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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
23/139

23 トラウマ

「たまにはギルドにでも行くかね。ウルカもたまには依頼受けるだろう?」

「あー、そうですね。たまには行きますか」


 朝ご飯を食べ終わって今日の予定の話をする。リル、エギル宅に住み始めて一ヶ月経つが、ギルドに行くのは久しぶりだ。この一ヶ月は結局ほとんど行けていない。


「リル、私たちも何か依頼を受けるのかい?」

「いや、あたしたちはウルカの横で依頼の様子を見ていようじゃないか。ウルカも一ヶ月で比べものにならないくらい強くなったし、その確認もかねてね」

「なるほど。それはいい。ウルカもそれでいいかい?」

「はい。大丈夫です」


 私はこの一ヶ月で大分強くなった。【火ノ鳥】は見た目もそこそこ良くなったし【帰巣】ぐらいなら使えるようになった。手以外から魔術を発動するのは槍7本だったのが21本まで増やせるようになったし、熱の身体強化と神経の強化は1分ぐらい持つようになった。良い先生と魔女の体のおかげか、普通なら考えられないようなスピードで成長している。


「私、ギルド行くの久しぶりです」


 ギルドに向かいながら雑談をする。一ヶ月前よりも会話は弾むようになってきた。


「まあそうだろうねぇ。うちに来てから一回しか行ってないんだろう?」

「あんまりモチベーション無いのかい?」

「そうですね…今はお金稼がなくてもとは思います。居候なので修行が落ち着いたらお金稼いで返そうとは思ってますが。」


 今は生活費も必要ないし借金も返してしまったのであまりお金を稼ごうと思えないし、魔物と戦うのが好きなわけでもないのだ。稼ぐとしたらお世話になりっぱなしなのをどうにかしたいというぐらいだ。


