割れ鍋に綴じ蓋
デーブは、頬を押さえて蹲るミラを見下ろした。
デーブの好みの服装をしろと言ったら拒否したので、殴ったのだ。
自分の妻なのに言いなりにならないなんて、許せなかった。
「オレに逆らうな!」
見上げたミラの目に怯えの色が見られなかったので、デーブはもう一度殴った。
「解ったな!?」
「……はい」
しかし、ミラは、その後何度もデーブの望まぬ言動を取ったので、彼は、その度に殴ったり髪を掴んで引っ張ったりして解らせなければならなかった。
その日も、デーブは自分を怒らせたミラに暴力を振るって大人しくさせると、何時も通りに就寝した。
だが、何時も通りの明日は来なかった。
目を覚ましたデーブは、ベッドに括り付けられている事に気付いた。
「何だ?! ミラ! テメエの仕業か!?」
傍らに俯いて立っていたミラに怒鳴る。
長い髪が、彼女の表情を隠していた。
「あなたがわたしを殴ったりするの、愛情表現なのよね? だから、わたしもそうするわ」
「ふざけんな! 復讐のつもりか?! タダじゃ済まさねえぞ! 今直ぐ放せ!」
「復讐? 何の事? わたしは、貴方が好きなだけ」
ミラが動き、髪に隠されていた目が露になる。
浮かべている表情は、愛情を示す笑みの様でもあり、優位な立場から見下す笑みの様でもある。
デーブは、気付いていなかった。
ミラが、付き合う何年も前から、彼を尾行したり・盗撮したり・盗聴したりしていた事を。
そして、彼女の愛と執着と支配欲は、デーブから暴力を受けても薄れなかった事を。
「ああ。良かったあ。嫌われたらどうしようって、我慢してたけど」
ミラは、ベッドに上るとデーブの腹部に跨り、鞭を振り上げた。
「あなたも暴力が愛だから、わたしの愛が解るでしょ?」