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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
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5 恩人

「起きたかい?」

「?ここは…」


 目が覚めると、知らない声が聞こえてくる。そして目の前には知らない天井があった。


「あなたは…あ!昨日の人…」

「ふふっ、そうだね。もう大丈夫だと思うけど、まあ一応安静にしときな。ああ、ここは宿場町の宿だよ」


 声の方を向くと、その正体は昨日意識を失う直前に最後に見た男だった。


「昨日は…ありがとうございます。…でも、なんであんな所に…」

「…あー…うん、この国に用事があってね。服見たらわかると思うんだけど、この辺の人間じゃ無くてね。間違って森に入って迷っちゃったんだよね。あ、この服は着物、って言うんだ。本当は細かい種類があったりするけど、まあ、着物とだけ覚えてくれればいいよ」


 男はそう言って服を引っ張って見せる。


「そうなんだ…あ、私はウルカって言います。まだ名前も聞いて無かった。何て言うんですか?」

「ああ、そういえばそうだったね。僕はタケルって言うんだ。タケルって呼んでくれればいいよ。よろしくね、ウルカさん」

「はい、よろしくお願いします、タケルさん」


 そう言って握手を交わす。しかし「タケル」何て名前この辺りで聞いたことないどころか、この大陸の本で読んだことも無い。相当遠く、それこそ大陸の外から来たのかもしれない。


「介抱してくれてありがとうございます。それでタケルさんはどこに向かっているんですか?」

「こっちも嫌だし敬語じゃなくていいよ。僕もそうだし。で、どこに向かっているかって言うとね、王都に向かってるんだ。この街道をいった先の大きい町を超えて。君は?」

「私は特に目的地はないです…あ、ないの。だから取り合えずこの街道の先の町に向かってるんだ」

「へえ…じゃあそこまで一緒に行くかい?袖振り合うも他生の縁、何て言うだろう?」

「うーん…そうだね、一緒に行こうか。その袖何たらってのは知らないけど」

「えっ?あ、そりゃそうか」


 どうやら方向が同じらしく、一緒に行かないかと誘ってくれた。少し考えたが、何か邪な考えがあるならそのキマイラを一撃で切り伏せる武力ですでにどうにかしているだろうと思い、承諾することにした。


 その後、彼が用意してくれたらしい朝食を食べながら、細かい話を色々とした。彼はこの大陸の東の果てにある「日輪国」というところから来たらしく、ナート教の関係者や信者では無いようだ。それと、袖何たらは彼の故郷の言葉らしい。なんか小さいことも全部つながってるー、みたいな、なんかそんな感じの言葉だそうだ。多分。


 そんな世間話をしていると、


「傷と毒の具合はどう?」


 と聞かれる。


「あ、そういえば全然だ。不調を全く感じないよ」


 驚くべきことに、ほぼ全快している。本当に一日しか経ってないのかってぐらい元気なのだ。


「すごーい。どんな方法を…?」

「ふふふ、企業秘密さ。ま、ちゃんと元気になって良かったよ。朝も食べたし、そろそろ出発するかい?」

「そうだね。今出れば夕方には次の宿屋には着くと思うし。あー、でも私、持ち物全部あの賊のアジトにおいて来ちゃったから、お金とか何にも持ってないよ。宿代出せないよ」


 どうやら治療の方法は教えてくれないようだ。まあ教えてくれないだろうなと思っていたのでそれは良い。どっちかと言えば、路銀と日用品の全てを無くして一文無しになってしまったことの方が問題だ。今日の宿代すら払えない。


「ああ、それなら良いよ。僕、それなりにお金持ちでね。ここの宿代ぐらい訳ないよ。冒険者やっててそれなりに成功してるんだ」

「そうなの?でもいくらお金持ちって言っても悪いよ。会ったばっかりだしさ」


 会話しながら出発する。危ないところを助けてもらって治療もしてもらって、さらにお金も払ってもらうとなると、流石に申し訳ない。


「うーん…良いのになぁ。そうだね。じゃあしばらくの生活費まで渡すよ」

「へ!?いやいやいや何を…」


 それじゃあ真逆じゃないか。


「いや、別に何もタダであげる訳じゃないよ。本当はそれでも良いんだけど、気が引けるんでしょ?利子いらないから返せるようになったらここに返してよ。冒険者のギルドでここにいくらお願いしますってお金渡せば僕のところに来るから」


