13.かっ飛ばしてやりましょう。
「だったらっ……!」
わたしには一切魔法の対処ができない。皆がそう云うのなら。
「次の魔法を撃たせなきゃ、良いんでしょうがっ!!」
渾身の力を込めて、扉を蹴破ると同時に挙がる野郎どもの汚い悲鳴。
どうやら安っぽい建て付けだった割に、扉本体自体は中々に頑丈な造りだったらしい、憐れその下敷きになった人間たちは。
『……うわぁ』
「<暗月>。云いたいことあンなら、はっきり口になさいな……」
埃まみれの石造りの床に、つい今し方の瞬間まで自身が生きていただろう明確な証を、赤い染みとして残した。
『美姫、まだ気を抜かないでください』
「……分かってるよ、<盈月>。まだ残ってるし……」
念のために。
鞄から叔父さん謹製の護符を取り出して、懐に差し入れる。これで1回だけなら魔法を防げる……はず。
周到に気配を消している癖に、殺気が駄々漏れの時点で。
「……手合いとしては。ただの二流、なんだけれどなっ」
チンピラさんのひとりが持ってただろう、錆びの浮いた粗末なナイフを投げる。
これも、魔法の成せる業なのか。”殺意”に向けて放った刃は空中に留まり、そこから男の影がゆっくりと滲み出て倒れた。
『<透明化>の魔法だね』
「……魔法、便利だな」
魔法、わたしにも使えたりしないかな? あとで色々と試してみよう。
ゲーム的な分類をするならば、わたしは剣士──退魔刀使い──なのであって、本来”術者”ではない。
一応、それなりに長い年月を修行に費やしてきたのだから。術の類いは一通り使えるけれど、そんなに得意な方ではないのだ。
実際、一族の中で。
術の成績は、後ろから数えた方が遙かに早い……というか、限り無く落第に近い。その程度の技量しかなかったし。
もし、人並みの成績を修めていたら。少なくとも”見習い”の称号は、すでに外れていただろう。
……まぁ。結構な頻度でサボっていたのだから、自業自得なのかも知れないけれど。
「うわぁっちっ、っち!」
また懐の護符が急に燃え落ちた。
『────だから、油断をしちゃダメだって、美姫』
「うっさい」
視界が、一瞬真っ暗になった。
もしかして、今のも魔法なの?
『<暗闇>。一時的に対象の視力を失わせる弱体術の一種です』
「クッソ。本当に便利だな、飛び道具って!」
対するこっちは、単体物理攻撃オンリーとか。何このクソゲーっ!!
全然、その気配が無いのだから。魔法の発動には何の対処もできないけれど。
攻撃を受けてしまえば、少なくとも出先は分かる。
「救いは、今こちらも。投擲武器が選り取り見取り状態だってところか」
建物の中は適度に狭く、そして物が床に散乱しているお陰で。得物に事欠かない点だろう。
お陰で敵が物陰に隠れていても。方向さえ判れば間を置かず反撃ができる。
『てゆか、同じ飛び道具ならさ。<捕縛呪>とかは使わないの、美姫?』
「……面倒くさい」
一々印を結んでは気合いを入れるー、とか疲れることをやるよりか。落ちてる物をひっ掴んでぶん投げる方がよっぽど早いし確実だ。
……ああ。だから術の成績が壊滅的だったのか、わたし。
「てーかさ。余計な茶々入れてる暇あンなら。貴女ちも手伝いなさいな」
わたしの本当の師匠は俊明叔父さんだけれど。
代々四条家の”退魔剣士”たちに仕えてきた<盈月>も<暗月>も。当然、宗家の術の心得はある。
少なくとも、落第一歩手前のわたしなんかより、術者としての技量も、彼女達”神霊”は一線級だ。
『ああ、ごめん────怨。<結封呪>』
『────臨。<対魔結界>……”魔法”に対して、此がどれだけ効果があるのか。私にも判りませんが』
正直、魔法に対し気休めであっても、わたしは構わない。
叔父さん謹製の貴重な護符が燃え落ちては、乙女の柔肌に傷が付くよりかは全然。
お風呂でも、清拭でも。
服を脱ぐ時がちょっとだけ恐いなぁ……このひりひり具合から、絶対火傷してンだろうし。
魔法と云えば。
この世界は、回復魔法とかあるのかな? ケ○ル? ホ○ミ??
一応、ポーションとかは売ってたから、後で露天でも覗いてみるとしよう。
鑑定アプリさん曰く、
「粗悪品。死ぬほどクソ不味い」
だったけれど。痕が残るよかよっぽどマシだ。
人前で脱ぐ予定なんか、今後も無いけれどさ。
◇ ◆ ◇
あの後も。
魔法を使う奴の対処には、心底手を焼かされる羽目となった。
結局、この建屋に潜んでいた厄介な魔法使いを含むチンピラどもは、文字通りの皆殺し。
元々、この都はすぐにでも出て行くつもりだったけれど。
このままでは犯罪者は確定。少なくとも、この子爵領からさっさと逃げ出さないと不味い状況に。
そして。頼みの綱だった例の、
『<対魔結界>。本当に気休めにもなんなかったね』
「まぁ、そもそもアレは。呪いへの対処法、な訳……だしねぇ」
普通に考えて。
魔法が、わたしたちの住む世界で発生しなかったからこそ。
呪術という別種の技術体系が生まれ、そして発展したのだろう。
当然、理の根本。それ自体が違うのだから。
『防げる訳もない────そう云うこと。なのでしょうね』
「そそそ。ついでに云えば────」
その逆も言えるってこと、なんだけど。
わたしと、この世界に住む魔法使いどもとは。
「お互い。交互に順番こに殴り合う関係……になるのかなぁ……?」
なんか、昔の外国映画であった奴。
屈強の大男どもが、互いに交互に派手に殴り合う喧嘩のシーンはすごい印象に残ってる。
相手の拳を避けることもなく、わざわざ顔面で受け止めてさ。当然、痛いだろうに。一々笑ってから殴り返すっていうアレ。
「正直に言っちゃうとさ。律儀に喰らいたくなんかないンだけどね」
『<火玉>とか、真っ二つにしてたよね。あたしで』
そりゃ、貴女は最初からそう云う”得物”として、うちのご先祖さまに造られたのだから。
わたしは正しい使い方をしたに過ぎないのだけど?
『攻撃魔法の対処は、恐らくそれで良いのでしょうが。問題は、弱体術の方かと。効果時間いっぱいまで……』
「そだね。馬鹿正直に喰らい続けなきゃなんないってのは、正直ゾッとしない」
<睡眠術>を喰らった後、何らか外部からの刺激を受ければ、そこで効果が途切れるのは判ったけれど。
『そのまま縛られてたら。今頃は美姫も、そこの人たちの仲間になってたのかぁ……』
「やめて。本当に、やめて……」
鉄格子の向こうで、真っ裸のまま転がされている女性たちを見て。
「やっぱりさ。この世界の人間どもとは、絶対にお友達になれそうにないや。わたし……」
心底、胸糞が悪くなった。
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