14 オーガ討伐戦・後
「もう区画か。さて、じゃあまたオーガ探しながら歩こうか」
「「「了解」」」
私たちは昼の集合の後すぐに担当の区画に戻ってきて索敵を開始していた。
「…やっぱりあんまりいないですね。午前中に結構狩りましたし」
「まあそうだね。ちゃんと狩りつくせているなら問題ないんだけど。どうだろうね」
午前中と違いあまりオーガに出会わない。午前中に狩りつくしてしまったのかもしれないとシールとジェイルさんが話していた。
「!ジェイルさん、います。一体です」
「やっとか…じゃあ午前と同じようにいこう。ユラちゃん、お願い」
「…はい」
それでもしばらく歩いていると、午後初めてのオーガを発見した。
「はあっ!」
「ふっ!」
「せいっ!」
午前と同じようにユラの奇襲から追撃してオーガを仕留める。もう大分手慣れてきて1分も掛からなくなってきた。この感じならサクサク討伐していけるだろう。
※
しばらくして。
「それでも結構見つかりませんね。結構減らせてるんですかね」
「まあ減ってるのは確実じゃないかな。私も今日一日で大分平時の森に戻せるとは思ってるよ」
午後一体目を討伐してからも長いこと探しているが、探索開始から3時間、最初の一体と合わせて4体しか討伐できていない。しかししばらく歩いていると《強化感覚》が気配を捉え、遅れて他の3人も気配に気づく。
「全然見つか…ん?」
「なんだ?」
「…私もわかるくらいに強い気配がする」
索敵を担当していなかった人でさえ気づいた強く隠す気の無い気配。私は一度この気配に出会っている。
「ジェイルさん、これは…」
「ちょーっとやばそうだね。多分、ブラックオーガだ」
「な…本当ですか…」
「…!!」
まさかここにきてブラックに出会うとは誰も思っていなくて皆驚いていた。しかも問題はそれだけでない。やばそう、なのにはもう一つ理由がある。
「どうするか…」
「しかも気配が二つありますよ…」
「そうだね。一体なら楽だったんだけど…まあ、私とウルカちゃんで一体ずつ相手するしか無いかな。2人は引いた位置からどっちにも干渉できるようにお願い」
「「「了解」」」
「後、そうだね。ユラちゃんには初撃をお願いするよ」
「はい」
ジェイルさんはすぐに指示を出す。実際、もしブラック一体だけなら4人で戦えば簡単にかたがつくだろう。しかし気配はひとつでは無いのだ。二体を相手するとなるとなかなか骨が折れる。もちろん、私が全力を出さないことが前提だが。
「じゃあ、始めようか」
「ふっ…」
合図で戦闘が始まる。ユラが気配を消して突っ込みダガーを片方の首筋に突き立てる。するとそのブラックの首の辺りから血が噴き出て二体ともこちらの存在に気づく。
「傷ついた方を」
「了解」
最後に一言だけ指示を貰いそれぞれ戦闘に入る。私は身体強化を発動してオーガと殴り合う。
「GUGYOOOOOO!!」
「おりゃああぁぁぁぁぁ!!」
ブラックは通常のオーガの倍以上のスピードとパワーで乱打してくる。なんとか回避しつつ隙をみて反撃するが、たまに掠って傷が増えていく。
「GURUAAAAAA!!」
「くっ…ぐうぅぅぅ…」
回避が遅れ一発もらってしまい、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「やばっ…」
「《回転》…はっ!」
「GURUUUU …」
ブラックが追ってきて追撃を受けるところだったが、シールが弓矢でオーガの進撃を阻み私とオーガの間に一度距離が空いた。
「ありがと。どうしようか…。よし。ふっ!!」
「GURAAAAAA!!!!?!?」
「おりゃあ!!」
一言礼を言い一瞬だけ考え、オーガの方へ突撃する。上位種と言えど知能など無いので、左右に振ってフェイントかけてやると簡単に攻撃が決まる。
