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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
29/139

29 誘拐

「はぁ…はぁ…」

「ん…?ウルカ?どうしたんだい?」


 ノームさんとガイアさんがもう帰っていることを願い、家の方に全力で走った。二人もちょうど帰っているところだったのか、道中で合流できた。


「荷物も無いし、ネルは?」

「ね、ネルが、ネルが…」

「…落ち着いいて話してごらん。何があったんだい?」


 私が酷く焦燥しているのに気付いたのか、ノームさんは真剣な顔になって聞いてきた。私は二人に会えていくらか安心出来たのか、ちゃんと喋ることができた。


「ネルが…ネルがいなくなった!多分、攫われた!」

「!?なんだと…」

「すぐに探すわよ!」

「ああ!ウルカ、ネルはどこで居なくなった!?」


 二人は私の話を聞き、すぐに行動を始めた。


「こ、こっち。広場で居なくなった」

「分かった。…よし、行こう。案内してくれ」


 そう言ってノームさんは私を抱き上げて、ガイアと共に走り出す。


「そこを右、次を左、最後に右に曲がったら広場の奥のベンチのところ」


 私はノームさんに抱えられながら案内し、さっきまでネルといたベンチのところまで来る。


「ここ、ここで居なくなった。私がちょっと居なくなってた時に」

「そうか…何か犯人を見たりは?」

「…してない。ここで助けてって聞こえた」

「分かった。どう探すか…」


 ベンチには買った品物がまだ放置されていた。犯人の顔もわからず、ノームさんとガイアさんはどう探すか頭を抱えていたが、私の焦りは加速するばかりだった。


「よし、そうだな。ネルの体重分、ネルを攫いにくる途中と攫ったあとで、踏み込みが深くなっている足跡があるはずだ。それを探す。幸い地面は土だ。なら、そこは土の精霊()の畑だ」

「分かったわ。私は町の地図取ってくるからその間にお願い」

「ああ」


 作戦が決まったのか、ノームさんとガイアさんは悩むのもそこそこに行動を開始する。ガイアさんは地図を探しに行き、ノームさんは地面に手を当てて目を閉じ、何かを始めていた。


