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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
18/139

18 修行一日目

「リルさん、エギルさん、荷物持ってきました」

「待ってたよ」

「いらっしゃい」


 昼過ぎの時間になり、リルとエギルの家に来た。今日から住まわせてもらって鍛えてもらうので、荷物をまとめて宿を引き払ってきた。


「使ってない部屋があったからそこをあんたの部屋にしたよ。荷物入れちゃいな」

「ありがとうございます」


 リルに二階の突き当たり部屋に案内され荷物を入れてしまう。荷物といっても着替えとちょっとした日用品が少しだけだが。部屋は6畳ほどの大きさでベッドが一つ置いてあったのだが、荷物が少ない分結構スペースが余っていた。


「どうするかい?早速修業でもいいし、ここまで来るのに疲れてるなら少し休んでもいい」

「そうですね…じゃあ早速お願いします」

「そうかい。分かったよ。魔女ってのはタフなんだねぇ」


 そう言われながら庭に出る。エギルもやって来て初日の修行が始まる。


「まあ修行といってもあたし達はあんたが何できるか知らないからね。まずは教えてくれるかい?」

「はい。魔力で身体強化するのと、炎を使います」

「なるほどねぇ。まあ、一回軽く戦ってみようかね。『やるよ、エギル』」

「一度見てみないと始まりませんからね。『行きましょう、リル』」


 戦い方を教えると、模擬戦をすることになった。二人の雰囲気が大きく変わり、魔力が高まっていくのを感じる。


「【水の監獄(アクア・ロック)】さあ、かかってきな」

「はい。お願いします。ふうぅぅぅぅぅ…」


 水がドーム状に展開して二人と私を包み込む。これが試合のフィールドということなのだろう。私は全身に魔力を送り込んで身体を強化する。熱は使っていないが最大出力だ。


「行きます。おりゃあっ!はああぁぁぁぁぁ!!」

「なかなか速いね。だが、荒い。【麗流盾】」

「手数が多いのはいいが、一つ一つが雑になっているぞ。【渦槍】」


 炎の槍を4つ生成して四方からぶつけ、自分は正面から突撃する。しかし槍は回転する水の槍に対消滅させられ、拳は半球状の流れる水の盾に波紋を起こしただけで完全に受け流されてしまう。


「どう対処する?【渦槍】」


 防がれて一歩引くと、今度は先ほどと同じ水の槍が五本生成されこちらに向かって発射される。時間差で発射されたそれは的確に逃げ場を削ってくる。


「くっ…はあぁぁぁ!」


 最初の二本はギリギリかわせたが、次の一本が掠ってしまい少し傷を負ってしまう。その次を食らう前に炎の壁を生成してなんとか防ぐ。


「ちゃんと防いだね」

「さらに行くぞ。【水魚】」


 今度は魚の形をした水が三つ打ち出される。しかしスピードはさっきの槍よりも遅く、簡単に避けることができた。


「ふっ…今度は…これっ!くらええぇぇぇ!!」


 火球を十個ほど生成してぶつける。自分も炎を手に纏って突撃する。


「今度は球かい?さっきより速さがないね。【水剣山(アクアニードル)・纏】」

「【帰巣】炎を纏うのですか。面白い」

「へっ!?」


 火球は水の針に当たって爆発するが、リルのまとった剣山によって爆風まで完全に防がれてしまう。拳は「帰巣」の声でエギルの手元に帰ってきた魚に防がれる。


「驚いてるのは魚のことかい?ま、驚いてる暇はないよ。【解放(パージ)】」

「まだまだ行くぞ。【流鱗鎧】」

「おりゃあっ!くうぅぅぅぅ…」


 リルの纏っていた水の棘が一気にこちらに向かって飛んでくる。炎の壁を出して身を守ったが、いくつか掠ってしまい血が流れる。エギルの方は水でできた鱗状の鎧を纏ってこちらに突撃してくる。


「エギル、行くよ。【激流】」

「食らええい!!」

「なっ!?ふううぅぅぅぅうううううっっ!!!」


 棘がやむとリルのサポートを受け加速したエギルが殴りかかってくる。残像がいくつも見えるほどのすごいスピードで対処ができず、魔力の身体強化に急いで熱を追加してなんとか反応する。しかし防げはしたものの後ろの吹っ飛ばされてしまう。


