1.どうしてこうなった?
急に一人称が書きたくなっての新シリーズ雑文です。
今後も不定期予定ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
「はーい、そこのクッセぇ汚っさんどもに告ぐ。その辺でおいたはやめときなさいな。今すぐこの場から早々に立ち去ってくれるてンなら、命だけは見逃してやっから、さ?」
何ヶ月も……いや、何年も洗ってない犬の臭いっていうのは、たぶんこんなのなんじゃないかなぁ?
……って、そんな臭い。
まだゴミ箱の方が、いやいや。
全然管理されていない公園の、やむを得ず我慢して入ってみたら紙が無くて死ぬ程後悔したって感じの、トイレの方がまだ幾分かマシ。っていうか、そんな表現の方がまだ判りやすいのかな?
本音を言ってしまえば、こんな汚物共なんかに1cmも、いや1μ単位たりとも近寄りたくなんかない。
口で呼吸するのってのも、結構辛いんだよね。味覚と嗅覚って密接に関係しているんだって良く解るの。
結局、臭いのは変わらないんだなって。
てゆか、我慢してても思わず嘔吐いちゃうくらいに。もうホントくちゃいんだ。
あまりの臭さに、無意識の内についさっき面白半分に露天で購入したばかりの香水を周りに吹き掛けていたのだから、こいつらの放つ悪臭は相当なモノだったのだと思うよ、うん。
しかし、所詮銅貨6枚程度の安物の、それでもわりと豪華なランチ一食分相当にはなるのだけれど。
臭いはあまり改善されていない所が本当に悲しい。それどころか、香水と悪臭が絶妙に混ざり合って更に酷い事になってる様な気も。
『安物買いの銭失い』とは、正にこのことだわ。
てゆーかさ、やっぱり悪臭なんてのは、大元の”原因”から綺麗さっぱりと消してしまわなきゃダメよね。
『汚物は消毒だぁー!』
って感じにさ。
こういう時に突き付けられる羽目になる”自身に魔法の才能が欠片も無い”っていう、何故かそこだけ妙に生々しい嫌な現実が、本当にお辛い。
「……なんだぁ? メスガキが俺達のしごとに、口出しでもするってぇかぁ?」
「おい、待て。よく見ろって。ありゃ単なるガキじゃねぇ。あんなデケぇ胸した女、そうそう見ねぇぞ」
「だなぁ。黒髪なんてなぁ珍しいが、よく見りゃ顔も悪かぁねぇ。こりゃ夜は楽しめそうじゃあねぇか?」
「馬車の中にもまだ女がいるみてぇだしよぉ、久々に金玉が空になるまでヤれるってモンだよなっ」
「おめぇら見る目がなっちゃいねぇな。嬢ちゃんの着ている服、奇抜だが、かなり上等な布で出来ていやがるみたいだぜ。ありゃあ、もしかしたらお貴族様ってぇ奴かも知んねぇ」
「ほほぅ。お貴族様ってなぁどんな味すんだろうなぁ? 楽しみが増えたぜぇ」
……はぁ、うっざ。
なんで、男なんってぇ生き物は、こういう下半身と脳味噌とが直結している盛った馬鹿しかいないンだろうか?
人の胸を凝視する。
↓
一瞬だけ顔を見る。
↓
また視線が胸へと戻る(以下繰り返し)。
わたしを認識した男どもの視線ってのは、決まってこの動きだ。
途中、脚の方へと向く奴も偶にはいるけれど、胸から始まるのだけは、基本的にどいつもこいつも変わりはしない。
……ああもぅ、本当に。本当に、気持ち悪い。
「……で? とっとと消えてくれんの、くれないの?」
「何言ってやがんだ、嬢ちゃん。俺達のおしごとを邪魔しようってぇンだから、当然お仕置きだぜぇ?」
「護衛だった野郎共は全員殺っちまったんだ。ってこたぁ、あとはあがりを頂戴するだけ。途中でやめる理由なんかぁ、何処にも無ぇだろうがよ」
「女は犯す。野郎は殺す。ホント分かり易くてぇ良いやぁな」
「んでもってよぉ。生意気な女は、俺達の手でひぃひぃ言わせてやらぁな。なぁに。ケツ穴なんてなぁ、慣れてなくとも、ちょ~っと使ってやりぁ。すぅぐ気持ち良くなってくらぁな」
「ホントおめぇはケツ穴好きだよなぁっ!」
「あったりめぇだろぉ? 一度でもあの締まりを知っちまったら、もう絶対前の穴なんかにゃあ戻れねぇってばよ」
「「「ちげぇねぇっ!」」」
今の一連の会話の流れの何が面白いというのか。わたしには、これっぽっちも理解できないのだけれど。
ばっちくて、くっちゃい汚猿さん達どもの全員が、一斉に腹を抱えて笑い出す。
……はぁ、ホント。マジでうっざ。
ってゆか、もう良いよね? こんなサル、殺しちゃっても。
わたしの目の前にいるのは、20人前後の所謂”山賊”って奴。
その山賊さん達が囲っている馬車の周囲には、半裸にされ組み敷かれた状態になっている女性が2人と、5、6人くらいの死体が転がっていた。
たぶん”護衛”は、その内の4人……と、いった所かなぁ?
