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11・ドラゴンフライはトンボです。揚げ物料理や米菓ではないです

 校内放送の予告音がして孤独に掃除当番をしているレラはスピーカーを見上げた。


「レラちゃんいつもより変よね」

「王家って掃除当番をたった銅貨一枚で引き受けるほど貧しかったのかしら」

「そんなに自販機の缶ジュース飲みたかったのかな」


 大神殿崩壊を告げる中学校スピーカーに全校生徒は「またか」と思い、掃除している生徒は中断し帰宅を速める。


「レラちゃん机戻すのだけ手伝うね」


「いや、金もらった仕事だからキッチリする。これでも自営業してるから」


「あ、うん。気をつけて帰ってね」


「気を付けるもなにもウチ、中学校の隣だし」


 レラの自宅であるアララギ城はアララギ湖中央に建っており、そのアララギ湖から伸びる川の支流岸の王家所有の隣にこの中学校が建っているので、200キロメートルと少し離れているといっても、中学校はレラ達の自宅の隣になってしまう。


「レラちゃんまた明日」

「ごきげんようレラちゃん」


 手を振って帰って行くクラスメートにレラは小さく笑顔で手を振って見送ってから、黙々と魔法具でもある通学鞄からプロ御用達の掃除魔法具を取り出して不敵に笑う。


「フフッ。だてに魔法具店を経営してると思うなよ。ウチの店はアタシとシン兄ぃという二人の天才錬金術師を抱え込んでるんだ。

 生活用水から核兵器までなんでも販売している個人経営店をなめんな。アタシが作るマジックアイテム以上の商品など存在しねーんだ!」


 レラは世紀末の崩壊する世界で闊歩(かっぽ)するトゲトゲショルダーモヒカンザコそのものな高笑いをしながら、夕陽を浴びて空を飛行する茜色のドラゴンフライを謡った童謡のどこかしんみり寂しげで美しいメロディーをオルゴールで奏でる乗三輪バギー型魔動掃除機に乗り込み、徒歩速度くらいの進行速度で丁寧に操作して同時にワックスがけを素早く済ませる。


 掃除や洗濯などの炊事以外の家事をして現実逃避するくせに、部屋が汚いところは沙羅とレラは誕生日が同じせいかよく似ている。仲は良くないけど。


「はあ、やっぱタケル叔父さんやリィじいさんの魔法アイテム製作能力には程遠いか。あいつらキモいけどそっちの能力高いのに、商品製造を全くしないんだよな」


 ホウキとモップで掃除していた時と比べて驚きの美しさに仕上がったものの、理想の仕上がりまでの遠さにレラはため息をついて、三輪バギーに付属している重力魔法をアシストにして、床から浮く椅子を積み上げた机を指先で摘まんで誘導し、手早く並べて行く。


「レラ君なにやってんだ?」

「先生、掃除当番ですけど」

「いいから早く帰りなさい。

 君も一家を支える社会人ならわかるだろうけど。大神殿が崩壊したという速報が流れたから、敵対国と繋がっているマスコミがやって来て、どうでもいいインタビューされるぞ。

 あいつら欲しい情報に編集して報道するのが目的だから、しつこく取材されるし、事実無根な事を言った事にされるから早く帰りなさい」

「あー、確かに面倒くせーわ」

「このまま冬休みになるから、また来年な」

「はーい。先生も良いお歳をー」


 通学紺コートに袖を通したレラは、通学鞄に三輪掃除機バギーを放り込んで、鉄パイプを出して右手で掴み、校門へと走る。


 商品名がハイジャックという白いワンボックス馬車が校門を突破して走り込んで急停車し、崩れ落ちるサラブレッドを無視して取材班が馬車から降りて来る。


「チッ」


 レラは通学鞄の持ち手に左手を通すと、紺色のロングコート越しにミニスカセーラー服の尻に鉄パイプを当てて上空へと舞い上がる。


「風、見ろよ。まるで人がクズのようだ」


 レラと従者として併走飛行していた和彫りの昇り龍柄のダブダブジャージを着て長い前髪をカチューシャで上げた男子大学生なシルエットの風が、SNSアプリのレトルトを見た姿のまま『そうっすか?』という気配を出す。


 校庭へと突進して来た白いワンボックス馬車とは別だが、同じ形式の馬車がレラと先ほどまで一緒にいた女子中学生三人を無理やり引きずり込もうとしている。


青玉(サファイア)来い!

