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怨嗟の魔女  作者: ルキジ
16/139

16 原因

「これは…そんなバカな…」

「!気づかれた!やばいぞ!おい!」

「なにっ…」

「GUUUUUUOOOOOOOO!!」

「おい!危ねえ!!ぐああぁぁぁぁ!!」

「なっ!?おい、大丈夫か!?逃げるぞ!!くそっ!なんであんな化け物がこんなところに!」

「GURUAAAAAAAAAAAAA!!」


 ※


 ウルカがシールとユラとご飯に行った次の日、ジェイルはギルドマスターのもとに報告しにきていた。


「マスター、2点報告が」

「ジェイルか。どうしたんだ?」


 マスターの部屋に入り、話しかける。デスクで書類を処理していたマスターはすぐにこちらに気付いてくれた。


「一つ目ですが…オーガの大量発生の原因がわかりました」

「なんだと!?して、それは?」


 オーガが突然大量発生した原因がある冒険者の報告から分かったのだ。


「昨日教会の治療院に搬送されたB+ランクの冒険者から報告がありました。彼らはオーガの大量発生した森の最奥に行ったそうです。本来はブラックオーガを含むB+程度の魔物しかいない場所です」

「ほう…しかし搬送された者はパーティを組んでいたのだろう?B+の魔物なら囲まれても逃げるぐらいなら出来たと思うが」


 そう、本来ならば、最悪の状況でも大きな損耗もなく逃げ切れるはずだったのだ。


「ええ。本来ならそのはずです。しかし、森の最奥に竜を確認したそうです」

「竜?竜と言ったか?あんな化け物がこんな辺境にいると?…本当なんだな?」


 竜。それはこの世界で最強とされる種だ。人間でも竜に勝てる猛者は存在するが、竜は種族全体が化け物クラスに強い。竜は平均でA+ランク、最低でもAランクに分類される上、人類種と同じように高い知能を持つという種だ。しかも竜王と呼ばれる最上位の個体や上位の個体は余裕でSランクに分類される。


「はい。竜と交戦しギリギリのところで逃げ帰ったと。回復し次第、詳しく事情を聞くつもりです」

「わかった。そうか、竜か…オーガはその生息域を竜に脅かされて山を降ってきたのか」

「そう考えています」


 オーガ達は元々住んでいた場所に竜という絶対的な強者が現れたことによりそれから逃げていたのだ。


「竜…竜か。討伐は必要そうか?」

「現状は必要無いかと。ただ、聞いた限りですと竜から知性を感じなかったそうで、最悪の場合本能に任せて暴れられる可能性が。知性が無い、というのがどういうことかは分かりませんが」


 高い知能を持つはずの竜に知性がないとなると何か裏がありそうな気がしてしまう。A+の竜は知能込みでSランクの人間と渡り合うと言われているし、ただ知性が無いだけなら戦いやすいだけで問題ないのだが、知性がないという理由は気になる。


「知性を感じない?なるほど…理由を解明しなければな。しかし、被害もこちらから手を出さない限り無いようだし、山から人里に降りてきていない以上基本は無視だ。竜となると私でも負けかねんし、水女王でもギリギリの勝負になるだろう。森の奥もしばらくは立ち入り禁止だな」