山賊さん達とは、明らかに装備の”質”が違って見えたからだ。
でも、上手い具合に山賊さん達の不意討ちが決まって、抵抗虚しく彼らはやられてしまったのだろう。
技量とか。それ以前に数が少なすぎたのが、最大の要因だったのだとは思うけれど。
わたしは無言のまま、”刀”に手をかけ一気にくちゃい山賊さん達へと斬りかかった。
正面の奴の首を刎ね、隣の男の左鎖骨辺りから一気に袈裟に斬り落とし、返す刀でその横で呆と突っ立つ馬鹿の胴体を、綺麗に上下真っ二つにしてやった。
油断している相手を殺すのなんか訳も無い。わたしの”間合い”の内に立つ者は、今の一息で全て斬り殺した。
「「ひぃぃっ」」」
さて。惑い狂った男どもが正気に戻る前に、一気に決めてしまうとしよう。
女性を組み敷いたまま固まっている阿呆は、速攻殺す。
人質にされたところで聞く耳持つ気なんざ端から無いけれど、見捨てたら見捨てたできっと後から思い出しては寝覚めが悪くなるだろうから、ここは仕方無く、だ。
石を拾い、弓を持ったまま呆けている男達の額を撃ち抜き、続けざま立派な飛び道具を抱えたまま、未だ準備すらもしていない間抜けなブタを次々に始末してから、近接武器しか持たぬサルどもを、自身の間合いの内に収めては散々に斬り捨てる。
「さて、あんたが最後だよ。大人しく縛につきなさいな。そうすれば、少なくともあんたは今だけなら生きていられっから、さ?」
「あ、あわわわわ……なっ、なんだよ。なんなんだよ、てめぇは……バケモノかよ」
「失礼ね。でも、それに答えてあげる義理なんか、当然無いよね?」
食い詰めて”山賊”なんかに身を落とす様なクズい人間なんかに、早々わたしが不覚を取る訳なんかない。
わたしは世に生まれて落ちた時からずっと、”剣術”と特殊な”呪術”をこの身に延々と叩き込まれてきたのだから……なんて、世間様に誇れる様なモノではないのだけれど。
まぁ、でも……こいつらに言わせれば、確かにわたしは”バケモノ”なのかも知れない。
そうよね。もし仮に、目の前の男が<鑑定>なんて良い技能を持っていたとすれば、わたしは間違い無くバケモノ認定されちゃうのだろうし……ね。
◇◆◇
「はい。ミキ様、お疲れ様でしたー。報酬は買い取り分を合わせまして、大銀貨7枚と銀貨5枚ですね。ああ。それと、あの”首”の報酬なんですけれど、生き残った護衛さん達の照会と、確認が全て終わってからになっちゃいます。申し訳ありません……」
「すぐにお金が必要なほど、切羽詰まった生活なんかしちゃいないから、全然大丈夫よ。気遣いありがとうね、セラヴィ」
ハンターズギルド内、『今すぐ結婚したい受付孃』No.1のセラヴィちゃん曰く、あの馬車の荷主はそこそこ大きい商会のものらしいので、それなりの報酬が貰えるんじゃないかとの事。
……ホントかなぁ?
街道に山賊が出ると解っていながら4、5人程度しか護衛を付けなかったくらいの、”ド”が頭に何個も付く様なレベルのケチな商会っぽいし。
わたし自身、最初から全然期待なんかしていないのだけれど。
まぁ、今回請けた依頼の報酬だけで軽く二週間は遊んで暮らせる額が貰えたのだし、そんな不確定なものなんか最初から充てにしないという事で。
あらためて考えてみたら、”この世界”にわたしが降り立ってから、すでに三ヶ月以上の時が経過しているのか……
その間、ずっと休み無く動き続けてきたのだから、そろそろゆっくりしてみるのも良いかも知れない。
正直に言ってしまえば、わたしは自身を取り巻くこの今の状況を、未だちゃんと受け入れる事ができていないのだから。
ギルドの扉を開けながら、どうしても飲み込む事のできなかった”現実”に対する愚痴が、ポロリと口から滑り落ちる。
「……はぁ。ホント……どうしてこうなった?」
何度も何度も、意味の無い自問を続けてきた、この”現実”。
”この世界”に住む人達の誰にも相談できない、それこそ相談したら頭の具合の心配されてしまうだろう、荒唐無稽過ぎたあり得ない身の上話。
この世界に君臨する神様の内の一柱に殺されてしまったせいで、こうしてわたしは”異世界”で一生を過ごさねばならぬ羽目になったのだという、キツい現実を……
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