
そんな使えない駄神を教え導く大神を演じることで、世界中の人々の信仰を一身に集める。
「……お前さんの目論みは。まぁ、そんなところか?」
確かに管理官の生活を、今後も続けていくよりかは。
「進化の系統樹に割り込んで。真に”神の道”を目指す方が、まだ未来がある様に見えちまうもんなぁ」
『…………ぬう』
────”神さま”なんてなぁ、そんな良いモンじゃねぇンだがな。
男は吐き捨てる様に言い、管理官の頭を鷲掴む。
「一度”世界”に置いちまった以上、例え管理官のお前さんでも、オブジェクトのひとつに過ぎん。権限を持たないお前さんじゃ、俺には絶対勝てんぜ?」
同じ土俵上での闘いとなれば。
男はどんな存在にも負けない自信があった。例えそれが、真に創世神であったのだとしても。
「俺はな。地球に在る殆どの神を、この手で懲伏してきたのさ。お前さん。地球の神の、その手持ち武器の一つ如きに化けて、なぁにを偉そうに」
『ひっ……』
◇ ◆ ◇
静寂に包まれた神域に於いて。
男はひとり瞑目を続ける。
「────これで、少しくらいはお目こぼしがあれば良いんだが……」
世界を管理していかねばならぬ存在が、自ら世界の禁忌を破る。
この前代未聞の状況に対し。
「世界の抹消……やむを得ぬだろうが。できれば、せめて」
姪の美姫の”今世”を、全うさせてやりたい。
禁忌を犯した管理官は、この手で完全に消滅させたのだ。次の管理官が選出されるまでの暫くの間は、”時間稼ぎ”ができたと思っても良いはずだ。
自身が甘やかしたせいで、命を落としてしまった可愛い姪っ子の生が幸多からんことを願い。
「────琥珀。来い」
(喚んだかや、主さま?)
男が契約を交わした上位的存在の中でも、自然霊最上位”精霊神”の一柱たる<白虎>だ。
「此処に、この世界の神だったモノの成れの果てが在る。此を糧に、お前さんの分け御霊をくれ」
(……承知)
姪が神力を得る前に掛けられてしまった”神の呪い”は、解くことなぞ絶対に不可能だ。
彼女の魂が神へと変質してしまっている以上、男には。もう手の施し様が無い。
────であれば。
精霊神の魂の一部と、この世界の神だった力の一部を用いて創った新たな”神”は。
「……あんま相性良くなかった様だな。まさか……」
(うむ……こうなるか)
分け御霊とは、文字通り分身になるのだが。
目の前の存在は。言うなれば……
(我と主さまの子、だの)
「よしとくれ。俺ぁ未だ童貞街道爆進中なンんだぞ」
一度も”実戦”を経験すること無く、子供ができるなんて。そんな……
「なぁ、琥珀……」
(主さまや。自殺の相談ならば、今すぐ受けてやっても良いぞ)
────お前さん、今すぐ人間の姿に化けてくんね?
そう続けようとした男の口は、明確過ぎる『命の危機』を前に、瞬時に回転を止めた。
話を逸らすために、男は目の前の異変に眼を向けるが。
「……しっかし。これはもう<白虎>とは呼べねぇな」
(白黒反転するか。だが、属性は金であり。まさしく我の分け御霊である)
漆黒の毛並みに、真っ白な縦縞を持ったソレは。
「ま、良いさ。悪いが、お前さんの名付けはまだだ。良いか? お前の主となるのは、この娘だ。精々、俺の可愛い姪っ子から良い名を付けてもらってくれや」
陰陽道に於いて”名付け”とは。
文字が一つ異なるだけで。授かる権能が大きく変化する。
言葉に宿る”霊”を操ることを生業としてきた呪術師たちにとって、自身の僕となる存在への名付けは、特別な意味を持つ。
黒い虎は。
男の言葉にゆっくりと頷き、唸る様に吠えた。
「────よし。ンじゃ、行ってこい」
地上へと降りる黒き<白虎>の分け御霊へ向け、男は静かに両手を重ね祈った。
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