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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
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4 盗賊と魔物

「ぐおぉぉぉらぁぁぁぁ!!」


 爆炎を斧の側面で受けたらしいボスは傷を負っている様子はなく、すぐさま切りかかってくる。


「傷一つ無いか…はあぁぁぁ!!」


 私は後ろに身を引いて躱し、斬撃に火球をぶつけてみる。聖騎士と比べて動きが雑なので、素人の私でも避けるぐらいはできた。


「ぐっっ…」

「ふぅぅぅぅ…はあっっ!!」


 爆発に一瞬怯んだところに一気に火球を5つぶつけてやる。ボスは、1つは斧で受けれていたが、他の4つがクリーンヒットする。


「ぐおおぉぉぉぉ!!」

「…ちょっと煙いね。ぶつけすぎたか。…さてと、周りのも殺そうか」


 一気に火球が爆発したので煙で周りが見づらくなってしまった。

 残党を処理しようと火球を生成しながらそいつらの方を向く。しかし、その時《強化感覚》で強まった聴覚が一つ音を拾った。音を殺していたが、人が起き上がる音だ。


「なっ!?気絶すらしてないの!?はあぁぁ!!」

「ちいぃぃ…こいつを防ぐかよ…」


 火球が全身にクリーンヒットしたはずのボスが斧で切りかかってきた。咄嗟に炎の壁を形成して防ぐことは出来たが、問題は切られそうになったことではない。鎧も何も身に着けていないはずのボスが、火球を食らったとは思えないほど軽傷だったことが問題なのだ。


「よく気付いたな…大体の奴はこれで頭を割られてくれるんだぜ?やったと思った相手からの不意打ちなんざ普通は防げるもんじゃねえぞ。化け物め。どんな手を使いやがった」

「そう。でもあなたも人のこと言えないでしょ。軽傷すぎる。どんな手を使いやがった、もこっちのセリフだよ」

「はっ、そうかよ」


 お互いに予想外の事態だったようで、両者ともに相手に探りを入れる。しかしその間に隙を作ることも無く、痺れを切らして仕掛けたのは同時だった。


「はああぁぁぁぁぁ!!」

「どおぉぉりゃぁぁぁ!!」


 私は火球を一気に5つ打ち出し、一緒に前に走り出す。ボスは火球を無視して体で受け止めそのまま迫って来て斧を振り下ろしてくる。しかし、火球は予測できても私自身が突っ込んでくるのは予想外だったようで、振り下ろした斧は狙いが外れて私には当たらない。


「なんだとっ!?」

「…甘いっ!!おぉぉりゃぁぁぁ!!!」


 私は突っ込んだ勢いそのままにボスの横を通り過ぎて後ろに回り、生成した炎の槍を背中からぶっ刺してやる。


「なっ!?硬った!!おおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぐあはぁぁぁ!!」


 ボスがギリギリで躱そうとしたのと、何かの岩か金属かと思うほどに硬い肉体に阻まれ、炎の槍は急所を貫通することなくボスの脇腹をえぐって地面に突き刺さる。


「てんめえぇぇぇ…!!」

「急所は外したけど、もうまともに動けないでしょ。で?今の硬さは何よ」


 ボスは片膝をついて脇腹を抑える。しかし、この状況でニヤリと不敵に笑った。


「ははっ…ごふうぅっ…まさかやられるとは…俺のスキルは《頑丈》って言ってな…普通の人間の何倍も硬いんだよ。」

「…スキルだったんだね。単純だけど、面倒なスキルだったよ」


 ボスが血を吐きながら教える。


「ごふぁっ…貫通できるテメェもテメェだ…ああ、あともう一つ、テメェ、今、()()()()()()()()()()()

「は?何を言って…なっ!?ぐ、くうぅぅぅ…」


 周りにいた奴ら全員が矢を放ってきた。防ぐのが間に合わず、全ての矢を食らってしまう。ボスに意識が完全に行っていて、周りの奴らの存在を忘れていた。

 矢を食らった瞬間、足元がふらつく。


「く、そ…」

「ちなみに、今てめえに刺さった15本の矢一本一本に致死量の麻痺毒が塗ってある。即効性のな。諦めな。油断したてめえの負けだ」


 何とかできないかと急いで体内で炎を燃やして毒を分解していくが、如何せん矢の数が多く、燃やす前に体に回り始めてしまった。


「安心しろ、苦しむ前に首を刎ねてやる」

「…待って…私の…正体を…教えて…あげる」


 体に回り始めた毒を分解するのはとても大変で時間がかかるが出来なくは無さそうだ。というか出来なきゃ詰みだ。その時間を稼ぐため、毒の分解を始めながら話をする。


「ほう…そいつは非常に気になるな。てめえの炎の手品のタネを明かしてくれんのか?嬉しいね…だが、お断りだ。変なことされる前に、首を落としてやる。ま、最期まで怯えも命乞いせず足搔こうとした、骨のある奴だったと覚えといてやるよ。おりゃあ!!」


