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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
94/140

94 スコル一行

「よぉ、来たぜ」

「こちらへどうぞ。朝食の準備もできていますので、座ってお待ちください」


 アイカやフェルの件で色々あった翌々日、スコル一行が別荘の方に訪れていた。スコルの元に泊まった後のいつもの流れらしく、スコルの一代前の領主の頃からそうだったらしい。


「先日は色々ご迷惑おかけしてすいませんでした」


 改めて先日の件を謝罪する。ちなみに、昨日ノレアにしっかり怒られた。


「大したこたぁねぇよ。結果見ても悪くねぇとこに着地したしな」

「そうね。被害も無かったし気にしなくていいわよ」


 幸いなことに大きな問題なく処理できたらしく、快く許してくれたので大事には至らなかった。しかし、感情をちゃんと制御できるようになるなりして、暴走気味になるのは抑えていかなければならない。


「しかし悪ぃなぁ。朝から飯の準備までしてもらって」

「いえ、わざわざ来て頂いてるのですから」


 今日の朝食はスコル一行が来るというのもあって少し豪勢なものだった。量も多くいつもより少し早くから皆で準備をしたが、大変な分考え事をする余裕が無いのは助かった。


「スコルさんよぉ、また軽く相手してくれや」

「ほぉ、良いだろう。お前らぐれぇまとめて相手してやらぁ」


 食事中にブルースが言い出した。多分戦うつもりなのだろう。血の気の多いことである。


「はっ!言ってやがれ。今度はそう簡単には負けてやらねぇ」


 どうも前に来た時も戦っているようで、恐らく闘技場の試合だけでなく今の流れも恒例化しているのだろう。


「なんか言葉遣いあれじゃないですか?大丈夫なんです?」

「ああ、あれね、そもそも砕けた感じで良いって言ってるのよ。公式の場なら気使ってほしいけど、今プライベートだし。ノレアさんに関しては……あの人真面目だから」


 ブルースらが割と舐めた口をきいている横でハティが教えてくれた。


「うーし、行くか。ボコボコにしてやらぁ」

「舐めんなっつーの」

「今回はもう負けない」


 食べ終わり食器の片付けを終えると、戦闘狂連中はすぐに水着に着替え海に向かって行った。少しして、戦闘音が聞こえてきたのですぐに始めたのだろう。


「……見に行くか」

「そうだな」


 スコル一行の内、戦闘担当らしき者も少しだけ会話をしたのちすぐに海に出ていった。


「皆よくやるねぇ」


 少し遅れて着替えてきたニナが浜の方を見ながら言う。


「まだ怪我も治りきってないと思うんだけどね」


 まだ闘技場での試合から二日しか経っていないのだ。そこまで酷い重症者がいたわけではないものの、当然怪我は完治していない。


「まあ動けるって言えば動けるけど、あんなに元気に暴れようとは思わないわね」


 着替えを終えたハティもやってくる。私もハティも体にはまだ少し治療の跡があり、似たような状態だった。私に関しては体の内側に少し損傷があった分怪我は酷いが、魔者の体と差し引きして大体同じくらいだ。


「まあ、私たちは眺めながらゆったり遊びましょ」


 ハティとニナと浜に出ると、海の方では男連中が金属音や爆発音を響かせながらドンパチやっており、ノレアや一部のスコル一行のメンバーはパラソルの下で観戦しているようだった。


「そういえば仕事は大丈夫なんですか?仕事増やした身で聞くのもあれではあるんですが……」


 はしゃぐ男性陣を眺めながらハティに聞く。スコルも含めたメンバーで遊んでいるようだが、時々海が割れているのが見えた。


「ええ。アイカとかフェルの処理は昨日の内に大体終わらせたし、急ぎの案件も無いからね。まあ戦争近いし、最後の休暇になる気もするけどね」


 ハティは砂の山を築きながらぼやくように言った。死氷部隊がそうなように、戦争が近づいているのもあって休暇がとれそうにないようだ。


「ねぇウルカ、そのアイカって子どんな感じだった?」


 ニナは砂の山を少しずつ削りながら聞いてくる。事件に関係することはまだ誰にも話していないのだ。


「えーっとね……」

「別に問題ないわよ。機密とかでもないし」


 ハティの方に目線をやると、私が何か言う前に許可が出た。一応スコルを狙った暗殺者であったわけだし問題があるかと思ったが、特に無いようだ。


「良い子だと思う。昨日も後処理のついでに会って来たけど、なんか穏やかな感じで妹とゆっくりしてたよ。心配事も無くなって軟禁生活も苦にして無さそうだったね」


 私は少しずつ城に近づいていく砂の山を削りながら答える。山は人ひとりの身長を優に超える高さだ。


「へぇ……暗殺者って聞いたけど強いの?」

「あー、あの子素人だったよ。魔者だし強いのは強いんだけど、そこまでじゃないと思う。死氷部隊(うち)の戦闘担当なら問題なく制圧できるくらい。暗殺者としても完全に素人だったみたいで多分基礎的な技術も無ければ知識も無い感じだった」