「これは…違う。こっちは…違う。これ…も違う。同じ形で深さの違うもの…むっ…これだ。後は軽く印を…よし!」

「ねえ、ノームさん…ネル、帰ってくるよね?無事だよね?」

「…ああ、必ず無事だし、必ず帰ってくる。僕たちが助けるからね」


 私はずっと不安なままで、ノームさんにそう聞くと、犯人への怒りと私への優しさが入り混じった真剣な顔でそう宣言された。


「ノーム、地図あったわ。どっちに行ってる?」

「ああ、地図見せてくれ…北東の方だ。しかし、やはりそっちか…」

「だろうとは思ったけど最悪ね…ま、急ぎましょ!」

「ああ。あ、ウルカは先に帰ってなさい」


 ノームさんとガイアさんはすぐに犯人の向かった方向を見つけたらしく、そちらに出発しようとする。


「私も行く。さっきスキル貰ったんだ。私も役に立つから連れてって」


 帰れと言われたが食い下がる。我儘なのは自覚していたが、ネルに一刻も早く会いたくてまともに考えることができていなかった。


「いや、ダメだ。ここからは危ない」

「ううん。ついてく。私のスキル、《強化感覚》って言うんだ。今もネルの匂いがちょっとだけしてる。ちゃんと役に立つよ」

「…そこまでか。分かった。おいで。ただし、僕かガイアのどっちかから絶対離れるなよ」


 ノームさんは私の目を見て何か悟ったのか、それ以上何も言わずに私の同行を許してくれた。


「よし…行くぞ…」

「ええ」


 私はガイアさんに抱えられ、二人と共に走り出す。ノームさんは度々止まって足跡の確認をし、3人でそれの通りに進んでいった。


「ふむ…やはりここか…」


 しばらく進んでいくと、いわゆるスラム街にたどり着いた。


「予想通りではあるけど…ここからは探しずらそうね」

「ああ…」


 ここまで広場からは数キロと言ったところだが、ここに来て私は匂いをとらえた。


「ノームさん、ガイアさん、ネルの匂いがする。なんかすごい臭いけど、その中に残ってる」

「!!そうか。じゃあ案内を頼む」

「うん!」


 ここまではなんの手がかりも掴めていなかったが、ここにはまだネルの匂いが残っていた。私は匂いが強くなる方へ二人を誘導する。


「真っ直ぐ、だと思う。ずっと。分かりやすく段々強くなってる」


 匂いは真っ直ぐ進むほど強くなり、進むうちにスラム街を抜けて町の外まで来てしまった。


「こんなところまで…スラムを抜けるのか?まさか森の方?まあここなら足跡も見れる…」


 町を抜けると、私の生まれた村の方角とは違うが、森が広がっている。スラム街を抜けて足跡が復活したらしく、ノームさんがまた地面に手を当てていた。


「あった!こっちだ。しかし本当にスラムを抜けたか…思ったより面倒なものが絡んでいるか?」


 10秒と経たずに足跡を見つけ、それを追って森に入る。


「む…消えた…」


 しばらく進んでいくと途中で足跡が途切れ、追跡が止まる。


「この辺から空でも飛んだか?」

「スキルか精霊術ならあり得なくはないけど…それなら町を出た時点で飛ぶと思うわ」


 ノームさんとガイアさんが考察を始めた時だった。


「…さん…ど…す…こい…やに…しろき…」

「ああ…さいあ…んご…どれ…」


 どこかから何者かの声が聞こえてきた。


「ノームさん!ガイアさん!声がします!」

「何だって!?分かった。何が聞こえるか教えてくれ」


 ノームさんに言われて聞き始める。《強化感覚》の感度を限界まで上げ、耳を澄ます。


「あっ…ぐっ…」

「ウルカ?大丈夫?」

「ぐううぅぅ…」


 感度の最大まで上がった感覚は、葉擦れの音さえ太鼓でも全力で鳴らしているかのような爆音で聞こえてくる。葉擦れですらそうなので、ガイアさんの声は、自分の真横に雷でも落ちているのかと言うほどの音だ。


「はあ…はあ…ふぅ…」

「ウルカ?どうした?」

「…聞こ…えて…来た」


 しばらく聞いていると少し慣れてきて、ひどい頭痛も軽減されてきた。今は全ての音がクリアに、よく聞こえる。さっきまで途切れ途切れだった声も、今ははっきりと聞こえてくる。


