12・惑星に存在する全ての通貨より赤札に書かれた金額の方が上です
崩壊した大神殿の瓦礫をオリハルコンに変化させて、『零のお菓子用』の看板を立てたシンは、紫水晶と共にアララギ神殿へと向かう。
「これでも足りないんだよな」
「そうですね。今日殺した人間を一族郎党全て殺す事にして、その死体も零姫様のお菓子用にしちゃいます?」
「あのな紫水晶。零はハリネズミという肉食獣だぞ。
食べてよしすれば、人間の死体もそのまま食べれるんだぞ。お菓子もらえなくなる可能性があるから、食べないだけで」
薄暗い廊下に面した『なんにもするな課女王様室・室長 ミラ』のプレートが貼られたドアをシンが開けると、そこは赤絨毯に純金の壁とシャンデリアに覆われた、芸術品ばかりの窓際部署だった。
可愛らしいピンクの花柄の生地を使った座面と黄金で部屋との調和を図った、ザッと見て金貨百数十枚以上すると思われる豪華な乙女チックソファーと、ソファーとセットな白い大理石と黄金のソファーテーブルは、零が情け容赦なく菓子にして食べれるようにと、ホーク卿がレラに銀貨4枚という鬼畜価格でシンの三つ子の姉であるミラ好み仕様に特別発注した製品。
もちろん孤独にレラが手作りしたクッションを金属製造魔法を使って組み込んで作ったのは、シン1人。報酬は銅貨均一女性用ショーツ1枚。
「とりあえず油絵を額縁に入れるか」
「この暇に任せてミラ姫が描いた沙羅姫様とタケル様とリィ教皇の油絵の数々をですか?
わざわざ壁から外して?」
「うん。かさ増しは大事だよ。
額縁と油絵をウエハースチョコレートサンドにしたら食感が違うし、零の魔法でお菓子にならないようにデフォルメ沙羅ちゃんシールを魔力弾く処理して同封したら駄菓子っぽくて、零とタケル叔父さんが喜ぶかもしれないよな?」
「うわっこの悪魔鬼だ!
タケル様と零様に逆らえないミラ姫様を本気で泣かすつもりだ!
ウケる!
腹の腹筋割れるぅ!」
「元から紫水晶の腹筋バッキバキに割れてるの俺知ってるし。
で、純金の棚は強度が心許ないから、オリハルコンに金メッキ処理して補強してと。棚の中に三人の像と、ミラに拷問される俺の像も詰めて、ダブルピースアへ顔タケル叔父さん像も隠しとこ」
シンは腹を抱えて笑っている紫水晶を軽くスルーし、魔法を大盤振る舞いして、オリハルコンの金メッキ像をポイポイ創る。
「ナニその神像!
あり得ない!
ワシントン卿が国庫にしまい込み兼ねない!」
「紫水晶、涙出してまで笑うなよ。化粧が崩れるって」
「あ、いけね」
「えーとあとは…」
シンは腕組みしながら、顎を右手の親指と人差し指の第二関節で挟んで、ますますミラ好みになった部屋を見回すと、ワシントン卿とタケル総理大臣が、ペタペタと『差し押さえ』の赤札をミラとシンが作った芸術品に貼りまくっていた。
「あの、零のおやつを仕込んでいるから、差し押さえやめてくれないかな?」
「プハラ政府としては、差し押さえの品が消失しても時価相当の金額に紛失ペナルティとして時価10倍の金利を上乗せ請求するので問題ありませんな」
ワシントン卿はアへ顔ダブルピースタケル神像を手に持つと、時価金貨5000兆枚と記載した赤札を像に貼りながら、問題が無い旨をシンに告げる。
「いや、それやられたらミラが灰になっちゃうよ。ミラは俺の大切なオモチャなんだから、俺を全力で殺しにこないとおちょくっても楽しくないから優しくしてあげて。ミラは隠れドMだけど」
「兄者に蘇生治癒回復キスさせれば問題ない」
リィの油絵に『指輪に隠れている処理し忘れている指毛も忘れずに描くように心がけるように。さすればリィのズボラさが表現できて金貨1億枚分の価値が上がるぞ@タケル』と書いた赤札を貼っているタケルが、軽く言う。
「それ以前に、プハラ貨幣が流通してる以上の借金をミラに背負わせるなよ。あれでも借金を払おうと色々やらかして面白いんだから。
借金慣れしたら面白みが薄れるって」
シンの言葉にタケルとワシントン卿の赤札に自由気ままに記載する手が止まる。
「ミラから面白みを取ったら何が残るんだ?
ワシントン卿」
「トラブルメーカーと美少女天使と……はた迷惑な元気さと、両耳の上の大きな赤いリボンだけですな」
紫水晶は「何も変わらないか」と赤札ペタペタを続けるミニスカナースJCタケルちゃん万年筆を持つワシントン卿と双子姫小筆を持つタケルを無視して、姫様ソファーに寝転がって温泉旅行ガイドを眺めるのだった。