13・双子姫推しアピールしたら魔力の完全回復したぞと独裁者は思ってた
「うー、尻が死ぬ」
鉄パイプに座って頂上が標高8000メートルの霊峰タケル岳中腹から、湖畔の繁華街方向へ飛行する女子中学生魔女のレラは、掴んでいる両手と尻を襲う鉄パイプの冷えと痛みに耐えていた。
「アタシに魔力が潤沢にあれば楽勝なんだけど。沙羅より魔力はあるし、零より魔法が使えるとは言え、ミラ姉ぇよりかなり魔力が低いんだよな。
うー寒ッ」
夜空になるけど、青空セールするなら物質移転を魔法で実行すると色々楽ができる。
「シン兄ぃは何処にいるんだか。
いつもの喫茶店にいないし、年齢詐称しようとして繁華街隣の風俗街で黒服につまみ出されてる様子もないし」
魔力充填をサボっていた魔力式万年筆は、授業のノートへの書き込みで使ってしまって、魔力カートリッジは残り1つを切っている。
シャープペンシルの芯をケチるんじゃなかったと、微かにレラは反省はするが、三つ子の兄であるシンから魔力を貰えばいいやと反省を遠くにぶん投げた。
因みにレラが魔力充填をして貰いたそうな様子を見せたら立候補しそうな、レラの姉のミラと従姉妹の零には頼めない。
この二人は全力で魔力を放出し、一般的サラリーマンの月収より高い単価のレラの万年筆カートリッジを過去に数百連続個爆発させやがったからだ。
風を切って元大神殿上空近くまでレラが飛行すると、大量のオリハルコンが見えた。
「零の餌専用かよ。万引きできねーな」
これ全部売っ払ったら、敵対国に核ミサイルとか戦闘用ゴーレム初心者組み立てキットを定期的に売却している年商より、金貨ザクザクな儲けなのにと恨めしく思いため息をつく。
「シン兄ぃもたまにこんだけのレアメタル貢いでくれればいいのに」
イマジナリーシンが『あのさ、それやった時にワシントン卿とホーク卿にレアメタル市場や為替相場荒らすなってめっちゃ怒られただろ!?』と抗議したが多分気のせいって事にした。
レラ自身も大打撃を受けた恐慌の原因がレラ自身のおねだりだったという事実は、記憶から強引に捨てたのだ。
どっちにしろ、黄金の比ではない超重量のオリハルコンを万引きするとなると、これから使おうと計画している魔法込みで今のレラでは魔力量的に不可能だ。
「しかし欲しいな。これ。アタシにシン兄ぃ程度の怪力があればいいのに」
『ナニ言ってんの!?
俺の腕力でも1億トンが限界だって!
筋力がいけても、骨折するの!
俺のオリハルコンの骨格は、実用向きじゃなくて鑑賞と交尾重視にオヤジにカスタマイズしてもらってんだから!
魅惑魔法をマスターできたら美少年のブラジャーからミサイルまで、なんでも交尾するの!』
レラの心の中のイマジナリーシンが、なにやらゴチャゴチャうるさくて、イライラしてくる。
「あー、イラつく……」
ふと、モコモコとオリハルコンが動いた。
「ん?」
上下にモコモコと動く大きなオリハルコンの欠片。重さにしたら1個百キログラムの隕石リンゴ詰め合わせコンテナ、1億トン分くらいだろう。
「レラちゃん!
なんでアタシとリィちゃんを助けないのよ!」
どっこいせー! とオリハルコンの欠片を担ぎ上げて、マッスルポージング三種をする巨大な体をもつ厚化粧筋肉だるまな変態に、レラは最大魔力出力で風系攻撃魔法のトルネードを放つ。
従者の風が心底面倒くさそうな顔したシルエットで二人に分裂して、一人は釘バットを構えてアララギの周りを走り、もう一人はアララギの正面に立つ。
「貧乏神死ね」
アララギの周りを高速周回する風が、釘バットでアララギを滅多打ちし。正面に立つ風は、吐き気をこらえている気配で防御力が一番弱いアララギの股間をめがけて釘バットで滅多打ちする。
「アタシは貧乏神じゃないわよ!
美と生命の神のアララギちゃんよ!」
性的快感で身をよじるアララギは、気持ち悪い物体でしかない。
「うるせー変態クソオヤジ。
貧乏神を卒業したかったら、毎日莫大な借金作るんじゃねーよ。一般的大富豪程度に日銭稼げ。
あと服着ろ」
「ヒドイわ!