 そう言って彼は私に「タケル」と名前と何かの番号を紙に書き、渡してきた。


「それ、僕の冒険者識別番号(ナンバー)ね」

「…分かった。ギルドにお金渡せばタケルくんのとこにいくんだね?必ず返すよ。今はお金も有難く受け取っとくね。でも、それじゃ結局タケルくんが損してるよ。他に何か出来ない?」


 タケルくんは譲歩してお金を「貸す」ことにしてくれたが、私はまだ食い下がる。宿代とかお金はそれで良いのだが、救出と介抱の分がどうにもなってない。心情的に恩返しとは言わずとも受けた分ぐらいは返したい。


「そんなに食い下がる?うーん…じゃあ、今度何かあったときに手伝ってよ。今はそれが何か言えないけど、僕今ちょっとした目標があってね。どこかでそれに協力してよ」

「そんなので良いの?」

「良いんだよ。ま、簡単に言えば、貸しにしとくぜ、ってことだね」

「…うん、そうするよ。これ以上食い下がるのもあれだしね」

「うん、それで頼むよ」


 結局は貸しにしておくということで決着が着いた。


「はい。もう今のうちに渡しとくね。全部で50000シエンあるよ」

「あ、ありがとう。多いね…。宿代だけじゃなくてこんなに…ごめん…」

「もう良いって。それにいつか返してくれるんでしょ?」

「まあそりゃそうだけど…」


 彼は笑いながらそう言う。私はちょっとだけ納得してないような返事をして、この会話は終わる。


「あー、向こう着いたらとりあえず働かなきゃ。私も冒険者やろっかなぁ。ねえ、何か冒険譚とかないの?」


 私は彼に聞く。


「んー?そうだねぇ…」


 彼は少しだけ悩んで答えてくれた。


「じゃあ、こんなのはどうかな。ちょっと前にドラゴン討伐の依頼が___」


「うーん…今日はこの話をしよう。前に、吸血鬼が町を占領してたことがあって___」


「そうだねぇ…多分今日で最後だし、これにしようかな。魔王軍の四天王と戦った時の___」


 目的の町に着くまで、毎日色々な話をしてくれた。彼の話す冒険譚はとても面白く、さらにとてもたくさんの引き出しがあった。毎日一つか二つ歩きながら聞いていたが、聞いている間にいつの間にか次の宿に到着していて時間の進みが早かった。


「___という訳でそいつとは引き分けに終わったんだ。いつか他の四天王とも戦ってみたいね。っと、もうこんなところまで来てたのか。そろそろ終わりにしようか」

「うん。ありがとう。いろんな話聞けて楽しかったよ。これは本格的に冒険者やるかな」

「ふーん。良いけど、キマイラにやられてるようじゃ無理じゃないかい?」


 ちょっと馬鹿にしたように言って来る。


「いやあれは毒と疲労のせいだし。いつもなら余裕の瞬殺だから。もう楽勝楽勝。楽勝だよ」


 私はムキになって言い返してしまった。楽勝は盛ってる。完全に盛ってる。


「へえぇぇ。楽勝なんだ。それはそれは強いんだね。きっとすぐに有名になると思うから、楽しみにしてるよ」


 ニヤニヤしながら言われてしまった。ムキになってしまったのをちょっとだけ後悔した。


「まあ、やるなら頑張ってね。僕もこんなに興味津々で話聞いてくれた人も少ないし、楽しかったよ」

「ならよかった。私もすごく楽しかったよ」


 分かれ道に来ると、少しだけ立ち止まって言葉を交わす。


「じゃあ僕は一回ギルドによって来るよ。またどこかで」

「うん。借り、ちゃんと返すから待っててね。じゃ、またどこかで」


 最後にそれだけ言って私は宿屋の、彼はギルドの方へ向かう。


「なんか、すごい良い人だったな。人間不信になってたし、良い人に会えて良かった」


 本当に良かった。彼は最近出会った人の中で唯一の良い人だった。もし彼に出会わなかったら私はもう少しで復讐のターゲットを教会から人類にしていたかもしれない。


 少し歩くと、沢山の宿屋が見えてくる。その中から適当に良さげな宿を見繕って入る。受付にはお婆さんが座っている。


「一人なんですけど、空いてますか?」

「一人部屋かい?空いてるよ。この季節は旅行者が少ないからね。一泊3800シエンだよ」

「はい。取り合えず一泊お願いします」

「ん、ちょうどだね。ほれ、鍵だよ。部屋は階段上がってすぐの202だ。飯は出ないから自分で食いな」

「ありがとうございます」


 階段を上り言われた部屋に行く。ベッドに椅子とテーブルが一つのシンプルな部屋だが、掃除は行き届いている。


「ふあぁぁぁ…。ベッドだぁ…」


 すぐにベッドに飛び込む。そこまで疲れてはいないが、やはりベッドを見ると飛び込みたくなる。


「あ、夕ご飯…まあ今日はいっか…」


 すぐに夕飯を食べていないことに気付いたが、ベッドの誘惑には勝てなかった。人間を辞めてからお腹の減りが緩いのもあるかもしれない。朝ご飯を食べてからあまりお腹が空いていない。