「よしっ…でも硬い…」
「GURUUU」
一撃綺麗に入ったものの、ブラックの皮膚と筋肉は硬くまともなダメージは入っていなさそうだった。
「(どうする?身体強化をもっと強める?でもできれば見られたくないし…最悪消すか?いや…。)」
「GURYAAAAAA!!」
「ちいぃぃ…はああぁぁ!」
少し距離をとって考えているとブラックが追撃してくる。それを紙一重でかわしカウンターをお見舞いする。
「でも効いてないね…」
この攻防の間にもシールが何発か弓矢でオーガの行動を制限してくれているのだが、決定打となる火力が足りない。
「(最悪オーガにやられたって言えるか。しょうがないね。)」
「GURYAAAAAA!!」
ブラックがまたこっちに向かってくるのをかわして距離をとりながら考える。
「(一瞬、一瞬だけ魔力を全開にしよう。)」
火力を上げることに決め、構える。最悪制御できずに暴発するが、その時は他のメンバーはオーガにやられたと言えばいい。
「ふうううぅぅぅぅぅぅ…はあぁっ!!」
呼吸を整えてブラックに突撃する。さっきまでの倍以上強化していて、しかも実際の強化は個々の動作、個々の筋肉にかかるため強化は2倍どころではない。
「おりゃあああああああ!!」
「GUGYAAAAAAAAAA!!」
一瞬だけだったというのと熱は使わなかったというのもあって、その一瞬は完全に肉体を制御でき、ブラックの攻撃を完壁に避けながら全力で腹に拳を叩き込む。ブラックは後ろに軽く吹っ飛び木を3、4本へし折って倒れていた。もう完全に倒し切れただろう。
「よし」
「うん、ちゃんと死んでるね」
「お、ウルカちゃんとシールくんも終わったね。しかしまさかブラックが二体もいるとは」
「お疲れ」
こちらの戦闘が終わりブラックの死体を確認していると、ジェイルさんとユラが話しかけてくる。2人の方もちゃんと倒せたようだ。
「はい。ありがとうございます。ん?えっ!?」
「ん?どうした?」
「い、いや、なんでも無いです…」
戦闘中の思考が蘇る。「最悪消すか?」「最悪オーガにやられたって言える」本来ならするわけのない思考を思い出し、自分が自分で無いみたいで背筋が凍る思いをした。
「しかしすごいね。ブラックオーガの皮膚を突破するとは。私も剣がないと無理だよ」
「そうですか?ありがとうございます」
「本当にすごいよ。僕もスキル込みの矢でやっとだからね」
「…私もスキル込みのダガーでやっと。素手で突破したのは本当にすごい」
自分が自分で無くなっているようで恐怖していると話しかけられる。ブラックオーガの皮膚を素手で突破して見せたのがよほどすごかったようで、他の3人は感心していた。他の3人でもブラックオーガの皮膚は硬いらしい。
「しかし、どうやったんだい?」
「えーと…」
魔力ですと答えるわけにも行かないので、前々から考えていたものがあるのでそれで凌ぐ。
「私はスキルが身体を強化するものなんです。なので素手でも突破できました」
「へぇ…普通のオーガの時よりパワーがあった気がするけど?」
「強弱の調節ができるんですよ。体に負担がかかるのでいつもは最小限しか使わないんです」
「ふーん…そうなんだね。ごめんね、こんなこと聞いて」
「いえ」
身体強化をスキルのせいにして質問を乗り切る。あまり細かく聞かれなかったのもあって、多分怪しまれてないと思う。
「じゃあ行こうか。まだ一時間弱あるし、もうちょっと探索したいしね」
「「「了解」」」
雑談もすぐに終わり、ジェイルさんの号令に3人で返事をしてまた探索を再開する。午後は今のところあまり多くを討伐できてないし、少しでも多く狩っておきたい。しかし、
「午前中に結構狩ったし、もうそんないないのかもね」
