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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
49/139

49 邂逅

 魔女と聖女が死闘を演じた図書館の街(リブレリア)のはずれの街道。まだ日も上らない時間に、新たな人影が3つ現れた。


「これは…そんな…最悪、だな」


 人影のうち、最も早く到達した者、ナート教会神聖騎士団団長アダム。目の前の惨状を目にしまともに言葉も紡げない様子だった。絶句し目を見開いてその場に立ち尽くしていた。


「…魔女が戦闘不能なのだけが救いか。それに、聖女の到着もここまで早いとは…俺も早めに来るべきだったか…いや、後悔してもどうしようもないか」


 聖女の到着が想定より1日早く、自分の到着前に戦闘が始まってしまったこと。そして聖女が戦力で負けていたこと。これらが最悪の形で噛み合ってしまい、聖女の敗北と死をもたらしたとアダムの頭脳は理解した。


「とりあえず、魔女には死んでもらうか」


 一度目の前の惨状から目を逸らし、腰の剣を抜き満身創痍の魔女にトドメを刺そうと振り上げる。


「は…?」


 しかし、振り下ろした剣は氷の壁に阻まれ魔女には届かなかった。



 ウルカが聖女と戦う二週間ほど前、魔王ジーガランデ治めるデクストラーブ魔王国、通称魔国において、“死氷”ヘルが動き始めていた。


「ネクロ、あなた知ってる?セカイ王国で新しい魔女が出たんですって」

「そうなんですか?しかし、それがどうかなさいましたか?」


 “禁忌”ネクロは“統括者”フォルネウスの命によりセカイ王国の研究都市(シエンセリア)を襲撃しに出発する直前、手駒の竜5体の調整を行っていると、上司のヘルに声をかけられる。


「それがね、聖騎士を殺したんですって」

「なんと…珍しいですね。それこそあなた以来なのでは?」


 教会の定めた魔女が聖騎士を殺した。1000年前の“死氷”の件以外では後にも先にも無かった大事件だ。


「そうなのよ。教会は多分、よほどの強者か…本物の魔者に手を出したんだと思うわ。折角だし魔王軍(うち)に連れてこようと思うのよね」

「…連れて来いと」


 ネクロは仕事が増えたと内心面倒だと思ってしまう。ヘルは良い上司なのだが、突然仕事を増やすようになってしまったかと心の中で嘆く。


「うーん…それも考えたんだけれどね?たまには私が自分で行こうと思うのよ。最近暇な時間も多いし」

「セカイ王国まで行くんですか?暇と言っても書類そこそこありませんでした?」


 仕事が増えないのは一安心だが、暇と言っても忙しいはずのヘルが直接出向くのは大丈夫なのか少し心配になる。


「んー…まあ大丈夫だと思うわ。書類仕事も結構片付いてるしね。それに、そろそろ戦争っぽいから遠出するなら今くらいが最後のチャンスなのよね」

「大丈夫なら良いんですが」


 本人が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。ヘルは自分とは比べ物にならない程に立場や責務があるのだ。適当に大丈夫などと言いはしない。


 会話の最中、ヘルの目の奥に強い光が宿っていたのにネクロは気づかなかった。


「では私は向かいますね」

「そう。ま、あなたも自分の仕事は果たしてね」


 ヘルも次の日には魔国を発ち昼夜を通して空を飛び、常識はずれの速度でセカイ王国に到着した。また、この後ネクロはタケルに討たれるのだが、それは別の…別では無いが、少し違う話だ。



「お前は…」


 止まった剣から目線を外し正面を向く。


「どうも。初めましてかしらね。今代の、神聖騎士団団長さん」


 雪のように輝く白い長髪は毛先が薄い水色に染まっており、瞳は透き通るような水色をしている。女性の中では高い身長と真っ白な肌に、美麗に整った顔には微笑みを浮かべ、薄い水色を基調とし白い装飾の入ったドレスを纏い、凛とした美しい態度の中に可愛らしさも見える。その全てをもって妖艶な大人の美しさを醸している。魔王軍四天王“死氷” ヘル。もし目の前にいるのが敵でなければ、アダムも見惚れていただろう。


「何故、お前が」

「そこの女の子、あなた達の言う魔女を私たちの元に連れていこうと思ったの。折角だし私が直接来たのだけど…あなた程の実力者が来るなら直接来て正解だったわね」


 アダムは想定外の強敵に歯噛みするが、ヘルは微笑みを崩さない。


「…単騎ならば、目的くらいは果たせよう」

「そう。それを選ぶのね」


 空気が張り詰め、一瞬の静寂が訪れる。


「はっ…」

「【れ…」

「はいストップ」


 静寂が破られアダムとヘルが互いに動こうとした時、最後の人影が乱入する。


「なっ!?貴様は…?」

「あなた、何者?」

「やあやあ、どうもどうも。アダムくんは初めまして。ヘルちゃんは…ま、初めましてでいっか」


 目の前の人影が飄々と言う。しかし、顔は見えているし声も聞こえているはずなのに、そこに何かがいるということが分かるだけで正しく認識できない。それはアダムもヘルも同じだった。


