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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
19/139

19 名前の成果

「ふわああぁぁぁ…ん?ああ」


 目を覚ますと知らない天井がある。一瞬ここはどこかと思ったが、昨日からリル、エギル宅に住み始めたことを思い出して安心する。


「おはようございます」

「起きたかい?おはよう」

「おはよう。よく眠れたかい?」


 一階に降りるとリルとエギルの二人が挨拶をしてくれる。ここ最近朝起きて挨拶されることなどなかったので、少し来るものがある。


「朝食べちゃいな」

「あ、ありがとうございます」


 食卓には朝ごはんが並んでいた。


「いただきます…ん!」


 トーストとサラダとソーセージのシンプルなものだが、トーストは外はサクサクで中はふわふわの絶妙な焼き加減で、ソーセージもパリっとした食感の後に肉汁が溢れてくる。サラダは新鮮な野菜が使われていて嫌な臭みや苦味が一切ない。


「こんなものしか作れないが、まあ不味くはないだろう。ああ、サラダは内で採った野菜を使ってるんだ。新鮮だろう?」

「美味しいです」

「そうだろう?調理方法はシンプルだがその分技術の高さが分かる。もう何十年、何百年とリルの料理を食べているが、最初の頃とは比べ物にならないぐらい上達したよ。今は店を出してもいいぐらいだ」


