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14・前髪一筋チョロリハゲのブーメランパンツ筋肉巨人集団はふつうにこわい。不在のボスは変態だし

 大量に積み重なる『零のお菓子用』オリハルコンの瓦礫のすぐ近く。雪か氷か判断が苦しむ氷で同化していて雑な木材のドアしか見えないかまくら。


 そのかまくらの中で黒い軍服の沙羅は、宝石のルビー枠に挟まれた錦の布の椅子に腰掛け茶筅でミルクセーキを点てていた。


「なんで零が暴走したのよ」


 赤いドレスに耳の上に赤い大きなリボンを結んだ天使のミラが、正面の座席から沙羅に聞く。


「省庁庁舎ビルの渡り廊下のガラスが破損したから姉上の魔力暴走が、起きたであります。

 粗ミルクセーキであります」


「かなりのお手前で。

 ガラスが割れた程度でびっくりする?

 あの真っ黒な棺桶ベッドで寝て、ギロチンとか剣や槍で部屋を囲ってドクロ模様の銀の家具を使ってる趣味の悪い零が?」


「姉上の棺桶ベッドは、ホーク卿に寝床でお菓子を食べる事を阻止されないための猿知恵であります。

 食べる事ができても、布団や姉上自身を生クリームやチョコレートキャラメルクリームだらけにして、ホーク卿に叱られる事にかわりはないのでありますが。

 それに趣味と胆力と驚かない事は別であります」


「なんかあり得ないわよ。いい歳してクリームまみれって」


「リィ教皇が通販で買い求めている性的絵巻によくある構図でありますよ」


「沙羅!

 そこを詳しく!

 その絵巻情報を詳しく教えて!

 素敵なリィおじい様とお揃いの絵巻ならアタシも欲しい!」


 沙羅は気持ち悪いモノをみる無表情な目をして、ポメラニアン柄のマイ抹茶用茶碗で濃茶を口に含む。


「所持したら逮捕案件の絵巻でありますよ。注文した時点で父上の好感度が下がるであります」


「それじゃあ要らないわよ!

 しかし、話戻すけどガラスが割れたくらいで零が驚くわけ?」


「あのガラスは破損すると爆発する仕組みになっているのであります。

 そこで姉上の事であります。驚いた事にして渡り廊下をお菓子にしてもホーク卿に怒られないと判断したに決まっているであります」


「アイツ、お菓子を中心に世界が回っている事にしようとしてるものね。

 タケル叔父様の娘としてどうかと思うわよ。

 だって沙羅とタケル叔父様とリィおじい様ほど素敵なヒトがいないんだしさぁ!」


「ミラ、姉上を悪く言うのはやめるであります。姉上は自分やミラ程度なら情け容赦なく切り捨ててお菓子にしかねない自己中さがあるであります」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」


「それは要らないであります。

 もうすぐレラの店がクリスマスタイムセールをするので、自分は姉上と父上に見つからないうちに移動するであります。

 ミラまた来年であります」


「え?」


 カウンターの上に金貨を一枚置く沙羅を見てミラの時間が一瞬止まった。


「あの、蛇さん…」


 耳を伏せたタケルくらいの長身の人狼が、毳立(けばだ)った尻尾を股に挟んでおずおず沙羅に声をかける。


「はい。なんでありますか?

 店長陛下」


 沙羅は臣下の騎士が主にとるがごとく、優美に膝をつく。


「零ちゃんとアルバイトさんは来ないんですか?」


 ガクガクブルブル震えながら人狼の喫茶店店長は沙羅に声をかけ、ミラの口から「は?」と言うかなり不機嫌な声が漏れた。


「そこは自分は把握してないであります。申し訳ございません」


「あ、あのう。暴れないでね。

 いきなりお店が雪で覆われてね。そのね。

 どうしたらいいのかと、思ってね」


「ミラなら発火する前に自分が店外へ連れ出すであります。

 この喫茶店を覆う雪の件でありますが。来月の二週まで溶けない指示を出しているので、普段通りに過ごすといいであります。出入りは普段通りにドアから出来るでありますし、入口付近なら雪が積もらないように魔方陣を設置したので、普段通りに過ごせるはずであります」


