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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
57/139

57 革命軍

「着いたけど…どうする?」


 森を抜けた次の日、森を抜けてからの道中はなんの問題もなく、昼過ぎには革命軍の根城でありダドリオのいる街に到着していた。


「とりあえず自分で情報集めだね。夕方くらいになったら酒場にでも行こっか。それまでは大通りで盗み聞きでもしてよ」

「ん、分かった」


 いくつかの通りが交わるちょっとした広場。設置されたベンチに座って行き交う人々の会話を聞く。《強化感覚》と獣人だ。ただの音ではなく内容までしっかりと拾える。


「今日の朝卵を焦がしちゃって…」

「よぉ、姉ちゃん、遊びに行かね…」

「この間師匠にどやされてさ…」

「最近は物価が高いわねぇ…」


 そのほとんどはどうでもいい話だ。ベンチに座って一時間、二時間と待っているが、有益な情報は入らない。


「…どうする?」

「そうだねぇ…まあ移動しよっ…ん?」


 移動しようかという最後のギリギリのタイミングである。


「のう、知っとるか。最近ダドリオ様に雇われた護衛なんじゃが、恐ろしく強いようでのう。ほんの少しだけ見る機会があってみたんじゃが、元軍人の儂からみてもなかなか強そうじゃったんじゃ」

「へぇ。俺ぁ見たこともねぇが…爺さんから見てもそんな強そうだったのか?」


 ダドリオの護衛の話だった。ニナはほんの一瞬だけ考えるようなそぶりを見せたが、すぐに元に戻る。



「最後に一個くらいは聞けて良かったよ」

「ゼロは悲しいからね」


 立ち上がって酒場の方へと歩き始める。到着した時と比べ通りの賑わいは増しており、酒場の方へ向かう人の群れも形成されている。


「混んでるね」

「混んでる方が都合がいい」


 いくつかある内の一つの店に入ってみれば、ほぼ満席と言ったところで、ところどころ空いてはいるものの1人が限界といった様子だ。ニナはそれを見て近くの、4人のテーブルに座る2人組の方へと近寄る。


「すいません、申し訳ないんですけど2人相席大丈夫ですか?どこも空いてなくて」

「え!?ああ、だ、大丈夫ですよ」


 若い男2人は話しかけられたのに少し狼狽えていたが、すぐに了承してくれた。もう酔っているのか顔が若干赤くなっている。


「申し訳ないです…この時間どこも空いてなくて」

「い、いや大丈夫ですよ。こっちも男2人で飲んでてもアレなんで」


 話している間に店員を呼び適当に注文する。目の前の若者の分も合わせて、酒は少し多めに注文しておく。


「本当に最近の世の中はよぉ…」

「国だってなんもしてくれねぇしよぉぉ」


 しばらくすれば若者は完全に出来上がっていて、もはや起きているのかも分からない様子に成り果てていた。


「いやー、それは大変だねぇ」


 ニナも相当な量を飲んでいるはずだが全く酔っておらず、笑顔を浮かべて適当に返事をしている。10杯目を超えたあたりで数えるのをやめたため正確な数は分からないが、常人であれば倒れていてもおかしくない量だ。魔者な(そもそも酔いにくい)上にジョッキを熱してアルコールを飛ばしてから飲んでいる私とは訳が違う。


