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ふろーれん  作者: 村青 雨京
7/20

Act5 Scene1  楽屋でメイク

テレビスタジオ隣にあるトイレの鏡の前で、「孝雄」はひとりぼっちでいた。もちろん彼の外見はどこから見てもミーナなのである。 そして、アイドルの姿に見とれ、いろいろなポーズを取り、女の子であることを楽しんでいた。そこには、ミーナと体が入れ替わったという恐ろしい事実を、心配するような気持ちは一切なかった。孝雄はスーパー能天気な男なのだ。

「やべー、 ミーナちゃんっておしっこするんだー。 やべーよ。 俺、ミーナちゃんになってるし、おっぱいもついてるよ! それにやわらかいし! 聡びっくりするだろうな、今日から俺、ずーっとミーナちゃんだ。ララちゃん ともずーっと一緒にいれるし.、、、

ヤバい!幸せだ」

胸を触わり足をドタバタして、両腕を突き上げて喜びを爆発させた後、取り()いたオタク顔つきがミーナの美少女の顔付きに戻り、手をきれいにしてトイレを出た。

    

楽屋にはもちろんララとサキがおり、本番前の待ち時間にメークをしていた。

メークをしたことのないスーパーアイドルの「孝雄」は不思議そうな顔で立ち尽くした。 

その「孝雄」にララが不思議そうな顔で椅子を引いてくれて隣に座るように(うなが)した。 

「ねえ、今日変よね、ミーナ?」

「あ、ララちゃん、いやあたし、、、そうかしら そんなことは無いと思ってるんだけど?」

孝雄は、憧れのララに、普通に心配してもらえてることには感激いっぱいなのだが、恥ずかしくて真っ直ぐに見返せなかった。

「何かしゃべり方まで変なんだけど。握手会の後から」

ララの声かけで、表現しようがない幸福感を感じた。

「ひょっとしてアレ?」

今度はララの隣のサキが、「生理中?」と言う問いかけをしてくれたのだが、孝雄は全くその意味を理解できずに「何それ?」と不思議そうなリアクションをした。それを見たサキも首をひねりながら「こりゃーおかしいわ!」と「孝雄」を見た。

「そうかしら、ちょっと疲れてるのよね。たぶん、ララちゃん」

「孝雄」は化粧中のララに突然後ろから、「あなたに会えてよかったわ」と一瞬抱だけきしめた。幸い後ろからで一瞬だったので「入替」が起こらなかったが、とても危険な行為だった。しかし、何も知らない「孝雄」はララとの急接近に気絶しそうなくら興奮した。

「何よ? やっぱり変よね」

ララは「孝雄」の行動に気味悪さを感じて、流石に身体を遠ざけた。

「ミーナ! 早くメイクしないと間に合わないよー」

メイクもしないでふざけまくっている「孝雄」にサキは急ぐように注意した。 そんなサキにも、勘違い野郎の孝雄は、「サキちゃんもララちゃんの次に好き」と言いながら、

また後ろからガバっと抱きつこうとした。

「ほんと変だよ? ミーナ」

ララは更に不可解な顔をして逃れたが、そのような逆境に屈する孝雄ではなかった。

「ううん。あたしはね、ここでフローレンというグループとして活動が出来ることに対して、今とても感謝してるの! ねえ! 私達がフローレンなの、「俺達」3人が集まってそしてフローレン! 分かる?」

「わかるけどー?」

ララは妙に圧をかけてくる「孝雄」に同意するしかなかった。 

「わかるよね」

「孝雄」は仁王立ちして満面の笑みを浮かべたが、サキはつられることはなかった。

「ねえララ! 変な子は、ほっといて私達メイクしよ!」

「そうね」

サキもララも正気に戻り急いでメイクを再開した。孝雄は、せっせとメイクをする二人を凝視(ぎょうし)しながら、自分は何をすべきか?と言うことを必死で考えていた。 

「ねえ? 私のメイクさんってどこにいるのかしら?」

「何言ってるのよ、私達でデビュー、の頃からずっと自分達でやってるじゃあない」

サキは口を尖らせながら言った。

「そうだったっけ?」

メイクができないのを誤魔化(ごまか)したかったが失敗した。「孝雄」としてとぼけるしか無い。

「そうよ、あんたが、自分は化粧にこだわりがあるからメイクさんいらないって! 最初に言ってたんじゃない」

「おー、そうやったっけ。そうやったね」

ララが明らかにイラつき始めたので、何とか誤魔化(ごまか)したが、「なんかおっさんみたいなしゃべり方ね」とサキに怪しまれた。まさかミーナがメーク自分でしたい派なんて! 