それでもタケルちゃんの姪なの!?」
「あのな。アタシを育てたのはお前でもあのおっさんでもねーんだ。
ホーク卿と青玉と、多分ワシントン卿なんだよ!」
「ええまあ、アタシはレラちゃん達を卵で生んだけど。確かに育児はしてないわね」
「自覚したんなら、瓦礫に埋まってろ。アタシが寿命で死ぬまで出てくんな。
ずっと埋葬されてろよ」
「嫌よ!
それじゃあ誰も気持ち悪いって眼差しでアタシのテラテラした筋肉を見てくれないじゃないのよ!」
攻撃のターンが終わって一人に融合した風は、アララギの従者のホストなシルエットの波に、頭をポンポンハグで慰められるしかなかった。
滅茶苦茶頑張った。タケルの従者の黒ギャル女子高生シルエットのダークマターから瓶入りフルーツ牛乳をもらって、ガラス部分にストロー刺して飲むしかないほど頑張った。
厚紙の蓋が開けられなかっただけである。
「見せんじゃねーよ!
バカ!
変態!
服着ろ!
ブーメランパンツの股関を指差してアピールすんな!」
「あん。もっと罵ってぇ!
気持ちイイのぉ!」
大根おろしを相撲取りがするちからみずという塩まきのようにぶん投げている『刺身のツマ』の刺青を背負ったマンドラゴラ大根がレラ瓦礫の影にいる。
「ウチの変態はミラ姉ぇとシン兄ぃだけでもキャパオーバーなんだよ!
一生その大神殿の瓦礫から出てくんな!
変態教皇と仲良く封印されてろ!」
「レラ…いいか。
余の変態性とリィの変態性は全く違うんだ。
そこはよく把握しろ。
何でもかんでも変態だからとヒトククリにして、感情的に攻撃するのは良くはないな。
リィは攻撃される事に慣れていない吸血鬼だ。いわばチンパンジーより狂暴な霊長類だ。
人間の顔面を生きたまま食べた事例もあるチンパンジーより、人間を食糧としているリィの方が狂暴だし筋力もある。
いくら軍の運用が下手で、エエカッコしいのナルシストで天使を雇用しても1日で退職されるほど人望がなくて、ちょっとムカついたくらいでハゲる呪いを大盤振る舞いするしかない残念若作りな、巨乳乳幼児と交尾したがる変態とはいえ、タケルちゃんが数千年片思いしていた残念男だ。
レラ程度の魔力と身体能力では、リィに手加減なしのグーパンチでトマトケチャップにされるか、外見三十代半ばの渋い色男なタケルちゃんと交尾できる許容範囲の中だと、レラはタケルちゃんより好みがストレート真ん中よりだからリィに求愛ダンスされるぞ」
アララギが裏返ったハイテンションオカマ声から、急に落ちついた低いイケボでゆったり話すので、レラの時間は一瞬停止した。
「オヤジ、なんか悪いモノでも食ったのか?
交尾交渉するシン兄ぃ程度に気持ち悪いというか。キングオブ汚物から、買ったばかりの靴で踏みたて犬のウンコ程度に嫌悪感が和らいだぞ。
それにあの老害クソジジイは求愛ダンスなんてしねーよ。ひたすらウザくて気持ち悪いだけだ」
カタリとオリハルコンの岩が動き、オリハルコンの数百キログラムの小石が転がり落ちる。
「なんなのですか貴方達は!
なぜ私の悪口を言うのです!?」
存在感を抹殺しているタケルは、リィの真ん前で『全て事実だぞ』と書かれた扇子で険しい目元まで顔を隠しつつ、スポットライト型ブラックライトをリィに向かって照射して、豪華っぽい宝石ギラギラ僧衣に飛び散っているタケル自身の血痕をルミノール反応の青い光で浮かび上がらせる。
「犯人のぉ昼ごはんの食べこぼしが零ちゃんょり多ぃのですょ」
鳥打ち帽にトレンチコート、チョコレートシロップを装填したパイプという名探偵コスプレをしている零が、オレンジに染まった太陽光をリィの後頭部へと虫眼鏡で集約して当てている。
「いや気づけよ。マジで」
レラが疲れきった小声で呟くのも無理はない。
リィの後頭部が1分で着火しないので飽きた零が、キイィィィ! という凄まじく生理的に嫌な高音を立て、リィの周りを囲む円をチョークで描き、タケルから『↑老害』と書かれた扇子を受けとると、漁師姿の沙羅が鮭マーメイド零をお姫様抱っこしている双子姫アクリルスタンドに立て掛けて立てる。
「レラ姫!
気づけって何をですか!」
「汚えな。唾飛ばすなよじいさん。
そこにいる自由すぎる連中だよ」
「私の唾は汚くありませんよ!