「でも、やっぱり国はダメだよ。ねぇ、聞いてよ」

「あいあい、いくらでも聞かせて頂きますぅ」


 ニナはどことなく物憂げな雰囲気を醸しながら話だす。


「ひどいんだよ。私の親は、国に殺されたんだ。冤罪をかけられてね」

「そんなことがぁ…そりゃひでぇよ…」

「おう。許せねぇってんだぁ」


 なんとなく内容は理解しているようだが、男2人は聞いているのかも分からない様子だ。


「なぁなぁ嬢ちゃん、国が嫌なら良いこと教えるぜ。街のはずれの森に行ってよぉ…幾つ目だぁ?角曲がってよぉ、分かりずれぇ建物があんだ」

「そうそう…んで、そこに行くとよぉ、血は流れるって聞かれんだ。剣は煌めくって答えりゃ迎えてくれるぜ…ああ、こいつは秘密だからな!はっはっはっはっ!」

「へぇ…ありがとね、教えてくれて。本当にやってらんないよ。飲も飲も」

「おーう」

「飲むぜぇ」


 その後は男2人が潰れるまで飲み、気絶したのを確認して代金を支払って店を出る。時刻は10時を過ぎた頃、人通りはある程度落ち着いている。


「ザル過ぎない?アレ」

「中途半端に大っきくなった組織にはあるあるだよ。末端にちゃんと指示が行き届いてない。それにしても酷いけどね。革命軍の上層部、組織運営に関しては素人だししょうがない部分もあるんだろうけど。とはいえ、一組目で()()()を引けたのはラッキーだったね」


 ニナの話や足取りはしっかりしており、顔も完全に素面だ。あれだけ飲んでおいてこれとは恐れ入る。


「今日は夜に私だけで動いてくる。信号弾にだけ気をつけといて」


 スキルの関係上、潜入や斥候はニナ1人の方が都合がいい。戦力が必要な場合の合図も決めてあるので離れた位置で隠れて待機だ。


「一応聞くけど酔ったりは?」

「問題無し」


 ニナは包帯とフード付きのボロボロのローブを取り出しながら言う。例の如くどこから出したかは分からない。


「じゃあ、私はここで待ってるから、何かあったら早めに打ち上げてね」

「ん。じゃ、いって来るよ」


 そう言ってニナは森に消えてゆく。しばらくは何もないことを祈って待機だ。



「…」


 静まり返った森の中。どこからか聞こえる虫の鳴き声が鼓膜を揺らし、冷たい風に木々が揺れる。一見して岩と土の塊にしか見えなかったそれは、よく見れば扉と覗き窓が確認できた。


