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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
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8 昇格へ

 今日もいつもと同じように森での採取の依頼を終え、ギルドに報告に来ていた。


「はい、ありがとうございます。これで依頼完了となります。…あ、ウルカさん、この依頼の達成でCランクへの昇格権が得られます。おめでとうございます」

「そうなんですか?ありがとうございます」


 冒険者になって一ヶ月、ついにCランクに昇格できるようになった。昇格できればレベル3の本も見れるようになるし、ぜひ昇格したい。


「そういえば、Cランクは試験があるんでしたね。どんなのなんですか?」


 だからEからDに上がった時と違い、昇格「権」なのだろう。


「そうですね…人や試験官によって違うので一概には言えないんですが、大抵は試験官との模擬戦か昇格先のランクの依頼を試験官同伴でこなしてもらうかですね」

「なるほど…わかりました。それで、いつその試験を受けられるんです?」

「そうですね…明日か明後日には受けられるかと」

「…そうですか…わかりました。じゃあ、明後日またきますね」


 少しだけ会話をした後ギルドを出る。この一ヶ月で依頼にかかる時間が大分短くなったので、今はまだ昼前の時間だ。毎日ほぼ同じ依頼をこなしていたので、最初の頃より1、2時間早く終わるようになっていた。


「なあ、そこの君、一緒にご飯でもどうだい?」


 ギルドを出た瞬間に絡まれる。この時間は意外とギルドには人が多く、ナンパしてくるような奴もいるのだ。面倒くさいのでこういうのは無視するに限る。


「ちょっと、君だよ君。聞こえてる?」


 ナンパ師は無視していてもしつこく話しかけ続けてくる。


「残念ですけど、お断りします」


 流石にうるさいので見向きもせずに一言で適当に断る。しかし、またナンパされるとは。この一ヶ月ですでに4、5回されたのだが、私は私が思っている以上にチョロそうに見えているようだ。


「お、やっと返事してくれたね。まあでもそんな冷たいこと言わずに…ひっ!?」


 何回か見たされた感じ、ナンパする人種には二種類いるようで、1回目で諦めるタイプと延々と食い下がるタイプだ。1回目で諦めるタイプはまだマシなのだが、1回目で退かなかったこいつはどうやら後者のようで、面倒になる前に魔力の圧をぶつける。最近はもう制御できるようになり、強弱とかも付けられるようになってきたのだ。


「もう一度言いますね。お断りします」

「は、ははっ。そ、そうかい。ざ、残念だよ」


 圧をぶつけてちょっと真面目な顔で言ったら、ナンパ師は冷や汗流してビビってどっかに逃げて行った。


「そりゃそうだ。あの娘、顔は可愛いけどあんま笑わねえし、ナンパなんてしたら面倒くさそうに適当に追い返されるだけだっつーの。手ぇ出したって傷つくだけだ。あんな冷てえ奴ナンパするもんじゃねえ」

「なんだ?実体験か?お前も今の奴と同類なんだから笑う資格ねえだろ」

「うるせえ!」


 周りに前に私にナンパしてきて同じように撃退されたやつとその仲間がいて何か言っていた。なんか悪口言われたような気もするがどうでも良いので無視する。


「前もだけど、しつこいナンパする人の方が弱いのかな。まあ冒険者で強ければ恋人の一人ぐらいいるか」


 この一ヶ月で何回もナンパの標的にされてきたが、その時何人かくどくしつこくナンパしてきた輩がいて今回のように「圧」で撃退したのだ。その時の記憶を思い出ししつこい方とそうじゃ無い方を比べると、しつこい奴らの方が弱そうだったのが思い出された。これまでナンパされているところを横から見ていたこともあったが、自分がされた時も見ている時もしつこいことをしている連中はどれも弱そうな動きや音や匂いがするのが《強化感覚》でわかった。弱い奴ほどよく吠える、みたいなものだろうか。


「しかしこの圧、結構便利だね。人にも魔物にも効くし、最近は調節も効くようになってきたし。私が戦うと森が燃えちゃうし戦わずに逃げてくれるなら楽だね」


 基本目立たずに借金の返済とナート教の調査がしたいので、EランクやDランクの身で派手な戦闘はしたくなかったのだ。そこで魔物を遠ざけられるこの技はなかなか便利なものだった。


「ま、これからはCランクだし、ちょっと派手にやっても他の冒険者に誤魔化しが効くかな?」


 Cランクになれば一人前と言われるようになるし、誰かに戦闘を目撃されて平均より大分強いことがバレても運が良かったとでも言っておけば誤魔化せそうだ。それならこれからは無理に戦闘を避けなくても良さそうだし、少しは楽になりそうでよかった。


「さて、お昼ご飯食べに行くか」


 欲求は無いが一応こなせるし、一ヶ月前からご飯と睡眠は習慣付けているので、今日も店に向かう。


「すいませーん。空いてますか?」

「いらっしゃいませ。空いてますよ。お好きな席にどうぞ」


 ギルド近くのレストランに入る。ここなら冒険者証の割引も効くし、時たま来る店なのだ。それにここはオシャレな店なので、そういうのに苦手意識のある喧しいタイプの人がいないのも良い。