「蛇さん、もしかして良い人?」


 ミラの視界では、おどおどビクビクの人狼店長の正面でキラキラ王子様フィルターがかかっている沙羅が無表情でラブラブ光放っていて眩しい。

 それにミラが知る限り、青玉(サファイア)並みに沙羅は問題を起こさないという天使よりも善良な精霊である。

 「ハゲ」とか「変態」や「服を着ろ」などと王都に住んでいる人間達に拒絶されるミラ付きの紅玉(ルビー)と大違い。


「だいたい服が欲しいって言うから、アタシのEカップのブラジャーあげたら怒るのよね。紅玉(ルビー)


 ミラや紅玉(ルビー)である愛と炎を司るエリート階級の熾天使(セラフ)は、瀕死でも発火すれば完全復活するが、着衣は普通程度の耐火布では焼失してしまうため、かなり高額なマジックアイテムである耐火布を使った着衣を身につける者も多い。


 エリートだからアララギの側近とミラ付きを兼任する紅玉(ルビー)は、その二人の王族の予算から給与を支給されるで、毎日元気に家屋破壊をやらかし借金を作る王族から支給される給与は銅貨0枚どころか、減俸のために借金増加な上に休日がないという負のスパイナル。故にブーメランパンツのみな制服のまま、私服を用意することなどできない。


 そんな紅玉(ルビー)を哀れに思い、ミラの体型に合うAカップのブラジャーの上に身につけている偽装用のEカップのブラジャーを融通したところ、シンの部屋まで延焼するほど紅玉(ルビー)にミラはキレられて、紅玉(ルビー)の額にチョロリと生えてる大切な赤毛を毛根ごとシンにむしられそうになって、紅玉(ルビー)の心が死んでいたっけ。


 などとミラが回想している間に、沙羅は喫茶店から消えていた。


「え?

 なんでアタシが縛られているのよ?」


 雪が覆われた地面の上。鎖で捕縛されていたミラは、赤い長弓に矢をつがえるホーク卿の姿になにやら恐怖を感じる。


「沙羅姫様が火事を出さぬようミラ姫様を帰宅させよとの命令を賜りましたので」


 鎖の先は長弓につがえられた矢に繋がっている。


「えっ。待って!

 お願い!

 音速飛行は呼吸ができないのよ!」


「呼吸する間もなくお部屋へお送りいたしますわミラ姫様。

 では、ごきげんよう」


 ザリザリという音を立てずに地面を引きずり発火しながら、ミラは己が朝切り開いた道から空中へと飛び立つ。それを躓いても転んでも健気に「ゴオォォ」という轟音が追う。


 鎖を通してミラを引きずる矢は前方回転しながら変形し、矢尻は頭に。亀裂が入った軸は手足が生えたかのように五体へと姿を変えている途中で、大車輪飛行するミラを上下の窓枠にぶつけながら、矢は発射から1秒も経過せずに学習机の前の石壁に突き刺さった。


「あら、失敗致しましたわ。

 ロボットへの変形後のポージングまで王都上空におりませんと、殿方へのBL同人誌広告にはなりませんものね」


 ホーク卿の呟きが聞こえたタケルとワシントン卿は、そんなホーク卿が書いたアララギ王×リィ教皇BL同人誌を読む気が全くない。


 頭から石壁にはまりに行った矢から遅れて200キロメートルランを終えた轟音は、アララギ城に勤務するブーメランパンツ1枚の筋肉天使達に温かく拍手で迎え入れられたが、サインを拒否して音速旅客機コンコルドもどきへと変形した矢に跨がって帰って行ったのだった。

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