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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
62/139

62 砂漠

「ゲイリアに到着いたしました」

「おう。ありがとよ」

「ありがとうございます」


 魔国の端、セカイ王国の属国(シルグリア)に隣接するダークエルフ領の都市、ゲイリアは巨大な要塞都市だ。人類と魔族は常に戦争状態のようなものなので、都市の兵士以外の人々からも張り詰めた空気を感じ取れる。


「うし、とりあえずここの領主んとこ行くか」

「そうですね」


 国境を越えるため、領主にヘルの命令書を渡しに向かう。領主は要塞の中の執務室で仕事をしているはずだ。


「どうも。こういう者だ」

「…はっ!確認致しました!」


 要塞の門番に書類を確認させて中に入る。近くにいた1人の兵士に案内され、要塞の内部を進んで行く。


「では」

「ありがとさん」


 兵士は一つの扉の前で止まり、私たちを置いて元の持ち場に戻って行った。


「失礼します」

「む、何だね」


 ブルースの喋り方が仕事向きに変わり、扉をノックして中に入る。中には初老と思われる見た目をしたダークエルフの男性が居り、かけていた眼鏡を外し書類から顔を上げてこちらを向く。


「何だ、ブルースかね。仕事か?それと、隣のは?」

「仕事です。こちらはヘル様からのです。彼女は新しく死氷部隊(うち)に入った新人ですね。今回一緒に仕事します」

「ウルカと言います」


 私は促されて名乗る。領主はそれを聞きながら書類に目を通し、何かをさらっと書いて顔を上げる。


「ふむ。理解した。ルートはいつも通りだ。行ってくると良い」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 最後に挨拶をして部屋を出る。領主は扉を閉める時にはすでに机の書類に視線を落としており、随分と忙しいようだった。国境なぶん業務が多かったりするのだろうか。


「知り合いなんですか?」

「…いや、そう言うわけでもねぇな。国境越えて仕事する時はいつもここ来るから、お互い顔と名前覚えてるってだけだ」


 要塞から人類領域側へのルートに向かいながら聞くと、答えが返ってくる。どうやら人類側に行く際はいつもこの都市を通っているらしい。


「そうなんですね」

「おう」


 要塞を出てしばらく歩いて行くと、都市を囲う壁に突き当たる。シルグリア最南端の都市とこの都市の間には平原が広がっており、戦争の際にはそこで戦闘が起こることも多い。壁の向こうには、その平原が広がっているのだ。


「過酷…つっても水も食い物もいらねぇし、何ならほとんど疲れねぇんだったな。」


 シルグリアの西側は平原と隣接して魔のリミューリコ地帯と呼ばれる砂漠が広がっており、そこに強力な魔物がいることもあって人が全くいないエリアとなっている。魔国側の平原からそのエリアに抜け、そこを通って人類側の領域に向かうのだ。


「んじゃ、行くか」

「はい」


 壁の巨大な扉から都市を出て平原に足を踏み入れる。涼しげな風が爽やかに吹き、地面の草がそれに揺られ、都市内と違いいたって平和な雰囲気を醸している。


「砂漠前までお送りいたします」


 都市の領主が馬車と御者を出してくれたので、今日は楽に移動できそうだった。


「よろしく頼むぜ」

「よろしくお願いします」


 魔の砂漠に近づき、最悪入ることを想定している馬と馬車と御者のようで、車は硬さと速さを重視したものとなっており砂地でも動けるような仕組みになっていた。馬は魔物の一種のようで、泥でも砂でも無視して速度を出せる種のようだ。御者は顔に傷があり、剣を下げているので戦闘力がそこそこあるだろうことが窺えた。


「とりあえず砂漠手前で一泊。明日から砂漠だ。夜はどっちかが見張りだな」

「分かりました」


 馬車で今後の予定を確認する。見張りは寝る必要のない自分がやれば良いのだが、ブルースに止められたので交代制となった。


「ま、今日は安全だろうけどな」

「そうですね」



「砂漠を抜けるには、最低でも五日かかる。一応、覚悟しとけ」

「了解です」


 馬車で行ける限界まで進み、砂漠の手前で一泊した次の日。一本の木も見当たらない砂の大地で行く先を見ながら出発の準備をしていた。


「よし、行くか」

「はい」


 ブルースの背には食料、水、衣類の類が、私の背にはテントなどの野宿用品が背負われている。ブルースが最初に持っていた荷物はテントと衣類がほとんどを占めており、食料や水の類は先日要塞都市で揃えたものだった。


「…嫌な地面ですね」

「ああ、まあ砂漠だしな。つーか、お前浮けるんじゃねぇの?」

「浮けますけど、五日間もずっと浮いてたら魔力が持ちません」

「あー、まあそりゃそうか」


 魔者になった時点で体力も人類魔族を超越しているので、多少の歩きづらさ程度問題ではない。魔力が減って後の戦闘に問題が出る方が不味いので、ブルースと並んで普通に歩いて行く。


「しっかし…いつもいつも面倒だな、ここは…」


 ブルースは手元の方位磁針を見ながらぼやく。地面が嫌だとか、そういうことではなさそうな言い方だった。


「どういうことです?」

「地形がすぐ変わるんだよ。風も強いし地面が全部砂だからな。昨日まで山に見えた場所が今日は窪地なんてこともよくあんだよ」


 時々立ち止まって方角を確認している分、時間がかかってしまう。


「それに、真っ直ぐ進んでいたはずがいつの間にか曲がってただとか、隣にいたはずの仲間がいつの間にか消えてるだとか、訳わかんねぇことも良く起こるそうだ。魔物と合わせて名前に“魔の”ってついてる理由だな」