 作戦は失敗し、ボスは斧を振り下ろしてくる。しかし、元々素直に話を聞いてくれるなんて思っていなかったので、たった今稼いだ30秒で集めた魔力を解放して爆発させ、自分を吹き飛ばして斧から逃れる。


「ちっ…余計に喋るんじゃなかったぜ。いい加減死にやがれっ!!」


 斧を振り上げながらこちらに向かって来る。私は落ち着いて炎壁を作って斧を防ぐ。毒の分解も少しずつだが進んできた。


「教えるって言ったし、教えてあげるよ…。私は、魔女だっっ!!」

「なっ?魔女だぁ?…!!ぐおおぉぉぉぉ!!」

「ぎゃああぁぁぁぁ!」

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!」


 言葉と同時に魔力を解放し、打てるだけ炎槍を打ち出す。ボス以外にもしっかり打ち込んで、もう不意打ちも許さない。想像より大量に槍が生成でき、全員に打ち込めたし、食らった全員は燃えながらのたうち回ってるのでボス以外はもう気にしなくても大丈夫そうだ。ボスには、えぐれた脇腹に5本ぐらいぶち込んでやった。


「がはああぁぁぁぁぁ!!魔女だと!?信じられ…いや、こないだ聖騎士が来たな…くそ、ガチの化け物じゃねえか」

「はあ…はあ…もう、一発!!」

「全く信じたくねぇが、嘘だとしても相当な怪物…ぐううううぅぅぅ!」


 ボスはアジトの奥へ逃げ始めるのを見て、私は追撃の炎槍を打ち出す。今度は確実に殺す。

 ボスは何発か炎槍を食らいながらアジトの一番奥まで逃げたが、もうそこは行き止まりで逃げ場は無かった。


「これで、終わらせる…!」


 私はもう一度炎槍を生成し始める。しかし最初より確実に生成のスピードが落ちている。魔力も減ってきたし、解毒しきれず回った分の毒も効果を発揮しているようだ。槍を作っているうちに、ボスが話し始めた。


「くっ、くくくっ。もう俺はおしまいみてぇだな。このままじゃどう足搔いてもてめえに殺されるさ。だから、てめえ1人ぐらいは道づれにしてやる!共に果てようぜ!!」


 するとボスは鍵を取り出し、奥の岩壁に突き刺して回した。一瞬何をやっているのかと思ったが、放っておくのはまずいと思い、ギリギリ完成した炎槍を打ち出す。


「はあ…はあ…食ら、えっ!」

「ごふぁっ!!…くははっ…遅えよ…ごふっっ!」


 もう傷だらけで《頑丈》もまともに機能していないのか、ボスの腹に深々と炎槍が突き刺さる。


「もう、扉は開いたぜ…ヤツらが出てくる…あの方意思にぁあそぐわないが、もう死ぬ俺にゃあ関係無ぇぜ…くはっ…くはははごっふぁああああ!!!」


 ボスが喋っていると、壁の鍵の刺さった辺りが開き、巨大な爪が出てきてボスを貫いた。壁が開ききると、そこにはボスの身長を優に超える、獅子の頭と山羊の胴に蛇の尾を持つ異形の化け物が立っていて、その後ろには狼型の物やスライム型の物など、異形の化け物には劣るものの大量の魔物が。異形の化け物の爪に貫かれたボスは、一撃で絶命したようだった。


「GIYAOOOOOOOOOOO!!」

「これは…まさか…」


 昔、一度だけ見たことがある。「キマイラ」と言う魔物。異形の巨大な化け物は、それに酷似していた。


「毒も、こいつから採ってたのか…どうする…」


 魔力も大分使ってしまったし分解しきれなかった毒もまだしっかりと効果を発揮している。矢の傷からの出血もばかにならない。


「どうにかして逃げるしかない、か……はああぁぁぁ!」


 とは言え諦めて死んでやるつもりも無いので抵抗する。残った魔力をかき集め、キマイラの顔面に火球を炸裂さる。今キマイラは目が潰れているはずだ。この隙に逃げ始め、アジトの入口があった方に全力で走る。


