15 魔女狩りってどう思う?
「はい、確認できました。依頼完了です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
オーガ討伐戦から一週間が経った。今日も依頼を完了し、報酬を受け取っていた。
「あの、すいません、なんか2人ぐらい怪我人が運ばれていったのはなんなんですか?」
「ああ、さっきのですか?」
ギルドに帰ってきた時に怪我人が搬送されていたのだ。あまりそういう場面を見たことがなかったので何があったのか尋ねてみる。
「私もちゃんと知らないんですが、森の奥の方まで行ってたらしくてそこで大怪我したらしいです。2人ともB+だったはずなので何があったのやらって感じですよ。こっちとしても」
「そうなんですね。すいません。こんなこと」
ギルド側もちゃんと把握していないようで、詳しいことは分からなかった。
「じゃあ、ありがとうございました」
「いえいえ。また」
そう言ってギルドを後にする。
「図書館でも行くかな」
「あ、ウルカ」
「ん?あ、ユラちゃん。それにシールくんも」
図書館に行こうかと思っていると、ちょうど同じタイミングでギルドを出てきたユラに話しかけられた。シールも一緒だ。
「2人は何してたの?」
「依頼終わったとこ。そっちは?」
「私も終わったところ」
「なあ、せっかくだし3人で飯でも行こうぜ」
「そうする?行こうか」
2人とはオーガ討伐戦の後からそこそこ仲良くしているのだが、一緒にご飯を食べに行くのは初めてだ。
「お店どこにする?何か良いところ知ってたりするの?」
「私はあんまり知らない」
「俺はウルカの好み知らねえからな。ウルカはどっかあるか?決めてくれよ」
「そう?うーん…あ、あのギルド近くのレストランは?そこの角曲がったところの」
Eランクの時からよく行っているレストランを提案してみる。そこそこ安くてオシャレなお店だ。
「ああ、あそこのか?良いんじゃねえか?俺は行ったことないけど」
「私は一回だけある。美味しかったと思う」
「そうなんだ。なら良かったよ」
2人の反応もよく、今日の昼食はその店に決まった。
「シールくん行ったことないんだ」
「ああ。なんかオシャレな感じがなぁ。悪いわけじゃ無いんだが肌に合わないっていうか…」
「ふーん。そうなんだね」
「…オシャレはシールには似合わない」
「ちょっと待てユラ。お前何が言いたい」
「別に」
ユラが視線を逸らしながら誤魔化す。店は徒歩1分掛かるか掛からないかという場所にあるので、すぐについた。
「いらっしゃいませ」
「すいません、3人なんですけど空いてますか?」
「はい。こちらになります」
店に入ると礼儀正しい店員に案内されて席につく。
「何にする?」
「どうしようかな…じゃあ俺はこのナスのボロネーゼ?ってのにするか」
「私はきのこのホワイトソースのピザ。ウルカは?」
「私はこのカルボナーラにしようかな。すいませーん」
店員を呼ぶと客は多かったがすぐに来てくれて、すぐに注文をすることができた。やはり店員の手際がいい。
「いつもはギルドの酒場とかでしか食わないし、こういう店も新鮮だな」
「いつもと違うことをするのは良いことだよ」
「…騒がないと良いけど」
「おいおい待て待て。聞き逃さなかったぞ。さっきからお前は俺をなんだと思ってんだ」
しばらく雑談をしていると、すぐに料理がやって来た。
「来たよ。痴話喧嘩は他所でやって」
「「違う」」
「まあ食べよ?」
「はぁ…まあそうだな。…うまっ!」
「ん!美味しい」
「ふふっ、連れてきてよかったよ」
なんか言い争いをしていたので止めて、食事を始める。みんなが半分ぐらい食べたところで前から聞きたかったことを聞こうと思い、切り出す。
「ねえ、2人はさ、魔女狩りってどう思う?」
「?いきなりだな。どう思うってのは?」
「そのまま。システムとか実施とか神託とか、どう思う?っていうこと」
魔女になって初めて友人と呼んで良いような人ができたが、魔女や魔女狩りついてどう思っているか知りたいのだ。
「はぁ。なるほど?そうだな…まあ俺らが何かできることは無えと思うし、魔女ってのが人類に仇なすってんなら討伐しなきゃいけねえんじゃ無えのか?」
「…ユラちゃんは?」
「大体シールと一緒。私たちの敵なら戦って倒すしかない」
まあ大体予想通りの答えが返ってくる。2人ともナート教の信者というわけでもないらしいのでこんなもんだろう。
「じゃあ、その魔女ってのが冤罪だったらどう思う?」
「ん?そんなのあっちゃならないに決まってるだろ。人類の敵認定して殺すんだ。あたりまえだ。もし冤罪があったなら、ナート教が終わるぞ」
「うん。そりゃそう」
これも大体こんなもんだろうと思っていたが、2人がそういう考えで良かったとも思う。
「そう。ごめんね、こんなこと聞いて」
「別にいい」
「ああ、別にいいぜ。大したことじゃない。でもなんで急に?」
「あー…いや、特に無いよ。気になっただけ」
「ふーん。そうか。まあいいか」
自分の恋人が冤罪で殺されましたなんて言う気もないので適当に誤魔化す。
「…美味しかった」
「おう、俺もだ」
「良かったよ。じゃあ行こっか」
「うん」
「おう」
食べ終わり、会計を済ませて店を出る。思ったより雑談をしていたようで、店に入ってから一時間半も経っていた。
「じゃあ、またね」
「おう。じゃあな」
「また」
