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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
26/139

26 村の大人たち

「ふわあぁぁぁぁ…」

「おはよ、ウルカ」

「ん…おはよ。ネル…ん!?」


 朝目が覚めると目の前にネルがいてびっくりしてしまった。


「何で一緒に…あ、そっか」


 一瞬間をおいて昨日からノームとガイアの家に一緒にいるのを思い出した。


「おー、起きた?すぐ朝ご飯だからこっちおいで」

「はーい」

「ふあーい…」


 ガイアが呼びにきて返事をする。ネルは元気に返事していたが、私はまだ眠くて目を擦りながらになってしまった。


「ネルぅ…どれくらいにおきた?」

「えっとねー、ウルカのちょっとまえだよ」


 食卓についてネルと話ていたが、起きた時間はあまり違わないらしく、ネルは寝起きすぐに元気な声を出していたようだ。


「おはよう、二人とも。朝食べようか」

「そうね。さっさと食べちゃおう」

「「はーい。いただきます」」


 食卓にはすでにノームもいて、四人で朝ごはんを食べ始める。


「ああ、二人とも聞いてくれ。今日は僕とガイアでちょっと出かけてくるから留守番しててくれるかい?」

「そうなの?わかった。ウルカとまってる」

「うん。まってる」


 今日は二人で留守番だ。しかし何の用なんだろうか。


「昨日今日で悪いんだけどね。あなたたちのいた村に行ってくるわ」

「え、でもまものいるよ。あぶないよ?」

「ははっ、そのために行くんだよ。僕らでその魔物を退治しにね」

「そうなの?」


 村の魔物を退治しにいってくれるらしい。村の惨状を思い出して少し体が震える。パパやママは無事だろうか。


「そう。だから、今日のお昼ご飯を食卓においておくからお昼に食べてね。後夕飯遅くなっちゃうかもしれないけど、ごめんね」

「はーい…わかった」


 ご飯のことに返事をする。もう朝ごはんは食べ終わってノームとガイアは出かける準備をしていた。


「じゃあ、朝早いけどいってくるよ。ごめんね」

「できるだけ早く帰ってくるね」

「はーい。いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」


 ノームとガイアはすぐに準備を終わらせて出発してしまった。


「…ネル、なにする?」

「どうしよっか」


 留守番と言っても特にやることなど無いので暇してしまう。


「あそぶ?」

「んー…でもなにするの?」


 二人で向かい合ってうーんと唸りながら考えるが、何も思いつかない。遊び道具なんて村と秘密基地においてきてしまっているので何もないのだ。


「あ、おうちの中たんけんしよ?」

「いいね!やろうやろう」


 しばらく考えて、今日で住み始めて二日目の家を探索することにした。


「こっちはキッチンだ。あ、ウルカ、ちょっとこれたべる?」

「えー、いいの?」

「じゃあやめる?」

「…たべる」


 キッチンにクッキーがあったのでつまみ食いしたが、帰ってきたノームとガイアに怒られないか心配だ。


「…おこられちゃうんじゃない?」

「だいじょーぶ。おいしかったからいいよ」


 ネルにそういうと若干答えになってない答えが帰ってきた。美味しかろうが何だろうが、怒られる時は怒られるのだが。まあネルが楽しそうだし良いかと思って流しておく。


 その後も部屋を見て回っていたが、途中でお腹が空いたことに気づいて時計を確認したらもうすでに1時半を回っていた。


「あ、ねえネル、おひるたべよ。もうこんなじかん」

「ん?ほんとだ。たべよたべよ」


 そう言って二人で食卓に向かい席につき、机の上を確認すると、サンドイッチが置かれていた。


「いただきまーす…ん!」

「いただきます…おいしい」


 冷えても味が損なわないように何かしてあったようで、朝に作られたはずのサンドイッチはまだまだ美味しかった。


