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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
24/140

24 最初の不幸

「パパ、ママ、きょうもネルのところいってくるね」

「おお、そうか。気をつけて行くんだぞ」

「ネルちゃんのパパとママにもちゃんと挨拶するのよ」

「はーい。いってきまーす」


 お昼ご飯を食べ終わった昼下がり。パパとママに挨拶して元気よく出発する。今日も幼馴染のネルのところに遊びに行くのだ。


「ネル、きょうもきたよー」

「あ、ウルカ。ちょっとまってね。いまいくー」


 玄関から呼びかけるとすぐに返事が返ってきて、ネルがベージュの髪を揺らしながら急ぎ足で玄関に出てきた。今走ったせいか少しだけ服が乱れていた。


「ネル、気をつけるのよー」

「はーい」

「ネルのママこんにちはー」

「あら、こんにちは」


 ネルに向かってネルのママが顔を出して声をかけるのが聞こえて来たので挨拶する。ネルのママは笑顔で返してくれた。


「おまたせー」

「ううん。ぜんぜん。いこっ!」


 すぐに準備を終えたネルが家から出てきて、一緒にいつもの場所に向かう。


()()()、まだバレてない?」

「うん。パパもママもみんなしらないはずだよ」


 あそこ、と言うのは村の近くの森にある秘密基地のことだ。見つけてからはいつもそこで遊んでいるのだ。


「よかった。はやくいこっ、ウルカ!」

「あ、ねえちょっとまって!」


 ネルが私を置いて森の方に走り出してしまった。ネルの方が足が速いので、追いつくのも一苦労だ。


「ウルカおそいー」

「ネルがはやいんだよぉ」

「えへへ。ね、はやくいこっ」


 森の入り口に着くと、大人に見られていないことを確認して森に入っていく。本当は大人に森に入ったらダメ、と言われているけど、ダメと言われたらやりたくなるのが人間だ。しょうがない。


「ねえ、どっちだっけ?」

「もー、ネルはわすれっぽいんだから。こっちだよ」


 真っ先に森に走り出したネルは秘密基地の場所を忘れていたようだ。秘密基地は、初めて森に入った時に偶然見つけたものだ。


「ここだよ。この木の下」

「あ、そうだ、ここだったね」


 一本の木の下に子供一人通れるくらいの穴が空いていて、そこに入って下っていくと5、6畳の空間がある。子供部屋一つ程度の大きさだが、5歳の女児二人が遊ぶには十分すぎる広さだ。


「よいしょ…ついたー」

「ついたー」


 地下空間には花だったり綺麗な石だったりぬいぐるみだったりと、二人の私物がたくさん置いてあって、文字通り「秘密基地」とでも言えるような場所となっていた。


「きょうね、お花もってきたんだ。あたらしいの。あとね、よつばのクローバーいっぱい見つけたんだ」

「そうなの?見せて見せて」

「これ。きれいでしょー」

「すごーい。かわいいしいっぱいある。よつばもこんなに」


 指の先ほどの小さな白色の花と四葉のクローバーをたくさん持ってきたのだ。あとで知ったが、皆が「クローバー」と呼ぶそれは、正しくは「シロツメクサ」というものらしい。


「これでお花のかんむり作ってあげる」

「いいの?」

「うん。そのためにとってきたんだし」


 そう言って私は花を編み始める。やったことが無いので少々不安だが、まあ簡単なので大丈夫だろうと作り進める。


「あ、ねえねえ、いいことおもいついた。おそろいにしよ?」

「あ、いいねいいね。うん。いっしょに作ろ」


 しばらく作っていると、ネルからそんな提案があった。お揃いというネルの分だけでなく二人でそれぞれのものを作ることにして二人で花を編み始め、花冠を作り始める。


「ねえねえ、おそろいってはじめてじゃない?」

「うん?あ、ほんとだ。はじめてだ」


 物心ついた時からずっと一緒に遊んでいたが、何か揃いの物を作ったり使ったりするのは初めてだ。まあ服などは本人が5歳だと基本親が買うから揃わないのは当たり前なのだが。