「くはっ…」

「もう、一発だ。だりゃあっ!!」


 水のドームにぶつかって止まったところにエギルが追撃を仕掛けてくる。


「まずいっ…!すううぅぅぅぅ…おりゃあああ!!」


 熱まで使ってようやく対処できるスピードとなると食らえば一撃でノックアウトされてしまう。食らうわけにはいかないので、反撃に前方に向かって大出力で炎の砲撃を放つ。


「むっ!?【麗流盾】」

「危ないね。【排流波紋(ハイルビート)】」


 ブラックオーガ程度なら一瞬で消し炭にできる威力はあると思うのだが、二人の精霊術が重ねられて完璧に受け流されてしまう。しかし二人の動きを止めることはできた。


「はああぁぁぁぁぁぁ!!」


 その隙に炎で円形の刃を五つ作ってぶつける。自分は刃から一歩離れて全力で殴りかかる。熱込みの身体強化だが、今のところ制御できている。


「刃…容赦ないねぇ。【落水牢】」

「速くなっているな。【流鱗鎧・波紋】…何っ!?くっ…」


 刃はリルに生成された水球に飲み込まれて消されてしまった。しかし、拳はしっかりとエギルに直撃した。鎧の鱗一枚一枚が波を起こして衝撃を受け流そうとしていたが、炎を纏った拳の前では蒸発して無くなってしまい防げずに完璧に食らっていた。


「なかなかやるねぇ」

「一撃も重い…想像以上だ。楽しみだ。まだまだ行くぞ。【渦槍】」

「あたしも行くよ。【水剣山・雨】」


 身体強化の制御が乱れ、一瞬動きが止まってしまう。追撃できず、その隙に反撃を許してしまった。前からは水の槍が迫って来ていて、上からは無数の水の針が降って来ている。


「くっ…はああぁぁぁ!!」


 自分の頭上に炎のドームを展開し針の雨を防ぐ。槍の方は強化した身体能力で強引にかわす。ぽんぽん炎を出して身体をずっと強化しているので魔力が持つか怪しくなってきた。そろそろ勝負を決めに行く。


「おりゃああああ!!」

「そこから…【麗流盾】」


 少し槍が掠ってしまったが、無視して反撃の炎の槍をいくつか生成して放つ。リルに防がれてしまうが、これは予想通りだ。


「次…!はああぁぁぁぁ!!」

「【渦球結界】なんという火力…」


 今度は巨大な火球を生成して爆発させる。これはエギルの発生させた半球の結界に阻まれるが、結界を形作る大量の水と巨大な爆発がぶつかって大量の水蒸気が発生してお互いの視界を奪う。


「…ここっ!!」


 静かに後ろに周り炎を纏った拳を繰り出す。これが入らなかったらもう打つ手なしだ。


「へぇ。結構頭良いんだね。【麗流盾】」

「【排流波紋(ハイルビート)】それは防がせてもらおう」


 しかし拳は二人によって防がれ受け流されてしまう。


「…降参です。もう打つ手がないです」


 防がれたのを確認して降参する。二対一とはいえこちらが疲れ切って魔力も切れているのに対し、あちらは息切れ一つ起こしておらず傷も無い。惨敗だ。


「そうかい?まあそうかもしれないねえ」

「打つて無し、ですか。魔力は大丈夫ですか?」

「魔力はもうほぼ残ってないです」


 二人は戦闘体制を解除して私の体の心配をしてくれた。私は身体強化を解いて荒い息をしながら答える。


「戻って傷の手当てをしようかね。いくつか切り傷作っちまったからね。悪かったね」

「いえ、戦ったんですから当然ですよ。ていうかかすり傷一つ無いリルさんとエギルさんが異常なんじゃ…」

「ふむ、そういうものですかね?最近まともに戦ってなかったから分からないね。どうなんだい?リル」


 傷の手当てに家に戻りながらそんな雑談をする。実際にB+の魔物を消し飛ばせる火力を出していたし、まさかここまで攻撃が通らないとは思わなかった。


「実際異常じゃないかい、エギル。ウルカの出した魔術、B+なら消し炭、AやA+の魔物でもただじゃすまないような火力だったよ。ブランクがあってそれを防ぎ切れるとは、あたし自身も驚いてるよ」

「私たちはそこまで化物じみていたのかい?全盛ならまだしも、もう数十年は戦っていないと言うのに…」

「そうさね。まあ、どうでもいいじゃないか。今はウルカの手当てだよ」

「そうだね」


 二人はそんな会話をしていたが、エギルは自分の強さを理解していなかったようで、私の魔術の威力とそれを防いだ自分に驚いていた。


「じゃあ傷薬取ってくるからちょっと待ってな」

「ありがとうございます」


 家に戻るとリルが傷薬を取りに奥に消えていった。


「私もまさか一発もちゃんと当たらないとは思いませんでしたよ」

「私が一発殴られたじゃないか」

「傷もなければ一瞬も怯まなかったのに何いってるんですか」


 リルを待ってる間にエギルと雑談する。リルによればA+でも通用する火力だそうで、完全に受け切られたのには驚きを隠せない。


「ほら、薬だよ。塗っときな。酷いとこがあれば包帯もあるから巻いときな」

「ありがとうございます。包帯は…大丈夫そうです」


 雑談していると、救急箱を持ったリルが戻って来て傷薬と包帯を渡してくれた。


「思ったより軽症でよかったよ。もう少し切れているかと思ったが、平気そうだ」

「魔女の体は頑丈なんですよ。怪我しづらいし治りも早いんです」


 エギルが傷を確認しながらそう言う。今日戦ってみて分かったが、前よりも頑丈になっている感覚がある。痛いという感覚はあるが、それで怯んだり動きが止まったりしなくなっている。


