12.叔父さん無双。
「彼女にかけた”呪い”は、この世界の秩序を維持せねばならない”ぼくの意思”そのものなのさ。誰にも、それこそ”大神さま”であっても。批難なんか絶対にさせないよ」
「……ほう? 俺たちの世界へと連なる次元の壁を破って、更には生態系をも壊し、その秩序を崩壊させかけた駄神如きが。随分と吠えるじゃあないか。うん?」
仮にも創世神を自称する存在が。
他所の世界の秩序を掻き乱しておきながら。
「その癖、居直りやがるとか。手前ぇと云う奴ぁ、本当に。何処までも何処までも度し難い……」
世界とは、それ自体が完全に独立した存在であり。本来であれば、次元の壁と理とに阻まれて、決して繋がることはない。
だが、それでも。
「ひとつの世界で巻き起こったエントロピーの崩壊は、最終的にあらゆる世界へと影響が出る。そんなもの、上位存在であれば常識だろうが」
だからこそ。
崩壊の引き金にも成り得る存在が現れる。ただその時の為だけに備え、”創世神”の対となる”破壊神”という上位存在が、神の座には在るのだ。
そして、男の魂は。
上位存在と並ぶほどの”格”を、既に備えている。
「……つまりは、君自身がその”破壊神”の一柱だとでも云いたいのかい? ちょっと霊力が強いだけの人間如きが、神を名乗るなぞ。思い上がりも甚だしいわっ!!」
神は、今出せる最大の権能を限界まで振り絞り。
自身が支配する領域全てを、紫電で埋め尽くした。
「どうだっ?! もう何処にも、君に逃げ場なんか残ってないぞっ! ぼくの”神罰”で。穢れたその身を滅するが良いっ!!」
だが、男は。
それを放った神の視界すらをも奪い去るほどの閃光の、その直中で。
「だから、手前ぇの雷は弱いと。俺はさっきもそう言った筈だぞ?」
「────なんで? どうして、ぼくの絶対なる”神罰”が。この人間には通用しないの……?」
何事も無く、涼しげに佇んでいるのだろう男の強大なる気配に。
神は、心の底から恐怖した。
◇ ◆ ◇
「さて。これ以上無駄な抵抗を重ねられて、神性が減っちまったら敵わん。今此処で、残り一機となった手前ぇに、最後の引導を渡してくれよう」
男が神域に侵入して来る前は、確かに”創世神”としての風格を持ち合わせていたはずの妖精も今や。
「……俺と手前ぇ。どちらがより”矮小なる存在”なのかは。さて?」
「くそう……誰か。誰かぼくを助けてよぉっ! この際、獣神でも良いからっ!!」
今の発言だけで。
この世界に於ける人間種どもが向ける、獣人たちの扱いと思想の大凡が、十二分に見えてくると云うものだ。
「……やはり手前ぇは、何処までも度し難い。代わりになる新たな創世神を創り出してやっからよ、もう大人しく消え失せやがれ」
「……待っ……!!」
男が、妖精の頭部を右手でしっかりと握り。
神威を込めたその瞬間。
『────待てぃっ!』
男の頭上に、雷が落ちた。
「大神さまっ? 今すぐぼくを、このハゲの魔の手から助けてよっ!!」
「ああ、クソ。痛ぇなぁ。この世界の神さまって奴ぁ。揃いも揃って、不意討ちしかできねぇ卑怯者ばっかなのかよ……」
もう、だめだ。そう諦めかけたその時、不意に現れてくれた救世主に。
大きく膨れあがった元創世神の期待感は。
『ちょっとだけ痛かった』
そう嘯く男の反応を前に、あっさりと消え失せた。
「おい、雷霆。大神とか、こんなところで最高神の真似事か? ゼウスに、このことチクるぞ」
ケラノウスとは。全能神ゼウスの権能そのものであり、武器とも云われる存在だ。
全能神がそれを振るえば。宇宙は忽ちに灼き尽くされ消え失せるのだとも云うが。
仮にも、その様な武器から放たれた権能、それ自身が。
「この俺であっても、直撃を喰らって掠り傷程度で済む訳がねぇ……」
だが、この神気自体は。契約こそしてはいないものの、男の記憶にも然り刻まれているもののそれだ。
……なのに。男には、違和感がどうしても拭いきれなかったのだ。
「……いや。所詮は擬きだったからか。おい、仮にも管理官さまが、自身の世界に降り立つとか。完全に規約を違反している訳だが、良いと思ってンのか?」
『ぬうっ?!』
他の世界に在る神様の、その”テクスチャ”を盗用してまで。
「てゆか、お前さん。マジで危ない橋を渡ってる訳、なンだが。その自覚はちゃんとあんのか?」
『……すまぬが、このことは内密に……』
───無理に決まってンだろうが。
管理官の懇願を一蹴し、男は額に滲む皮脂を塗りたくる様に掌で叩き、大きく嘆息する。
「それに、例え俺が黙ってたとしても。多分、だけどよ。そこの妖精がやらかしやがったあの一件で。絶対この世界は。監視されてンぞ?」
「『そんなっ?!』」
創物主がポンコツならば、その”作品”もポンコツ過ぎた。
その度を超えたあまりに身勝手過ぎる代償は。最終的に世界の凍結、もしくは消滅辺りだろうか?
「この世界に生きる住人たちは、あまりに不憫だ。そして────」
そんな世界へ落とされた可愛い姪っ子も同様に。
いや。事の経緯を思えば、きっと誰よりも不幸なはずだ……
「さて。この落とし前、きっちり付けて貰おうじゃねぇか。ああん?」
『「ひぃっ」』
この世界が消え失せる事態にでもなってしまえば。
可愛い姪っ子の魂を、個別で救済してくれるだなんて。そんな幻想は、先ずあり得ない。
────であれば。男が取れる手段も、そんなに多くはない。
「無理矢理にでも。消滅する前に、この世界から抜け出させなきゃなんねぇ」
幸いにも、そこの妖精から大量の神気を奪えた姪っ子は。今では半神へと進化してしまったらしい。
「────なら、もう一押し。ってぇところか」
(ねぇ、大神さま? そこな人間が思考の海で溺れている間に、ぼくら逃げ切れませんかねぇ?)
『今すぐ消え失せてしまっても良いのなら、試してみるが良かろう。無論、ひとりでな』