「なかなかヤバい場所なんですね…」


 そりゃあ人なんている訳がないといった環境だ。例え戦闘力があろうがそんなところに住みたくない。


「できれば…あれ」


 言葉を出そうとした瞬間、気配を感じる。何かの音がしたのだ。


「ん?どうかしたか?」

「何かの気配…音がしました…これは…下!?」


 次の瞬間、地面足元から何かが飛び出してきた。わずかに砂の中を移動する音が聞こえたが、鳴き声などは一切なく、移動音も小さい。《強化感覚》が無かったら気づけなかっただろう。


「【爆焔球】!!」


 空中に飛び上がりその何かの攻撃を避け、反撃に火球をぶつける。焼けているので効いているのだろうが、その何かはうめき声もあげず、効いているのかいないのか良く分からなかった。


「何ですか、あれ!」

「ありゃあサンドワームの類だろうな。一瞬だったからわかんねぇが…多分毒持ってるやつだ。運悪ぃなぁ、こりゃ」


 巨大なミミズのような見た目に、頭に円状にギザギザと歯の生えた口を持つその生物、サンドワームは、こちらが話している間にまた地中へ潜っていった。


「基本的に一回狙った獲物は死ぬまで追っかけるタイプだ。地面に降りんなよ」


 ブルースは斧を構えてそう言う。


「分かりました。『ユルサナイ』」


 空中で覚醒状態に変化する。熱と魔力が爆発的に広がり、姿が燃えるように変わって行く。


「おお、すげぇな…ってうおっ!?」


 その瞬間、ブルースの真下からサンドワームが口を開けて飛び出てきた。ブルースはそれを見てから動き、口の縁を踏んで上に大きく跳ぶ。ブルースはそのまま踏ん張るもののない空中で斧を構える。


星斧(ステラ)、軌道決定…【彗星(コメット)】!!」


 構えた斧が光り輝き、次の瞬間一閃の光となってブルースが動く。光の軌跡が楕円を描き、ブルースは斧を振り終えた姿で元の位置で動きを止める。


「気ぃつけろ、まだ動くぞ!」


 体を半ばで両断されたサンドワームは、ブルースが着地し叫んだ瞬間、口がある方が切断断面から体液を垂れ流しながらこちらに蠢き飛びかかってくる。


「【爆焔球】」


 しかし、落ち着いていくつか火球を生成し、口に放り込んで内側から爆発させる。


「あ、やば」


 地面の荷物とブルース、そして自分を覆うように炎をドーム状に展開する。魔術名の宣言がない分脆弱だが、降り注ぐ肉片と体液から守りたいだけなので強度はいらない。


「おう、すげぇじゃねぇか」

「ブルースさんも。さっきのが神器の力ですか?」

「ああ、そうだな。隣で戦うのに何も知らねぇんじゃどうしようもねぇし、教えとくか」


 そう言うとブルースは斧を地面に突き立て説明を開始しようとする。


「…後だな」

「そうですね」


 しかし、ブルースはそれを中断して斧を担ぐ。私も炎のドームを消し戦闘体制に入る。小柄な牛のような体躯に長い角を生やした生き物の群れが、こちらに向かってくるのが見えたのだ。


「ありゃ…クスの群れだな。速くて良く跳ねる。数は多いがそんなに強くねぇ」

「分かりました」


 爆発の音でも聞きつけたのか、近くにいたらしい新たな魔物の群れがやってくる。


「【灼時雨】」


 炎の雨を展開し、今度は爆発音などの派手な音を出さないように群れを削っていく。


「軌道決定【隕石(メテオ)】!」


 炎の雨が止むと、痩せた群れは空白を埋めるように一つに集まり出す。そこにブルースが突撃し、群れの残りも9割以上が削られる。


「おらっ!」

「【焔槍】!」


 最後の生き残りを軽く処理して一息つく。しかし、ブルースを見ると、あまり休まっている風には見えなかった。


「しかし、不味いな…」

「何がです?」


 ブルースは苦い顔をして話し始める。


「この砂漠な、一回魔物と会うと色んな種類がすぐ集まってきやがる。夜んなったら落ち着くだろうが…それまでは戦いながら進むことになるだろうな」

「なるほど…分かりました。面倒ですね」

「ああ」


 背に荷物を背負い歩き始めるが、すぐに下ろすことになった。ブルースの言った通り、また魔物が現れたのだ。


「今度は…面倒な。あれ、遠距離から仕留められるか?」

「硬かったりします?」

「そこそこ硬いが…体感、竜の4分の1も無い」

「分かりました…【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」


 しっかり魔力練り、遠距離から最大火力をぶち当てる。熱線が消えると、丸焦げになった鳥が落ちてくる。


「んじゃ、こっちに集中できるな」

「はい」


 ブルースと共に荷物を地面に置き、背後から迫っていた蛇に意識を向ける。半分砂に潜っているのと体の色が迷彩になっているので非常に分かりづらいが、巨大な蛇がそこにいた。


「軌道決定」

「シャァァァ!!」


 ブルースが構え一瞬意識が蛇から逸れる、蛇はそれに反応したのか飛びかかってくる。


「【焔槍】」

「シャァァァァ!?」


 それに合わせて槍を撃ち込み蛇の動きを止める。


「【隕石(メテオ)】!!」


 ブルースが蛇に向かって直進し斧を振り下ろす。斧の斬撃は砂の大地を遠くまで割り、蛇を縦に両断する。蛇は断末魔も上げられずに死んでいった。


「よし…しかし、キリがねぇな」

「そうですね…」


 蛇を倒して歩き始めたと思ったら、次の魔物が現れていた。

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