30 ノームとガイアの戦闘
「【岩石招来】」
ノームさんの声で大量の岩が集まってきて、ノームさんの周囲に浮かぶ。私はスキルの使い過ぎでぼーっとしている頭と霞む目で二人の戦闘を見る。
「【礫】」
次の声で浮かんでいた岩々がすごいスピードで男二人に向かって飛んでいく。
「ちいぃぃぃ…『聖典よ、我に力を与えたまえ』!【聖盾】!」
「ナイスですぜ、旦那。精霊、まずはあんたからだっ!食らいなっ!」
しかし、礫は突如出現した光に防がれてしまい、雇われの犯罪者の方がナイフか何かを投げながら走ってくる。
「さすがに甘いんじゃない?【土亀】」
ノームさんの前に土でできたらしい亀が出現し、その甲羅ですべてのナイフを防ぐ。
「【地帝右拳】、【岩王左拳】…まずはあんたから、なんて、許すわけないでしょ?オラァッ!!」
「はっ!?ごっふぁぁぁぁぁ!!」
ガイアさんの左右に巨大な左右の拳が出現し、向かってきた男を殴って吹き飛ばした。
「…【治癒】絶対的に火力に差があるぞ。私にはそんな手段など無いぞ。貴様、手はあるか?」
「どうでしょうねぇ、旦那…俺のスキルは…ってうおお!!」
「ちっ!【聖盾】」
男二人は一旦距離をとり作戦会議をしていたが、足元まで来ていた土の亀に気付かずに噛まれそうになっていた。
「それでやられてくれれば楽なんだけどね…」
「ま、どうせやられんのに変わりはないわ。今度はこっちから!」
「そうだね…【石化魔陣】」
今度はガイアさんが男の方へ突っ込んでいく。ノームさんもそれに合わせて何かをしていた。
「くそっ…避ける…何っ!?」
「何だこれは!?」
「それがあれば逃げれないわ。オラオラオラオラァ!!」
「【聖盾】んぅぅぅぅぅぅ…ぐはぁっ!!」
「ごっふぁあっ!!」
避けようとした男たちだったが、足が石や砂に固められて動けずガイアさんの連打をもろに食らっていた。途中光で防御しようとしていたが、拳の衝撃に耐えられなかったのかその盾も崩れていた。
「【盗感覚砂嵐】!今、決めてしまおう。行くぞっ!」
男二人が怯んでいるところに、まともに1メートル前も見えないような砂嵐が発生する。
「ええ。行くわよ。【千手・環暴空】!!」
それとタイミングを合わせ、ガイアさんの上に最初に出した二つと同じ手が大量に出現する。それらは円を作り回り始め、回転は段々加速していく。
「なっ!?見えも聞こえもしねぇ…どうしろってんだ」
「【聖盾】!【聖盾】!【聖盾】!くそっ…防げないぞっ…!!」
「食らいな…!オラオラオラオラオラァ!!」
砂嵐に感覚を奪われたらしい男たちは、足元が石になっているのもあって動きようが無さそうで、そこに大量の拳が降り注ぐ。
「くっ…仕方無しか…【聖撃・伝播】」
「しゃあねぇ…《劣化錬成》…はああぁぁぁ!!」
しかし、もうやったと思ったが、司祭の方から雇われの方に光が渡り、その光を纏ったナイフを大量に投げて降り注ぐ拳を相殺されてしまった。
「これを耐えられるか。聖典は分かるが…雇われの方のスキルは何だ…?」
「虚空からナイフを取り出してたわね。ナイフの弾数が無制限と思った方がいいかも」
「そうだね…しかし、気になることがある。なあ、司祭、今伝播って言ったか?それ、そこそこ上級者にしか使えなかったはずなんだけど、何で誘拐やら何やらしてるんだい?」
二人は拳を謎の力で相殺されたのを見て少しだけ相談し、その後殺気を緩めずに敵に話しかける。
「今君たちは、五感が弱まってかつ足も動けない。大人しく教えてほしいね」
「ふんっ…バカめ。順序が逆なのだ。私は稼いだ金を上に渡して出世してきたのだ。汚いからこそ上級者なのだよ」
「ふーん…腐ってるんだね。ま、話聞いて余計殺りがいが出てきたよ」
少しだけ言葉を交わしたノームさんと司祭だったが、それが終わるとノームさんの殺気はより一層鋭さを増していた。
「くくっ、そうか…ああ、精霊、私に構いすぎじゃあないかね?」
あろうことか司祭は鋭くなった殺気を受けて笑う。すると次の瞬間にノームさんの横から雇われの方が襲いかかって来る。
「一人はここで落とさせてもらいますぜ…食らいなっ!!」
「まあ、なんだ、僕は君に意識を向けてて問題ないんだよ。相方がいるもんでね」
「その通り。落ちるのは、お前だ!【御世羅】ッッッ!!」
「な!?ぐああっっ!!」
飛びかかってきた男にはガイアさんが対処する。拳をアッパーのように振ると、それに連動して地面から巨大な土の拳が上がってきて男を天井まで吹っ飛ばす。