「なるほどねぇ…じゃあもうちょっと続けるかい?まあ魔力はすぐには回復しないだろうから、ちょっとした座学でもするかね」

「はい。お願いします」


 魔力がすぐ回復しないのは自分でも分かっているので、今日はこれ以上戦闘することは無いだろう。


「座学なら飲み物でも入れよう。ウルカ、昨日と同じものでいいかい?」

「あ、ありがとうございます。同じので大丈夫です」


 座学となったので、エギルが飲み物を入れにキッチンに向かっていった。


「そこ座って待ってな。あいつが戻ってきたら始めようか」


 リルに促されてソファに座って待っていると、少ししてエギルがカップを三つ持って戻ってくる。


「淹れたよ。座学って言ってもそんなに凄いことはしないだろうけどね」

「ありがとうございます」


 コーヒーの入ったカップを受け取りながら礼を言う。


「じゃあ、始めようか」

「お願いします」


 リルもカップを受け取ると講義を始める。


「魔術と体術で教えることが二つあるんだが、体術に関しては明日以降実践しながら教えていこうかね。まずは魔術からだ」

「はい」

「魔術、というか、あたしたちの使う精霊術、教会の連中が使う聖典術、そしてあんたの使う魔術、この三つ全てに共通することだが、全て魔力を用いて現象を引き起こすというものだね。あんたも基礎はできてるし魔力の動かし方も悪くない。まあこれは反復練習して覚えるしか無いことだがね。練習方法はあとで教えるよ。」

「なるほど」


 私の魔力の運用は悪く無いらしいが、身体強化の練習の時に体の中で弄ってたからだろうか。まあなんにせよ悪いことじゃないしこれは喜んでおこう。


「で、今日戦って一番気になったことだが、あんた、魔術に名前をつけてないのかい?」

「名前?」

「そう、名前さ。知らなかったのかい?いいかい、魔力を使う技術、全部まとめて魔導とか言ったりするんだが、まあそれらは一つ一つの技に名前をつけることでイメージが固定化されて威力が増し、消費する魔力も少なくなるんだよ。あたしたちが何か術を使う前に名前を宣言してただろう?あれはそのためさ」


 初めて聖騎士と戦った時もそうだが、技名を叫ぶのにそんな意図があったとは。ちょっとあれだが、そういう趣味なのかなとか思っていた。


「そうだったんですね…名前ってどうやってつけてるんですか?」

「そうだねぇ。精霊術の場合元々ある術を使ってることもあるからその場合は名前もそのまま使ってるよ。自分で考えた時は適当だね。自分たちがイメージしやすければなんでもいいんだよ。【流鱗鎧】なんかがそうだね。見た目から適当につけた名前だよ」

「そうだったんだ…」


 結構雑でちょっとびっくりした。しかしそんな簡単に強くなる方法が残されていたとは。槍とか壁とか球とかよく使うやつに名前をつけておこう。


「明日実践してみな。目に見えて威力が変わるよ」

「わかりました。名前、考えておきます」

「あとは魔力の操作の練習法だね。あたしは魔力がないからいちいちエギルの奴と繋がってやらなくちゃならなかったが、やること自体は簡単だ。体の中で魔力をぐるぐる回して動かしたり止めたり、一箇所に集めたり分散したり、自分の意思で操れるようにするんだ。寝る前にでもやっときな」

「わかりました」


 その練習法は身体強化の時に実践していたものだった。自分のやっていることも案外的外れではなかったようだ。


「どうしようか…そうだね、もっと細かいことも言おうかと思ってたが、明日威力の上がった魔術を制御できたらにしようかね。今日は終わろうか」


 座学はあまり時間をかけずに終わったが、手元のカップのコーヒーはすでになくなっていた。それに術師にとっては当たり前のことかもしれないが、技名のことなど非常に有意義だった。


「ありがとうございました」

「じゃあ、修行はまた明日だ。今日はゆっくりしな」


 今日の修行は終了となった。外を見ると、もう暗くなっていた。

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