店を出てそれぞれの方向へ向かう。私は図書館に行くか悩んだが、今日はやめることにして宿に帰ることにした。
「魔女狩り、皆あんなもんなんだろうな」
さっきの2人の言葉を思い出す。魔女狩りになんの疑いも持ってないし、冤罪があるとも考えていない。ただ冤罪だったら、のところの返答は好感が持てたし、友人がそういう答えで良かったと思う。最悪殺していたかもしれない。
「…ああ、駄目だ。まただ」
オーガ討伐戦くらいからたまに怨嗟と憎悪が殺意を伴って湧き出てくる。人間から魔女になって力が馴染んできたからだと思っているが、精神の制御が効かなくなっている気がする。
「どうしようもないもんかなぁ」
歩きながら軽く考えるが、良い案など思いつくはずもない
「帰りました」
「…早いね。そうかい」
物思いに耽りながら歩いていると宿にすぐ着いた。部屋に入り部屋着に着替えてベッドに寝転がる。
「魔女になっても友人はできるんだね。私はもう人殺しなのに」
寝転がると、ふと思った。それに、ただ友人ができただけでなく自分が罪を犯しているという負目も全く感じていないことに気づいた。
「どうなんだろうね。私の怨嗟や憎悪からくる行動に罪悪感とかは伴わないのかな?人殺しは悪いことだと思ってるんだけどなぁ」
自分で喋っていても何も感じない。自分が気持ち悪いとすら感じないので、やはり狂ってるんだなぁと実感する。
「もう人間から離れていくのに気持ち悪いとも嫌だとも感じないや。私はどうなるんだろうねぇ」
人間だった頃や魔女になったばかりの頃と比べて自分が随分歪んでいると自覚する。思考がグルグル回っていく。気づけば夜になっていた。
※
「ジェイルさん、どうでも良いかもしれませんが、一応ちょっとした報告が」
ウルカと飯を食べた後、俺はユラと2人でジェイルさんに報告をしに来ていた。
「シールにユラか。何があったんだい?」
「今日ウルカとご飯に行った時に、魔女狩りってどう思う、って聞かれた」
「返答は正直に俺らの本心を伝えました。なぜそんなことを聞いてきたかが気になります」
ユラがジェイルさんに今日ウルカに聞かれたことを伝える。俺は少し補足する。
「わかったよ。そういえば彼女、よく図書館に行って何か調べてるんだっけ?」
「そう。よく見かける」
ユラが答える。
「過去に何か魔女か教会に関する何かがあったか、それとも純粋な興味か…まあ、彼女は要注意だからね」
「「はい」」
2人で返事をする。ジェイルさんによればウルカはブラックオーガを余裕で倒せる可能性があり、しかも自分の中ではもうそれを確定事項として扱っているらしい。
「君たち最近どうだい?彼女はどんな人だい?」
報告が終わると突然聞かれる。思い返してみれば、もう自分の中では普通の友人になっている気さえする。元々ジェイルさんの指示でオーガ討伐から監視していたが、結構仲良くしている自覚はある。
「…普通に友人です。ただ、もう監視対象の枠は超えてしまったかもしれません」
「私も一緒。彼女は友達」
「うん。そうか。良かったよ。暗部時代と違って好きにして良いんだからね。彼女とも仲良くしなね。私も個人的に気に入ってるし」
ある国の暗部でジェイルさんの下で仕事をしていてその後一緒に冒険者になったが、いつでも彼は部下に優しい。自由な冒険者となり縛りも減ったし、当時よりも大分良い職場だ。
「そうですか」
「良かった」
ユラと2人で返事をする。仲が良くてもいいと言われ、正直ほっとしている。もう彼女は自分たちの大切な友人の1人だ。
「もう上司と部下でも無いのにいっぱい仕事任せちゃってごめんね。ああ、もうウルカの監視はといて大丈夫だよ。後は魔女狩りの記録とかは私が漁っておく」
「いえ、そんな。ですが、了解です」
「私も了解。これからは普通に友達として接触しても良い?」
ユラが聞く。俺も彼女のことは気に入っているし、できれば友人でいたい。
「ああ。もちろんだよ。私が縛ることじゃ無いしね」
「ありがとうございます」
「…うん」
これからも普通に友人でいて良いそうで、嬉しい。ユラも嬉しそうにしている。監視していたことをちょっと悪いと思うが、まあ仕方ない。他でもないジェイルさんの願いだ。
「じゃあ、我々はこれで」
「ありがとうね」
報告を終わらせ、ジェイルさんに別れを告げる。
「ウルカと友達で入れるのは良かった」
「ああ、俺もそう思うよ。それに仮にあいつが実力を隠してたとしても悪人には見えねえしな」
ユラと共に帰路につく。もう季節は秋で日が暮れるのが早まり始めている。帰る時にはちょうど日が沈むところだった。
※
「…2人は気づいてなかったみたいだけど、ブラックオーガ戦でさえ彼女はまだ余裕を残してたよ」
部屋に1人残ったジェイルは1人呟く。
「魔女、か。彼女自身がそうなのか、それとも関係者に魔女がいるのか…」
もし魔女に関係ない人物なら魔女狩りについてなど聞かないだろう。彼女が教会側で無いことは調べがついているし、詳細が気になるところだ。
「魔女と関係なくても、ブラックオーガ相手に余裕を持っていたんだ。もしかしたら、私たちの目的に役に立つかもしれない…どこかでスカウトしてみようか」
単純に強者は自分側に引き込みたい。目的を思い浮かべる。
「なあヒジリ、私たちは絶対に取り返すよ」
国を奪った仇を思い浮かべ憎しみを募らせる。ジェイルの仇を思うその目は、憎悪に歪んでいた。