「ああ、そうだ。こいつの家がどこかは分かっているかね?」

「ああ、すんません、広場で一人でいたのを攫ってきたもんですからわかんねぇっすわ」

「全く貴様という奴は…報酬だって支払っているのだ。そう言うところが雑なのは直したまえ」

「ええ、すんません。ま、相場の倍出してもらってるんでねぇ。努力はさしてもらいますわ」


 人の会話が聞こえてくる。《強化感覚》のせいか脳が聞こえた言葉を処理してくれなかったので、聞いた音をそのままノームさんとガイアさんに伝える。


「GURUUUU…」

「グギャ…」

「SYUUUUU…」


 人の会話以外にも何かの鳴き声と思わしき音も聞こえてきて、それに加えてジャラジャラと鎖か何かを引きずる音と、たくさんの布ずれの音も聞こえてきた。


「…ルカ、ウルカ!」


 謎の声を聞くのに集中していて他の音が全く聞こえておらず、ガイアさんに大きな声で呼ばれて我に帰る。


「もう大丈夫よ。何がいるかも大体わかったわ。どんな状況かもね」

「じゃあ後は、地下を探索して突入しようか」


 二人は私の話で現状を理解したらしく、ノームさんの方は手を地面に当ててまた何か始めていた。


「…あった。ここだ。僕らの立ってる地面の真下に空洞がある」

「よし、じゃあ突入しましょう。ウルカは…そうね、下手に離れるよりノームの横にいた方がいいわね」

「ああ、任された。ウルカ、僕から離れちゃダメだからね」

「は、はい」


 私はノームさんに返事をして横につく。二人は速攻で作戦会議を終え、ノームさんが突入の準備を開始する。


「さて…行こうか。【大地操作(アースコントロール)】」


 ノームさんが何かを言うと、地面がうねり出して穴が開いていく。20秒も経たないうちにその穴は空洞に行き当たり、中が覗けるようになった。


「じゃあ行こう。はっ!」

「ええ。ふっ!」

「うわひぁ!」


 二人は穴が完全に空いたのを確認すると、そこに向かって飛び込む。私はノームさんに抱えられた状態だったので、変な声を出してしまった。


「な、何事だ!貴様らは何者だ!」

「!?旦那、こいつらは“暴威の精霊術師”ガイアとその契約精霊のノーム、Aランクの冒険者ですぜ。ちーと厄介なことになりやしたね」

「何だと…!?おい、貴様、なぜそんな大物に目をつけられている!」

「分かりやせんが…今はそれどころじゃなさそうですぜ。まずはこの窮地をどうにかしましょうや」

「くっ…」


 着地すると、先程からずっと聞こえていた声の主と思わしき人物がこちらを発見して仲間と喋り始めた。声の主は真っ黒な丈の長い服に身を包んだ男と、弓を背負った狩人のような格好をした男の二人だった。


「GURUUUU…」

「SYAAAAAA…」

「グギュグギャァ…」


 彼らの背後には魔物のつながれた檻が多数置いてあり、その魔物は地上で聞いた鎖の音と鳴き声の主らしかった。


「私はガイア。Aランクの冒険者をやらせてもらってるわ」

「どうも。僕はノーム。そこの彼女の相棒だよ」

「くそっ…なぜ貴様らのような者がここに来る!?我々に関わる!?」


 ノームさんとガイアさんは笑顔で自己紹介していたが、完全に目が笑っていなかった。


「簡単さ。僕らの娘(ネル)が誘拐されたから追跡してきたんだよ。まあ、ただでさえ治安の良いこの町で、わざわざAランク冒険者(僕ら)の家族に手を出すような輩がいるとは思わなかったし油断してたよ」

「ええ。普通は報復を恐れるものだし、よく私たちにちょっかいかけたわねぇ」


 二人は笑っていない目のままゆったりと喋り、敵を威嚇する。


「!!の、ノームさん、ガイアさん!」

「ウルカ?」

「奥の部屋からネルの声が少しだけする。助けなきゃ」


 私はまだ弱めていなかった《強化感覚》でネルを見つけ、二人に報告する。


「わかった。さっさと片付けて救助に向かおう。……!?ウルカ、スキルを切れるなら今すぐ切ったほうがいい。顔中から血が出始めているよ」

「へ?…あ」


 敵の方を向いていた二人が一瞬私の方を見て驚く。何事かと思ったが、私は顔の感覚器官から血を流していたようだ。言われて顔を触ってみると、手には血がベッタリとついて想像よりもひどい状態のようだった。流石にまずいと思って私は《強化感覚》を弱める。


「ぐっ…」


 スキルを弱めるとまた頭痛に襲われる。


「ネルだと?誰だそいつは…くそっ、まあいい。Aランクか…分が悪いが、戦わざるをえないか…」

「はぁ…こんな仕事受けるんじゃなかったなぁ。ったく…最悪だよ、旦那」


 男二人はノームさんとガイアさんの「逃さない」という意思を感じ取ったのか、臨戦体制に入った。


「汚職司祭と雇われ誘拐犯ね…ま、許さないわ。ウルカ、ちゃんと私たちの後ろにいてね。さっさと終わらせるから」

「ああ。ネルを危険な目に合わせたんだ。許さないよ。それに早くウルカの怪我の手当てもしなきゃいけないしね」


 それを見た二人も不思議な力を解放して臨戦体制に入る。


「『()るぞ、ノーム』」

「『()ろうか、ガイア』」


 その瞬間、空間が殺気で満ちた。

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