「ん。ごちそうさま」

「ごちそうさま」


 5歳から見たらそこそこの量があったがすぐに食べ終わった。


「んー…ふわあぁ…ねむい…」

「たべたらねむくなっちゃったね…ふわあぁ…」


 起きて半日経ったこの時間にご飯なんて食べてしまったので、二人揃って大欠伸をしてしまう。


「うーん…ねる…?」

「うん…」


 二人揃って朝起きてきた寝室に向かってベッドに入る。一応ベッドは二つあったが、昨日の夜と同じように二人で同じベッドで横になった。


「おやすみ…」

「うん…おやすみ…」


 昨日の疲れが取れきっていなかったのか、1分も経たないうちに二人で寝息を立て始めていた。


 ※


「ただいま、って寝てるのね」

「まあそういう歳だし仕方ないさ。それに昨日疲れもあるだろうしね」

「ま、そうね。でも夕飯どうしよう。食べさせないのもあれじゃない?」

「まあその時は起こせばいいよ」


 眠っていると、うっすらと誰かの話す声が聞こえてきた。


「…ん?あ、おかえりなさい…ふわあぁ…」

「ふわあぁ…ウルカ、どうしたの…?あ、おかえりなさい…」


 眠くて霞んでいる目を擦って周りを見ると、ノームとガイアが帰ってきていた。ネルは起きた私に気づいて起きてきたようで、二人でお帰りを言う。


「ああ、起こしちゃった?ごめんね」

「んーん…ふわあぁ」

「ま、起きたならご飯にしよっか。ダイニングで待ってて」

「「はーい…」」


 寝室に顔を出した二人は明かりをつけてキッチンの方へ向かっていった。二人は、どこか暗い雰囲気を纏っていた。


「ん、まぶしい…」


 起きた時間はもう夜で、明かりがつけられると眩しくて目を細めてしまう。


「ん…じゃあ向こう行こっか…」


 一緒に眩しそうにしていたネルに、ダイニングの方へ行こうと手を引かれる。


「お、来たね。ちょっと待ってね。作り置きがあるしすぐできるから」

「「ふぁーい…」」

「ははっ。まだ二人とも眠そうだね」


 二人揃ってあくびしながらの返事になってしまった。


「あ、クッキー減ってるんだけど…二人食べたでしょ」

「あ…ごめんなさい…」

「…ごめんなさい」

「まあいいけど、次からつまみ食いしないようにね。今度から留守番の時はおかし置いといてあげるから」


 昼間にクッキーを食べたのがガイアにバレて怒られてしまった。思っていたより怒られなかったのでことなきを得る。


「ほら、できたよ」


 少し待っているとガイアの言った通りすぐに夕飯の準備はできて、食卓にたくさんの皿が並んだ。


「「「「いただきます」」」」


 四人で一斉に食べ始め、しばらくの間少し空気の重い、無言の時間が続いた。


「二人とも、明日は一緒に出かけよう」


 半分ほど食べた時に、やっとノームが口を開いた。しかし、どこか重い空気は残り続けていた。


「明日も君たちのいた村に向かうから、今度は一緒に来てくれるかい?」

「わたしはいくー。ウルカは?」

「ネルがいくならわたしもー」


 重い空気に少し不安になるが、ネルが行くと言っているし自分も行くことにした。


「あ、魔物は全部倒したからそこは安心してね」


 ガイアによると魔物ももういないらしい。あんなに沢山いた魔物がもういないとは。


「うん」

「わかった」


 私とネルがした返事を最後に食卓にまた静寂が訪れ、みんなが食べ終わるまでノームとガイアは喋らず、私とネルもどこか重い空気の中言葉を発せなかった。


「「「「ごちそうさま」」」」


 全員が食べ終わってみんなの声が響いた。


「お昼に結構寝たんだろうし遅くなるのはしょうがないけど、早めに寝なね」

「「はーい」」


 ガイアにそう声をかけられてネルと二人で返事をする。


「二人とも、ちょっとガイアと話してくるからこっちの部屋には近づかないでね」

「はーい」

「わかったー」


 ノームとガイアは食器を片付けた後に隣の部屋に行ってしまった。


「ネル、どうする?」

「どうしよっか」