「僕はねぇ…今は、ヘルちゃんの味方かな。もっと言うとそこの魔女…ウルカの味方なんだけどね」

「…なるほどな。ならば、どう転んでも貴様は敵だな」

「そうそう。でさ、君、このまま帰らない?それとも、ヘルに加えて僕の相手もするかい?」


 人影は続ける。アダムは人影に剣を向けるが、ヘルはヘルでこの人影を本当に味方と断定して良いのか決めかねていた。


「あなた、そこの魔女…ウルカをどうするの?」

「んー、今のところ魔国に行ってもらおうと思ってるよ。今はそれが最善だろうからね」


 人影はアダムに意識を向けたまま答える。


「そう。まあ良いわ。団長の相手、手伝ってくれるのね?」

「…ま、そうだね」


 人影の答えは肯定であったものの、ヘルは少しの含みを感じ、それを聞こうとした。しかし、次の瞬間だった。


「ーーーーーー」


 よく分からない、もしくは正しく認識できなかった一言。その音を聞いた後、人影は夜の闇に溶けるように消える。


「そう言うわけだから、アダムくんには帰って貰おうかな」


 夜の闇のどこかから人影の声が響く。声も顔も認識できない上に姿を消した人影は、気を抜けば頭から存在が抜け落ちてしまうような薄く曖昧なモノになっていた。


「そういう訳にはいかないな。貴様らはともかく、魔女にトドメを刺すくらいはさせてもらう」

「そっか。ーーーーーーー」


 また認識不能の音。その後アダムの足元が氷つく。人影の力らしいと思われるが、この場の誰も、人影本人を除いて理解できていなかった。


「…人影くんも手伝ってくれるらしいし、怪我しないうちに帰らない?」

「…ふむ。そうはいかないな。はっ!!」


 アダムは足の氷を砕き、剣を構えて迫ってくる。隙を作り、ウルカにトドメを刺すつもりなのだろう。


「【麗氷界】」


 ヘルは自信を中心に低温の領域を展開し、アダムを凍り付かせて進撃を妨害する。しかし、アダムは意にも介さず凍った側から無理やり砕いて迫ってくる。


「はあっ!!」

「【零刃】!」


 ヘルはアダムの剣を氷の斬撃で受ける。


「危ないなぁ…僕も近くにいるんだから気をつけてよ」


 2人が戦闘を開始し互いに集中した瞬間、人影はその存在を2人の意識から外した。元から薄かった存在感はほぼ零になり、直接何かしなければ気付かれないだろうというレベルまで薄まる。


「ーーーーーーー」


 そしてまた認識不能の音を発し、次の瞬間竜巻のような風が吹きウルカを包む。


「なっ!?」

「くっ!?」


 四天王と団長を相手に認識をはずし続けるのは至難の業であり、意識の外に居続けるのは一瞬が限界だった。2人とも音を発した時点で気づいていたようだ。しかし、人影にとってはもう問題にならなかった。


「さすがだね…ただ、結果は同じだよ」


 今の行動を気付かれようが気付かれまいが、ここまで来れば最終的には同じ結果になる。


「じゃあヘル、お願いね」


 竜巻がヘルをも飲み込み、ウルカとヘルの2人とアダムを分断した時、人影はそう言い残して姿を消した。



 風が止んだ時、そこには誰もいなかった。


「逃した、か…“死氷”め…」


 アダムは“死氷”との戦闘を思い返す。相手が悪かったとはいえ、一対一の戦闘で魔女にトドメを刺すことすらできずに逃げられたのは非常に苦々しい。いくら四天王が相手とはいえ当初の目的すら果たせなかったのはいただけない。


「しかし…仕方あるまい、か」


 アダムは溜め息をつき、もはや半分ほどになってしまった聖女の遺体を抱え、帰路についた。



 突然の風が止むと、腕に魔者を抱えて先程までとは少し違う場所にいた。道を数本挟んだ程度だが、視界に団長はいなかった。


「それにしても酷い怪我ね。魔者じゃ無かったら死んでるわよ」


 腕に抱えた魔者…ウルカの治療を終え帰路につくヘルは、眠るウルカにそう話しかける。


「団長さん相手に最善の結果は運が良かったわね。しかも一対一で怪我も無し」


 先程の戦闘を思い返し、運の良さを実感する。互いに全力では無かったとはいえ、歴代神聖騎士団団長は皆強い。負ける事はないと思っているが、無傷で終われたのは運も相当味方していただろう。


「一対一…風…気のせいかしらね…」


 何かが引っ掛かったが、その違和感は半ば強制的に消失し、すぐに忘れ去った。


「ま、迎えに行って死んでたとかそういうのは無くて良かったわ…」


 ヘルは目的の魔者の無事を喜び、魔国にゆっくりと帰っていった。



「はぁー…疲れたぁ…」


 人影…もといタケルは街道を離れゆったりと歩く。口からは溜め息がもれ、面倒な作業を終えた小さな達成感と次の面倒ごとへの憂鬱さが心を埋める。


「はぁ…聖女の動きを早めるの、大変だったなぁ…」


 聖女と団長の到着ずらすのには結構苦労した。聖女の視界に入らないように後をつけ、時間の認識を歪ませて1日あたりの移動時間を増やし、行程を合計一日分早めた。違和感が大きくならないように細心の注意を払いつつ調節し、聖女達本人に気取られないようになんとか成功させた。シエンセリアから戻ってきてから聖女一行に張り付きっぱなしで面倒な作業をこなしてきたので、少しばかり疲れていた。


「それに“死氷”もちゃんと動いてて良かったよ…“禁忌”から確認はしてたけど、ちゃんと()()()が機能したね」


 “死氷”に仕込んでいたものがしっかり機能していたのも良かった。“死氷”を正しく動かせなければ最悪詰んでいたところだ。


「まあ、何よりウルカが無事で良かったかな…最終盤面までもう少しか…ふぅ…頑張るかぁ」


 自分の思い描く最終盤面を思い浮かべる。長く色々と工作してきたが、それももうすぐ収束する。未来を思い浮かべ、面倒という思いを払う。


「竜の里行って…戦争の遅延か」


 竜の里へは竜王と四天竜の遺骨を返しに行くとして、戦争開始の遅延をどうかけるかを決めなければならない。先の予定を考え、歩き始める。


「んー…」


 タケルは大きく伸びをして、草履の音を響かせて夜の闇に消えていった。

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