「この、夏野菜のパスタください」

「かしこまりました」


 席につき少しメニューを見た後注文する。もう夏が終わり秋に入りかけていて、メニューの切り替わりの前に季節ものを頼んでおく。


「お待たせしました。こちら、夏野菜のパスタになります。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


 すぐに食事が運ばれてくる。さらに綺麗に盛り付けられた料理は、その見た目だけで食欲をそそるものだ。まあ、私にはそのそそられる食欲自体がほとんど無いのだが。


「ん…美味しい…」


 ここの料理は量は多くないがなかなか美味しいもので、それもこの店にたまに来る理由の一つだ。


「でもやっぱりって感じだね。ちょっと残念」


 美味しいし腹が満たされる感覚もあるのだが、それによる幸福感や満足感が人間だった頃より薄い。しかも魔女になってからも食事を摂っているが、だんだん薄くなっているのも感じる。前は食事が好きだったのもあって、美味しいものを食べても幸せになれないのは結構残念だったりする。


「…それはそれとして、やっぱりすぐ無くなっちゃうね」


 まあとは言え美味しいものは美味しいので、すぐになくなってしまう。


「すいません、お会計お願いします」

「かしこまりました。…980シエンになります。丁度ですね。お預かりします。…ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 そう言って店を出る。結構安いので、借金のある私にも優しい。食事必要無いんだからその分返済に回せよと思ったこともあるが、実はもうCランク最初の依頼をこなすぐらいで返せそうなところまで来ているので、あまり気にしなくて良いのだ。


「やっぱり良い店なんだけどね。私の感覚がなぁ」


この店のように、綺麗で、オシャレで、安価で、店員も丁寧で、料理も美味しい店など、きっと王都にすらほとんどないだろう。自分の感覚が死んできていることが本当に残念だ。


「まあそんなことはいいや…試験どうしよう…」


 そう、試験である。試験官同伴で依頼、もしくは試験官と模擬戦だと言うのだ。魔女なことを隠して戦闘しなきゃいけなさそうで、明後日までにどうにか方法を考えないといけなそうだ。


「今日は図書館は…いいか。一旦宿帰って試験のこと考えなきゃ…」


 Dランクになってから図書館の本はレベル2までは大体調べたので、今日はやめることにした。試験のことを思うと憂鬱になる。


「ん?今日はずいぶん早いね…」


 宿に着くといつものお婆さんに話しかけられる。もうこの人とも一ヶ月の付き合いになる。


「そうなんですよ。今度昇格試験なんです」

「そうかい。まあせいぜい頑張りな」


 短い会話が終わり、部屋に向かう。いつものお婆さんは最初の頃に比べて、まだ棘こそ残るものの優しい言葉をかけてくれるようになった。


「はああぁぁぁぁ…どうしよ」


 採取系の依頼なら良いが模擬戦や討伐依頼だと誤魔化しが効かないので、魔術を見せない戦闘方法を考える。


「武器とか使うにはなぁ…いくらなんでも練度が低すぎるし、精霊術は今から精霊と契約しに行くとか無理だし、私のスキルは直接戦闘できる奴じゃないし…どうしようかなぁ」


 ペンを回したりするのと同じように、体の中で魔力を動かしながら考える。武器類は触ったことがないし買うお金もない。スキルは戦闘で役に立ってはいるが殴ったり切ったりするものじゃない。それに精霊術なんて一番無理だ。精霊術は精霊と契約して力を貸して貰うものなのだが、一日じゃ契約できる場所に行けないし、行けても契約できるか分からないし、できても一日じゃまともに扱えるようになれない。


「うーん…。魔術を精霊術だって言って使う?いや、無理だな…」


 精霊術は魔術と同じようなことができるのでそう騙れれば良いが、精霊術を使う時は術者の近くに必ず精霊がいるらしく精霊術騙りは無理そうだ。


「どーしよ…格闘なら武器いらないし多少練度低くても誤魔化せたりしないかなぁ…あ、そうだ」


 体の中で魔力を弄っていると案を思いついた。


「やってみるか…。明日オーガかなんかで試そう」


 明日その案を試すことに決め、ベッドに寝転がる。


「あー、でも案が一個じゃダメだった時どうしよ…保険考えなきゃ」


 寝転がってからも考え続ける。


「炎で精霊っぽいもの作れないかな。できたら精霊術騙りもできそうなんだけど…」


 周りのものに燃え移らないよう注意しながら炎をだし、造形してみる。精霊は人間の形をしているそうなので、人の形を目指して作ってみる。


「やばい、これ、すごい神経使う。これ維持してたら球も槍も壁も、他に何にも出せない。しかもそんなに人間に見えないし」


 一度やってみたが、造形は良くないしものすごい維持に気を使うしで、戦闘しながらこんなものを自分の横に出しておくなんて不可能だ。もっと力が体に馴染み、訓練すればできるかもしれないが、当然そんな時間は無い。


「これはダメだ…。他に何か方法あるかな…」


 精霊術騙りが頓挫した後も考え続けたが、結局夜になっても最初の案以上に実現できそうなものは思い浮かばなかった。


「あー、ダメだ。もう明日成功することに賭けるしかないか?ってもう真っ暗だ」


 一旦考えるのを中断して窓の外を見ると、もう真っ暗になっていた。


「はぁー。しょうがないや。明日やってみてダメだったらその時考えよう」


 昼からずっと考えていたので、久しぶりに少し疲れてしまった。


「…寝よ」


 明日早起きして森に行くことに決め、今日はもう寝ることにした。


「おやすみ」


 相手などいるはずも無いが、儀式的に呟く。


 問題は残っている。が、きっと明日の自分がなんとかしてくれるはずだ。私はその思考を最後に、意識を闇に沈め、夢の世界に落ちて行った。

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