「なるほど…了解しました。竜の調査は?」

「まずはその搬送された冒険者に詳しい話を聞いてからだ。人を送るかはその後判断する。それまでは竜のランクはA+上位からSと仮定して動け」

「了解です」

「ああ。それで、もう一つは?」


 竜について報告し終え、次の話に入る。


「そっちについてはまあ報告する程でも無いと思ったんですが、ウルカについてです」

「ブラックオーガの件か?」

「いえ、それでは無いです。マスターは私の最終目標を知っているでしょう?」

「…まあ、そうだな。ウルカがそれに役に立ちそうだと?」


 二つ目はウルカについてだ。


「彼女、魔女と何か関係がありそうなんですよ。奴の持っていた剣について何か分かるかもしれないですし、戦力としても期待できるんですよ」

「魔女の作った魔剣か…まあそれはいい。わざわざ報告したのは彼女の権利を侵害する気は無いというのを私に言いたいのか?」

「まあそうですね。ちゃんと彼女には納得してもらって協力してもらいますよ」

「それならいいがな。私は冒険者の権利を守る義務がある。問題があれば私は敵となるぞ」


 ウルカのことを報告したのはマスターの言う通り「彼女を計画に組み込みたいです」と言うのと「私は彼女を侵害しません」という宣言のようなものだ。マスターを敵に回すつもりも無いし、こういうところでも可能な限り信頼を積み上げて行きたい。


「大丈夫ですよ」

「…まあ君のことは信用しているさ。竜の件もありがとう」


 まあこれまで積み上げてきた信頼もあるようだし大丈夫そうだが。


「いえ。では私は竜のことを聞きに見舞いに行ってきます」

「そうか。助かる。ではまた」

「ええ、また」


 全ての報告が終了し、ジェイルはマスターの部屋を後にする。竜はAランクのマスターやA+ランクの水女王でも普通に負けかねないほどの敵だ。被害が無い以上今は無視が正解だろう。


「さて、彼らは多少は回復してると良いが」


 ギルドを出て果物を買ってから治療院に向かう。見舞いに行くのだ。ちなみに冒険者はロックとビートと言うらしい。


「おーい、君たち大丈夫かい?」

「あ、ジェイルさん。まあ順調だそうです」

「なら良かったよ。フルーツを持ってきたんだ。置いておくよ。後、見舞いついでに竜について少し聞けないかな」


 見舞いの品をベッドの横の机に置き、早速本題を切り出す。少しだけ顔が強張りロックは答えてくれた。ロックは比較的軽症な今起きている方だ。


「そうですね…知性を感じない、というのは前も言った通りなのですが、もう一つ気になることがありまして」

「ほう。それは?」


 何か新しい情報が得られそうだ。


「実は逃げる途中に竜に攻撃したんです。スキルも発動して。僕のスキルは《痛覚》というもので、攻撃の当たった相手の痛覚を強化して怯ませたり必要以上に痛がらせて隙を作ったりするんです。ですがその竜は全く、何の痛痒も感じていない様でした。つまり、あの竜には痛覚がないかもしれません」