ジェイルさんがそう溢す。しばらく探索を続けていたが、町の方に帰る時間帯になっても一度しか会敵できず、結局今日の午後の戦果はオーガ5体とブラックオーガ2体だけとなった。
「まあ、しょうがないね。そろそろ時間だし戻ろうか」
「「「了解」」」
ジェイルさんの決定に従い撤収を始める。もう戻らないと18時に戻れなくなるような時間だ。
「よーし、帰ってきたね。お疲れ様」
「ありがとうございます」
「いえいえそんな。全然余裕ですよ」
「…ジェイルさんも」
森のお入り口付近に帰還してジェイルさんの労いを受け、三者三様の返事を返す。
「そうかい?じゃあ、私はマスターに欠員と討伐数の報告をして来るよ」
ジェイルさんは三者三様の返事を聞いた後すぐにマスターの元へ報告に行っていた。ジェイルさんが戻ってすぐにマスターが演説を始め、ざわついていた冒険者たちが静かになる。
「まずは諸君、40名全員が無事に帰還できたことを嬉しく思う。そして、今日一日で相当数のオーガが討伐され、明日以降少しずつ元の姿に戻っていくだろう。報酬は明日ギルドで受け取ってくれ。では、本日は解散とする。協力、感謝する」
マスターの演説も特に新しいこともなく手短に終わり解散となった。
「ああ、君たちこの後の宴会くる?どうせやるだろうと思ってるんだけど」
この後宴会をするらしく、ジェイルさんが聞いてくる。
「もちろん行きますよ。一番楽しみにしてたんですから」
シールが完全に予想通りの返事をする。というか参加というより幹事とかやってそうだ。
「…私は隅っこの方でちょっとだけお酒でも飲むつもり。騒がしいのは苦手だけど」
ユラも一応参加するようだ。騒いだりするの苦手そうだしユラがいくのは結構意外だった。まあ騒ぐのや騒がしいのが苦手なのは予想通りだったが。
「私はやめておきます。ちょっと疲れちゃいました」
私も最後に返事をする。もちろん私は魔女だし疲れてなんかいないのだが、今日の戦闘中の思考が思っていたよりもショックでお酒を飲もうとか騒ごうなんて気分ではないのだ。それに元々仲のいい人もいない。
「了解。じゃあ、シールくんとユラちゃんは行こうか。ウルカちゃんはお疲れ。じゃあね」
「またな」
「…また」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
最後に挨拶だけして皆んなとは逆方向に向かう。いつもの宿に帰るのだ。
「…帰ったのかい」
「はい」
宿に着くといつも通り一言だけ言葉を交わして部屋に戻る。部屋に入ると着替えもせずにベッドに飛び込んだ。
「はぁ…。ちょっとショックだな」
戦闘中の思考、これまでの自分ならあんなこと考えなかっただろう。自分が狂っているのが自覚できた。
「関係無い人を殺すのかぁ…」
殺人は悪だと思ってるし、なんの恨みもない人を殺すつもりはない。しかし、今日はもしかしたら復讐になんの関係もない人を殺すという選択肢を、当然のように選択していた可能性があると思うと、自分が自分でなくなっていくような感じがして怖くなる。
「これも魔女になったせいなのかな…。これも力と復讐の代償だって言うなら受け入れるしか無いのかな」
思考がまとまらず、結論が出ないまま悩みだけがグルグルと頭の中を回り続けていた。
「私の中にネルがいる限り、怨嗟が私を焼き続ける限り、私は私だ。でも、私は理不尽を振り撒く存在にはなりたくない」
私自身が理不尽に全てを奪われた身なのだ。奪った者には何倍にもして返すが、関係ない者にそれを振り撒くようにはなりたくない。
「はぁ…今考えてもしょうがないかぁ」
結局今できることは何もないし、考えてもしょうがない。。
「ああ、おやすみ」
虚空におやすみを言い、目を閉じて現実から逃げるように意識を夢の世界に沈めるのだった。