「くそっ…あとどれだ球を打てる?槍を打てる?壁を出せる?」


 考えながら逃げ続ける。アジトの中はキマイラにとっては天井が低く、今はある程度距離を保って逃げられているが、外に出ればそうは行かない。何か手が必要だ。それにキマイラ以外の魔物どもにとっては天井も大した障害にはなっておらず、そちらの対処のしなければならない。


 入口は自分で塞いだのが分かっているので、先に準備しておいて火球を爆発させる。


「おりゃあ!!よし…!」


 上手いこと威力を調節し、人一人通れるくらいの穴をあけてそこから逃げる。当然キマイラはその穴から出ることは出来ないので、少しは時間が稼げるだろう。


「どうすればいいの?ヤツを殺せる?ヤツから逃げきれる?」


 考え続けるが、魔力も無く毒も回っている今では良い案など一つも浮かばない。


「まあ良いや…とりあえず…おりゃああああ!!」


 自分の魔力の残量を気にしながらではあるが、可能な限り大量の槍を生成してさっき通ってきた穴に向かって打ち出す。キマイラではなく周りの狼型やスライムを狙ったものだったが、なかなか綺麗に決まったようで、魔力を多く使った甲斐もあって大幅に数を減らせていそうだ。


「小さいのはとりあえずこれで…」

「GIYAOOOOOOOOOOOO!!」

「もう突破したの…!?」


 しかし、キマイラはもうアジトの入口をこじ開けて出てきたらしい。もしかしたら槍の威力が脱出を手伝ってしまったかもしれない。外には天井なんて無いし、追いつかれるまでもう20秒も無い。


「GRUOOOOOOOOOOOOO!!」

「くっ!はあぁ!」


 案の定すぐに追いつかれ、爪で切り裂かれそうになる。炎壁を生成して何とか防いだが、魔力がなくもう何度も炎壁を作れそうにない。


「くうぅぅぅぅぅ…これは?…そりゃだめだよね!うわああぁぁぁ!」

「GIYAOOOOOOOOOOOO!!」


 森の木を盾にしようと試みるが、バターでも切るかのようにすんなり切り裂かれて何の障害にもなっていない。


「どうする?どうする?くううぅぅぅぅ…」

「GRUOOOOOOOOOOOOO!!」

「(毒が回って頭が働かない…魔力も…解毒と槍で使いすぎた…)」


 その時、一瞬、ほんの一瞬だけ、木の根に足を取られてしまい、走るスピードが落ちてしまった。しかし、その一瞬が命取りだ。キマイラがその一瞬を見逃すわけも無く、前足で地面に押さえつけられてしまう。


「GIIIIYAOOOOOOO!!」

「がっ…がふっ…」


 キマイラは、逃げる獲物をやっと捕まえた喜びからか、これまでより大きな雄叫びを上げる。


「ぐっ…死んで、たまるか…!おりゃああぁぁぁぁぁ!!」


 残った魔力をすべて使って火球を作り、爆発させる。もう魔力は空になってしまったが、その爆発のおかげで一瞬キマイラの前足から逃れられた。


「よしっ!…なっ!?ぐはあっ!!」

「GIYAOOOOOOOOOOOO!!」


 しかし逃れたのも束の間、またすぐ追いつかれてしまう。かなりの爆発だったが、キマイラには傷がほとんどついていない。


「(ああ、やばい…もう魔力も無いし…体に力が入らない…)」


 キマイラを目の前に、両膝をついて倒れてしまう。キマイラだけでなく、槍から生き残った狼型やスライムなんかも追いついてきて囲まれてしまう。


「GRUOOOOOOOOOOOOO!!」

「(やばっ…死ぬ…)」


 キマイラに爪の一撃を貰ってしまい、意識が朦朧とし始める。キマイラが次撃のための爪を振り上げ死を予感した瞬間、


「GIYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」


 キマイラの首が飛び、次いで尾の蛇も切り飛ばされた。周りの魔物も首が落ちたり細切れにされたりして一瞬で全滅する。


「まさか、死にかけてるとはね。僕が来なかったらここで終わってたよ…まあ来るのは決まってたんだけどさ。それも含めての運命、ってことかな」


 意識を失う最後に見た光景は、見慣れない服を着て見たことのない剣を持った男が、その剣を鞘に納めるところだった。

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