 軟禁後にもスコルやハティが色々聞いたらしいが、本当に完全な素人だったらしい。訓練も受けておらず、口頭で少し注意点を伝えられた程度らしい。


「はぁ……そのフェルってのも無茶するもんだねぇ」

「うーん……さすがに考えくらいはあったとは思うけど」

「奇策に手出して大失敗した感じらしいわよ。本人が言ってたわ。ちょくちょく暗殺者来てたけど、それじゃどうにもならないと思ったんでしょうね」


 ニナが呆れていると、ハティから補足が入る。私は同席していないが、フェルへの尋問なども行っていたらしい。


「結局フェルって何がしたかったんですかね」

「領主になりたくてスコルを狙ってたんだって。まあ予想通りね。多分、暗殺に成功しても無理だったでしょうけど」


 まあ何ともありがちな話のようだ。国が変わろうが種族が変わろうが権力争いは変わらないようだ。


「無理っていうのは?」

「スコルが死んだら次代の候補は私とフェルの二強になるんだけど、人気と戦闘力で私が勝ってるし執務の能力も私と大して変わらなそうだから、スコルが死んだところでフェルは領主にはなれなかったでしょうね。昔スコルと正面から戦えてた頃ならまだしも、何か随分弱くなってたし」


 昔から知り合いではあるらしく、ハティは少しだけ悲しそうに語っていた。恐らく、性格なども変わってしまっているのだろう。


「領主の暗殺とか、成功した話聞かないよね。国が消しに行くってパターンなら成功してるの聞いたことあるけど、クーデターとか革命系の話で成功してるの聞いたことないや」


 ニナの言う通りで、歴史を見てもクーデターや革命の成功は少なく、暗殺によるものとなればさらに少ない。


「まあ優秀な暗殺者ならそんなものに加担するより国に属した方が安定するし儲かるしお尋ね者にもならないって言うのを分かってると思うし、人材の問題だと思うわよ?」


 うちに来たのもそんなに優秀じゃ無かったし、と続けたハティは、削りすぎた砂を足してもう一度山を削っている。


「まあ国にいる人の方が優秀なのはあるあるだしそうなんですかねぇ」


 暗殺者などニナしか知らないが、そのニナが言うのだから間違いないのだろう。


「そうね。暗殺者もそうだし、人類の冒険者みたいな制度は魔国(うち)には無いし在野の強者みたいなのも少なくなるから、やっぱり国の人材が一番になるのよね」


 人類の社会では、強者と言えば冒険者(在野)、と言った風潮さえあったが、魔国で出会った強者はほぼ国の者だ。国に属していなかったのはキナンくらいだろう。


「強くても稼げませんからね。軍に入らないと強さが活きないんでしょうね」

「まあ貴族とかの用心棒くらいにはなれると思うけど……私兵用意するような貴族なんてろくなもんじゃないし、良いタイミングで逃げないと一緒に滅ぶだけだからね」


 魔国の貴族は軍から兵を借りられるのだ。反逆の意思が無いのなら兵の維持費もかからないし得も多いが、反逆を企てる者も当然居るわけで、そういった連中は私兵を集めるのだ。しかし、在野の人材は質が低いわけで、反逆したところで国軍の量と質に圧し潰されるだけだ。


「アイカって子も、まともなとこで働けるといいねぇ」

「うん。妹も養ってるらしいし」


 アイカの裁判の結果がどうなるかは分からないが、執行猶予のパターンになった場合はすぐに働き口を探さなければならなくなる。魔者であることを活かすのなら軍になるが、それ以外だとどうなるかは分からない。


「まあそれは裁判の結果出てからで良いと思うわよ。一応私たちで軽くサポートするつもりではあるし、任せてくれればいいわ」


 ハティ達の方で色々手を回してはくれるらしい。折角姉妹二人で助かったのだから、まともな職場で幸せになってほしいものである。


「良い子だと思うし、まあ何とかするわ…っと、良い感じかしらね」

「そうですね」

「……こんな大きいのよく作ったね」


 しばらく会話しながら砂の山をいじっていれば、巨大な城が完成した。私の倍はあろうかというほどの高さであり、割と細かいところまで凝っている気がする。


「んー……ちょっと疲れたわね。お昼まで休みましょうか」

「別に動きまわってたわけじゃないですけど結構疲れますね」

「まあ戦闘とかとは必要なものが違うからね」


 大きく伸びをしたハティについて行き、新しくパラソルと椅子をだして三人でくつろぎ始める。ノレア達はまだくつろいでおり、男性陣は海上で暴れまわっている。


「ほんとによく動けるね、皆」

「一昨日動いたばっかでまだ疲れてるわ。私は」


 アイカとフェルの件で彼らよりも動いているとはいえ、私とハティはそれなりに疲れているのだが、彼らは体力が無尽蔵なのかと言うほどに戦っている。


「まああの人たちは戦闘が遊びとか趣味の範疇だからねぇ……」


 ニナが言う。戦うのが好きなのは、彼らの表情を見れば分かる。仕事ならいざ知らず、闘技場の時も今も笑顔で戦っている。


「……よく分かんないね、やっぱり」

「うん」


 その後は戦闘狂に少し呆れながら、その戦いを見守っていた。昼を食べた後も夕飯までまた戦っていたし、彼らは本当に戦うのが好きなのだろう。スコル一行は今日は別荘に泊まって行ったが、夜も遅くまで騒いでいてそこでも少し呆れられていた。

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