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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
25/139

25 ネルの怪我

「ん…ここは…」

「起きたみたいだね」

「へっ?え、あ…」

「緊張しなくて大丈夫だよ。僕はノーム。君は?」


 目が覚めるとどこかのベッドで寝ていて、横には一人の男が座っていた。ノームと言うらしい。


「え、えっと、ウルカです……あ!ネル!」

「ウルカちゃんって言うんだね。ネルちゃんは無事だよ。君より早く目覚めて今は向こうの部屋で休んでるよ」

「そ…そうなんですか…?ならよかった…」


 目の前の男が何者かはわからないが、とりあえずネルが無事と言うので安心する。


「ただあの子、足にすごい怪我してたからどうなるかわからないんだけどね。応急処置はしたし命に別条はないけど」

「へ?足に、けが…?」

「…直接見た方が早いね。こっちおいで」


 ノームに促されるままついていき隣の部屋に入る。するとそこには、右足を固定されてベッドに寝かされているネルの姿があった。


「あ、ウルカ。もうだいじょうぶなの?」

「え、うん…って、え?足…だい…だいじょうぶ、なの?」


 本人は元気そうに笑っていたが、とても痛々しい様子で何と言えばいいかわからない。それに隠してはいたが少し辛そうなのが見えて、一言喋った後すぐ眠ってしまった。


「ネル……あ…」


 ネルの怪我には心当たりがあった。もしそうならば、ネルの怪我は私のせいだ。私は恐怖か後悔か、何か暗い感情に心が包まれて思考が停止する。


 ネルの怪我、それは、ネルが私の目の前の魔物を突き飛ばしたとき、私の手を引いて逃げたとき、私を助けに来た時に、魔物の攻撃が当たったのだ。


「ネルが、わたしのせいで…?わ…わたしは…なんで…?」


 自分でも気づかない内に、自分にも聞こえないような小さな声が漏れる。


「ウルカちゃん?大丈夫かい?」

「あ……はい」


 私が思考停止していると、ノームに名前を呼ばれて現実に戻ってくる。


「……まあさっきも言った通り命に別状はないよ。ただ折れた後にも酷使した痕があるから後遺症がどうなるかはわからない。もしかしたらこれから歩けなくなったりするかもしれない」