 エギルが誇らしげに言う。この前ののコーヒーと紅茶の時もそうだが、この夫婦は二人とも相方を褒める時が一番誇らしそうだ。


「別にそんな上等なもんじゃないさ。ああ、食べたら腹ごなしに魔術でもぶっ放すかい?名前考えたんだろう?」

「そうします」


 少しゆっくり朝食を食べ、その後庭に出る。


「【水の監獄】よし、じゃああたしたちに向かって魔術を打ってみな」


 リルは昨日も使っていた水のドームを展開し、魔術が外に漏れないようにする。


「じゃあ、行きます。【焔槍】!!」


 いつもと同じように手に魔力を集めて槍を生成して打ち出す。


「えっ!?うわっ!!」

「危ないねぇ。【麗流盾】」

「これは…想像以上ですね。【排流波紋】」


 昨日の夜つけておいた名前を叫びながら射出したが、想像以上に巨大なものができ、びっくりして一瞬制御が乱れてしまった。


「名前だけで結構変わるもんだろう?まあ、ここまでとは思わなかったけどねぇ」

「そう、ですね。びっくりしました」

「ああ。ここまで変わるとはびっくりだよ」


 二人の方もびっくりしていたようで槍のぶつかった方を見ていた。


「他のも見ようと思ったがこれじゃあまず水の監獄の補強が必要かもしれないねぇ」

「軽くやっておくよ。【渦流紋】」


 水のドームに強化を施したようで、ドームの水の流れが変わっていた。


「じゃあ、他のも頼むよ。威力の低めのやつでね」

「わかりました。【爆焔球】!」


 今度はいつもの火球を生成する。これもかなりの大きさになったが、槍で一度経験していたので今度はそこまで驚かなかった。


「おりゃあっ!!」

「【麗流盾】」

「【排流波紋】」


 球を射出して水の盾にぶつかると大爆発を起こして辺りに蒸気が大発生して周りが見えなくなってしまった。


「なにこれ…」

「これは…また凄い威力だね」

「そうさね。魔物ならAランク程度なら消し飛ばせるかもねぇ。A+も種類によっては消し炭だね」


 正直自分が一番驚いているが、リルの解説でもっと驚く。A+でも消し炭の可能性があるとは驚きだ。


「まあ、とりあえず他のも見てみるかね。じゃあ今度はこっちが攻撃するから壁を出してみな」

「わかりました」


 今度は防御のようで、手に魔力を集めていつもの壁の準備をする。


「【渦槍】!」

「【焔壁】!」


 向こうの攻撃に合わせて魔力を解放して壁を生成する。いつもより巨大で厚い歪曲した壁が生成され、水の回転する槍は壁に触れる頃には完全に蒸発し切っていた。


「でっか…」

「厚いね」

「それに暑い。温度も上がっていそうだね」


 しばらくして炎の壁を消すと、そんな評価が返ってくる。温度に関しては私自身は熱いや炎が平気なので変わってるなら言ってくれてありがたい。


「なるほどねぇ。他にも刃とかあったが、結果は似たようなもんだろうね」

「そうだね…シンプルに規模が巨大化してそうだね」

「そんな気はしてます」


 三つともサイズや温度が大きくなっているので、他もそんなもんだろう。


「他はいいか。ああ、一つだけ、昨日使ってた砲撃みたいなやつを見せてくれるかい?もしくはそれじゃない最大火力を」

「わかりました」

「じゃあ準備するから少し待ってな。【渦流盾】」

「【水波門】…準備は大丈夫だよ」


 これまでの盾と違う、回転するような流れの盾に水の門のようなものが重なって巨大な盾となる。


「打ってきな」

「はい。すううぅぅぅぅぅ…【炎赤波爆(レッド・ノヴァ)】!!」


 身体強化した後、手に魔力を集めて全力で炎を打ち出す。すると、昨日とは比にならない火力と規模の砲撃が出て、身体を強化している今でも反動で後ろによろめいてしまう。


「くっ…まずっ…」

「なんて火力だい…ふぐっ…」

「これは…ぐっ…」


 二人の方も盾越しになかなかの衝撃を受けているようで、盾で流しながらよろめいていた。


「ふうぅ…どうなんですか、これ。ちょっと自分でもここまで重い威力が出るとは思わなかったです」

「想像以上とかいう次元じゃない…」

「こりゃ凄いね。こんなの食らったら竜やら四天王やらでも無傷とは行かないだろうね」


 二人とも唖然としていて、リルによればこの世界の最上位クラスの強者にも抗えるそうだ。だとしたらそれを防いだ二人も何者なんだって話になるが。


「しかし昨日今日でここまで威力が上がるとはね。名前ってのはここまで効果があったのかい」

「知らなかったんですか?」

「そうさね。精霊術の話になるが、本当なら初めて使う時に師匠から技の名前については教わってるはずだからね。わざわざそれなしで術を使うやつなんていないんだよ」

「そうなんですか…こんなに変わるんですね」


 リルも名無しと名有りの差を見たのは初めてのようで、初めて目の当たりにしたそれに驚きを隠せない様子だ。


「ここまでとはね。ウルカ、今までも使ってなかったと思うがこれまで以上に魔術の使用は控えた方がいい。火力が高まった分バレやすくなっている。人に見られている時は格闘でなんとかしていたと聞いたが、人がいなくてもそうした方がいいかもしれない」

「…そうですね。ちょっとやばいです」


 エギルもリルと同様に驚きを隠せない様子で、私に忠告してくれた。実際周りに人がいなくてもあんな派手なことしたら流石に隠しきれないし、魔術の正体、ひいては私自身の正体が露呈することに繋がりかねないので妥当だしありがたい。


「まあ、【水の監獄】を張っておいてよかったね。あの火力を外に漏らしたら確実に面倒になっていた。私たちで庇おうにも水属性で知られてしまっているからね」

「そうだね。まあ、どれほど強くなったかも見れたし、後はちょっとした小技についてでもやろうかね」


 そう言ってリルは水のドームを解除した。


「魔力はまだ大丈夫だね?それじゃあ、始めようかね」

「お願いします」


 小技と言ってもなにをするか見当もつかないので、少し楽しみだ。


「そうさね…最初に水魚のやつでもやるかね。【水魚】」


 リルはそう言って昨日はエギルの使っていた魚の形をした水を生成して自分の周りに浮かべた。


「この精霊術は界隈では有名なやつでね。生物の形を模していて、放った後もある程度制御のきくって言う攻撃さね。人や属性によって生き物の形が違ってくるから、あんたも気に入ったのを見つけな。見たり聞いたことがあんのは虎だったり狼だったり、竜も聞いたことがあるね」