「【石化魔陣】…どうやって抜け出したか知らないけど、さっきより強めに縛っておくよ。ガイア、終わらせちゃって」
「ええ。【鏑失】」
ノームさんはもう一度男二人の足を固め、ガイアさんは岩の矢を大量に生成してそれを発射し、それに合わせて突撃する。
「オッ…ラァッ!!」
「ちいいぃぃぃ…くそがっ!予定外だが…【解放】!!私を守れ、魔物ども!!」
「SYUUUUUUUU!!」
「なっ!?くっ…オラァ!」
殴りかかったは良いものの、司祭の声で魔物の檻が開放され、その魔物たちが素早く動いて司祭と雇われを拳から守る。
「グギャギャギャギャ!」
「GUOOOOOOOOO!!」
「KYUUUUUUUUU!」
「魔物を…?何かのスキル?」
「ちょっと面倒だね…」
ガイアさんは大量の魔物が迫ってきたのを見て身を引く。そんなことあるはずが無いと思ったが、魔物は司祭が操っているように見える。
「旦那!?良いんですかい?」
「全く良い訳があるかっ!くそっ…まさかこれを見せる羽目になるとは…しかし、見せたからにはお前らは確実に殺す!行けっ、魔物ども!蹂躙しろ!!」
「魔物の使役?そんなスキル聞いたことが無いが…厄介だね」
「そうね…弱いのは適当に処理しちゃって。強めのは一瞬止めてくれれば良いわ」
「了解。【最過重土亜鈴】!!」
魔物が司祭の指揮下にあることと向かって来ることを確認して二人は一瞬だけ作戦会議をしてすぐ行動に移る。ノームさんが腕を振り上げると魔物たちの頭上に巨大な土の塊が現れて圧縮される。
「指揮者を落として暴走されても困るんでね…まずはそっちからだよ、雇われ。オラオラオラオラァ!!」
「そいつは困るねぇ…俺ぁ近接で殴り合うのは苦手なんだが…ふっ…!!」
ガイアさんは雇われの男に肉薄して左右に浮かぶ巨大な拳を振るう。男はギリギリで避けているが、だんだんかすり始めてきて後が無さそうだ。
「ちっ…面倒な…だが魔物がいる以上こちらの方が手数は上。奴も助けさせてもらおう。行けっ!」
「それはお断りだね…圧し潰せ!!」
「何っ!?」
司祭が魔物を雇われの方に向かわせようとした時、ノームさんが掲げていた腕を振り下ろした。それに合わせて魔物の上に浮いていた土の塊が落下し、ほぼ全ての魔物を圧し潰す。
「何をするかっ…!ちっ…これだけ集めるのに何年かかったと思っているのだ…まあいい。本命は生き残ったからな…キマイラよ、行けぇい!!殺せぇぇぇ!!」
「GYAOOOOOOO!!」
「キマイラ…そんな化け物どうやって使役しているんだい…【鏑失】!はあぁぁぁ!!」
ノームさんは司祭の救援を阻止すると、そのまま司祭と一対一で戦い始める。向かってくるキマイラと言うらしい魔物に、土の矢を大量に打ち出して対抗する。
「ま、止まんないよね…【城塞】!」
矢はほとんど当たったものの、あまり効果は無くキマイラはそのまま向かってくる。ノームさんはそれに合わせて巨大な防壁を張ってキマイラの進撃を防ぎ時間を稼ぐ。
「さて、こいつならどうだ?…喰い破れ、【咀嚼土亀】!!」
ノームさんは一瞬稼いだ時間で巨大な、最初見たものより大分凶悪な見た目の亀を作り出して壁ごとキマイラを攻撃する。
「GIYAOOOOOO!?!?」
キマイラは亀になんの対応もできず、壁ごと噛みつかれて動きを止める。しかし、その叫び声とは裏腹にそこまで大きな傷を負った訳では無いようで、すぐに突撃してくる。
「GURUOOOOOOO!!!」
「【城塞】!しかし、そう甘くは無いか…どうしたものかな」
ノームさんは壁を作り出し、少しの間キマイラの攻撃を凌いで次の手を考えているようだったが、その壁もあまり長くは持たずに破壊される。
「GUGYAAAAAAA!!!」
「早いな…なら…【岩石招来】…」
「GURAAAAAA!!!」
「【斧】!!」
壁を突破してきたキマイラに対し巨大な戦斧を生成してぶつける。キマイラはその強靭な肉体と牙で応戦し斧を砕いたが、浅くは無い傷を負ったようで、一瞬怯んだ。
「【石化魔陣】!!」
「GURUUUUUU…!!」
怯んだ隙にキマイラの足元に陣を作り動きを止める。キマイラはすぐには拘束を破れないようで少しの間もがいていた。その少しの間に次の精霊術の用意をするが、拘束はすぐに破られてしまった。
「GUUUUOAAAAAA!!!」