「痛覚が無い?感覚どころか竜には知性があるんだぞ?」


 痛覚が無いなど竜どころか生物としても疑わしい。


「…詳しい戦闘の顛末を教えてくれるか?」

「…わかりました。僕らは今日森の奥に依頼で向かいました。そして___」


 ロックはその時のことを話し始める。


 ※


「獲物がいねぇなぁ、ロック」

「そうだな、ビート。後一体なんだが」


 森の奥で獲物を探すニ人。依頼ではブラックオーガを五体討伐することになっているが、最後の一体が全然見つからない。


「ん?おいロック、なんかいるぞ」

「お、これで終われるか?」

「いや…なんかやばそうだ」


 ビートが異質な気配を察知する。ブラックオーガなんかよりも強い気配だ。ロックにもそれが感じられた。


「…本当だ。こいつは何者だ?」

「確認するか。こっちだ」


 ビートが左前を指差し、確認しにそちらへ向かう。


「これは…そんなバカな…」


 そちらに行くと少しだけひらけた場所があり、竜が鎮座していた。


「!気づかれた!やばいぞ!おい!」


 微動だにしなかった竜だがこちらに気づいたらしく、突然首をこちらに向けて来た。


「なにっ…」


 ロックの反応が一瞬遅れ、そこに竜が口から火を吐いてくる。


「GUUUUUUOOOOOOOO!!」

「おい!危ねえ!!ぐああぁぁぁぁ!!」


 それを見たビートがロックを庇い前に出るが、竜の攻撃をまともに受けてしまった。


「なっ!?おい、大丈夫か!?逃げるぞ!!くそっ!なんであんな化け物がこんなところに!」

「GURUAAAAAAAAAAAAA!!」


 竜は攻撃の手を緩めず、その巨大で鋭利な爪で切り掛かってくる。


「ふっ…くそっ…大丈夫か?」


 ロックはそれを間一髪でかわし、ビートを担いで竜から逃げ始める。


「俺は…だい…じょうぶ…だ。俺の…スキルを…知って…いるだろう。最悪…置いてけ」


 ビートは息も絶え絶えという様子だ。


「お前の《生命力》は死ににくいだけだろうが!別に回復できるわけじゃねぇんだ。無茶しやがって。ちゃんと連れて帰るからな。…食らいやがれ、クソトカゲ!!」


 全力疾走しながら竜に向かってナイフを投げつける。スキルの《痛覚》を乗せた攻撃だし、隙ぐらいは作れるだろう。


「なっ!?全く効いてねえだと!?くそっ!!」


 しかし攻撃は全く聞いていないようだった。竜の鱗を貫けないとしても、スキルは発動しているのだ。傷はつけられなくても痛みは与えられるはずなのに、竜は意に介さずこちらを追いかけてくる。ほんの一瞬の隙すら見せない。


「GUOAAAAAAAAAA!!」

「なんでだよ!痛みがねえってか!?どうしろってんだ!?」

「ロッ…ク、カバンに…煙玉が…」

「!そうか。ありがとう。…おらっ!くらえ!!」


 ビートに言われ急いでカバンから煙玉を取り出し投げつける。地面で炸裂し、煙が発生する。竜はこちらを見失ったようだった。


「よし…!今のうちに逃げるぞ」


 この煙玉は煙、爆発音、匂いで視覚、聴覚、嗅覚の三つを同時に奪える上に効果時間もそこそこ長いと結構良いもので、竜を撒くことができた。


「よし、戻ってこれたぞ…」


 町に戻ると、ロックは意識を失った。


 ※


 竜から逃げて来たときのことを話してもらった。ただ、竜を撒いてからの記憶は若干曖昧で、町に戻ってきて気絶したところまでしか覚えていないそうだ。


「それで起きたらこの治療院のベッドで寝ていました。それで昨日治療院の閉まるギリギリで少しだけ報告をさせてもらいました」

「そうか…ありがとう。大体わかった。一つ質問だ。痛覚がないと言っていたが、君の《痛覚》で与えた痛みが竜に取って意に介すほどのものじゃ無かった可能性は無いのかい?」


 彼のスキルについてよく知らないし、ここは聞いておかなくてはならない。


「それはあり得ません。もし痛みがほとんどなかったとしても、対象が生き物である以上何かしらの反応はあるはずです。それに僕の《痛覚》は一定の痛みを与えたり痛みに倍率を掛けたりするものでは無く、対象の神経に作用して強い痛みを呼び起こす物です。なんの反応も無いと言うことは痛覚が無いとしか考えられません」

「そうか…分かった。ありがとう。しかし痛覚の無い竜だなんているのか?もはや生物じゃ無いじゃないか」

「それは…わかりません」


 どうやら痛覚が無いと言うので間違いなさそうだが、痛覚のない生命など聞いたことが無い。


「いや、いいよ。今日はありがとう。フルーツ、食べてくれ」

「いえ。役に立てたなら嬉しいです」


 話を終え、治療院を後にする。


「何者なんだろうね。その竜は」


 今日はもう何かする気もないし、帰路に着く。


「しばらくしたら竜の調査部隊が派遣されるだろうし、それ待ちかな。ていうか最悪私自身が行くかもしれないし」


 流石に行きたくはないが、まあ選ばれてしまったらしょうがないし、祈るしかない。


「後ウルカちゃん、どうかな。私たちの協力してくれたら嬉しいけど」


 まあ本人次第だな、などと考えていると、もう空がオレンジ色に染まっていた。

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