 風よ刃となりてあの白いワンボックス馬車の屋根を切り裂き、車輪のビスを均等に緩くしろ。ウインドカッター!」


 釘バットを担いだシルエットの風が、心底面倒くさそうに『わかったっすぅ』という気配で白いワンボックス馬車へと向かう。


 レラが高く上げて振り下ろした右手から風魔法が発動され、白いワンボックス馬車の屋根を風が釘バットで切り裂いて、朝、レラの姉のミラが作った瓦礫の山の上へと吹き飛ばした。


 レラのクラスメートとその女子中学生を誘拐しようとしていたマスコミから悲鳴があがったが、レラはヒューヒュー音が出ない口笛を吹いてごまかす。


「レラ様どうしましたか?」


 白いペガサスに跨がった、サファイアブルーのツーブロックヘアーのカツラに同じ色の瞳。そしてハイブランドのシャツとスラックスを身につけた孔雀の羽根を持つ長身イケメン筋肉天使が駆けつけた。


「おせーよ青玉(サファイア)

 とりあえずあのアタシの同級生三人を助けて、後始末をしろ」


「後始末というと殺処分と死亡届け提出ですか?」


「あん。殺処分?

 現行法的に簡単には殺人はできねーだろ?」


「それが、今日タケル首相がうっかりミスを装うなら殺人を無罪にするって発令したんですよ」


「マジあのおっさん何考えてるんだ?

 この年末のクソ忙しい時に。こっちは年末調整や源泉徴収票の手配と冬のボーナス支給。あと確定申告準備やクリスマスと正月セールと冬休みの宿題と零の学習面でのサポートもあるんだぞ」


「それが『地獄』がデスマーチ中なので、国民を減らして仕事を減らす方針に切り替えたみたいです。スタンピード予報もありますし」


「公務員ってサイコパスとポンコツしかなれんのかよ……。

 まあ、いい。考えたら疲れるから青玉(サファイア)に丸投げする」


「御意。レラ姫様お任せあれ」


 レラは生ぬるい目で、三人の救出された同級生の目がハートになる様子と、青玉(サファイア)の魔法による脳出血で突然死する誘拐犯の最期を見つめる。


 いくらカッコヨク見えても身長2メールの青玉(サファイア)はハゲで、ミラ付きのパンイチハゲ紅玉(ルビー)と色違いだけどそっくりな双子の片割れなんだけどと、白目になっていく。


 手首と筋肉質な腕が少し出ているまくりあげた裾とボタンを3つほど外して胸板を見せている白シャツと、その下のベルトと黒スラックスと靴も、レラが選ぶのがめんどくさいからシンの発注を受けた時に、ついでにサイズ違いで取り寄せた衣類という手抜きさ。


「どこがカッコいいんだぁ?」


 ミラのヤラカシで説教を受けるミラと、ミラを止める事ができずに説教を受けて、ワシントン卿とホーク卿の前で、号泣しながら土下座で謝り倒す炎の翼を革靴や草履で踏みにじられる紅玉(ルビー)のイメージが強く。アララギ王直属パンイチハゲ筋肉天使隊の中だとその他大勢として消えてしまう青玉(サファイア)の中身も、紅玉(ルビー)と同じなんだけどと、レラの気が遠くなる。


 救急馬車でマスコミの死体を搬送。その馬車を目で追うレラは、スタンピードが起こるタケル岳中腹から、中学校校門前の駐車場を経由して自分の店がある大通りまで一直線に道が出来ている事に気がついた。


「ミラ姉ぇが作った道を利用してもバチは当たらないな」


 レラはそう呟くと、単身赴任の魔獣達が仕事納めの為に集結しているコンベアー式流しクリーチャー生野菜食べ放題祭り会場へと、鉄パイプに横座りしたまま飛び立った。

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