「なるほど…」


 昨日みた水魚の精霊術についてのようだ。しかし、前に炎で人型を作ろうとして失敗しているので魔力で何かの形を作らなければならないのは若干不安だ。


「あの、動物の形作るの不安なんですけどどうすれば?」

「そうさねぇ…エギル、あたしたちはどうしたっけねぇ」

「そうだな…確か適当に色々動物を作ってたらしっくりきたのを今も使ってるとか、そんなようなものだった気がするな」


 二人が魚を使ってる理由は結構雑らしい。


「動物選びっていうか、炎で何かの形を作るのが苦手なんです。前にちょっとやってみたことがあるんですけど、形はぐちゃぐちゃだし魔力も凄い使うしで全然ダメだったんです」

「ああ、そういうことかい。まあ練習するしかないかねぇ…まあでも名前もつけずにやってたんだろう?ならすぐできるようになるさ。あたしも最初はそんなもんだったよ。ああ、何かの形を作るのはあたしよりエギルの方が得意だから教わるといいよ」

「はい。ありがとうございます」


 リル程の使い手でも最初は苦手だったと言うなら大丈夫だと思いたい。まあ苦手と言ってもちゃんとできてそうな気はするが。


「じゃあ昼までエギルに教わっときな。あたしは昼飯の準備をしてくるよ。頼むよ、エギル」

「ああ、任されたよ」

「お願いします」


 そう言ってリルは家に入っていき、私はエギルと庭に残って修行を続行する。


「動物づくりか。そうだね…とりあえず生きているところを見たことある動物を炎で作ってみるといい。適当な技名をつけてね」

「はい。じゃあ…【火熊】!」


 生きているところを見たことある生き物なんて熊と鳥と鼠と、後は虫ぐらいだ。とりあえず熊を作ってみる。


「くっ…うわあっ」

「大丈夫かい?ちょっと制御が危うかったね。熊みたいにあまり大きい生き物はやめた方がいいかもしれないね」


 制御が乱れて熊が霧散する。


「はい。わかりました」

「後、形を作る時は造形する、というイメージよりも想像した型に流し込む、というイメージの方が良い」

「やってみます。それじゃあ、【火ノ鳥】!」


 自分の目の前に鳥の形をした透明なケースのようなものをイメージし、そこに魔力の炎を流し込んでいく。


「できた!」

「ああ、初めてでこんなにできるとは。苦手と言っていたが、これならすぐ実戦レベルに持っていける」


 まだまだ不格好な鳥だが、鳥だと判別できるし想像していたよりも全然良い。エギルも褒めてくれたし、結構嬉しい。


「うん。もう鳥で行くかい?それとも他の動物も作ってみるかい?」

「うーん…鳥で行きます」

「そうかい。じゃあ昼まで練習しようか」

「はい」


 その後は鳥の造形を練習したり、少し飛ばして動かそうとしてみたり、【火ノ鳥】の練習をリルが呼びに来るまでしていた。


「準備できたよ。そろそろ飯にしようかね。家戻ってきな」

「わかったよ。じゃあ終わりにしようか」

「はい」


 最初より幾分かマシな造形になった【火ノ鳥】を引っ込めて家に戻る。


「いつもリルさんがご飯作るんですか?」

「ん?いや、気分でどっちかが作ってるよ。今日の夜はエギルに任せようと思ってるしねぇ」

「そうなんですね」

「ああ、そうだよ。朝も食べたけど、リルの料理は美味しいから楽しみにしているといい」


 実際リルの料理は美味しかったし楽しみだ。


「じゃあ待ってな。今持ってくるよ」


 席に着くと、リルがキッチンの方に料理を取りに消えていった。


「ほれ、食べな」

「ありがとう。いただくよ」

「ありがとうございます」


 リルはすぐに戻ってきて食卓に料理が並ぶ。私は料理力の高さに驚くのだった。

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