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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
21/138

21 調査に来た聖騎士

 エギルが食卓に運んできたものはパンとシチューだった。


「ん!美味しい」


 シチューはホワイトシチューで、真っ白で満たされた皿に肉や野菜が見えていて湯気が立ちのぼっている。食べてみると、塩やバターなどの塩気の効いた味付けに野菜の甘みが広がりとても優しい味だ。肉は鶏肉で旨味が口に広がって野菜の甘味やシチューの塩気とよく合っている。パンはバケットと呼ばれる種類で、外はサクサク、中はふわふわの食感でパン単体でも十分満足できるものだ。それにシチューとの相性も抜群で、少し浸して食べてみるとパンの食感が残りつつシチューの味が染み込んで最高に美味しい。


「だろう?自慢の旦那さね」

「やめてくれ、恥ずかしい」


 リルがエギルのことを自慢する。二人とも料理がとても上手で自慢しあうのも納得だ。


「それで、格闘の訓練はどうだったんだい?ウルカは強くなれそうかい?」

「ああ、素質があるからすぐに強くなれそうだ。それに本人がやる気なのが一番だ」

「そうかい。なら良かったよ。魔族の肉体はあたしたちよりも強いし、格闘はすぐにあたしたちを超えて行ってくれるかもねぇ」


 リルに今日の訓練の様子を聞かれてエギルが答えていた。エギルにすぐに強くなれると評価されているのは素直に嬉しい。リルの言うように二人を超えるのは難しいかもしれないが、ぜひそう出来たら良いとも思う。


「ごちそうさん。ありがとうね、エギル」

「ごちそうさまです。ありがとうございます」

「美味しく食べてくれたなら良かったよ」


 とても美味しいのもあってすぐに食べ終わってしまった。


「明日以降に備えて休んどきな。食ってすぐ寝るのもあれだが、ソファでゆっくりしてな」

「そんな、悪いですよ」


 食器を片付けているとリルにそんなことを言われる。ただでさえ居候の立場なのに片付けまで任せっきりなど流石に無い。


「これくらい任せてくれて良いんだよ。それに一番疲れているのはウルカだろう?面倒な仕事なんて大人に任せておけば良いんだよ」

「そうですか…じゃあ、お願いします」


 エギルにもそう言われてしまい、渋々引き下がりソファに行く。しかし何か手伝おうと思っていたにも関わらず、しばらくソファで休んでいると少しウトウトしてきて半分寝てしまっていた。