「そんなこと考えてたのかい?」 

「全く、子供なんだからそんなのは良いよ。まあ老人の道楽みたいなところもあるんだ。あんまり気負わないでくれた方が助かるねぇ」


 お金のことをいいと言ってくれるのは嬉しいが、子供扱いは少しばかり不服だ。


「子供って言ってももう成人してますよ」

「あたしらは精霊とエルフのジジィとババァだよ?たかだか成人したての人間なんてまだまだガキさね」

「まあそうかもしれないですけど…あ、そろそろ着きますよ」


 ギルドは前に一人できた時は家から遠いと思っていたが、雑談をしているとすぐについてしまった。


「ふむ。この時間は結構混んでいるね。今から依頼を受ける人が多いのかね」

「朝に混むのはあたしらが現役の時から変わってないねぇ。ま、別に急ぎでもないんだ。依頼書を取ったらゆっくり並べば良いさ」

「そうですね。じゃあ私依頼見てきますね」


 依頼書を見にきたがあまり良い依頼は無さそうで、結局はオーガ討伐の依頼書を持ってリルとエギルのところに戻った。


「そんなのでいいのかい?オーガごときじゃ相手にもならんだろうに」

「まあそうですけど私まだCランクなので…受けたくても受けられないんですよ」

「ふむ…私たちとしては弟子の実力を見たかったというのもあるのだが…まあ仕方ない。道中でブラックオーガでも倒してもらおうかな」


 冒険者になった時から力を隠してるのもあるが、最近強くなりすぎて冒険者ランクが強さに追いついてない。


「お、案外すぐに順番が来たね。今の受付は手際がいいんだねぇ」

「すいません、依頼受けます」


 少し雑談をしているとすぐに順番が回ってきた。さっきまで前に5、6人いた気がするが、まあリルのいう通り受付の手際がいいんだろう。


「はい。あ、ウルカさん久しぶりですね。後ろの方は…え!?水女王!?」

「ちょっと声が大きいんじゃないかい?」

「あ!すいません…今日は依頼を受けるんですか?」


 受付の人がすごい驚いていてリルに諌められていた。水女王の名前を聞いて周りの冒険者が少しざわつき始めていた。


「はぁ、目立ちたくはなかったんだけどねぇ…今日は依頼じゃないよ。そこにいる弟子の付き添いさね。とりあえずその子の依頼の処理を頼むよ」

「そ、そうなんですか。あ、えっと、ウルカさんの依頼は受理出来ました。頑張ってください」

「ありがとうございます」


 依頼の受理を確認してギルドから出発する。受付の人は最後まで取り乱し気味で、周りの冒険者も騒がしかった。


「全く…迷惑だねぇ」

「リルさんとエギルさんが有名な証拠じゃないですか」

「こっちはもう引退して数十年は経ってるんだよ。ギルドに籍が残ってるとは言え騒がれるのはねぇ」

「はははっ。昔は有名になったら喜んだものだけどね。“剣鬼”も“聖女”も“炎帝”も“金剛力”も、今のSランクは1人もいなかった頃の話だけど、Sランク5人の時代に6人目のSランクだなんて言われていた時は結構自慢してたりしたんだよ」

「あんまり昔の話を出さないでくれよ、エギル。若気の至りさね」

「そんなにすごかったんですか!?A+とは聞いてましたけど…」


 A+という実績は知っていたし実際に戦ってものすごく強いのは肌で感じて知っていたが、まさかSランク候補だったとは。この二人は想像以上のすごい人物だったようだ。


「今はそんなこといいんだよ。依頼に行くんだろう?」

「はい。帰ったら昔のこと教えてくださいよ」

「はぁ…気が向いたらね」


 リルが乗り気じゃなかったのでこの会話はすぐに終わってしまった。まあ今日家に帰って聞けなくてもいつかは聞けるだろう。


「ほら、ついたよ。オーガ程度さっさと狩っちまいな」

「はい」


 森にはすぐに着き、《強化感覚》を全開にして気配を探っていく。森についてもリルは少し不機嫌だった。


「いないですね」

「まあこんな浅いところには普通はいないからね」

「ああ、なんか最近竜が出てオーガが浅いところまで来てたんですよ」

「竜なんているのかい!?」

「森の奥から動いて無いらしいですけどね。まあなので中層ぐらいまでは安全なんです」


 エギルと話ながら歩いていると、大分森の中層まで来ていた。そこでやっと一体目を感知する。


「いました。五体狩らないと行けないしさっさとやっちゃおう。【焔槍】」


 槍を3本作って発射し、オーガを焼きながら貫く。


「なかなかの手際だねぇ」

「まあオーガ程度ですしこれくらいですよ」


 身体強化で牙をへし折って回収し、オーガの死体を灰にして戦闘痕を消す。


「後4体狩らなきゃ行けないですしさっさと探しましょう」

「そうだね。しかしオーガじゃ成長も見れないし少し残念だよ。それこそ竜とでも戦えば分かるかもしれないけどね」


 エギルにそう言われる。私的にもどれくらい成長したか確かめられないし残念だ。しかし竜となると流石に勝てる自信はない。本でしか見たことないが、最低Aランクでそこに知能の上乗せがあると聞く。実際は最低A+で基本Sだと思わなければいけない怪物だ。


「あんまりバカ言うんじゃないよ。竜なんてあたしたちでも怪しいじゃないか。全盛期ならともかく、今戦ったら勝つか負けるか半々ってところじゃないかい」

「ははっ、流石に分かっているさ。流石に竜は無茶だろうからね」


 基本Sランクの竜に半々で勝てると簡単に言えてしまう二人が物凄い強さなのが会話から伝わってくる。しかも全盛期はもっと強かったらしいし、さすが元Sランク候補だ。


「まあ竜なんていいさ。今はオーガ討伐だろう?」

「はい」


 リルにそう言われ、雑談をやめにして索敵を再開するのだった。


 ※


「よし、これで終わりですね」


 追加で3体のオーガを倒したのは1体目を倒してから一時間ほどした時だった。普通の冒険者なら何倍もかかるのだろうが、戦闘は戦闘と言えないほど早いし索敵は《強化感覚》がある。依頼を爆速でこなして帰路に着くのだった。


「しかし、結局ブラックオーガにすら会わなかったし、結局あまり成長を見られなかったね」

「そうさねぇ。ま、この子の成長を一番わかってるのはあたしたちだ。わざわざ見る必要も無いと思うかね」


 帰り道でリルとエギルがそんなことを話していた。私も成長を見せたいとか思ってたので少し残念だが、まあいつも見たもらってるしブラックオーガごときじゃ大して成長も見せられなかっただろうと割り切る。