「なんかいいね。えへへ」

「うん。なんかいいね。えへへ」


 お互いにそれが何だか嬉しくて、少し恥ずかしそうに笑い合う。


「ねえ、ここどうやるんだっけ」

「あ、えっとね…こうだよ」


 二人で教えあったりしながら順調に作っていく。


「これ、お花たりるかな」

「なんかたりなそうだね」


 元々ネル1人分のつもりで取ってきた花だったので案の定花が足りなくなってしまい、大きさが腕輪くらいのものになってしまった。


「なんかちっちゃくなっちゃったね」

「でもいいじゃん。おそろいだよ、おそろい」


 予定より少し小さくなってしまった花冠、と言うよりも花の腕輪を身につけて笑い合う。初めてのお揃いのものだったし、二人で贈りあったものだったので、無性に嬉しかった。


「そうだね。えへへ…おそろい…ふわあぁぁぁぁ…」


 お昼を食べて少し経ったこの時間、5歳の自分は眠たくなる時間帯だ。大きなあくびが出てしまう。


「ねむくなってきちゃった…」

「ふわあぁぁぁぁ…んん、わたしも…」


 どうやらネルの方も眠くなってきたようだ。まあ同い年だし当然と言えば当然なのだが。


「すぅ…すぅ…」

「くぅ…くぅ…」


 しばらくはもうちょっと遊びたいという思いもあって抵抗していたが、結局は二人とも眠気に勝てなくなってしまい、お互いに頭を預け合って寝息を立て始めていた。


 ※


「ふわぁ…」

「ん…ふわぁ…」


 しばらく経って二人とも同じくらいの時間で起き、いつの間にか寝てしまっていたことに気づいた。


「ねちゃってたね…んぅ…」

「うん…」


 起きたとはいえまだ眠く、眠い目を擦ってぼーっとしていた。

 しばらくぼーっとして意識が目覚めてくると、今自分たちがどこに居るかと今何時くらいかを気にし出した。


「あ、ねえネル、そろそろかえんなきゃ」

「あ、そうだ。はやくかえんないとおこられちゃう。いこっ!」

「うん!」


 あまり遅くなると怒られてしまうし、入ってきた穴から出て村の方へ戻る。


「よかった。まだあかるいよ」

「うん。…ねえ、なんかおうちのほうからすごいおとするよ」


 秘密基地から出てみると、村の方から大きな音がずっと聞こえてくるのだ。普段ならほぼなんの音もしないはずの静かな村だったので、子供ながらに違和感を感じていた。


「あれ、ほんとだ。いつもならこんなにおとしないのにね」


 ネルも違和感に気づいたようで不思議がっていた。


「まあいっか。はやくもどろっ、ウルカ」

「…うん。そうだね。もどろっか」


 違和感に気づいたと言っても何かがわかるわけでもなく、当初の予定通り村に帰ることにした。


「あ、見えてきた。…ねえ、さっきのおとさ、みんながさけんでたんだね」

「ほんとだ。でもなんでだろうね」


 村が見えるところまで来ると、村から聞こえていた音はみんなの叫ぶ声だった。


「ねえ、ほんとになにがあったのかな…?」

「うん。でもかえろ?おこられちゃう」

「…うん。そうだね」


 さらに近づくと、叫んでいるのが悲鳴と怒声なことが聞こえてくる。


「え?」

「なに、あれ?」


 村に入ると、これまで見たことの無い光景が広がっていて、何も理解できなかった。あちこちが赤く染まっていて、倒れている人がたくさんいた。そして、何かの見たことのない生き物がたくさんいるのが少しだけ見えた。


