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15・モブを考えるのが面倒だったなどと作者は自供をしており…

 レラは商品棚やワゴンがスッカラカンになった店舗のレジの中にあるゲーミングチェアっぽい椅子に凭れて放心していた。


「レラ様?」


 ズタボロなハイブランドシャツとスラックスを身につけた青玉(サファイア)が炭酸飲料水が入ったジョッキをゴトリとレラの前のレジカウンターに置いた。


「なんなんだよアイツ…まだ余裕あんのかよアイツ!」


 軍帽の上にハリネズミ化した零を乗せて戸締りから戻ってきた沙羅を指差して、レラは叫ぶ。


「自分余裕無かったでありますよ。

 レジ打ち会計しながら、袋詰めするのがやっとでありました。

 もっと余裕があれば、姉上と二人羽織でアツアツおでん芸でご来店したお客様をお迎えしつつ笑顔でお帰りして欲しかったであります」


「ンなこと考える余裕すら無かっただろうが!

 スタンピードだぞ! スタンピード!

 あの無秩序に押し寄せるハデハデおかんの群れ!

 行儀よく並んでいる魔獣達の行列の少しの隙間に強引に体をなんでねじ込むんだ?

 そこまでして横入りしたいのかよ!

 どう考えてもパーマ頭の太めおかんが5センチの隙間に入るワケねーだろ!

 それに金貨百枚の商品を、なんで銅貨一枚まで値引きされて当然だと思ってんだ!?

 頭悪すぎだろ!」

「でも姉上に飴ちゃんを献上する善人でありましたし、道交法違反赤色切符をお返しに進呈したら即座に食べる尊敬できるお笑いスピリットのある方々でありました。

 これはもう師匠として尊敬するしかないのであります」


「無表情で変なモン尊敬すんじゃねー!

 頼むから王族としてまともな考え方しろよ!」


 ダン! と一気に飲み干したジョッキをレジカウンターへ叩きつけたレラは沙羅を指差して吠える。


「そう言われても……この国の王族は、自己中と欲望第一主義者しかいないのであります」


「そうだった!

 5柱全ての神とミラ姉ぇとシン兄ぃはソレだった!」


「ついでに、神の眷属や従者である貴族まで含めて、プハラ国民による王公貴族の変態含有率アンケート結果は……」


「やめろ!

 沙羅! それは知っちゃイケない情報だ!

 むしろ変態ではないと認識されてるヤツの人数のみ知りたい感じじゃねーか!」


「それは姉上のみでありました」


「なんでだよ!

 なんでソコにアタシが含まれてないんだよ!」


「レラは、『変態に囲まれている変態しかいない家族の1人だから、変態に決まっている』というコメントしかなかったであります」


 因みに沙羅は、乳児に欲情する事を全国民に知られているリィ教皇の部下なので「変態に決まっている」であり、タケルのステルス能力発動により、零は変態ランキングから除外されただけであった。


「納得しかできねー!

 チクショウ!

 あんな家族なんざシン兄ぃ以外捨ててやるぅ!」


 安心してください。洗濯済み未使用銅貨1枚肌着とレアメタルや宝石交換ができなければレラはシンも捨てる気満々です。


「アララギ伯父上とミラの不法投棄は犯罪であります。迷惑なので寿命が尽きるまで家族として面倒みるべきであります」


「アタシは一生アイツらの家族なのかよ!

 どうやってもアイツらの方が千年以上長生きするだろが!」


「その理不尽さを自分は、自己存在を認識した瞬間から抱えて存在しているであります。

 ミラとアララギ伯父上はまだマシでありますよ。自分の同居人は胸三寸で星団くらい滅ぼす戦闘民族『かわいい零ちゃんとそのお世話係ウィズ、ワシントン卿』であります」


 前列中央でピンクのハートのお玉を掲げる花の妖精のような零の後ろにヤクザジジイ集団を従えるホーク卿組長と殺し屋剣客なタケル。ついでに集合写真時に欠席したような上角隅にある楕円形の枠の中に、懐中時計を眺める不思議の国のワシントン卿がいる図がレラの頭の中に浮かんで消えた。


「それも凄く嫌な図だな。

 ふわぽよアイドルと和風マフィア集団と、大帝国風庭園で日傘を射した令嬢人形とクマのぬいぐるみと茶会をする胡散臭い紳士なおっさんの図は美意識を疑うぞ」


「美意識よりと己自身の身の安全の優先でありますよ。自分程度では家族の最高速攻撃をかわす事も防ぐ事もできないのでありますから。

 だからレラは強く生き抜くのであります。不法投棄などせず、父上と姉上の怒りを買う事なく…」


「お、おう。わかった沙羅」


 なんだか腑に落ちないが、沙羅の軍帽の上でカリカリとおかん集団からもらった飴ちゃんを、リスのように食べてるハリネズミの零に薄ら寒いモノを感じて、レラはジョッキのお代わりを青玉(サファイア)にたのんだ。