「血は流れる」

「剣は煌めく」


 扉の前に立ち、恐る恐ると言った風に扉を叩けば、聞いていた文言が聞こえてくる。


「よし…入れ…む、お前、その顔どうしたんだ!?」


 顔の右半分と口元を包帯で隠し両腕にも包帯を巻いてボロボロのローブを着た者が出てきては驚きもするだろう。見張りをしていたらしい人物は目を丸くして驚いていた。


「あ…そ…あの…」


 俯いて怯えたような声を出す。


「いや、すまない。あまり聞くことではないな。合言葉を知っているのならば誰であろうと問題ない。早く入ると良い」


 見張りに促されて俯いたまま進む。道は地下に続いているようで、薄暗い灯りにぼんやり照らされた階段を降りると長い廊下に幾つかの部屋があるようだった。


「この時間なら上層部は全員いるだろう。助けを求めてきたのだろう?折角だ、挨拶してくるといい」


 見張りが止まったのは会議室と記された扉の前だった。


「失礼致します」


 ノックをすると、中から入れと返事がある。


「何かあったか?」


 会議室にいた4人のうち、最も身長の高い男がこちらを見る。


「はい。彼女についてです。我らに助けを求めているようでして」


 見張りに促されて一歩前に出る。


「ふむ。分かった。お前は仕事に戻ると良い。彼女からは我々で話を聞いておく」

「はい。了解しました」


 見張りは部屋を後にする。私は俯いて怯えた様子は変えずに質問を待つ。


「俺はエンゴルド。そこの髪の長い女がドーラで、顔に傷のある男がラック。最後に、メガネを掛けている男がエスタだ。まず、名前を聞かせてくれないか」

「は、はい…アンナと言います」


 質問が自分に向けられたタイミングで体をびくりと震わせ、言葉を一瞬詰まらせる。


「何があったかを今詳しく聞くことも無いわ。あまり怯えなくて大丈夫」


 ドーラが優しげな笑みを浮かべてそう言う。


「そうですね、話せる範囲でいいんですが、何があってここを訪ねたのかを聞いても?」


 エスタがメガネの位置を直しながらペンを握って聞いてくる。


「あ…えっと…元々…住んでた場所は…税が酷くて…物価も高くなって…は、母は襲われて…私を…う…ぐずっ…逃して…ひぐっ…こ、殺されて…」

「もういい。大丈夫だ。嫌なことを思い出させてすまない」


 エンゴルドが遮る。


「質問を変えよう。今はどうやって生きている」

「はぁ…ふぅ…あ、あの…街の外れのボロ屋に住んでて…お金は…こんなのでも…生きる分くらいは…」


 泣くのをやめ、顔の包帯を触りながらそう答える。


「…三日、いや、二日だ。明後日の夜にもう一度ここに来てくれ。住む場所くらいは用意する。最低限の生活もなんとかしよう。なんとかできるな、ラック」

「…ああ。無理と言ってもどうせ無駄だしな。なんとかするさ」


 ラックは頭をかきながら思案を始める。


「そ…そんな…見ず知らずの」

「お前さんみたいなのはうちにゃあゴマンといる。安心すると良い」


 ラックに話を遮られる。


「ありがとう…ございます…!」


 涙を流して礼を言う。


「何。問題ない。ただし、書類仕事やら料理やら、仕事はしてもらうからな」

「はい…はい!」


 感動したように声を震わせる。4人は泣くのを止めるまでこちらに何も言ってこなかった。


「…よし、じゃあ二日後にまた来てくれ。帰る時に見張りのやつに一言言っておくといい」

「はい!ありがとうございます!」


 少し明るい調子にして礼を言い、最後に深く頭を下げる。


「ふぅ…」


 扉が閉まり廊下に出ると、そこには誰もおらず、静かで薄暗い空間が広がっていた。スキルを起動して効果を強め、いくつかある部屋を一つずつ確認していく。


「…」


 部屋は五種類ほどで、食堂と調理室には役に立ちそうな情報は無かった。巨大な、おそらく兵の訓練をするための訓練場と見られる部屋は、無数の鎧と武器が置かれており、資金力がうかがえる。先ほどまでいた会議室と同様のものがいくつかあったが、それらは全て今は使用されておらず静けさだけがそこにあった。


「…なるほどね」


 最後に確認した、資料室と書かれた部屋。そこには、一人一人の簡単なプロフィールや革命軍全体のスケジュール、帳簿などが保管されていた。ざっと目を通し、幹部の戦闘についての情報とスケジュールについてを手早く写して仕舞う。


「ああ、終わったか。どうだ、優しい人たちだったろう?少し冷たく聞こえることもあるがな」


 基地唯一の入り口に戻ると見張りがそう言ってくる。


「はい…ありがとうございます…あ、二日後にもう一度来るように言って頂けました。また来ます」

「そうか。それは良かった。またな」


 最初に比べて幾分かにこやかに見張りに挨拶をして、ウルカの待つ地点へ急ぐ。思っていたより早くことは運びそうだ。



「収穫はあった?」

「問題は無し。想定より早く進みそうかな。ダドリオ次第だけど」


 街の外れの人気のない空き家の並ぶ場所。その内一つを使ってこれからの計画を詰める。


「明日はダドリオの方を見てくる。後、これ確認しといて」


 ニナから渡されたのは革命軍幹部の情報と基地の地図だ。それぞれの普段の仕事や戦闘スタイルから好きな食べ物まで乗っているようだ。


「殲滅戦で壁になりそうなのはその4人だけっぽい。残りの100人くらいはウルカちゃんなら片手間もいらないと思う」

「ん、分かった。具体的な計画は明日ニナが戻ったらかな?」

「そうかな。ただ、問題なさそうなら明後日の昼に革命軍本隊を潰してその後ダドリオを殺る」


 確認した資料を返すしながら言う。資料はニナが水で溶かして消し去る。


「確認は今はこれくらいかな。じゃあ、悪いけど見張りお願いね」

「うん。おやすみ」


 ニナはいつも通りの寝つきの良さですぐに寝息を立て始める。一応敵地であるため見張りを立てることにしており、今日明日は寝ずの番だ。元々私が寝る必要が無いから交代制をやめたのだが。


「はぁ…」


 もう少しで、本格的に仕事が始まる。

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