 昼にたくさん寝てしまったので今は全く眠くないし、特にやることもないので困ってしまう。


「あ、ねえ、ノームさんとガイアさんのへやにさ、ちょっといかない?」

「えー、おこられるよ?」

「きになるじゃん。いこっ、ウルカ」

「そんなにいうなら…おこられたらネルのせいだよ?」


 ダメと言われたけど、ネルに押されてノームとガイアの話を盗み聞きしにドアの前に張り付く。


「___何だが、どう思う。今日中に話したほうがいいか?」

「どうしようね。明日その場で知るのと今のうちに知っておくの、どっちがいいのか…」


 最初の方は聞こえなかったが、話し声が聞こえてきた。


「流石に()()()()を見る前には知っておいたほうがいいとは思う。ただ、二人が受け入れられるかどうか…それに、あの歳でまともでいられるのかも分からない…」

「…私もそう思うけど、連れてくことにしたんだし、結局は嫌でも現実を見ることになるわ。なら先に知っておいた方がいいのかもしれないとも思うのよ」


 なんの話をしているのか全くわからないが、何か不穏な空気を感じることだけはできた。


「まあ、そうか。教えとくのがいいか…」

「…ねえ、今更だけど、可能性はないの?あの子たちの親が生きてる可能性は」

「…ああ、無いだろうね。残ってた家の中の生活の跡と死体の数を調べたけど、大人の遺体は過不足無かったよ。大人…彼女たちの親は確実に死んでるだろうね」

「はぁ……まあ、そうよね…」


 話の中身が何となく見えてきた。嫌でも何を言っているか分かってしまったが、脳が理解することを拒んだ。


「ね、ネル…」


 震える足で張り付いていた扉から離れてネルの方を見ると、ネルも同じように震えていた。


「ウルカ…ねえ…これ…」

「う、うそだよね、きっと、そんなこと…」


 頭の中に村にいた頃の思い出が次々と浮かんでくる。村には、自分とネルを含め、子供は少ししかいなかった。そんな自分たちを、本当の子供のように可愛がって、優しくしてくれた村の人たち。一緒に暮らしていた、生まれた時から一緒にいて、離れるなんて考えもしなかった、大好きなパパとママ。幸せな記憶がどんどん溢れてくる。


「や、やだよ、そんなの…」


 心臓の鼓動が速くなり、不安が加速する。


「…ウルカ」


 ネルは一言だけ私の名前を呼んで、震えたままで、震える私を抱きしめた。


「ネル…」


 抱きしめられてネルの不安や恐怖が伝わってくる。きっと自分の不安と恐怖もネルに伝わっているのだろう。しかし、二人で密着しているといくらか不安はマシになった。


「ん…?もしかして…」


 突然扉が開いてノームが顔を出した。


「あ…」

「…聞いていたかい?」

「「…はい」」

「…そうか」


 ノームはそれだけ言うと頭に手をやって考え始めた。


「そうか、そうか…分かった。もう、今、話しておこう」

「「…」」


 話を聞いてしまったので何を言われるか予想がついてしまい、私たち二人は何も言えなかった。


「君たち二人の住んでいた村、そこに住んでた人たちは、君たちの親も、みんな、死んだ」


 ノームの口から告げられたのは、予想通りの、衝撃的な、最悪のセリフだった。


「「…」」


 私とネルは、泣きもできず、喋りもできず、ただただそのセリフの前で立ち尽くすしかなかった。子供でもわかるほどに、嘘の無い、真っ直ぐで残酷な現実の前に、何もできなかった。


「…ノームさん、ガイアさん、おやすみ…なさい…」

「きょうは…ねます」


 私とネルはまだ震える体で寝室に向かった。ベッドに入ってお互いを抱きしめて、二人とも眠るまで一言も喋らなかった。


 ノームの言うことが嘘ならいいとどれだけ思ったことか。でも、もし、嘘なら、私とネルから隠れてあんな会話をする意味が無い。それに、ノームからは嘘の不誠実も感じなかった。


 そんな思考を最後に、私の意識は闇に沈み、眠りに落ちた。

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