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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
87/139

87 テラ対ラーク

「ルアク!!しっ……!!」

「『ドウシテ』」


 斬りかかったラークの剣を現れた泥が受け止める。魔術名の宣言が無かったので非常弱い防御だが、変身の際にあふれた魔力と合わせて剣を一撃防ぐ程度の役割は果たせたようだ。


「さて…」


 変身の魔力の奔流が晴れると、テラは金に近い毛色に茶色が混じり、瞳の色も同様に変わっている。服も軽装だったものは消え去って変わっていた。


「【生呑沼(せいどんしょう)】!!」


 闘技場の地面は乾いた土の地面だ。その一部、ラークの足元が泥の沼地に変わり、泥が獲物に巻き付く蛇のように付きまといラークを沼に引き込もうとする。


「おらっ!!」


 ラークはパワーで強引に泥の捕縛を振り切り、泥の地面を脱し反撃にかかる。しかし、泥にとらわれた一瞬は、魔力を練るのに十分な時間を与えてしまっていた。


「【濁球】」


 テラの周囲にいくつかの茶色の球が浮かぶ。手のひらの間に収まる程度の大きさだが、込められている魔力は尋常ではない。


「【泥輪刃】!!」

「おっらぁっ!!」


 泥が穴の開いた円盤を成し、高速で回転しラークに迫る。しかし、それはラークの振るった剣から飛んだ斬撃と衝突し、相殺され消滅する。


「おらっ!!」


 ラークがもう一度剣を振るい追撃をかける。飛翔する斬撃は一直線にテラに向かうが、周囲を漂う泥色の球が斬撃を防ぐように動き、斬撃を受けて破裂する。


「ちっ…!」


 弾けた球からは、闘技場を埋め尽くすほどの泥が濁流となってあふれ出す。小さな球に押し込められた莫大な泥は、その重さと速さをもってラークを襲う。


「ふぅ…食らえっ!!」


 息を吐いたラークは、焦ることなく剣を濁流に向けて振り始める。ラークの神器、”ルアク”の真の力は、斬撃を飛ばすことではない。直接斬ったものを食らうことと、生物を食らった時にエネルギーを吸収して剣自身と使用者に還元することだ。高速で振るわれた剣は濁流を食らいつくし、それを握る者は敵を見据えて構える。


「よし……」

「ふぅ……」


 一瞬の膠着の後、向かい合う二人が動き出したのは同時だった。


「【泥人形(ゴレム)】!!」


 テラの背後に巨大な人の上半身のシルエットをした怪物が生成される。泥でできたそれは流動して体を歪めながら巨大な拳を振るう。


「食らえっ!!」


 複数の斬撃が飛翔し、後を追ってラークも駆け出す。泥人形はテラを守って被弾するが、即座に再生する。迫る拳は直接両断し、食らって片腕を消滅させる。即座に再生はするが、少しの間ができた。


「ふっ……!!」

「くっ…かっはぁっ!!」


 ラークは一気に距離を詰めて直接斬りかかる。テラは周囲に浮かぶ泥の球で防御するが、同時に剣から放たれた飛翔する斬撃をもろに食らってしまう。


「ぐっ…!食らえ!!」


 破裂した球からあふれる濁流を斬り食らう。食らうと同時に斬撃を乱射し追撃をかけ、テラに負担をかける。


「ふぅ……【泥の行進(マッドマーチ)】!!」


 濁流が止み、視界が晴れると、そこにはいくつか切り傷を負いながらも魔術を完成させたテラが居た。


「ちっ!!おらぁぁっ!!」


 魔術が完全に発動する前に邪魔しようと斬撃を飛ばすが、その前に魔術が発動してしまう。人と同じ大きさで人の形をした泥人形が、際限なく地面から生まれこちらに迫ってくる。斬撃は人形に阻まれテラには届かない。


「【濁蛇】!!」


 テラはさらに泥の蛇を生み出し、人形の軍勢に追加で増やしていく。一つ一つは大したことのないものだが、数と生成速度が尋常じゃない。斬り飛ばし対処はしているが傷は増える一方だ。


「ちぃっ……!!」


 迫る泥の軍勢を端から斬り飛ばし何とかテラの方へ進むが、斬る速度と人形の生成速度はほぼ同じで人形の方が少し速いくらいだ。中々突破できずにジリ貧に追い込まれる。


「くっ……!!」


 七度目の対戦。互いに手の内は知っている。前は神器によって強化された身体能力に任せて跳躍して上から越えたり、生成速度の遅かった頃は正面から突破したりしてきた。突破できなかった時には負けてきた。


「ふっ!!」

「【破】」


 跳躍からの脱出を試みるが、テラの周囲に浮かぶ泥の球が一つ飛来し破裂する。剣で食らいダメージを負うことは無かったが、濁流に呑まれ地面まで押し戻されてしまう。


「ちっ…」


 前に見せた手は当然対策されていた。少し宙に浮いていた間に地面は人形と蛇で埋め尽くされ、状況は悪くなっている。


「しょうがねぇ……」


 空中で一瞬体勢を整え、()()の準備をする。


「【泥輪刃】!!」

「はっ!!」


 飛来した泥の刃を叩き斬り、着地する。群がる人形と蛇から攻撃を受けるが、ギリギリ無視できる範疇だ。傷を無視して構えをとる。


「食らえ!!」


 そして、剣の刃に自分の手を当て、一気に引いて手を斬る。


「はっ!?」

「お…らぁっ!!」


 斬撃を飛ばす。先ほどまでとはくらべものにならない大きさと威力の斬撃は、周囲の人形と蛇を一気に片付ける。


「自分を食わせたのか……!」


 ルアクの力により食らって得たエネルギーは、使用者と剣の両方に蓄積される。そこで、使用者自身を斬り食らうことで、使用者側にため込まれた膨大なエネルギーを一時的に剣に移し、斬撃の火力を大幅に上昇させたのだ。