「あ、あるけなくなったり…?」

「わからないよ。今から治療院に連れて行くところさ。【岩土捕縛(ロック・ロック)】」


 ノームさんがそう言うと、岩か何かでできたものでネルが固定されノームに抱きかかえられる。


「担架なんてうちにないし、ちょっと雑になっちゃうけど許してね…」

「あら、治療院連れて行くの?ってもう一人の子も目が覚めたのね」

「ああ。ちょっと行ってくるよ」


 ノームがネルを抱えて外に出ようとした時に自分が寝ていた部屋とは別の方から一人の女性がやってきた。


「ああ、私はガイア。君はなんて言うの?」

「え、あ…ウルカです」

「ウルカちゃんって言うのね。どうする?ノームと一緒に行く?それともこの家で待ってる?」


 女性はガイアというらしく、ノームとネルが治療院に行くのについて行くか聞いてきた。


「いっしょにいく。ネルがしんぱい…です」

「そう。わかったわ。じゃあ私も行こうかしら。一人で残ってもあれだし」


 ネルが心配だしついて行くのは当然ですぐに行くと返事をしたが、ガイアもついてくるようだ。結局4人で治療院に向かうことになった。


「じゃあみんなで行こうか。」

「ええ。そうね。」


 早速出発して治療院に向かう。


「あ、ねえウルカちゃん、私たち冒険者やってるのよ。二人は森で倒れてるの見つけて救助したんだけど、なんであんなとこいたの?」


 向かっている最中にガイアにそんなことを聞かれる。


「あ、あ、そうだ。あ、あの、えっと…」


 ネルの怪我のことで頭がいっぱいだったため忘れていたが、目が覚める前何をしていたか思い出した。森で倒れてたのは魔物から逃げていたからだ。


「…大丈夫。落ち着いて話てごらん」

「あ、あの、まものが、まものがいっぱい…」

「何だって!?魔物が村に…それで逃げてきたのかい?」

「う、うん…」


 魔物のことを伝えるとノームとガイアはすごく驚いていて、何か相談していた。


「そうか…よし、私は冒険者ギルドに報告に行ってくるから二人のことは頼んだよ、ノーム」

「ああ。任された」


 相談が終わるとガイアはどこかに走って行ってしまった。


「ねえ、ノームさん、まもの…何とかしなきゃみんなが…」

「ああ、今ガイアが報告に言ったから大丈夫だよ。すぐに強い人たちがその村に言って魔物を倒してくれるさ。今はネルちゃんのことを心配しときな」


 一度思い出してしまっては魔物のことは頭から離れず、ノームに言うと大丈夫と言われたが不安が消えてくれない。しかし、自分には何もできないしそれを信じて待つしかない。


「ほら、ここが治療院だ。ここでネルちゃんの怪我を見てもらえるよ」


 少し不安になりながら歩いていると、案外すぐに治療院という場所までついた。ここでネルの怪我を見てもらえるらしい。


「次の方どうぞ」


 建物に入って待っていると、すぐに順番が回ってきてよばれる。


「この子の足ですか?」

「はい。森で倒れていたのを救助したんですが、その時足を怪我しているようだったので応急処置だけして連れてきました」


 診察室に入ると、ノームはすぐに固定していた岩を解いてネルを座らせて、医者の先生にネルを診せていた。


「なるほど、わかりました。これは…応急処置の手際がいいのでかろうじて歩けるようにはなりそうですが…走ったり飛んだりは一生できないと思った方がいいでしょう。しかし何と…折れた足をさらに酷使していますね…そりゃこんな惨事になりますよ…」