「ぐふっっ……だけど、もう終わったよ…!」
ノームさんは拘束を破ったキマイラの攻撃を受けて後ろに吹き飛んでしまい、キマイラはさらに追撃を加えてくる。しかし、準備は終わったと少し笑ったノームさんは掲げた腕を振り下ろした。
「君は、これで終わりだよ。食らえ…【終焉土招来】!!!」
ノームさんはいつの間にか作り出していた巨大な、小さな家程度なら簡単に圧し潰せる程の大きさの岩や土の塊をキマイラの真上からぶつける。土や岩が圧縮され見た目以上の質量を持っていたらしいそれは、容易くキマイラ潰して絶命させた。
「GIYAAAAAAA!!!」
「うん。ま、こんなもんか。…そっちには行かせないよ。【鏑失】!!」
キマイラは槍を受けて断末魔をあげて倒れる。ノームさんはそれを確認して司祭の方を向き、雇われへの救援を阻止するために矢を放つ。
「なっ!?【聖盾】!仮にもキマイラだぞ…!!早すぎる…!」
「僕らはそれだけ怒ってるのさ。それに、結構苦戦したよ。ま、いいや。ほら、食らいなっ!!【石化魔陣】」
「くっ…」
「追加だ…【岩土捕縛】」
「がっ…」
司祭は矢は防げたものの、次の捕縛は防げなかったようで岩や土で固められて完全に拘束される。首から下が完全に岩で固められ、口に猿轡をはめられて身動きも取れないようだった。
「ガイアの方は…もう終わりそうか」
司祭の拘束を終えたノームさんはガイアさんの方を確認する。
「《劣化錬成》…おりゃああああ!!」
見てみると、雇われの男がガイアさんに大量のナイフを投げつけているところだった。男が攻勢に出ているのかと思ったが、良く見ればガイアさんは無傷で男の方が傷だらけだった。男の方はもう後が無いようで、これが最後の攻勢のようだった。
「はあぁぁっ!!もう、終わりにしようか…!!【地岩守護神像】!」
ガイアさんは土の手を振るってナイフを弾き飛ばし、自分の背後に巨大な人型の像を出現させる。
「食らいなっっっ!!!オラァッ!!」
「ごっっふぁぁぁぁぁ!!!!」
掛け声と共に像の腕と最初から使用していた手が同時に振るわれ、男にクリーンヒットし吹き飛ばし、男は壁に激突して血を吐く。
「【石化魔陣】そっちも終わったかい?」
「ええ。そっちも?」
「ああ。よし、まずはネルの安全を確保して、ウルカの手当てだ」
「そうね。急ぎましょう」
雇われの男もノームさんに拘束され、戦闘は終了した。
「えーっと、ここか。ガイア、ウルカの手当てを頼めるかい?」
「わかったわ。道具は…ああ、こいつらのがあるわね」
ノームさんは奥の部屋に向かい、ガイアさんは私の方に来て私の手当てをしてくれる。私はスキルのせいで顔中血だらけだし、まだ血が微妙に止まっていないのだ。
「ウルカ、大丈夫?ちょっとこっち向いてね…うん。とりあえずは大丈夫だと思うわ。これからはスキル使う時気をつけてね?」
「はい…」
「なんか頭痛そうだけど…ごめんね、休んでとしか言えないわ…」
ガイアさんは私の顔の血を拭き取り、目や耳に感覚を阻害しない程度に軽く包帯を巻いてくれた。
「ガイア!ウルカ!ネルは無事みたいだ!」
「本当!?ならよかったわ…」
ガイアさんが私に包帯を巻き終えたぐらいでノームさんから声が聞こえてくる。無事ネルを発見できたらしく、ガイアさんも胸を撫で下ろしていた。
「ネル、歩けるかい?」
「うん…大丈夫」
ノームさんがネルを連れて帰ってくる。
「ネル…?ネルっ!!」
「あ、ちょっとウルカ!?」
「え?うわぁっ!!」
私は考えるより先に、ネルに向かって飛び出して思いっきり抱きしめた。ネルが無事でいるのを見れば、頭が痛いのも目が霞むのも吹き飛ぶようだった。ネルはびっくりしていたが、すぐにこちらを抱きしめてくれた。
「うわあああああん、ネルうぅぅぅ…よがっだぁぁぁぁぁ…」
「なんでウルカがそんなに泣くの?大丈夫だよ…」
「だって、だっでぇぇ…ネルが、いなぐなっちゃったんだもん…パパとママみだいに、もう会えなかったら…どうしようってぇ…」
私はネルに抱きついたまま泣きじゃくっていた。5歳の時のように、また大事な人がいなくなってしまうんじゃないかと不安で不安で仕方なかった。
「ねえ、ウルカ、大丈夫だよ。私はずっと、ウルカの側にいるよ。何があっても、ウルカの側からいなくならないよ」
「うぅ…ひっぐ…ほんと…?」
「うん。ほんと」
私はしばらく、ネルに抱きしめられたままで泣き続けていた。