「レラ店長、レジしめ終わりました」

「あー、お疲れー。レジ台下に入れてる弁当と完売手当て持ってさっさと帰ってゆっくりしてくれー。

 麻倉ぁ、レジ合わなくてもジャーナルの見直ししなくていい。尾崎も麻倉の面倒見てないでさっさと帰れ」

「レラ店長ありがとうございまーす」

「礼なら青玉(サファイア)に言っとけ。

 おかん集団に痴漢されたり、ボタン引き千切られたり、下着に銀貨突っ込まれながら商品補充したり行列さばいたり、万引き犯を刑務所に転送した後に、会計ミスの原因追求すんだから」


「レラ様ぁッ!」

 今頃になって己の身に起きた災難と下半身の違和感に気づいた青玉(サファイア)は、ジョッキをレジカウンターに置くなりトイレに駆け込んで悲鳴を上げる。


「さーせんっスー。宅配便のハチワレみことっスけど、昼間誘拐事件を阻止したそうでお届けモノでーす」


「あー、はいはい」


 レラが1つの荷物しか書かれていない受領書にサインすると、中身が明らかな大きすぎる箱と小さい箱の2つが店内に置かれた。


 従業員が帰宅し、トイレでボロボロの着衣に号泣する青玉(サファイア)と、疲労困憊で思考能力が低下しているレラと、『謝礼になっていないのであります』と無表情でどんびきしている沙羅と、沙羅の軍帽を飴ちゃんの食べこぼしでキラキラさせているのに関わらず、菓子折りをロックオンしているハリネズミの零。

 彼女らしか店内で、一辺が4メートルある箱がガタガタという音『()』させている。


「この菓子ウマイから半分零にやるわ。

 それよりこのデカイ箱立派すぎね?

 重量もかなりありそうだし、厳重に封印されてるし、増える金貨だな」


「ぁりがとぅなのですぅ」


 零は大きすぎる箱に対する関心を綺麗さっぱり失った。どうせ自宅には入れないというタケルの強い意識が、この大きすぎる箱の中身と同じ程度に自己主張しているのだし。


「レラ、この大きい箱をこのままここに置き去りにして、新年を迎えた方が平和であります。

 開封をレラがしない方が良いのであります」


 沙羅は神々を封印するほど強いタケルの本気の施錠の反動を恐れるあまり無表情でアドバイスした。

 タケルが全力でめんどくさがるほどの中身だ。

 シンとレラなら、このうるささに絶対ヒスる。

 これに喜んで付き合えるのはミラとホーク卿しかいない!


「うるせぇ!

 無限金貨の財布が盗まれたらどうすんだ!」


「金目の物はあることはあるけど、関わったら負けであります。

 箱の中身は素直に盗人に押し付けるべきであります。盗人がこの騒音に耐えれなくても自業自得なので切り捨てるべきであります」


「この箱のどこがうるさいんだ?

 ヒスった男の説教声と裏返ったオカマの咆哮という変わった金貨の音しかしてねーだろうが!」


 だから沙羅は、この箱の中身がめんどくさい2柱の神々の詰め合わせセットだから、開封するなと言っているのだ。

 片方を押し込める大神殿が崩壊したので、建て直すまで、長身イケメンを残念ハゲ男にする呪詛を垂れ流すエエカッコシイなヒステリー男神が、自宅周辺をうろつかれて、タケルと零の邪魔をされたらこの惑星が滅びかねない。

 そうなると目立ちたい変な美意識なもう1柱も取り巻きの筋肉天使の集団を引き連れて、仲間外れにするなと押し掛けてくるのまで、沙羅の脳内は見えていた。


「非常にうるさいであります。

 父上の安眠を確実に妨げ、姉上のおやつの阻害もして確実に激怒させるであります」


「お、おう…」


 以前、見てはいけない沙羅顔した零をレラは思い出して背筋が凍る。

 数ヵ月前、ヤクザに肩がぶつかり、食べていたソフトクリームを地面に落とした零の顔の変化。その翌日に零に因縁をつけようとしたヤクザごと系列暴力団組織が末端まで死をもって壊滅していたのだった。


 おっとりとろりんたれ目が、キリリとした無表情な凛々しい目に。ぷっくらプルルン唇がスッキリ引き締まった口に一瞬で変化した零の顔の変化は、意味なく恐ろしいとその時沙羅と同じ顔を見て思ったが、その恐怖が再び訪れるとレラは確信した。


 そして、意味不明な恐怖を抱えたレラは、勝手に帰宅する従姉妹とまだトイレで号泣している青玉(サファイア)と大きな箱を放置して、全売上を銀行口座へ通帳付属魔法陣を使って時間外瞬間移送をするなり、年明けまで店が休業する旨を貼り紙し、帰宅した。

 

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