「ねえ、ノームさん、ネルはだいじょうぶなの?」

「ん?そうだね…命は大丈夫だし歩けるようになるよ。でも、走れなくなるって」


 先生の言うことはちゃんとわからなかったのでノームに聞いてみる。


「そう、なんだ…」

「じゃあ、今軽く治療しちゃいますんで少し離れてください。はい。『聖典よ、我に力を与えたまえ』」


 先生に言われて少し下がる。先生は何か言った後淡い光を纏っていた。


「【治癒(ヒーリング)】」


 先生がさらに何か言うと、先生の纏う光と似たような光がネルの足を包み、しばらく包んでいた後強く発光して光が消えた。


「これで大丈夫ですよ。何か問題が起きたらまたきてください」

「はい。ありがとうございます。行くよ、ウルカ」

「え、あ、はい」


 何が起きたかわからなかったが、ネルは大丈夫らしく、そのまま治療院を後にした。


「ノームさん、ネルは、ほんとにだいじょうぶなの?」

「ん?ああ、ネルちゃんは大丈夫だよ。でね、さっきのは聖典術…不思議な力で怪我を治していたんだよ」


 何が起きていたのか聞いてみると、何かの不思議な力らしい。結局ちゃんとはわからなかった。


「おーい、ノーム!」

「あ、ガイア。報告終わったの?」

「ええ。すぐ対処するって」

「なら良かった」


 帰る途中でガイアも合流し、4人で帰った。家に着くとノームとガイアにネルを見ててと言われ、二人は家の別の部屋に入っていった。


「んー…」

「あ、ネル!」


 ネルの横で座って様子を見ていると、少しして寝てしまっていたネルが目を覚ました。


「んあ、ウルカ?どうしたの?」

「しんぱい、したんだよ?足すごいけがしてて…」

「ん、いたくなくなってる…なんで?」

「さっき治してもらったんだよ」


 ネルは目が覚めても怪我が治っているのに一瞬気づかなかったらしく、気づいて心底不思議そうに首を傾げていた。


「そうなんだ」

「…でね、ネル」


 ネルに伝えなければならないだろう。原因が私にあるのだから。


「なぁに?」

「えっと、ネル、もうはしれないんだって…」

「へ?そうなの?」

「うん。ダメなんだって。ごめんね…」

「はしれないのはやだけどさ、何でウルカがあやまるの?」


 走れなくなったことを伝え謝ると、心底不思議そうに言われる。今ネルは分かってないのかもしれないが、ネルの怪我は私のせいだ。


「だって…そのけが、まものにやられたんでしょ?わたしのところにこなかったら、けがしなかったんだよ。だから、ネルがはしれないのは、わたしのせいなの」

「…なんで?わたしはウルカのとこに行くよ?わたしね、ウルカのことすっごく、すっごくだいじなんだ。はしれないけどさ、ウルカがだいじょうぶならいいんだ」


 ネルは不思議そうな顔をしたままそう続け、最後は笑顔でそう言い切っていた。


「ウルカのためだもん。はしれないぐらいどうでもいいよ」

「そう、なの?」


 何となく、ネルにそう言われたことがとても嬉しかった。それに、もし自分が逆の立場なら、ネルと一緒で迷わずにネルを助けただろう。


「うん。そうだよ………ねえねえ、いっしょにいようね」

「へ?うん。あたりまえだよ」


 いきなり言われて少しびっくりしたが、ネルと離れることなんてあり得ない。私はネルに頼まれたって離れるつもりは無いのだ。


「お、ネルちゃん起きたか」

「あ、ノームさん」


 ドアが開きノームさんが入ってくる。


「二人とも、しばらくうちで暮らすといい。とりあえず村の魔物がいなくなるまでは確実にね」


 今は村に戻れないし、ノームがネルと共に家に置いてくれるらしい。


「二人とも仲良いのね」

「うん。ずっといっしょにいるんだ」


 ガイアも入ってきてそう言われる。ネルが元気に返していた。


「そうなのね。…そろそろ夕飯の時間だし、何か作るからちょっと待っててね」


 ガイアはそう言うと家の奥の方に消えていった。


「…二人とも、よく頑張ったね。魔物から逃げてきたなんて、よっぽど怖い思いをしただろう?」

「へ?」

「え?」


 ノームにいきなりそんなことを言われて、ネルと二人でびっくりしてしまう。


「まあ、元気そうだし二人とも仲良しなんだろう?なら大丈夫だろうけど、言っておこうと思ってね。」

「はい?ありがとう?」


 二人で頭の上に?を浮かべていた。何かノームに褒められることをした記憶は無いし、少し訳がわからなかった。


「まあ、いいさ。夕飯、楽しみにしときな」


 ノームはそう言ってガイアが消えていったのと同じ方向に消えたいった。結局何が言いたいのかは分からなかったが、まあ別に悪いことじゃないんだろうと思い無理やり納得する。


 少し待っていると、ガイアが呼びにきた。


「おーい、ご飯だよ…ってネルちゃん歩ける?無理なら持ってくるよ」

「だいじょうぶ」

「あ、つかまって」

「…大丈夫そうね。じゃあこっちいらっしゃい」


 ネルを支えながらガイアについていくと食卓にはすでに夕飯の皿が多数並んでいて、その全てが美味しそうな匂いを放っている。


「いただきます。二人も食べな」

「まあ、そこそこ美味しいと思うよ」

「「いただきます」」


 ノームとガイアに言われ食べ始める。見たことのない料理もいくつかあったが、全部とても美味しい物だった。また、森で全力で走り続けていたのもあってお腹が減っていたのか、いつもよりたくさんあったご飯をすぐに平らげてしまった。


「「ごちそうさまです」」

「ふふっ。美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

「今日は早く寝るといい。気絶して寝てたみたいだけど、まだまだ疲れていると思うしね」


 食べ終わると二人にそんな声をかけられる。素直に従ってネルと共に使ってと言われたベッドのある部屋に向かう。部屋には小めの、ただ私たちの体からすれば十分大きなベッドが二つあった。


「…ねえ、ネル、きょう、いっしょにねていい?」


 ベッドに入ってしばらくしてネルに話しかける。


「ん?いいよ」

「えへへ…よかった」


 今日は魔物に襲われた記憶が新しく、ベッドの中でフラッシュバックしてしまい一人で眠れそうになかった。


「手、つなご」

「うん」


 ネルのいるベッドに入り二人で手を繋ぐ。さっきまで魔物に襲われた時のことがフラッシュバックしていたが、ネルと一緒ならそうはならず、安心して眠ることができた。


「ウルカ、おやすみ」

「うん。おやすみ」


 最後に二人でおやすみと言い合って、心身ともに疲れ果てていたのか、二人揃って何かを考える間もなく眠りに落ちていった。

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