「!ウルカ!?ネル!?どこにいたんだ!!」

「へ?パパ?どうしたの?」


 少しするとパパが見えて、こっちに向かってきた。いつもの優しい雰囲気じゃない、何か張り詰めた空気を纏っている。


「くそっ…今は良い。二人ともよく聞け。家族でよくいく集会場、週末に行く建物だ。わかるか?」

「え?う、うん。わかるよ?」

「うん。わたしもわかる」


 週末にたまに家族で行く場所、というと村の端の大きい建物のことだろう。


「よし。じゃあ今からそこに…何っ!?」

「えっ?ひっ…!!」

「なに…!!」


 パパは何か言いかけていたが、喋っている途中で見たことの無い、何かとても怖い生き物がこっちに来て話が中断される。


「今言った建物に今すぐ行けっ!!走れっ!!」

「え…でもパパ…」

「良いからっ!!早くっ!!後で俺もすぐに行くっ!!」

「え、あ…」

「わかった!ウルカ、いくよ!はしって!」

「え、ネルっ!」


 謎の生き物が飛びかかってきてパパがそれを抑える。パパの話に反応できなかった私に変わってネルが返事をして、私の腕を掴んで走り出す。


「ありがとな、ネルちゃん。んで、ごめんな、ウルカ」


 引っ張られて走る最中にパパが何か言っていた気がするが、ちゃんと聞こえなかった。ただ何となく、2度と会えないような気がした。


「よし、ついたよ」

「ね、ねぇネル、な、なにが…」

「わたしもわかんない…」


 集会場、と言うらしい建物に着き、中に入る。中にはすでにたくさんの人がいて、中にはママやネルの親もいた。


「ああ、ウルカにネル。無事だったのね…」

「あ、ねえママ、なにがあったの?」


 すぐにママが駆け寄ってきたので何が合ったのかを聞いてみる。


「っ…良い、よく聞いて。今、この村に魔物っていう怖い動物がいっぱい来てるの。今はみんなそれから隠れてるの。今外ではパパたちが戦ってるわ」

「ねえ、それってどういう…」

「まずい!扉が破られるぞ!」

「…!!あとで教えてあげるわ。今は建物の奥に居なさい」


 魔物、という生き物が来ていることはわかったが、全体は何もわからない。


「うわあああ!!魔物が入ってきたぞ!!」!

「ほら!!早く奥で隠れてなさい!!」

「え、あ、わ、わかった」


 ママの強い語気に押され、建物の奥に向かう。この時、パパの時と同じように、もうママには2度と会えないような気がした。


「何があったの?わかんないよ…」


 建物の奥にはほとんど人がおらず、空間ができていた。


「ぎゃあああ!!」

「いやあああ!!」

「うおあああ!!」


 入口の方からは怒号や悲鳴が聞こえてくる。


「なにがおきて…え?」

「グギャ?グギャギャギャギャ!」

「なに、これ…いや…た、たす…」


 気づいたら目の前に、緑色の肌をした醜悪な人の形をした何かが立ち、笑っていた。怖くて声が上手く出せない。


「グギャギャ」

「ひっ…あっ…こな、こないで…」


 何が何だかわからずただただ恐怖して震えるしかなかった。


「いやぁ…」

「えいっ!」

「グギャギャ…ギャッ!?」

「にげるよウルカ!はしって!!」


 動けないでいると目の前の魔物が突き飛ばされてネルが手を差し出していた。


「うっ…くっ…ほら、はやくっ!」

「う、うん!」


 何が起きているかわからなかったが、ネルに手を引かれて走り出す。何かが追ってくるような気もしたし、周りに何か色々な()()が散らばっている気もしたが、周りのことはちゃんと認識できなかった。ただ目の前にネルがいて、今は走らなきゃ行けないことだけがわかっていた。


 視界がしっかりしていなかったが、ママが、自分のところに来た緑色をした化け物に襲われるのを、その目で見てしまっていたことに気付いたのは、また数日後だった。


「こっち!」

「うん!」


 ネルのいう方に従って走り続けた。


「はあ、はあ…」

「はあ、はあ…」


 もうどれだけ走っただろうか。森の方に走り、秘密基地のあった場所もこえ、ずいぶん遠くまで走ってきた。もう周りには何も無いし、魔物も追いかけてきていなかった。しかし、もう何が何だかわからないまま走っていて、体が限界を迎えていた。


 私たちは走っているうちに、いつの間にか意識を失っていた。

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