「前までは結講食べる方だったんだけどなあ…」


 食欲の減退を感じてちょっと悲しくなる。他の欲求はと言うと、性欲はもう全くと言っていい程無い。睡眠欲は普通にあるが、前よりは薄い。改めてそんな変化を感じると、人間じゃ無くなったんだなあとしみじみと思う。


「まあ、仕方ないね…。なっちゃったもんはどうしようも無いね…」


 考えたってどうしようも無いので、さっさと切り替える。


「ああ、明日は…ギルド行って…冒険者なって…お金返そう…すぐには返せないだろうけど」


 明日の予定を考える。


「教会のことも…調べないと…図書館とか行こう…」


 考えていると、だんだん眠くなってきた。


「ふわぁ…後は明日考えよう…」


 あくびをして目を閉じる。明日のことは明日だ。もう寝てしまおう。

 いつの間にか、意識が消える。明日は色々やらなければ…。


 ※


 ウルカと別れた少し後…。


「しかし、この間は危ないところだった。彼女がそうなことは視て知っていたけど、まさか魔女だったとは。それに、まさかあんな状態で、しかもこんなところで会うなんてね。僕が王都に向かってて良かったよ。彼女が死んでたらもう詰むところだった」


 独り言を呟きながらギルドの方へ向かう。


「それに、()()に僕の精神系の方の力を使うのは初めてだったし、ちゃんと通じて良かった」


 思い浮かべるのは先日出会ったウルカという少女だ。憎悪か怨嗟か、強い負に侵されて歪んでいた少女と、自らの施した少しの仕掛けを思い起こして思案する。


「まあ、運命が味方してくれてるんだろうな。それに、今の彼女じゃまだどうしようも無いか。今は依頼を確認しよう。続報はあるかな?」


 しばらく考えながら歩いていると、もうギルドの前までついたようだ。中に入るが、今の時間は人が少ない。今から依頼を受ける人もいないだろうし、この時間に帰ってくることになるような依頼を受ける人も少ないので、当たり前ではあるのだが。


「すいませーん」

「…ああ、はいなんでしょうか」


 受付の人はこの時間に話しかけられると思ってなかったようで、少しラグがあってから返事が返ってくる。


「タケルです。ナンバーはこれ」

「!!…そうでしたか。“剣鬼”タケル様。…竜王の件で?」

「そうだよ。何か追加の情報はある?王都の前にここで情報を更新したいんだ。後、剣鬼って辞めてよ、恥ずかしい」

「いえいえそんな、ご謙遜なさらず。“剣鬼”様は世界に4人しかいない、Sランク冒険者じゃ無いですか……こちらに。マスターを呼んできます」


 本当に恥ずかしいだけなのだが受付は謙遜と解釈したようで、そのまま剣鬼と呼んできて、僕を奥に案内した。その後すぐにマスターを連れてきた。


「どうも。ここのギルドマスターをやっているブロウと言います。細かい話は省きましょう。今どこまで情報を?」

「よろしく、ブロウさん。今分かってるのは、どこかの死霊術師を名乗る奴に過去の竜王が蘇生されて暴れてることと、推定の危険度(ランク)がSなことぐらいだよ」


 奥の部屋で現状を話した。


「なるほど…そうなると新しい情報は竜王の眷属もゾンビとして復活していることですね。推定のランクは最低でA、平均でA+上位、高いものにはSもいるとと見られています」

「なるほど。まあその程度なら関係ないかな。ありがとう。ごめんね夜遅くに」


 そう言って切り上げ、立ち上がる。


「…さすがですね。A+の魔物をこの程度扱いとは」

「ははっ、そうでもないよ。今日はありがとう」


 そのまま少しだけ雑談をして外に出る。


「いえ、感謝されるほどでは…。また何かありましたらお越しください」


 マスターがそう言うのを聞きながらギルドを後にする。


「竜王はどうにでもなりそうだね。ま、そんなこといいんだ。1番は、彼女がちゃんと強くなってくれるかだな」


 そんな一言を残して、彼は夜の闇に消えていった。

 

タケルの過去の依頼の話はどこかの間話でやるかも...やらないかもしれないけど。

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