「ほら、寝るなら部屋のベッドで寝な。こんなとこじゃ休めるもんも休めないよ」

「…あっ、すいません」

「別に謝ることじゃないさ。上でゆっくり休むと良い」

「…はい。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」


 リルとエギルの二人に話しかけられて目が覚め、自分の部屋に戻る。


「ふあああぁぁぁ…おやすみって誰かに言ってもらえるのって嬉しいもんだなぁ…無くして初めてわかる物があるなんて言うけど、その通りだ…」


 おやすみ、と言って誰かにおやすみ、と返してもらえたのが久しぶりで、 嬉しいような懐かしいような、よくわからないが少し暖かい気持ちになった。


「ああ、魔力の練習だけはやっとこうかな」


 ベッドに腰掛けて体の中で魔力を回して制御の練習をする。


「疲れて寝ちゃうなんて久しぶりだったな。魔力使うと疲れるのかな」


 大抵のことでは疲れなんてしない魔女の肉体だが、魔力が関係してくると普通に疲れるのかもしれない。


「まあいいや。寝るか…」


 しばらく魔力を操作してから布団を被り目を閉じる。いつもよりずっと疲れていたせいかいつもより早く意識が闇に溶けて行き、眠りに落ちていった。


 ※


 〈side:聖騎士〉


「では出発するぞ」

「はっ!!」


 町の教会を出発し、数人の衛兵を連れて前に魔女討伐に行った聖騎士が通ったであろう道を行く。


「街道を行き一度宿場町に出るんだな?」

「はい。その後さらに進めば小さな村があります」

「了解だ。では今日中にその宿場町に着くように少し急ごう」


 連れてきた衛兵に魔女の報告があった山の方角を確認しながら大きな街道に出る。


「聖騎士様、なぜこのような場所にいらしたのですか?」

「ああ、実は聖女様の命でな。前にこの町に聖騎士が魔女討伐にきたであろう?それに関係しているのだ」

「そうだったのですね」


 前に聖騎士が魔女討伐に赴いて一ヶ月半が経った頃に、報告に帰還しないのを不審に思った聖女様が新たに聖騎士を派遣されたのだが、それが自分なのだ。


「あ、聖騎士様なら大丈夫だと思うのですが、前にこの街道で盗賊の被害があったので注意してください」

「盗賊か…まあ見つければ討伐するがわざわざ聖騎士の前に出ては来まい。心苦しいが基本は無視だな。まずは聖女様の命を全うしなければならないのだ。すまぬな」

「いえ、そんな。その討伐したいというお気持ちだけでも我々は嬉しいです」


 衛兵はそんなことを言うが、盗賊の討伐など面倒極まりないのでごめん被りたい。まあできることも無いので出会ってしまわないよう祈るしかないのだが。


「あ、あそこが宿場町になります」

「ふむ。では適当に宿を取ってくれるか?そこに泊まって明日には現場に向かう」

「はっ!了解です」


 宿場町にはすぐに到着し、連れてきた衛兵に宿を取らせた。


「ふむ。まあなかなかの宿ではないか」


 一番上等な部屋なのもあるのだろうが、部屋はそこそこ広く調度品も良いものが揃っていた。


「まあ、田舎の宿ではこれが限界か。仕方あるまい」


 しかし結局は、なかなか止まりの評価しか出せないような宿だった。


「別に宿の品評をしに来たわけでも無いか。今日は休むとしよう」


 鎧を脱ぎ風呂に入った後すぐにベッドに寝転がる。


「しかし聖女様も心配性だ。魔女討伐の失敗など歴史上一度しか起きていないというのに。わざわざ使いを出すほどなものか」


 ベッドでしばらく愚痴っていたが、すぐに意識が途絶え眠っていた。


 ※


「おはよう」

「はっ!おはようございます」


 特に事件も起きずに平穏な朝を迎え、連れてきた衛兵に挨拶する。


「では今日中に現場に向かう。出発するぞ」

「はっ!」


 起きると衛兵はすでに着替えていて宿のロビーで待機していた。いい心掛けである。


「道は?」

「この街道をしばらく進んだ後半分獣道のような道があります。そこを行くと聖騎士様のおっしゃっていた村に着くかと思われます」

「わかった。ではその道のところで合図してくれ」

「はっ!」


 すぐに出発し衛兵に案内させる。図書館の町でも宿場町でも先行していたはずの聖騎士に出会わなかった上、何のメッセージもなかった以上何か重篤な問題が起きていると判断して急いで現場の村に向かう。


「聖騎士様、そこの道です。そこを行けば村に出るはずです」

「うむ。では行くぞ」


 しばらく歩いていると前を歩いていた衛兵が止まり脇の細い道を指さして立ち止まる。村への道らしいが非常にわかりずらい。


「ふむ…草木が生い茂ってはいるが道はそこまで荒くは無いか」

「そうですね…この道はそこまで長くないはずなのですぐ村に出ると思います。あ、見えてきました」


 道は草木が邪魔で通りずらかったが地面自体は平坦で固くなっていて歩きやすかった。


 道に入ってあまり時間の経たないうちに村の入り口が見え中に入ることができた。


「な…なんだ、これは」

「な、何という…」

「う、うぷ…」


 村に入るとなかなか衝撃的な光景が広がっており、衛兵のうち何人かは吐き気を催していた。平気な衛兵がその衛兵の介抱をしていたが、平気な方の衛兵も気分は悪そうだ。


「何と…凄惨な…」


 焼けて砕けてボロボロになった大量の家屋。そこら中に散らばる肉と皮膚の焼けた半白骨化した大量の焼死体。地獄の一部かと思うほどにえげつない光景だった。


「む、あれは」


 その焼死体の中の一つに聖騎士の鎧を身につけたものを発見する。鎧には穴が空きいくつも凹んだ箇所があるが間違いない。聖騎士のものだ。


「何だと…まさか…敗北して死んだというのか?」


 この二千年間で魔女の討伐を達成できなかったのはたった一件のみ。もし新たな魔女が世に解き放たれたと言うのならば大問題だ。


「これは早急に聖女様に報告せねば…おい、衛兵」

「はっ、何でしょう」

「この死体と鎧の状態をスケッチ出来るか?聖女様への報告で使いたい」

「了解です」


 衛兵を1人呼び惨状の記録をさせておく。焼死体であるのを見るに新たな魔女は炎属性であると思われるがその実力は未知数。最低でも冒険者のAランクを超えることしか分からない。


「先行していた聖騎士はもう魔女に敗北し死亡したとして扱う。魔女は炎を扱うと見られるが何か他に手がかりが無いか探してくれ」

「了解です!」


 衛兵に指示を出すと、平気そうな者と回復してきた者が返事をして村中に散っていった。自分は聖騎士の遺体の傷などを確認する。


「抉られたような刺し傷がいくつも…手足に貫かれた後か。む、体内も焼かれたのか?」


 外傷を確認した後まだ残っていた体組織を確認していくと、骨になっていない肺の半分が内側から焼かれているのがわかった。


「これは…一撃で殺されてはいないのか?しかも拷問まがいのことをされた跡まで…」


 最悪の場合、この魔女は聖騎士程度ならば蹂躙して弄べるほどの実力を持つ可能性が浮上してきた。


「まずいとかいう次元では無いぞ…衛兵、何か手がかりはあったか?」

「いえ、申し訳ありませんが、何も…」

「そうか…まあ致し方あるまい。スケッチは終わったか?」

「はい。完了しました」


 衛兵に確認を取ると、任せた仕事は終わったようだ。


「すまないが、全員少し待ってくれ」


 遺体のそばに跪き、剣で遺体のそばにナート教の印を刻みつける。


「救世主と共に在れるように、神の御下に至れるように」


 両手を合わせ、この世を去った同胞に祈りを捧げる。意味としては、神の使徒であり救世の英雄であるナート一世と共に唯一神の下で幸福を得られますように、という意味だ。


「よし。ではこれより帰還する。自体は想像よりも何倍も重篤なようだ。早急に聖女様にご報告せねば」

「はっ!!」


 衛兵に合図を出し、帰還を開始する。聖騎士の敗北と強力な魔女の出現が確定的になったため、急いで神聖国に戻り聖女様に報告せねばならない。放置すれば最悪死氷の魔女クラスの存在がが誕生しかねないため、早急に正体を突き止めて仕留める必要がある。


「聖女様や団長様が直接出向く案件じゃないか…くそっ…面倒な事態になった」


 愚痴をこぼしつつも自らの責務を果たすため、村を出発して早急に神聖国への歩みを進めるのだった。

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