それに私ナウいヤングなので若いのです!」
「いや、普通に血が混じった唾は汚ねーぞ。
タケル叔父さんの血液になにが混じってんだかわかったもんじゃねーし」
『本日のタケル様の血液の主成分=大根1(血液用漂白剤として)、砂糖1、みりん1、赤色1号(食紅)微量、処女の生き血タイプ生理食塩水5、ダークマター2(アレルギー物質消滅剤として)。
その他=プルトニウム(タケル様のおやつ用)、最高級品質ダイヤモンド粉末(アミュレット補修材として)、洗濯用洗剤おまけの金銀パール(うっかり製造ラインへ落としました。申し訳ございません)。
賢者の石製造ラインで加工したため特定指定金属オリハルコンやミスリル銀や竹の子型ホムンクルスが混入している場合がございます。ご了承ください。ホーク卿』と書かれた巻物がタケルの手によってレラに手渡された。
「なんでコレでルミノール溶液が反応すんだ?
血液中のヘモグロビンが含まれてねーだろうが」
背中に『刺身のツマ』の刺青を背負ったマンドラゴラ大根が、セクシーな雌豹のポーズワイプでレラの背後の川の流れに乗り、アララギ湖へと流れて行く。
考えてもタケルに沙羅の軍服を着せて軍医コスプレさせている零の自由さと、アララギの腰ふりは収まらないのでレラは考える事をやめた。
「ですから!
私の唾は聖なる教皇の唾なのです!」
「うるせー。誰の唾だろうが、飛んできた唾は変態と子育て中の親以外にとって汚ねーんだよ」
パタタと犬鷲の黄金の光沢がある翼をはためかせてアララギ神殿からシンを「とったどー」と捕獲してきたタケルは、シンの口に竹筒のコップを強引に差し込み、普段は出していない上顎の鋭い牙から毒液を抽出し、アララギへ竹筒のコップを渡す。
「とっても美味しい毒液だわ」
「コレのどこが唾が汚いと言うのですか!」
輝く笑顔でシンの毒液を飲み干すアララギを指差して、リィは訂正しなさいとレラに圧をかけようとする。
「アララギちゃんゎぃっも変態なのですょ」
「零が言うように、ウチのオヤジは年中キングオブ変態でしかない」
「兄者が変態なのは紛れもない事実だが、それ以前に兄者は毒が大好物なド変態な悪食を数千年やっておるのを忘れるなよリィ」
リィ教皇による圧かけ失敗です。
「ちょっとタケル叔父さん!
純真無垢に無責任かつ自由きままに交尾がしたいだけのピュアな美少年になにするんですか!
責任とって風俗店使い放題無料パスを発行してください!」
「めんどくさい上にウチの姫達の好感度が上がらぬから却下だシン」
「チッ!
めんどくさいの壁が厚すぎる!」
「もしかして私は女子中学生間で交尾したいナンバー1イケメンではないのでしょうか?」
「普通に足首をスケベな視線で舐めるように見るくせに、紳士の皮を被ろうとする姿勢が気持ち悪い」
「零ちゃんのパパぉ恋人と言ぅのに、零ちゃんのぉっぱぃしか見ないところと。沙羅ちゃんぉエッチな目で見るところが常に気持ち悪ぃのですぅ」
「ねー」と通じあう二人の女子中学生の言葉にリィは絶望し膝をついた。
「リィ。気にするな。
リィの交尾が独りよがりで下手な所や、全く良くないのに演技したら自信満々で図にのる所が愛しいと思うぞ」
「タケル叔父さんもそう言ってるんだから、このプハラ1の美少年の俺に腰が破壊される程度に抱かれちゃいなよ」
「悪気ないのはわかるけど、貴方達リィちゃんにトドメを刺しまくってるわよ」
「うるさいですよアララギ!」
チラチラと女子中学生二人の胸部と足首を舐めるように凝視しつつ同情を買おうとしているリィに八つ当たりされたアララギは、股間を指差していた人差し指を口元にあてて、「いいな」と子供と姪の三人による蔑み目線がうらやましいと呟いた。
急いで紺を纏う空。月と一番星と星間連絡船特急大空羽ばたく魔法のエンゼル☆セクシータケル号と一番星の空の下。
「イケね5時からタイムクリスマスセールしねーと」
レラは呟いて魔力不足を思い出した。
「タケル叔父さん、俺魔力無いんだけど地獄どうします?」
「シン。地獄がどうかしたのか?」
「地獄を大掃除した後にご苦労様会して冬季大型連休に入るじゃん。
そこをご苦労様会をした後に庁舎を新しく作れば大掃除する手間が省けるんだけどどうするか相談したくてさ。
緑柱石のとこ、過労のせいで機能停止したし」
警察省職員が、机の下の足湯をスーパー銭湯にまで進化させたため。銭湯オプションのサキュバスコンパニオンの出前を頼みまくり年齢指定サービスを受けてる最中に子供連れで妻が職場見学に来て修羅場が発生したり。酒を飲み過ぎて急性アルコール中毒。そのためアララギの全回復キスに怯えて居留守を使って、銭湯併設の脱税ぼったくりバーのわんこ迎え酒で「はいじゃんじゃん」と言われている様子をタケルは思い浮かべる。
「新築した方が確かに面倒にはならぬな」
サキュバスハーレムを注文していた警察官元へ、間男との子供を連れてやってきた彼の妻は、火力高めの艦隊率いる大佐で、破壊の申し子だったなとタケルは顎を撫でる。
あの大佐が遠征中部下達と不倫しまくってる事がバレたとしても、省庁庁舎『通称地獄』が倒壊する宿命は避けることはしないでおこう。うん。
やったね零姫。おやつが増えるぞ。
それを聞いてしまったレラは「はあ!?」と声を上げた。
「ちょっとアタシも魔力不足なんだけど!」
「わかってるよ」
「知っておるが」
「バレバレなのですぅ」
「知ってるけど気にしていなかったわ。全魔力回復キスする?」
「しねーよバカオヤジ!