「【泥人形(ゴレム)】!!」

「ふっ…!!」


 使用者のエネルギーを食らう都合上、強化されていた身体能力などは下がるが、剣と使用者のエネルギーは均衡を保つように多い方から少ない方に移動するため、すぐに元に戻る。


「おらあっ!!」

「ぐっ…!!」


 巨大な泥の人形は、剣と飛翔する斬撃の両方は防げない。二重の防御が必要だが、二枚目が間に合わずに斬撃を食らう。


「【泥殺装(マッドキラー)】!!」


 いわゆる近接戦闘用の武装だ。しかし、炎や水などよりも若干扱いづらい”泥”の魔術は、シンプルな近接戦に弱い。


「おらぁぁっ!!」

「くっ…!!」


 武装は、泥の流れを持って攻撃を受け流し、鎧として受け止める。しかし、魔者の身体能力と合わせても、純粋な剣士であり神器による強化を受けているラークを相手にするには足りない。


「【破】!!」


 このままでは傷が増えるだけだと理解しているテラは、逆転の一手を計る。周囲の泥の球の一つを破裂させ、ラークを押し流し距離をとることを試みる。


「甘い!!」


 しかし、ほぼ密着しているレベルの距離では、攻撃と泥への対処が同時に行えてしまう。攻撃のために振るった剣がそのまま泥を食らうのだ。距離をとることはかなわない。


「くっ…!【泥輪刃】!!」


 テラは背後の泥人形と合わせて拳と刃で対処する。手数もスピードも十分以上だ。しかし、足りなかった。


「食らえ……!!」


 ラークは横薙ぎに振るうように剣を構え、その途中で自らの手を刃にあてて剣に自身を食わせる。


「おらぁぁぁっ!!」

「がぁあっ!!」


 一気に振るわれた剣は、泥の刃も人形の腕も泥の球も、すべてをひとまとめに両断して斬撃が貫通した。


「ちぃっ……食らえ!」


 ラークはそのままの勢いに吹き飛んだテラに追撃をかけようとしたが、破裂しあふれた濁流の対処に追われ、断念する。


「【濁蛇】!!」

「……!おらっ!!」


 まだ完全に泥が引ききらない内に反撃が飛び、ラークの足元に複数の泥の蛇が来襲する。が、ラークは余裕で対処し蛇の向かってきた先に向かって踏み出す。


「【生呑沼(せいどんしょう)】!!」


 踏み出したところで地面が一気に泥沼化し、引きずりこもうと泥がまとわりついてくる。


「【泥輪刃】!!」


 泥が晴れ、姿の見えたテラは、満身創痍ながらもこちらに刃を放ちさらに次に向けて動き出していた。


「らぁっ!!」


 飛来する刃を叩き斬り、自分を引き込まんとする泥沼への対処にかかる。その対処は簡単だった。力任せに一気に抜け出してしまえばすぐに脱出できる。


「【泥人形(ゴレム)】!!」


 しかし、次の一手への対処が遅れる。真後ろに生成された巨大な人型の上半身。それは、歪な腕をラークに向けて振り下ろす。


「ぐっ…!食らえっ!!」


 体に大きな衝撃が走る。何とか剣を向け泥の腕を食らって防御したが、大きくダメージを食らってしまう。


「だらぁっ!!」

「【泥のこ(マッドマ)あがぁっ!!」


 追撃に軍勢を作ろうとしていたのを飛翔する斬撃で防ぐ。そして出来た隙に一気に距離を詰め終わらせにかかる。


「【泥流壁】!!」


 距離を詰めるラークに対し、テラは体勢を立て直そうと壁を生成して迎え撃つ。


「食らえ…!おらぁぁっ!!」


 ラークは体勢を立て直させないように動いた。もう一度自らを剣に食わせ、最大出力で壁ごと斬りにかかる。


「ぐっ…!!」

「らぁっ!!」


 ラークは壁ごと斬られ体勢を完全に崩したテラに剣を振るう。まともな防御もできず、勝負は決していた。


「そこまで」


 声が闘技場全体に響く。叫んだわけではないようだが、熱狂した観衆と戦士にもしっかりと届いていた。


「おつかれさん。勝負は……ま、分かるか」


 スコルが闘技場にゆっくりと歩いて入ってくる。戦闘を止めたテラとラークの下へくると、軽くねぎらいラークの腕をつかんだ。


「勝者!!ラーク!!」


 スコルが高らかに宣言すると同時に、観衆の熱が再燃する。あふれた叫び声が空間を埋め尽くした。


「ありがとよ。次は負けねぇ」

「ああ。次も負けねぇ」


 テラとラークは互いに傷だらけでふらふらだが、何とか立ち上がり握手を交わす。そして、ふらふらなのを見たスコルが動いた。


「お前ら、治療な。とりあえず俺の肩貸してやるから行くぞ」


 左右の肩にそれぞれの体重を預かったスコルは、二人を連れて医務室へ向かった。退場する二人は、観客の拍手に見送られ、どこか満足げに去っていった。



「彼らの治療と闘技場の整備が終わり次第、第二試合が始まります。それまでの間、少しの休憩時間となります」


 実況の声が聞こえる。泥の影響もあってか、整備にすこし時間がかかるようだ。


「次ですね」

「おう」


 隣で観戦していたブルースは、見ていて滾ったのか今か今かと楽しそうに待っていた。


「頑張れよ」

「頑張ってくださいね」

「さて…今回も勝ってやるか」


 一時間もすれば、整備が終わったようでブルースは入場口の方へ向かっていった。私と治療を終え戻って来たラークに見送られ、笑って歩いて行った。

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