思いもしなかった。状況は決して良くないはずなのだが、孝雄の能天気ぶりではそれを上回っていた。

「あら、 そう やだ。何いってんのかしら 私?」

「孝雄」はクネクネと極端(きょくたん)に女の子になり、覚悟を決めて鏡の前に座った。そして隣を(のぞ)

きながら、見よう見まねで必死にメイクを始めた。一旦(いったん)ファンデーションが落ち着くと、サキがララに驚くべき質問を開始した。

「ねえ。ララ、今どうなってんの? 美加島さんと? 私にも教えてよ」

「何でもないわよ、ただ誘われてるだけ?」

ララは答えたが、明らかに(ほお)赤らめらめて満更(まんざら)ではないような反応をした。その仕草(しぐさ)が孝雄を強烈(きょうれつ)に刺激した。

「美加島??? 誰そいつ? つきあってんの?」

「何言ってんのよ? ミーナがいろいろ連絡とってあげてるんでしょ?」

サキが(あき)れて「孝雄」を見た。

「俺が? いや私が?」

孝雄は、ミーナの過去の余計な出しゃばりにイラつきながらも、なるべく顔に出ないようにした。

「もう、とぼけないでよ。私にこそこそやってるくせに!」

サキが更に文句を言ってきたが、これも全てはミーナが悪いのだ。 大切なララちゃんの重要な恋愛話をメンバーのサキに内緒ですすめる女がミーナなのだ。孝雄は内心憤ったが、冷静にこの立場を利用した。

「ごぉめんごめん! 本当に忘れっぽくて、じゃあ今日はサキに、ちゃんと状況話そう、ね! 俺達仲間じゃあない、ねぇ」

「なによミーナ、あんたがサキは真面目だから! 絶対反対するから話しちゃ駄目って!言ってたくせに」

「あら、私そんなこと言ったっけ?」

「孝雄」は動揺せずに淡々とボケた。そしてララが、また新たな情報をくれたことを喜んだ。そして、ララはもう何も突っ込まなくなった。 孝雄は学校の成績こそ大したことないが、このような心理戦の駆け引きは強かった。

「で何? 教えてよ!」

結局、サキがララに聞いた。それは、孝雄にとっても好都合だった。ララは少し照れながら彼女の恋愛事情を話し始めた。

「美加島さんが最近すごくやさしくて、それでいつもデートというか食事に誘ってくれるんだけどーーー」

「え? あの俳優の美加島大輝(みかしまひろき)がデートにフローレンのララちゃんを誘うんだ」

孝雄は、繰り返し言うことで自身のイラツキを抑えることができ、かつ、事実の確認を始めた。

「何よ、わざとらしい」

ララは当然不快になった。ただ、好奇心の塊のサキが質問し続けた。

「それで彼女で女優の佐藤結花はなんて言ってるの?」

「美加島さんが言うには、もう別れたんだって」

ララの表情は少し切ない。

「ふーん、でも彼軽いって噂だしね」

サキは冷静に突っ込んだ。孝雄にとっては、いい動きだった。 

「そう、だからあたし悩んでるの。美加島さんは優しいし、かっこいいし、特にあの美加島さんの目を見たら、あたし、なんていうのかな、気が遠くなっちゃう」  

「そうなんだ。ほんと好きなんだね?」

うっとりして喋るララに、真面目なサキはあっさり共感し始めた。

「ねえ、サキはいつも冷静だし、この際だから意見を聞かせて!」

孝雄は焦り始め両手を大きく動かして会話を邪魔しようとするが、

「ミーナはね。私が思うようにすればいいって言ってくれたしね」と、「孝雄」の動きに釘を刺した。サキはララが頼ってくれてるという満足感で微笑んだ。

「う~ん、美加島さんがきちんと佐藤結花さんと別れてればいいんだろうけど」

「うーん、まだ食事に行くだけの仲だからよく分かんないかも」

サキの意見にララも自信なさそうにつぶやいた。

「きっと遊ばれて捨てられるぜ!」

そんな乙女達の恋の話を「孝雄」は力強くぶち壊した! 

「え?」

ララもサキも呆気(あっけ)に取られ、そして孝雄は容赦無(ようしゃな)く攻め立てた。

「いい? ララちゃん。私はね、絶対に交際を止めるべきだと思うわ」

「ミーナは思うようにすればいいって言ったじゃあない」

当然ララが納得する訳が無いのだが、孝雄もララを失いたくなかった。

「確かにあの時は、そう言ったと思う。でもね、今私があなたのことを、考えて考えて考え抜いた時、あなたは間違ってると思ったの、彼はきっと遊び人よ、ロクデナシだわ!

ハンサムな男にはきっと裏がある!「月間実話」にも書いてあった。美加島は有名なプレーボーイだって! 」

「月間実話? あんたそんなもん読んでるの?」

サキは思わず顔をしかめた。明らかにアイドルが読む本では無いのだ。

「コンビニで立ち読みしたんよ!」

「立ち読み?」 

「コンビニで?」

サキとララは、当然のリアクションで「変わり果てたミーナ?」に反応した。

「そう! とにかく私の大好きなララが佐藤結花を裏切って、美加島大輝(みかしまひろき)と交際する

なんて絶対に駄目! 絶対にやめとくべきよ!」

その時の「孝雄」のメイクは、お絵かきが苦手な小学生の絵のように(みにく)かった。


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