「そろそろ出口だね。む、何かいるね」


 エギルが森の浅いところで何かの気配を見つけたようだ。


「ん?ああ、ほんとだねぇ…あれは…ゴブリンの群れかい。この森にゃいないって聞いてたが」


 見つけたのはゴブリンと言う魔物のようで、一般には雑魚や最弱とまで呼ばれる魔物だ。一般的には、だが。


「こっちに気づいたね。ウルカ、あれも倒しておくかい?…ん?ウルカ?ウルカ!?」

「な、んで…この辺には…出ないって…」


 思考がまとまらず恐怖に支配される。息が荒れて来てちゃんと呼吸ができない。足が固まって動けない。


「どうしたんだい?ゴブリンなんざさっきのオーガよりもずっと弱いやつさね。…まあいいさ。一旦下がっときな」

「嫌だ…来ないで…」


 リルとエギルが何か言っているがちゃんと聞こえない。視界が端からぼやけてきて前もまともに見れなくなってくる。


「ウルカ?ウルカ!!」

「嫌だ…やめて…はぁ…ふぅ…」


 ああ、そうだ。今の私には魔女の力がある。あんな化け物に近づかれたく無い。せっかくそれが出来るんだから燃やしてしまえばいい。そう思って、恐怖に染まった思考の中で手に魔力を集める。


「そうだ…それで…」

「ウルカ、何を…」

「ふぅぅぅ……【炎…」


 震える手をゴブリンの方に向けて照準を合わせる。


「なっ!?まずい…『やるよ、エギル』」

「ええ。『行きましょう、リル』」


 リルとエギルがまた何か言っているがもう脳が音を処理できていない。


「赤…」


 恐怖のせいか魔力がうまく動かせない。


「波…」


 いつもより少し時間がかかったが、魔力が収束されて魔術が完成する。


「ちょっと我慢しな…【水の拘束(アクア・チェイン)】」

「…流石にそれをここで放たれるのは怖い。【水の妨害(ブルー・ジャマー)】」

「…ほぐっ!?」


 【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】が完成して前に放とうとすると、突然水の鎖が現れて拘束され、水球に包まれて収束していた魔力が霧散してしまった。


「ゴブリンは処理しておくよ。【水渦千刃】」


 今度は無数の水の刃が出現し、ゴブリンを跡形もなく切り刻んだ。


「ウルカ、聞こえるかい?」

「はぁ…はぁ…はぁ……」

「大丈夫かい?もうゴブリンはいない。原因が正しいかどうかわからないけどね」


 リルに肩を抱かれて膝から崩れ落ちてしまった。


「だい…大、丈夫です」

「少しは落ち着いたかい?」

「はい」


 荒かった呼吸も少し戻ってきて思考がクリアになってきた。


「…ギルドに依頼の報告だけしてさっさと帰るかね。歩けるかい?」

「はい…ある、歩けます」


 まだ少し言葉つかえるが、立ち上がって歩き始める。今日はそのままギルドでオーガ討伐の達成だけ報告して家に帰った。


 ※


「もう大丈夫かい?」

「はい。さっきはすいません…」


 家に帰ってきた頃には落ち着いていて、普通に話すことができた。


「それは良いさ。理由を知りたいね。ゴブリンなんて雑魚中の雑魚に、あんなに怯えてた理由をね」

「…」

「あたしらはあんたのことを何も知らない。魔女になった経緯も、ゴブリンに怯えるような過去も。教えて、くれはしないかい?」


 リルは、返事の出来なかった私に優しく語りかけてくる。


「話しづらいかい?」

「いえ…ちゃんと話します。ゴブリンなんかに怯えたのも、なんで魔女になったかも。これまで何があったのか、私には話さなきゃいけないことがいくつかあります」

「そうかい…じゃあ、頼むよ。全部、教えてくれんだね」


 ネルのことや、それよりも前のこと。今日あんな姿を晒してしまった以上全部話した方が良いと思った。それに、リルもエギルも私のことを思ってくれているのが短い付き合いだがよく分かった。そんな二人にいつまでも話さないのは不義理にも思われた。


「私が、5歳の時のことです」


 話し始めて思い出が頭の中を駆け巡る。ネルを思い出して泣きそうになってしまうものや、思い出すのも戸惑われるようなもの。今はそのほとんどが辛いものとなってしまった記憶を辿って、自分の核を、原点を、根源を、語り出した。

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