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ふろーれん  作者: 村青 雨京
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Act1 Scene1 天野邸(あまのてい)

大学生の天野聡(あまのさとし)の部屋は、いつも通りの程よい汚さを保っており絨毯(じゅうたん)の床にはパソコンの専門誌や大学の教科書、小さいテーブルの上には食べかけのポテチやコンビニスイーツ袋が散らばっている。見上げると、壁には同じアイドルのポスターが何枚もあり、部屋のどこにいてもそのアイドルが聡のことを見つめているような錯覚(さっかく)をおぼえる様に巧妙(こうみょう)に角度を調整して貼り付けられていた。 そんな部屋にフィットしているカラフルなピンクの二人掛けのソファには友人の吉村孝雄(よしむらたかお)が一緒に座っており、二人は目をギンギンに輝かせて大型テレビの画面に集中していた。

そこには人気アイドルユニット「フローレン」の三人がグループの大ヒット曲を歌っていた。その歌っているアイドルの一人であるミーナは、壁のポスターのアイドルの女の子と一致する。聡はミーナのことが大好きなのである。


テレビの画面を見ながら、曲の盛り上がりと共に、猫背の二人が徐々に立ち上がり、フローレンの3人の振り付けと一緒に歌いはじめた。驚くべきことに二人の動きはキレキレで下手すれば、テレビ画面の本家のダンスよりも正確と言っても過言ではない。二人はお互いを見つめながら踊りを競い合い、そして曲が終わり際になると、今度はオタ踊りに切りかえた。しばらく一心不乱に踊った後、やがて二人は疲れて来たのか?

「ドスン!」とソファに勢いよく座り込むと同時に、上を見上げて「うぉーっ」と雄叫びをあげた。

孝雄は、酸素補給の為、口を開けて天井を見つめている聡に「腕をあげましたな。聡君!」と声をかけると、「いやー、やっぱ最高ですね。フローレンは! 孝雄君!」といつも通り返した。   

聡は孝雄が大学で出会った唯一の親友と言える奴だった。

入学した頃は、顔だけ知っている存在だったのだが、偶然行ったフローレンのサイン会で出会いよく喋るようになったのだ。

フローレンはトップアイドルグループではあったが、孝雄や聡レベルの熱狂的なファンは近くにはいなかった、何となく好きとか曲は聞いてます、とか、そのレベルの人達ばかりだからだ。  

聡とは大学の一年生の時に出会って、もう2年の付き合いだった。 趣味がフローレンだけと言うことで話が合うのと、お互いの推しの子が違うと言うところも、二人が仲良くなる原因になった。

聡の(うち)は、母子家庭の孝雄とは違ってお金持ちで、部屋も広く何でも(そろ)っているので、聡の家は絶好の遊び場だった。その理由から、二人はだいたいの時間を聡の部屋でフローレンのことを話たり、彼女らの動画を大画面で見たりして過ごしていた。


 突然、孝雄はハミングしながら踊り出すと、それに合わせて、聡も歌いながら踊ってみせた。そして聡はいつもの様にお決まりのセリフを吐いた。

「あー、やっぱミーナちゃんは最高ですよ!」 

「何いってるんだよ? どう考えてもララちゃんでしょう」

こうやってお互いの「推し」を自慢し合うことが二人のルーティンだった。

 

喉が渇いた孝雄は、「まあ 君がそう思うんだったらいいけどね」と早めにルーティンを切り上げ「ちょっとなんか飲んでいい」といつものヤツを強請(ねだ)った

「あ、いいよ。 そこからとって!」

聡はいつも通り気前よく冷蔵庫を指差し、孝雄はその指につられるように聡の部屋専用の小さな冷蔵庫の前に行くと、勢いよく冷蔵庫の扉を開けた。 扉の中はコカコーラのみがいつものようにびっしりと並べられており、ラベルの向きまで綺麗(きれい)(そろ)っていて、それは聡の几帳面(きちょうめん)さを表していた。

「は! おー。いつも揃ってんね。やっぱこういう時はコーラがいいね!」

「あたりまえだよ。 コーラは命の源だぜ! 」

「いいよな、聡! 冷蔵庫を部屋に置いてるし、ウチなんか絶対置かしてくれないよ」と、言いながら孝雄はコーラを2缶取り出して冷蔵庫の上に置いた。

「まあ、うちは親父の研究があるからね。研究所の冷蔵庫が足りなくて、あの人台所の冷蔵庫にも薬品入れるくらいだからさ」

聡は部屋に冷蔵庫を置いている理由を、さも父親の為のような言い方で説明した。

「何かの研究やってんだよね。 聡のお父さん」

「うん。 一体なにやってるか分からないけどね」

「飲む?」

そう言って孝雄が冷蔵庫の上のコーラの一つを聡に投げようとすると、

「投げないで! 俺はそんな乱暴な作法でコーラは飲まないんだ」

聡が急に不機嫌になった。

「そうだったっけ?」

「こんだけ長い付き合いなのに知らないの?」

「うん」

いつも物事を深く考えない孝雄は、そう言われれば、聡はいつも(うやうや)しくコーラを持って来ている、ような気がし始めてきた。

「俺はコカコーラを愛してる」

「変ってんね?」

「俺はさ、本当に自分の身体がコーラを欲しいって思った時、何かを達成した時にコーラを飲むんだ」

孝雄は聡の真剣な反応に少し気味が悪くなりつつもあったが、コーラの美味しさが、それをかき消した。 

「わかんねー? じゃあなんでこんなにギュウギュウ詰め込んでんの?」

「銀行にいっぱいお金貯金してるのと一緒だよ」 

「わかんねーそんなこと?」

孝雄は首をひねりながら惰性(だせい)でコーラをすすると、おいしかったコーラの味が、急に飲んだことのない薬品のような味がした。でもそれは聡のくだらない説教のせいだと思った。

そして「あれ? 今日のコーラ何かまずいな?」と小声で独り言を言った。

そんな態度が気に入らなかったのだろうか? 聡は勢いよく立ち上がった。

「孝雄君が、もう少し精神的に大人になったら分かると思うよ。前から言おうと思ってたんだけど、君はコカコーラを侮辱している」

「侮辱?」

「コカコーラというものは神聖なもんなんだ。原液は、アメリカ合衆国でのみ調合され販売される。風味はトップシークレットの香料7X。 7Xの成分はコカ・コーラ社のトップシークレットであり、成分を知っているのは世界でたった2人の最高幹部のみである。

わかる? この凄さ? ウィキペディアにも書いてあるよ。君はもっとコカコーラのことを勉強したほうがいい」

一方的な聡は、何か偉業(いぎょう)を達成した男のように、満足した顔でしっかりと親友を見つめた。

「あの? 、、、 飲んでいいかな?」

孝雄は恐る恐る尋ねるしかなかった。

「いいよ。ただ孝雄君は親友だから覚えといてほしいんだ、コカコーラは神の水であることを! 君がララちゃんを好きなのと一緒だよ」

「そんなに愛してるんだね! コカコーラ!」

孝雄はいつもより有り(がた)そうに残りのコーラを飲み干した。

 


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