15.さあ、抜け出しましょう。
「忘れ物はありませんか? さ。それでは、皆さん」
────こんな胸糞過ぎるところから、さっさとおさらばするとしましょう。
わたしの言葉に、一同こくりと頷く。
皆まで言わずとも、全て伝わったみたいで一安心。
やっぱり、わたしたちって。根っからの日本人なんだなぁと、嫌な確信がここに。
「ああ。そうそう序でに」
チンピラどもの亡骸の懐を探って、僅かな小遣いを拝借……っと。
”迷惑料”とするには、全然割に合わないレベルで少な過ぎる収入なのだけれど。彼女たちのこれからを考えると、最低限これくらいはやっておかなきゃ……ってね?
わたし含め、の話になるけれど。
”この辺では珍しい黒髪”とやらは、本当に厄介過ぎる特徴の様で。
「逆に妖しいと注目を集めかねない、かもだけど。しばらくの間、これを被ってて貰っても良いかしら?」
鞄の中にあるタオルを人数分複製してから、皆に手渡す。
流石に手持ちがバスタオルみたいな大判サイズではないから、ほっかむり程度でしか頭部を隠せないけれど。
少なくとも、露天で外套を購入するまでの間くらいなら、急場を凌げるだろう……凌げる、よね?
凌げなかった時は、まぁ。乱闘騒ぎも覚悟しておかなきゃって話になるけれど。
皆で鑑定アプリを使い合って自分たちのステータスを確認させてみたら。
皆、本気になって抵抗をすれば。
……という前提条件の下、現地の一般的成人男性くらいならタイマン可能なLvなのだと判明。
まぁ、あくまでも”可能”なだけで、必勝と云う訳ではないのだが。
それでも、世の男どもに対し決して無力ではないところは、一応の救いにあたるのだろうか。
あとは外套と一緒に、護身用の刃物の装備は最低限かなぁ?
「ごめんね。一応それ、洗い立ての奴なんだけど。しばらくの間我慢して下さいね?」
「そんな。ありがとうございます」
「……ソフ○ン?」
────ご名答。
ソムリエがいやがったか。アロマ○ッチのDianaって奴。
ウチのおかんが、その香りを凄く気に入っててさぁ……ああ、クソ。変なところでしんみりしちゃったじゃないか。
『いけません。呆けていないで下さい、美姫。今我々は、此の場を早々に離れるべきなのですから』
ああ、そうだったわね。気付かせてくれてありがと<盈月>。
本当にもう、今更の話……だものね。
◇ ◆ ◇
露天商から外套と、必要最低限の護身と夜営装備を人数分購入して。
ハンターズギルドで、例の受付けのおっさんからは。舌打ちの洗礼を喰らいながらの登録を全員分済ませて。
「……時間切れ。やっぱり間に合わなかったかぁ」
やはり”城塞都市”と云うものは。
防衛上の観点からも、”門限”があるのは。至極当たり前の話で。
「……どうしましょうか?」
無情にも閉ざされてしまった正門を前に。
「……宿を探すしかない。のでしょうか?」
今のわたしたちは。
頭から外套を被り、気配を薄くすることで何とか背景に溶け込む努力を続けていなければ。
この場に在ることすら難しい”異物”で。
「申し訳ないのだけれど、今日は暖かい布団で眠るのも、暖かい食事もまず無理だから。それだけは覚悟しておいて頂戴」
それでなくとも。
人攫いや強盗が多いこの街で。女性だけの集団が当てもなく彷徨っているともなれば。
「……どう考えても、鴨葱過ぎますもんね。私達って」
「うん。つまりはそういうこと」
一応は、俊明叔父さん謹製の、認識阻害効果のある呪符を皆に配付しているけれど。
逆にこれのせいで、飲食店に入っても。店員さんたちには最後まで認識されずに終わってしまうのだ。
で、それの何が問題なのかと云えば。
「この世界の飲食店って、結局全部”居酒屋”だから。ねぇ……」
お酒の入った野郎どもがそこかしこに犇めく店内で。
注文をするために、一瞬でも認識阻害の呪符を外したら。さて、どうなりますか?
────うん、もうこの時点で。災厄の臭いしかしないよね。
「もしかしたら、になりますが。一泊するのですら、今の私達には厳しいかも知れません」
「……見るからに、妖しい集団ですものね」
常識アプリさんの話では。
いわゆる”訳あり旅”をする人間を、ことさら監視する様な嫌過ぎる文化は、この国には基本無いけれど。
「────それも、この領内だけに限ったら別の話。らしいのよね」
領主主導の下、違法な人身売買が行われている明確な証拠だろこれ……って話。
宿をとっての安全なる一夜を過ごすためには。
最初に無謀過ぎる”宿屋ガチャ”クリアしなくてはならないとか。分の悪すぎる賭けをしなくてはならないと云う……何処までも胸糞過ぎる話で。
「問題は。今の季節、なんだよねぇ……」
この辺りでは、晩秋に差し掛かったくらい。
木枯らし吹きすさぶ中、火を焚かずに一夜を過ごす……なんてのは。その時点でもう自殺行為にも等しい。
「……おい」
「あん? なにさ」
不意に声を掛けられて、皆一斉に後ろを振り向けば。
ハンターズギルドにいた、あの受付のおっさんが。
「お前ぇら、泊まる場所がねぇのか? なら、ひとり頭銀貨1枚で雑魚寝ならできっぞ」
「たっかっ!」
雑魚寝部屋で。しかも素泊まりでまさか一日の平均収入の半分も要求してくるとか。
一体何処の都会ですかって……ああ、都会だったわ。そういえば、ヨクブーケ子爵領の”領都”でしたね此処。
「……四条さん」
「……そうだね」
でも、背に腹は代えられない。
風と夜露が凌げるだけでも、全然違うのだから。
でも、この時のわたしは。
このおっさんが叔父さん謹製、認識阻害の呪符の効果すらをも貫通して、わたしたちを見つけたのか。
どうやらそのことにすら気付けないくらいには、切羽詰まっていたらしい。
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