それより零とオヤジ以外の誰か魔力頂戴!」
「そう言われてもな…」
タケルは『私がおります!』と絶望のためうつ向いたふりしてレラの足を鼻息荒く見つめているリィを、ヤクザ組織の殺し担当な顔で見つめて『やはりリィは顔がいい』と頷く。
「あのな。零と沙羅に頼むのが一番ローコストで確実だぞ。
今リィじいさんとオヤジがいるからタケル叔父さんと裏取引しにくいけど、零を通して沙羅に依頼すれば、手持ちの菓子かコンビニか銅貨均一や地獄玄関特設屋台のご縁チョコ1袋で手軽に済むし」
零の顔に『ぉ菓子と引き換ぇに沙羅ちゃんに丸投げするのです』と書いてあった。しっかりと。
「シン兄ぃ…魔力あるだけ頂戴」
「だからリィじいさんとオヤジがめんどくさいからムリだって。俺魔力譲渡の免許とってないから。
俺の魔法と魔力系免許の数はミラどころかレラ未満だぞ。業務に必要な最低限しか取ってないんだって。
タケル叔父さんに許可求めるにも、副将軍まではいかないけど、タケル叔父さん配下の高官の許可が必要なの」
「レラ。わがままはいかんぞ。
レラが可愛らしく胸を好きにして良いと肋骨と内臓を破壊される覚悟を完了してリィにおねだりするつもりや、リィとの会話を十時間トイレ休憩なしで聞き入る覚悟がなけr…」
「ムリムリムリムリ!」
シンは「だから千歳越えの高齢者の相手はめんどくさいんだってば」と頷いて同意する零の隣で呟く。
「あー、もー仕方ない。
レラはコートのポケットの中に零を入れる用意と沙羅を探す支度しとけ。俺は菓子を買って来るから。
零は魔力タンクと沙羅への根回し頼む」
「えっ、シン兄ぃ。沙羅は魔法が使えないんだけど」
「魔力タンクのタケル叔父さんや零がいたら魔法系に関してはプハラで一番の魔法使いだぞ。魔方陣学の権威だし」
「沙羅ちゃんゎ魔力が無いだけなのですょ。魔法免許は全部持ってるのですぅ」
「それに地位ならオヤジとタケル叔父さんより上だぞ。
教皇直属の剣聖将軍だから」
シンはそう肝心な事を言わずに省庁庁舎ビルの福引き会場へと走って行った。
「魔法使いって…つまり神どころか天使や悪魔より魔法が使えねぇって事だな。精霊としてはどうなんだ?」
「沙羅ちゃんですか?
んと、ぉ風呂に蹴り落とされて、無表情でもがき苦しむ演技を真剣にしたがる、ダメダメ水の精霊ですぅ」
「あいつ…よく絶望しねーな。
種族特性完全否定してんじゃねーか」
沙羅は、リィも含めた血族関係と職業に関して絶望しており。願わくばそれらを全て捨てて犬を飼っているお笑い芸人として、天井まで犬のぬいぐるみが詰まった部屋のこたつの中から出ずに一生を終えたいという野望も持っている事をレラは知らない。
「沙羅ちゃんゎタケルパパに生えた時からそういうコなのですょ。
先に実った零ちゃんゎ覚えてるのですぅ」